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さんにんめ
第9回
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***
「……わ、私?」
それってつまり、もしかして、もしかすると――
「私が、その巫女の、子孫だった……?」
うむ、と狐面のお爺さんは頷き、
「おそらくな」
と付け足した。
そんな、まさか、本当に、私が……?
戸惑う私に、狐面のお爺さんは苦笑気味に、
「実際、どうかは知らん。だが、あの鈴の縄をいとも容易く切り、封を解いたのだ。そういうことであろうよ。だが、だからといって、お前さんから術を使えるほどの妖力はまったく感じられなかった。思うに、お前さんに宿る巫女の血が、儂の封を解く鍵にでもなっておったんだろうな」
「そう、なんですか?」
私は思わずアリスさんの方に顔を向けた。
アリスさんも少し困ったような表情を浮かべながら、
「たぶん……?」
どこか自信なさそうに返事する。
と、その時。
「――やっぱり、そうだったんだね」
後ろから声が聞こえて振り向くと、先ほど石段で出会った女の子――真奈ちゃんの姿がそこにはあった。
「真奈ちゃん、帰ったんじゃなかったの?」
アリスさんの問いかけに、真奈ちゃんは、
「気になったから、戻ってきちゃった」
と笑みを浮かべて私たちの方へ歩み寄ってくると、祠に視線を向けながら、
「おねぇさんからは全然魔力を感じなかったから、いったいどうやってあの魔法の縄を切ったんだろうって不思議に思ってたんだよね」
「……魔法の縄?」
真奈ちゃんは「うん」と頷いてすたすたと地面に落ちたままになっていた麻縄と鈴を拾い上げてから、
「これにはね、普通の人には絶対に切れないよう、魔法がかかってたの。だから、何百年も経ってるのに、全然切れたりしなかった。私やアリスさんみたいな魔女だったら簡単に切れたんだろうけど、普通の人には切れるはずがなかったんだよ」
それなのに、と真奈ちゃんは私に顔を向けて、
「魔力のないはずのおねぇさんには切ることができた。ってことは、最初からそういう条件がこの魔法の縄にはかけられてたってことなんだと思う。狐さんを封じた巫女の血を継ぐ子孫であれば、触れるだけで封を解くことができるようになっていた。そういうことだったんだと思うよ」
「まぁ、そういうことだな」
狐面のお爺さんも、こくこく頷いて肯定する。
「お前さんがここへ来たのは、恐らく偶然だったのだろう。それでも、お前さんがあの巫女の子孫で儂の封を解いてくれたのは事実。或いはお前さんの家に儂のことが語り継がれていたりはせんかと期待して、昨日は礼も兼ねてお前さんの家まで行ってみたのだが、怖いと言われるは怯えたような顔をされるわ、こりゃ全然儂のことは伝わっておらんなと諦めて帰ってきたのよ」
言って、狐面のお爺さんは大きく笑った。
「まぁ、それも仕方のないことよ。数百年も経っておれば、それなりに代を重ねていることだろう。巫女の子孫もどれだけの数増えているのか知る由もない。お前さんが儂のことを知らずとも当然だ。子孫であろうが何であろうが、ここまで代を重ねてしまえば、あの巫女とは他人も同然といったところか。要は、儂がそれだけ長く生きてきたということなのであろうなぁ」
それから深々とため息を吐いて空を仰ぐ。
そんな狐面のお爺さんに、真奈ちゃんは唇を尖らせながら、
「だったら、やっぱり私が封印を解いちゃっても良かったじゃん!」
「ん? そうじゃの、それでも良かったかもしれんの」
ふたりの会話に、私は首を傾げる。
「……真奈ちゃんも、このお爺さんの封を解くって言ったの?」
すると真奈ちゃんは大きく頷き、
「そうだよ。っていうか、昨日はそのためにお兄ちゃんとここまで来てたんだから」
その言葉に、アリスさんはわずかに眉間に皴を寄せながら、
「……そうだったの?」
「そ、そんな顔しないでよ! ちゃんとママには言ったよ? 私が狐さんの封印を解くんだって! そしたらお兄ちゃんと一緒ならいいよって言われたから……」
もにょもにょと口にする真奈ちゃんに対して、アリスさんは、
「まったく、真帆ちゃんったら……」
と呆れたようにため息を吐いた。
真奈ちゃんは私に顔を戻し、
「そしたらさ、おねぇさんが先に解いちゃうんだもの。本当は私が解きたかったのに」
「え? あぁ、ごめんなさい……」
なんか悪いことをしちゃったみたいな言われかたをしたので、とりあえず謝っておく。
……けど、それ、私が謝るようなことでもないような?
そんな私に、真奈ちゃんはクスクスと嘲るように笑いながら、
「だからあの時、ちょっと驚かすつもりで言ったんだ。あ~ぁ、切っちゃったね、って」
「……えっ」
あれ、そういうことだったの? 真奈ちゃんが解こうとした封を私が先に解いちゃったから、意地悪で怯えさせるような言い方をしたってこと?
