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よにんめ
第4回
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4
ヒサギさんと一緒に向かったのは、アリスさんと呼ばれた女性が住んでいるという、如何にも魔女が住んでいそうな洋館だった。
レンガ造りのその家は、建物の周囲を緑色のツタが至る所に這っており、三角の屋根には大きな煙突が伸びている。小さな庭には色とりどりの大小様々な花が咲き乱れており、ここが同じ日本とは到底思えないような感じだった。その家の周りも高い塀で囲まれていて、立派な黒い鉄格子の門には花の意匠が施されていた。
「どうぞ、入って」
アリスさんは優しい笑みを浮かべながら、私たちを家の中へ招き入れてくれた。
「お、おじゃまします……」
私がおっかなびっくり玄関を抜けるその後ろで、
「……」
ヒサギさんはバツの悪そうな顔のまま、無言で足を踏み入れる。
どうもさっきからヒサギさんの様子がおかしい。
あれだけ嬉々としてジャッカロープを探していたのに、アリスさんと出会ってからというもの、一言も喋ろうとはしなかった。
そんななか、私とヒサギさんは応接間と思しき部屋に通された。
その部屋には暖炉があって、その目の前には大きなテーブルとエンジ色の大きなソファが二つ、壁にはいかにも古そうな感じの振り子時計がチクタクと動いており、出窓の傍には小さな白いテーブルと、その上には鏡の国のアリスのキャラクターを模したのであろうチェスが一式並べられていた。
全体的にアンティークな色調、とでも言えばいいんだろうか。家の外観と同じく、まるでテレビドラマで観るようなイギリスかどこかの古いおうちのようだと思った。
「どうぞ、座って待っていてね。今、ジュースを用意するから」
アリスさんはにこやかにそう口にすると、ちらりとヒサギさんに視線を向けて、たぶんため息を吐いたのだろう、肩をすくめるようにして応接間から出て行った。
私はヒサギさんと並んでソファに腰かけてから、部屋の中をぐるりと見まわして、
「――ねぇ、ヒサギさん。アリスさんって、いったい何者なの?」
するとヒサギさんは、相変わらず口を尖らせたような表情のままで、
「魔女だよ」
と短く答える。
「……魔女?」
「そ、魔女」
ヒサギさんは「はぁ……」と深いため息を吐いてから、
「私の、魔法の先生なの」
「ま、魔法の先生?」
私は思わずアリスさんの去っていったドアの方へ視線を向けて、
「もしかして、何か悪いことした? 今から私たち、怒られちゃったりする?」
何だか不安になって訊ねると、ヒサギさんは不意ににやりと口元を歪めて、
「――そうだよ。私たち、今から魔法でカエルに変えられちゃうんだよ」
「えぇっ!」
なにそれ、怖い! なんでそんなことされなきゃならないわけっ?
私がいったい、何をしたっていうの?
私はただ、ヒサギさんにそそのかされてジャッカロープを捕まえようとしていただけ!
もしかして、それがいけなかった?
ヒサギさんがやろうとしていたことって、それこそ密漁的なことだったんじゃ――
どうしよう、どうしよう、どうしよう!
私、カエルにされちゃうのっ? 本当にっ?
とんでもない恐怖が湧き上がってきて、全身から汗が噴き出してきた、その時だった。
「――そんなこと、しません!」
がちゃりとひとりでに部屋のドアが開け放たれて、呆れたような表情のアリスさんがコップの載せられたトレーを両手に入ってきた。
そのトレーを大きなテーブルの前に置きながらアリスさんは、
「そういう悪い冗談は言うものじゃないわ、マナちゃん」
たしなめるように、ヒサギさんにそう言った。
「……はぁ~い」
ヒサギさんは小さくそう返事して、「ただの冗談じゃん」とこぼすように小さく口にして、ぷくっと頬を膨らませたのだった。
それを見て、アリスさんは困ったように眉を寄せつつ、口元には笑みを浮かべて、
「ごめんなさいね」
とヒサギさんの代わりに謝罪の言葉を口にして、「えっと……」と私の顔を見つめてくる。
「あ、私、サクラギミハルです。桜の木に、美しい春と書いて桜木美春」
「美春ちゃんね」
アリスさんはにっこりとほほ笑んで私とヒサギさんの前にオレンジジュースの注がれたコップを置くと、テーブルを挟んだ向かい側のソファに自身も綺麗に足を揃えながら腰を下ろした。
いったい、いくつくらいの年齢なのだろうか。
パッと見はとても若く見える。高校生か、それとも大学生くらい?
