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よにんめ
第6回
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6
何だか胸がモヤモヤしてしかたがなかった。
ヒサギさんがアリスさんとの約束を守るだなんて到底思えなかったし、彼女の言う通り、本当にひとりでジャッカロープを捕まえようと、あの山の中を探し回りそうな気がしてならなかった。
今まで同じクラスにいて、けれどそんなに仲が良かったわけでもなくて、お話もほとんどしてこなかった間柄ではあるのだけれど、この一週間、私とヒサギさんが一緒にジャッカロープを探してきたことにかわりはない。
果たしてこのままヒサギさんをひとりで探しに行かせてしまっても良いものだろうか。
――いや、彼女には他にも仲のいいクラスメイトがいたはずだ。
私と一緒にジャッカロープを探していたのだって、私がたまたまジャッカロープを見つけた時に、ヒサギさんもその場にいたというだけでしかない――と、思う。
だから、私じゃなくてもきっと、ヒサギさんは他の誰かを引き連れてジャッカロープを探しに行くに違いない。
けれど、
『もういいよ! ジャッカロープは私ひとりで捕まえてみせるから!』
ヒサギさんは、確かにそう口にした。
仲のいい他の子を連れて行くのではなく、ひとりで、と。
もし本当にひとりで探しに行ってしまったら?
ひとりにしたせいで、もし『あっちの世界』に行ってしまい、帰ってこなくなってしまったとしたら?
そう考えると、なんだかとても不安だった。
あのヒサギさんの勢いなら、本当にひとりで行ってしまいそうな気がしてならない。
そしてそのまま、戻ってこない可能性もあるのだとしたら、私は――
私はその夜、そんなことばかり考えて、なかなか寝付くことが出来なかった。
そして、その翌日。放課後の帰り道。
「――あっ」
私があの神社のふもとまで行くと、そこにはヒサギさんの姿があって、彼女は私に気が付くと、そんな声を漏らしてそっぽを向いた。
私はそんなヒサギさんにため息をひとつ吐いてから、
「……私も、一緒に探すよ」
すると、ヒサギさんはムスッとした表情で再びこちらに顔を向け、
「――ひとりでいいって、言ったじゃん」
「ふたりで探したほうが効率いいでしょ? それに、ここは“あっちの世界”に繋がってて危険だっていうんなら、ひとりよりもふたりの方が、何かあった時にまだ対処できると思わない?」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
しばらくの間、私とヒサギさんは互いの眼を見つめあった。
ヒサギさんの、虹色のような不思議な色をしたその瞳は、こうして改めて見ると、まるで宝石か何かのように私には感じられてならなかった。
やがてヒサギさんは瞬きを何度かして、ゆっくりと視線を逸らしながら、
「……うん」
と小さく頷いた。
私はなんとなく、ほっと胸を撫でおろす。
「それで、どうする? 本当に山の中を探し回ってみるの?」
訊ねると、ヒサギさんは首を横に振って、
「ううん。とりあえず、まずは餌でおびき寄せてみようかなって思って」
「餌?」
「そう」
ヒサギさんはまた頷いて、おもむろに背負っていたランドセルを地面におろすと、中から一冊の古そうな本を取り出して、ぺらぺらとめくってみせる。
その本には見たこともない文字が記されていて、たくさんのイラストが描かれていた。
やがてヒサギさんのページをめくる手が止まり、果たしてそこに描かれていたのは、あのジャッカロープのイラストだった。
「ここにね、ジャッカロープがよく食べているらしい草について書かれてるんだ」
ほら見て、と指さされたけれど、
「……いや、読めないよ」
これはいったい、どこの国の文字なんだろう、と思っていると、
「マンドレイク」
とヒサギさんがそう教えてくれた。
「マンドレイクって、よくファンタジーに出てくる、あれ? マンドラゴラのこと?」
「そうだよ」
それからヒサギさんは本を脇に置くと、再びランドセルの中に両手を伸ばして――いったいどんなふうにその中に入っていたのか、ビニール袋に包まれた鉢植えを取り出して見せた。
わたしは思わず目を見張り、その鉢植えを見つめながら、
「なに、これ」
その鉢植えには紫の花を咲かせた植物が植わっており、ヒサギさんはそれをビニール袋から取り出しつつ、
「これはね、マンドラゴラ・オータムナリスっていうの」
「えっ! マンドラゴラって、本当にあるのっ?」
もしかして、これを抜いたらあの人型の根っこが生えていて叫び声が――
ヒサギさんはそれを抱えながら、
「お父さんが育ててたのを勝手に持ち出してきちゃったから、一応内緒にしてね」
「え、大丈夫なの、それ」
「バレても怒られないとは思うけどね。お父さん、私には甘いから」
「そうなんだ。でもまぁ、わかった。内緒にしとく。で、それをどうするの? もしかして、引っこ抜いたりしないよね?」
「……やってみる?」
ヒサギさんが右手をそっとその花に伸ばして、私は思わず耳をふさぐ。
「ちょ、ちょっとやめてよ!」
そんな私に、けれどヒサギさんは「ぷぷっ」とあの噴き出すような笑い声を漏らして、
「だいじょーぶだよ! 抜いたりしないし、このマンドラゴラはこっちの世界の普通の植物だから、抜いたからって人の形した根っこが出てきて悲鳴をあげる、なんてことは絶対にないから!」
「――そ、そうなの?」
うん、とヒサギさんは頷いて、
「さ、行こ! これをあの草むらの辺りに置いておけば、きっとジャッカロープがまた出てくるはずだから!」
そう言って、にっこりとほほ笑んだ。
何だか胸がモヤモヤしてしかたがなかった。
ヒサギさんがアリスさんとの約束を守るだなんて到底思えなかったし、彼女の言う通り、本当にひとりでジャッカロープを捕まえようと、あの山の中を探し回りそうな気がしてならなかった。
今まで同じクラスにいて、けれどそんなに仲が良かったわけでもなくて、お話もほとんどしてこなかった間柄ではあるのだけれど、この一週間、私とヒサギさんが一緒にジャッカロープを探してきたことにかわりはない。
果たしてこのままヒサギさんをひとりで探しに行かせてしまっても良いものだろうか。
――いや、彼女には他にも仲のいいクラスメイトがいたはずだ。
私と一緒にジャッカロープを探していたのだって、私がたまたまジャッカロープを見つけた時に、ヒサギさんもその場にいたというだけでしかない――と、思う。
だから、私じゃなくてもきっと、ヒサギさんは他の誰かを引き連れてジャッカロープを探しに行くに違いない。
けれど、
『もういいよ! ジャッカロープは私ひとりで捕まえてみせるから!』
ヒサギさんは、確かにそう口にした。
仲のいい他の子を連れて行くのではなく、ひとりで、と。
もし本当にひとりで探しに行ってしまったら?
