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よにんめ
第5回
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5
「――いちいちうるさいんだよね、お母さんも、アリスさんも」
ヒサギさんはアリスさんの家からの帰り道、唇を尖らせるようにしながらそう言った。
橙色の陽の光を目の前にして、私は眩しさのあまり、目の前に手を伸ばしてその光を遮りつつ、
「アリスさんが言ってたの、どういうこと? あの神社にはひとりで行かないようにって」
するとヒサギさんは、足元の石ころをカンっとひとつ蹴り飛ばしてから、
「あの神社、あっちの世界に繋がってるんだよ」
「あっちの世界?」
「そっ」
とヒサギさんは頷いて、
「お母さんもアリスさんも、私があっちの世界に入っちゃうかもしれないのが心配でしかたがないんだってさ」
そんなことしないのに――そうヒサギさんはむすっと頬を膨らませた。
「あっちの世界って、なに?」
訊ねると、ヒサギさんは「あぁ」と口にしてから、
「あっちの世界は、あっちの世界だよ。こっちじゃない世界のこと」
「……ぜんぜんわからない」
「異界って呼ぶ人もいるし、神域っていう人もいるし、アヤカシの居る妖界なんて言ってる人もいるけど、本当のところ、誰もあっちの世界のことは知らないんだって」
「……誰も知らない世界?」
「そっ、誰も知らないの。昔からあっち側に調査に行く魔法使いは何人もいたみたいなんだけど――」
「けど……?」
訊ねると、ヒサギさんは小さくため息を吐いてから、
「誰ひとり、戻ってくることはなかったんだって」
「えっ。なにそれ、ちょっと怖い」
あの神社、そんな危ない世界と繋がっていたわけ?
思わず眉間に皺を寄せる私に、ヒサギさんは、
「ジャッカロープも、実はあっちの世界から来てるんじゃないかって言われてる」
「そ、そうなのっ?」
うん、とヒサギさんは頷いて、
「世界中探し回ってもなかなか見つからないけど、あっちの世界に繋がってるらしい地域ではよく目撃情報が報告されてるらしいから」
「あの神社が、そのひとつ?」
「そういうこと」
「……そうだったんだ」
そんなことを聞いてしまうと、何だか怖くてあの神社には二度と近寄りたくなくなってくる。
小さいころからお正月やお祭りのたびに遊びに行っているけれど、まさかそんな危ない世界と繋がっているだなんて、思ってもみなかった。
一見すれば、普通の町の、小さな山に建つ、ただの神社って感じなのに。
「あそこの神様にも、しょっちゅう注意されるんだよね。お前は危なっかしいからよくよく注意しなさいって」
「――は? 神様?」
私は目を丸くして、
「神様って、本当にいるの?」
ヒサギさんは口元に指をあてて、「う~ん」と唸るように喉を鳴らしてから、
「正確には“神様”と呼ばれているだけらしいよ。私もお父さんやお母さんから聞かされただけだからよく意味が解らないんだけど、ソレを神様って私たちが認識しているから、彼らは神様となっているだけ、なんだって。正確には、あっちの世界に近しい存在、こっちとあっちのハザマに住まう者たち――って、こないだうちに来た魔法協会のお爺さんも言ってたし」
「それって、つまり――どういうこと?」
「妖怪とか、そんなやつらしいよ」
「よ、妖怪」
神様の次は妖怪? そもそも、ヒサギさんやアリスさんが魔法使いってだけで現実離れしているっていうのに、今度は神様、そして妖怪って、私の現実もずいぶんファンタジーめいてきて何だか信じられなかった。
いや、ここは逆に考えるべきだろうか。
私が認識していた“現実”が実は“ファンタジー”で、“ファンタジー”だと思っていたものが実は“現実”だったのだ、と。
……あまりに急すぎて、頭が何だか追いつかない感じだ。
要するに、その妖怪に相当する存在を、私たちは“神様”と呼んで拝んできた、そういうことなんだろうけれど――それ、ホントにホント?