髪も肌も全体的に真っ白で、その白さが着ている服の色をより印象的に目立たせつつ、青い瞳と桃色の唇がまるでお人形さんか何かのようだった。
「――美春ちゃんは、マナちゃんとは同じクラスのお友達?」
「えぇ、まぁ……」
お友達、かどうかまでは判らないけれど、一応頷いて返事しておく。
あのジャッカロープを見かけた日からまだ一週間ちょっとしか経っていないから、その程度の付き合いでしかない。
確か同じクラスの子だと、楠木凛花との方がよほどヒサギさんは仲が良かったような気がする。
「そうなの」
アリスさんは嬉しそうににっこり笑って両掌を合わせて、
「これからもマナちゃんと仲良くしてあげてね」
それから少し困ったように眉根を寄せて、
「――ちょっと、難しい子かもしれないけれど」
「難しいは余計だよ」
ムスッとした表情で、ヒサギさんは頬を膨らませる。
「……ごめんなさいね」
とアリスさんは謝りつつ、小さくため息を吐いてから、
「……あの神社にはひとりで行かないよう、言っておいたはずでしょう? どうしてあんな所にいたの?」
「えっ?」
それ、どういう意味?
思いながらヒサギさんに顔を向けると、ヒサギさんはそっぽを向きながら、
「ひとりじゃないし。ミハルちゃんと一緒だったし」
たぶん、アリスさんの言っている『ひとりで行かないよう』とはそういう意味じゃない。
それくらい、私にだって解る。
理由は解らないけれど、それはつまり、『大人と一緒でなければ行ってはいけない』という意味に他ならない。
でも、それって、どういうことなのだろうか?
首を傾げる私をよそに、アリスさんは深いため息を吐いてから、
「お願いだから、約束を守ってちょうだい、マナちゃん」
けれどヒサギさんは、その言葉を無視するように、だんまりを決め込んだのだった。
ヒサギさんと一緒に向かったのは、アリスさんと呼ばれた女性が住んでいるという、如何にも魔女が住んでいそうな洋館だった。
レンガ造りのその家は、建物の周囲を緑色のツタが至る所に這っており、三角の屋根には大きな煙突が伸びている。小さな庭には色とりどりの大小様々な花が咲き乱れており、ここが同じ日本とは到底思えないような感じだった。その家の周りも高い塀で囲まれていて、立派な黒い鉄格子の門には花の意匠が施されていた。
「どうぞ、入って」
アリスさんは優しい笑みを浮かべながら、私たちを家の中へ招き入れてくれた。
「お、おじゃまします……」
私がおっかなびっくり玄関を抜けるその後ろで、
「……」
ヒサギさんはバツの悪そうな顔のまま、無言で足を踏み入れる。
どうもさっきからヒサギさんの様子がおかしい。
あれだけ嬉々としてジャッカロープを探していたのに、アリスさんと出会ってからというもの、一言も喋ろうとはしなかった。
そんななか、私とヒサギさんは応接間と思しき部屋に通された。
その部屋には暖炉があって、その目の前には大きなテーブルとエンジ色の大きなソファが二つ、壁にはいかにも古そうな感じの振り子時計がチクタクと動いており、出窓の傍には小さな白いテーブルと、その上には鏡の国のアリスのキャラクターを模したのであろうチェスが一式並べられていた。
全体的にアンティークな色調、とでも言えばいいんだろうか。家の外観と同じく、まるでテレビドラマで観るようなイギリスかどこかの古いおうちのようだと思った。
「どうぞ、座って待っていてね。今、ジュースを用意するから」
アリスさんはにこやかにそう口にすると、ちらりとヒサギさんに視線を向けて、たぶんため息を吐いたのだろう、肩をすくめるようにして応接間から出て行った。
私はヒサギさんと並んでソファに腰かけてから、部屋の中をぐるりと見まわして、
「――ねぇ、ヒサギさん。アリスさんって、いったい何者なの?」
するとヒサギさんは、相変わらず口を尖らせたような表情のままで、
「魔女だよ」
と短く答える。
「……魔女?」
「そ、魔女」
ヒサギさんは「はぁ……」と深いため息を吐いてから、
「私の、魔法の先生なの」
「ま、魔法の先生?」
私は思わずアリスさんの去っていったドアの方へ視線を向けて、
「もしかして、何か悪いことした? 今から私たち、怒られちゃったりする?」
何だか不安になって訊ねると、ヒサギさんは不意ににやりと口元を歪めて、
「――そうだよ。私たち、今から魔法でカエルに変えられちゃうんだよ」
「えぇっ!」
なにそれ、怖い! なんでそんなことされなきゃならないわけっ?
