白い魔女と小さな魔女

ノムラユーリ

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ふたりめ

第6回

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   6

 俺の手には、例の銀アクセサリーの詰まったビニール袋が握られていた。

 目の前にはアリスさんの住まう洋館があって、俺はインターホンのボタンに指を伸ばした。

 ジリリリリッ――

 そんな音がして、しばらくアリスさんが出てくるのを待っていたのだけれど、一向にアリスさんの、あの可愛らしい声がスピーカーから聞こえてくる気配はない。

 しびれを切らしてもう一度、俺はインターホンを鳴らしてみる。

 ジリリリリッ

 ……やはり応答はない。どうやら本当に留守のようだ。

 しかし、あれだけ婆ちゃんに見栄を切って家を出てきたのだ。何の成果も無しに帰るのも何だか癪だ。このままアリスさんが帰ってくるのを待ってみるか、それともどこかで時間を潰してから、もう一度、と思った時だった。

「あれぇ? お兄さん、どうしたの?」

 どこからともなく、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 記憶の糸を手繰り、それがあの日、ここへ連れてきてくれた真奈の声であることを思い出した俺は、辺りを見回す。

 けれど、どこにも真奈の姿は見当たらなくて。

「あははっ! こっちこっち!」

 嘲るようなその笑い声は、頭の上から聞こえてきたような気がした。

 なんで、頭の上から……?

 思いながら、声のした方を見上げてみれば、
「――えぇっ」
 俺は目を丸くして、ただその姿を見つめることしかできなかった。

 そこには、ホウキに軽く腰かけた、真奈の姿があったのだ。

 真奈はどこにでも居そうな普通のTシャツにスカートパンツを履いており、その長い黒髪を後ろで簡単に束ねていた。大きな眼と口はにっこりと笑みを浮かべており、するすると俺の目の前まで降りてくると、
「よいしょっ、と」
 と口にしながら、トンっと地面に降り立った。

「え、あ、えぇ?」
 目を白黒させていると、真奈はぷぷっと噴き出すように笑ってから、
「お兄さん、驚きすぎだよ!」

「え? いや、だって、お前――」

「言わなかった? 私も魔女だって」

「ま、魔女? お前も?」

 うん、と真奈は頷きつつ、
「まぁ、まだシュギョーチューなんだけど」
 と、ぼそりと呟く。

 確かに、アリスさんの魔法は本物だった。あの眼鏡を直してもらった時に、それは疑いようのない事実だった。この目で確かに魔法を見たし、魔法があって、それを使う女性がいるのならばそれは間違いなく魔女だろう。アリスさんは魔女だ。真奈もあの時そう言っていた。それは間違いない。

 でも、まさか、その真奈もまた魔女だっただなんて……

「なら、お前も魔法が使えるのか?」

「使えるよ」

「例えば?」

「空が飛べる」

「他には?」

「モノを浮かせられる」

「それから?」

「えっと……未来を占える?」

「まだあるのか?」

「あぁ、えっと、うんと、簡単な魔法薬の調合?」

「それ以外は?」

「だから言ったじゃん! シュギョーチューなの! そんなにたくさんは使えないよ!」

「あ、あぁ、ごめん……」

 微妙にキレられて、俺は一歩あと退った。

 真奈の手にするホウキは、如何にも魔女が乗っていそうな竹?ホウキだった。テレビや映画でよく見かける、穂先がわさわさした形のアレだ。長さは真奈の身長に合わせているのだろう、少し短い。

「それで、お兄さんはなんでここに居るの? アリスさんなら明日まで留守だよ?」

「え? マジで?」

「うん。何か直してもらう気だったの?」

 真奈に問われて、俺は手にしたビニール袋を示しながら、
「爺ちゃんと婆ちゃんの昔のアクセサリーを綺麗に直してもらおうと思ってさ。でも、そうか。留守なのか……」

「今日から魔女集会なんだってさ。うちのママと一緒に朝から出かけてっちゃった」

「……ママ? お前の母親も魔女なのか」

「うん」
 当然でしょ、みたいな顔で真奈は頷く。
「うちは魔法のお店やってるんだけど、ママが居ないから、今日はお休み。アリスさんもいないから修行もないし、暇だから空のお散歩してたんだよね。そしたら、お兄さんが見えたから」

「そうか」
 それから俺は、ため息を一つ吐いてから、
「まぁ、でも、アリスさん居ないんなら、明日また出直すしかないかぁ」

 すると真奈は、俺が手にするビニール袋をまじまじと見つめてから、
「……私が直してあげようか?」
 思ってもみないことを口にした。

 俺は「え?」と首を傾げる。
「できるのか? お前、修行中なんだろ?」
 訊ねると、真奈は小さく頷いて、
「たぶん、できると思う。アリスさんが修復魔法を使っているの、いつも隣で見てたから」
 どうする? と訊ねてくる。

 俺は少しばかり考えてから、
「まぁ、できるってんなら、お願いするよ」

 すると真奈は、嬉しそうにニカッと笑ってから、
「まかせて!」
 胸を張って、そう口にした。
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