だとしたら、この子は……!
なんだか無性にムカついて、言い返そうとしたところで、
「――真奈ちゃん?」
「……あ」
アリスさんの声に、真奈ちゃんが「しまった」という表情で狐面のお爺さんの後ろに隠れる。
「……だ、だって」
言い訳しようとする真奈ちゃんに、けれどアリスさんは明らかに怒りを込めた優しい微笑みを浮かべながら、
「あとで、お話ししましょうね?」
真奈ちゃんは完全に狐面のお爺さんの後ろに身を隠しつつ、
「――はい」
小さな声で、返事した。
そんな真奈ちゃんたちの様子に、
「ワッハッハッ!」
と楽し気な笑い声を漏らす狐面のお爺さん。
「まぁ、あんまり怒ってやりなさんな。手加減してな、手加減」
「……そうですね、わかりました」
アリスさんは、肩を竦めながら小さくため息を漏らしたのだった。
「それで、この先どうなさるんですか? 封を解かれて、自由になって――」
すると狐面のお爺さんは「そうじゃのう」と顎に手をやりつつ、
「まぁ、この先死ぬまで、ここでやっていくつもりじゃよ。儂はここに封じられるよりもはるか昔から、この地でずっと生きてきた。自由になったからといって、遠くへ行こうとも今さら思わん。今までと変わらず、この祠に住まい続けるのみよ」
「え~? せっかく封印を解かれたのに?」
意外そうな顔で真奈ちゃんは訊ねる。
その問いに、狐面のお爺さんは優し気な声で、
「どこへ行くとて、やはり我が家が一番だ。そういうことよ」
「わかんない。私だったら色んなところに行ってみたいのに」
「まぁ、お前さんも歳を取ればそのうち解る」
カッカッカ、と笑う狐面のお爺さんには、もはや私が最初に感じていた恐ろしさなんてどこにもなかった。
狐のお面を被っているだけの、ただのどこにでもいるお爺さん、そんな感じだ。
けれど、その正体は齢幾百の化け狐で、私のご先祖様とも会っていて――
とても信じられない、何とも不思議な感覚だった。
私はそんな狐のお爺さんに、訊ねてみる。
「それなら、またここに会いに来てもいいですか?」
狐のお爺さんは、ふっと笑みを零しながら、
「――あぁ、いつでも来い。暇を持て余した儂が、いつまでもここで待っておるから」
「……わ、私?」
それってつまり、もしかして、もしかすると――
「私が、その巫女の、子孫だった……?」
うむ、と狐面のお爺さんは頷き、
「おそらくな」
と付け足した。
そんな、まさか、本当に、私が……?
戸惑う私に、狐面のお爺さんは苦笑気味に、
「実際、どうかは知らん。だが、あの鈴の縄をいとも容易く切り、封を解いたのだ。そういうことであろうよ。だが、だからといって、お前さんから術を使えるほどの妖力はまったく感じられなかった。思うに、お前さんに宿る巫女の血が、儂の封を解く鍵にでもなっておったんだろうな」
「そう、なんですか?」
私は思わずアリスさんの方に顔を向けた。
アリスさんも少し困ったような表情を浮かべながら、
「たぶん……?」
どこか自信なさそうに返事する。
と、その時。
「――やっぱり、そうだったんだね」
後ろから声が聞こえて振り向くと、先ほど石段で出会った女の子――真奈ちゃんの姿がそこにはあった。
「真奈ちゃん、帰ったんじゃなかったの?」
アリスさんの問いかけに、真奈ちゃんは、
「気になったから、戻ってきちゃった」
と笑みを浮かべて私たちの方へ歩み寄ってくると、祠に視線を向けながら、
「おねぇさんからは全然魔力を感じなかったから、いったいどうやってあの魔法の縄を切ったんだろうって不思議に思ってたんだよね」
「……魔法の縄?」
真奈ちゃんは「うん」と頷いてすたすたと地面に落ちたままになっていた麻縄と鈴を拾い上げてから、
「これにはね、普通の人には絶対に切れないよう、魔法がかかってたの。だから、何百年も経ってるのに、全然切れたりしなかった。私やアリスさんみたいな魔女だったら簡単に切れたんだろうけど、普通の人には切れるはずがなかったんだよ」
それなのに、と真奈ちゃんは私に顔を向けて、
「魔力のないはずのおねぇさんには切ることができた。ってことは、最初からそういう条件がこの魔法の縄にはかけられてたってことなんだと思う。狐さんを封じた巫女の血を継ぐ子孫であれば、触れるだけで封を解くことができるようになっていた。そういうことだったんだと思うよ」
「まぁ、そういうことだな」
狐面のお爺さんも、こくこく頷いて肯定する。