私がいったい、何をしたっていうの?
私はただ、ヒサギさんにそそのかされてジャッカロープを捕まえようとしていただけ!
もしかして、それがいけなかった?
ヒサギさんがやろうとしていたことって、それこそ密漁的なことだったんじゃ――
どうしよう、どうしよう、どうしよう!
私、カエルにされちゃうのっ? 本当にっ?
とんでもない恐怖が湧き上がってきて、全身から汗が噴き出してきた、その時だった。
「――そんなこと、しません!」
がちゃりとひとりでに部屋のドアが開け放たれて、呆れたような表情のアリスさんがコップの載せられたトレーを両手に入ってきた。
そのトレーを大きなテーブルの前に置きながらアリスさんは、
「そういう悪い冗談は言うものじゃないわ、マナちゃん」
たしなめるように、ヒサギさんにそう言った。
「……はぁ~い」
ヒサギさんは小さくそう返事して、「ただの冗談じゃん」とこぼすように小さく口にして、ぷくっと頬を膨らませたのだった。
それを見て、アリスさんは困ったように眉を寄せつつ、口元には笑みを浮かべて、
「ごめんなさいね」
とヒサギさんの代わりに謝罪の言葉を口にして、「えっと……」と私の顔を見つめてくる。
「あ、私、サクラギミハルです。桜の木に、美しい春と書いて桜木美春」
「美春ちゃんね」
アリスさんはにっこりとほほ笑んで私とヒサギさんの前にオレンジジュースの注がれたコップを置くと、テーブルを挟んだ向かい側のソファに自身も綺麗に足を揃えながら腰を下ろした。
いったい、いくつくらいの年齢なのだろうか。
パッと見はとても若く見える。高校生か、それとも大学生くらい?
髪も肌も全体的に真っ白で、その白さが着ている服の色をより印象的に目立たせつつ、青い瞳と桃色の唇がまるでお人形さんか何かのようだった。
「――美春ちゃんは、マナちゃんとは同じクラスのお友達?」
「えぇ、まぁ……」
お友達、かどうかまでは判らないけれど、一応頷いて返事しておく。
あのジャッカロープを見かけた日からまだ一週間ちょっとしか経っていないから、その程度の付き合いでしかない。
確か同じクラスの子だと、楠木凛花との方がよほどヒサギさんは仲が良かったような気がする。
「そうなの」
アリスさんは嬉しそうににっこり笑って両掌を合わせて、
「これからもマナちゃんと仲良くしてあげてね」
それから少し困ったように眉根を寄せて、
「――ちょっと、難しい子かもしれないけれど」
「難しいは余計だよ」
ムスッとした表情で、ヒサギさんは頬を膨らませる。
「……ごめんなさいね」
とアリスさんは謝りつつ、小さくため息を吐いてから、
「……あの神社にはひとりで行かないよう、言っておいたはずでしょう? どうしてあんな所にいたの?」
「えっ?」
それ、どういう意味?
思いながらヒサギさんに顔を向けると、ヒサギさんはそっぽを向きながら、
「ひとりじゃないし。ミハルちゃんと一緒だったし」
たぶん、アリスさんの言っている『ひとりで行かないよう』とはそういう意味じゃない。
それくらい、私にだって解る。
理由は解らないけれど、それはつまり、『大人と一緒でなければ行ってはいけない』という意味に他ならない。
でも、それって、どういうことなのだろうか?
首を傾げる私をよそに、アリスさんは深いため息を吐いてから、
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