あまりのことに、私はそれ以上、何も言えなかった。
「あの神社にはね、昔から人を化かして遊んでいた化け狐がいるんだよ。もうお爺ちゃんだけど。その化け狐のお爺ちゃんがね、今では神様みたいなことしてるんだよね。で、その化け狐のお爺ちゃんもね、私が神社に遊びに行くたびにしつこく注意してくるんだ。神社の裏手には絶対に近づくなって。あそこはあっちの世界に繋がっている。下手に近づいたら戻ってこられなくなるからって」
なんでみんな、あんなにしつこく私に注意してくるんだろ。
そう言って、ヒサギさんはまたしても大きく頬を膨らませて見せた。
そんなヒサギさんに私は、
「でも、みんなが危ないから近づくなって言うんだから、ちゃんと言うことは守ろうよ。何かあってからじゃ遅いでしょ?」
「ダイジョーブだってば!」
ヒサギさんは叫ぶように口にして、
「私だって、そんなに馬鹿じゃないもん! あっちの世界には近づかないように注意してる! ちょっと山の中に入ったくらいで、みんな心配し過ぎなんだよ!」
「いや、でも――」
「もう! ミハルちゃんも心配しすぎ!」
キッと睨みつけるような視線を私に向けて、ヒサギさんは大きく首を横に振った。
「もういいよ! ジャッカロープは私ひとりで捕まえてみせるから! ミハルちゃんは明日から来なくていい!」
「えぇっ! 危ないって! さっきもひとりで行くなってアリスさんから――」
「うるさいうるさいうるさい!」
ヒサギさんは眼に涙を浮かべながら何度も何度もかぶりを振って、
「ミハルちゃんなんてもういい! じゃぁねっ!」
そう言い残して、私を置いて駆けて行ってしまった。
「――あぁっ」
私はそんなヒサギさんの後ろ姿を、見えなくなるまで、ただ見送ることしかできなかった。
「――いちいちうるさいんだよね、お母さんも、アリスさんも」
ヒサギさんはアリスさんの家からの帰り道、唇を尖らせるようにしながらそう言った。
橙色の陽の光を目の前にして、私は眩しさのあまり、目の前に手を伸ばしてその光を遮りつつ、
「アリスさんが言ってたの、どういうこと? あの神社にはひとりで行かないようにって」
するとヒサギさんは、足元の石ころをカンっとひとつ蹴り飛ばしてから、
「あの神社、あっちの世界に繋がってるんだよ」
「あっちの世界?」
「そっ」
とヒサギさんは頷いて、
「お母さんもアリスさんも、私があっちの世界に入っちゃうかもしれないのが心配でしかたがないんだってさ」
そんなことしないのに――そうヒサギさんはむすっと頬を膨らませた。
「あっちの世界って、なに?」
訊ねると、ヒサギさんは「あぁ」と口にしてから、
「あっちの世界は、あっちの世界だよ。こっちじゃない世界のこと」
「……ぜんぜんわからない」
「異界って呼ぶ人もいるし、神域っていう人もいるし、アヤカシの居る妖界なんて言ってる人もいるけど、本当のところ、誰もあっちの世界のことは知らないんだって」
「……誰も知らない世界?」
「そっ、誰も知らないの。昔からあっち側に調査に行く魔法使いは何人もいたみたいなんだけど――」
「けど……?」
訊ねると、ヒサギさんは小さくため息を吐いてから、
「誰ひとり、戻ってくることはなかったんだって」
「えっ。なにそれ、ちょっと怖い」
あの神社、そんな危ない世界と繋がっていたわけ?