ひとりにしたせいで、もし『あっちの世界』に行ってしまい、帰ってこなくなってしまったとしたら?
そう考えると、なんだかとても不安だった。
あのヒサギさんの勢いなら、本当にひとりで行ってしまいそうな気がしてならない。
そしてそのまま、戻ってこない可能性もあるのだとしたら、私は――
私はその夜、そんなことばかり考えて、なかなか寝付くことが出来なかった。
そして、その翌日。放課後の帰り道。
「――あっ」
私があの神社のふもとまで行くと、そこにはヒサギさんの姿があって、彼女は私に気が付くと、そんな声を漏らしてそっぽを向いた。
私はそんなヒサギさんにため息をひとつ吐いてから、
「……私も、一緒に探すよ」
すると、ヒサギさんはムスッとした表情で再びこちらに顔を向け、
「――ひとりでいいって、言ったじゃん」
「ふたりで探したほうが効率いいでしょ? それに、ここは“あっちの世界”に繋がってて危険だっていうんなら、ひとりよりもふたりの方が、何かあった時にまだ対処できると思わない?」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
しばらくの間、私とヒサギさんは互いの眼を見つめあった。
ヒサギさんの、虹色のような不思議な色をしたその瞳は、こうして改めて見ると、まるで宝石か何かのように私には感じられてならなかった。
やがてヒサギさんは瞬きを何度かして、ゆっくりと視線を逸らしながら、
「……うん」
と小さく頷いた。
私はなんとなく、ほっと胸を撫でおろす。
「それで、どうする? 本当に山の中を探し回ってみるの?」
訊ねると、ヒサギさんは首を横に振って、
「ううん。とりあえず、まずは餌でおびき寄せてみようかなって思って」
「餌?」
「そう」
ヒサギさんはまた頷いて、おもむろに背負っていたランドセルを地面におろすと、中から一冊の古そうな本を取り出して、ぺらぺらとめくってみせる。
その本には見たこともない文字が記されていて、たくさんのイラストが描かれていた。
やがてヒサギさんのページをめくる手が止まり、果たしてそこに描かれていたのは、あのジャッカロープのイラストだった。
「ここにね、ジャッカロープがよく食べているらしい草について書かれてるんだ」
ほら見て、と指さされたけれど、
「……いや、読めないよ」
これはいったい、どこの国の文字なんだろう、と思っていると、
「マンドレイク」
とヒサギさんがそう教えてくれた。
「マンドレイクって、よくファンタジーに出てくる、あれ? マンドラゴラのこと?」
「そうだよ」
それからヒサギさんは本を脇に置くと、再びランドセルの中に両手を伸ばして――いったいどんなふうにその中に入っていたのか、ビニール袋に包まれた鉢植えを取り出して見せた。
わたしは思わず目を見張り、その鉢植えを見つめながら、
「なに、これ」
その鉢植えには紫の花を咲かせた植物が植わっており、ヒサギさんはそれをビニール袋から取り出しつつ、
「これはね、マンドラゴラ・オータムナリスっていうの」
「えっ! マンドラゴラって、本当にあるのっ?」
もしかして、これを抜いたらあの人型の根っこが生えていて叫び声が――
ヒサギさんはそれを抱えながら、
「お父さんが育ててたのを勝手に持ち出してきちゃったから、一応内緒にしてね」
「え、大丈夫なの、それ」
「バレても怒られないとは思うけどね。お父さん、私には甘いから」
「そうなんだ。でもまぁ、わかった。内緒にしとく。で、それをどうするの? もしかして、引っこ抜いたりしないよね?」
「……やってみる?」
ヒサギさんが右手をそっとその花に伸ばして、私は思わず耳をふさぐ。
「ちょ、ちょっとやめてよ!」
そんな私に、けれどヒサギさんは「ぷぷっ」とあの噴き出すような笑い声を漏らして、
「だいじょーぶだよ! 抜いたりしないし、このマンドラゴラはこっちの世界の普通の植物だから、抜いたからって人の形した根っこが出てきて悲鳴をあげる、なんてことは絶対にないから!」
「――そ、そうなの?」
うん、とヒサギさんは頷いて、
「さ、行こ! これをあの草むらの辺りに置いておけば、きっとジャッカロープがまた出てくるはずだから!」
そう言って、にっこりとほほ笑んだ。
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