「お前さんがここへ来たのは、恐らく偶然だったのだろう。それでも、お前さんがあの巫女の子孫で儂の封を解いてくれたのは事実。或いはお前さんの家に儂のことが語り継がれていたりはせんかと期待して、昨日は礼も兼ねてお前さんの家まで行ってみたのだが、怖いと言われるは怯えたような顔をされるわ、こりゃ全然儂のことは伝わっておらんなと諦めて帰ってきたのよ」
言って、狐面のお爺さんは大きく笑った。
「まぁ、それも仕方のないことよ。数百年も経っておれば、それなりに代を重ねていることだろう。巫女の子孫もどれだけの数増えているのか知る由もない。お前さんが儂のことを知らずとも当然だ。子孫であろうが何であろうが、ここまで代を重ねてしまえば、あの巫女とは他人も同然といったところか。要は、儂がそれだけ長く生きてきたということなのであろうなぁ」
それから深々とため息を吐いて空を仰ぐ。
そんな狐面のお爺さんに、真奈ちゃんは唇を尖らせながら、
「だったら、やっぱり私が封印を解いちゃっても良かったじゃん!」
「ん? そうじゃの、それでも良かったかもしれんの」
ふたりの会話に、私は首を傾げる。
「……真奈ちゃんも、このお爺さんの封を解くって言ったの?」
すると真奈ちゃんは大きく頷き、
「そうだよ。っていうか、昨日はそのためにお兄ちゃんとここまで来てたんだから」
その言葉に、アリスさんはわずかに眉間に皴を寄せながら、
「……そうだったの?」
「そ、そんな顔しないでよ! ちゃんとママには言ったよ? 私が狐さんの封印を解くんだって! そしたらお兄ちゃんと一緒ならいいよって言われたから……」
もにょもにょと口にする真奈ちゃんに対して、アリスさんは、
「まったく、真帆ちゃんったら……」
と呆れたようにため息を吐いた。
真奈ちゃんは私に顔を戻し、
「そしたらさ、おねぇさんが先に解いちゃうんだもの。本当は私が解きたかったのに」
「え? あぁ、ごめんなさい……」
なんか悪いことをしちゃったみたいな言われかたをしたので、とりあえず謝っておく。
……けど、それ、私が謝るようなことでもないような?
そんな私に、真奈ちゃんはクスクスと嘲るように笑いながら、
「だからあの時、ちょっと驚かすつもりで言ったんだ。あ~ぁ、切っちゃったね、って」
「……えっ」
あれ、そういうことだったの? 真奈ちゃんが解こうとした封を私が先に解いちゃったから、意地悪で怯えさせるような言い方をしたってこと?
だとしたら、この子は……!
なんだか無性にムカついて、言い返そうとしたところで、
「――真奈ちゃん?」
「……あ」
アリスさんの声に、真奈ちゃんが「しまった」という表情で狐面のお爺さんの後ろに隠れる。
「……だ、だって」
言い訳しようとする真奈ちゃんに、けれどアリスさんは明らかに怒りを込めた優しい微笑みを浮かべながら、
「あとで、お話ししましょうね?」
真奈ちゃんは完全に狐面のお爺さんの後ろに身を隠しつつ、
「――はい」
小さな声で、返事した。
そんな真奈ちゃんたちの様子に、
「ワッハッハッ!」
と楽し気な笑い声を漏らす狐面のお爺さん。
「まぁ、あんまり怒ってやりなさんな。手加減してな、手加減」
「……そうですね、わかりました」
アリスさんは、肩を竦めながら小さくため息を漏らしたのだった。
「それで、この先どうなさるんですか? 封を解かれて、自由になって――」
すると狐面のお爺さんは「そうじゃのう」と顎に手をやりつつ、
「まぁ、この先死ぬまで、ここでやっていくつもりじゃよ。儂はここに封じられるよりもはるか昔から、この地でずっと生きてきた。自由になったからといって、遠くへ行こうとも今さら思わん。今までと変わらず、この祠に住まい続けるのみよ」
「え~? せっかく封印を解かれたのに?」
意外そうな顔で真奈ちゃんは訊ねる。
その問いに、狐面のお爺さんは優し気な声で、
「どこへ行くとて、やはり我が家が一番だ。そういうことよ」
「わかんない。私だったら色んなところに行ってみたいのに」
「まぁ、お前さんも歳を取ればそのうち解る」
カッカッカ、と笑う狐面のお爺さんには、もはや私が最初に感じていた恐ろしさなんてどこにもなかった。
狐のお面を被っているだけの、ただのどこにでもいるお爺さん、そんな感じだ。
けれど、その正体は齢幾百の化け狐で、私のご先祖様とも会っていて――
とても信じられない、何とも不思議な感覚だった。
私はそんな狐のお爺さんに、訊ねてみる。
「それなら、またここに会いに来てもいいですか?」
狐のお爺さんは、ふっと笑みを零しながら、
「――あぁ、いつでも来い。暇を持て余した儂が、いつまでもここで待っておるから」
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