思わず眉間に皺を寄せる私に、ヒサギさんは、
「ジャッカロープも、実はあっちの世界から来てるんじゃないかって言われてる」
「そ、そうなのっ?」
うん、とヒサギさんは頷いて、
「世界中探し回ってもなかなか見つからないけど、あっちの世界に繋がってるらしい地域ではよく目撃情報が報告されてるらしいから」
「あの神社が、そのひとつ?」
「そういうこと」
「……そうだったんだ」
そんなことを聞いてしまうと、何だか怖くてあの神社には二度と近寄りたくなくなってくる。
小さいころからお正月やお祭りのたびに遊びに行っているけれど、まさかそんな危ない世界と繋がっているだなんて、思ってもみなかった。
一見すれば、普通の町の、小さな山に建つ、ただの神社って感じなのに。
「あそこの神様にも、しょっちゅう注意されるんだよね。お前は危なっかしいからよくよく注意しなさいって」
「――は? 神様?」
私は目を丸くして、
「神様って、本当にいるの?」
ヒサギさんは口元に指をあてて、「う~ん」と唸るように喉を鳴らしてから、
「正確には“神様”と呼ばれているだけらしいよ。私もお父さんやお母さんから聞かされただけだからよく意味が解らないんだけど、ソレを神様って私たちが認識しているから、彼らは神様となっているだけ、なんだって。正確には、あっちの世界に近しい存在、こっちとあっちのハザマに住まう者たち――って、こないだうちに来た魔法協会のお爺さんも言ってたし」
「それって、つまり――どういうこと?」
「妖怪とか、そんなやつらしいよ」
「よ、妖怪」
神様の次は妖怪? そもそも、ヒサギさんやアリスさんが魔法使いってだけで現実離れしているっていうのに、今度は神様、そして妖怪って、私の現実もずいぶんファンタジーめいてきて何だか信じられなかった。
いや、ここは逆に考えるべきだろうか。
私が認識していた“現実”が実は“ファンタジー”で、“ファンタジー”だと思っていたものが実は“現実”だったのだ、と。
……あまりに急すぎて、頭が何だか追いつかない感じだ。
要するに、その妖怪に相当する存在を、私たちは“神様”と呼んで拝んできた、そういうことなんだろうけれど――それ、ホントにホント?
あまりのことに、私はそれ以上、何も言えなかった。
「あの神社にはね、昔から人を化かして遊んでいた化け狐がいるんだよ。もうお爺ちゃんだけど。その化け狐のお爺ちゃんがね、今では神様みたいなことしてるんだよね。で、その化け狐のお爺ちゃんもね、私が神社に遊びに行くたびにしつこく注意してくるんだ。神社の裏手には絶対に近づくなって。あそこはあっちの世界に繋がっている。下手に近づいたら戻ってこられなくなるからって」
なんでみんな、あんなにしつこく私に注意してくるんだろ。
そう言って、ヒサギさんはまたしても大きく頬を膨らませて見せた。
そんなヒサギさんに私は、
「でも、みんなが危ないから近づくなって言うんだから、ちゃんと言うことは守ろうよ。何かあってからじゃ遅いでしょ?」
「ダイジョーブだってば!」
ヒサギさんは叫ぶように口にして、
「私だって、そんなに馬鹿じゃないもん! あっちの世界には近づかないように注意してる! ちょっと山の中に入ったくらいで、みんな心配し過ぎなんだよ!」
「いや、でも――」
「もう! ミハルちゃんも心配しすぎ!」
キッと睨みつけるような視線を私に向けて、ヒサギさんは大きく首を横に振った。
「もういいよ! ジャッカロープは私ひとりで捕まえてみせるから! ミハルちゃんは明日から来なくていい!」
「えぇっ! 危ないって! さっきもひとりで行くなってアリスさんから――」
「うるさいうるさいうるさい!」
ヒサギさんは眼に涙を浮かべながら何度も何度もかぶりを振って、
「ミハルちゃんなんてもういい! じゃぁねっ!」
そう言い残して、私を置いて駆けて行ってしまった。
「――あぁっ」
私はそんなヒサギさんの後ろ姿を、見えなくなるまで、ただ見送ることしかできなかった。
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