37 / 58
よにんめ
第7回
しおりを挟む
7
ヒサギさんは草むらの中にマンドラゴラの鉢植えを置くと、再びこちらに戻ってきて、私と一緒に物陰に身を潜めた。
ふたりしてじっと鉢植えの方を見つめていたのだけれど、なかなかジャッカロープはその姿を現さない。
「……本当にジャッカロープは出てくるの?」
「絶対に出てくるから、だいじょーぶ!」
「根拠は?」
「ないよ」
だよね、と思いながら、根気強く待つこと十分。
大した会話もなく、そろそろ飽きてあくびが出始めたころ、
「――あ、来た!」
囁くようにヒサギさんが口にして、私は慌てて顔を向けた。
見れば、マンドラゴラの鉢植えに上半身を乗っけようとしているジャッカロープの姿がそこにはあった。
ジャッカロープはあの立派な角を振りながら前脚を鉢植えのへりに乗せて、クンクンとマンドラゴラの葉や花のにおいを嗅ぐと、パクリ、とその緑の葉っぱを口にくわえる。
「……本当にきた!」
「だから言ったじゃん。絶対にくるって!」
自信満々に胸を張って、ふんすと鼻を鳴らすヒサギさん。
そんなヒサギさんに、私は訊ねる。
「それで、どうするの? 早く捕まえにいかないと、食べきられちゃうよ」
「だいじょーぶ! ちゃんと考えてるから!」
見ててね、とヒサギさんはにやりと笑んで口にして、小さく何かの呪文?を唱えた。
聞きなれない発音の、聞きなれない言葉の呪文だった。
少なくとも、学校で習う英語とかじゃない。
その呪文が唱えられた直後。
「――あっ」
マンドラゴラの葉を食んでいたジャッカロープの周囲に、小さく風がうねり始めたのだ。
その風はやがて徐々に勢いを増していき、小さなつむじ風へと成長していったかと思えば、ジャッカロープの身体を一気に包み込んで、そのまま宙へと浮かび上がらせたのだった。
「……すごい、なにこれ。どうやったの?」
「風の力でコーソクしてるんだ。本当は自分が空を飛ぶときに使う魔法なんだけど、対象を変えて範囲を狭めることによって、物体を持ち上げることができるの」
――って、お母さんに教えてもらったんだ。
ヒサギさんは付け加えるようにそう言った。
私はそれを耳にしながら、開いた口がふさがらなかった。
考えてみれば、ヒサギさんからまともに魔法を見せてもらったのは初めてじゃないだろうか。
少なくとも、ジャッカロープを一緒に捕まえようと言われたあの日、ヒサギさんの身体を包み込んでいた強い風は、それでも彼女の身体を浮かび上がらせるほどの力はまったくなかった。
それが今は、小さいとはいえ、ジャッカロープの身体を完全に宙に浮かび上がらせているのである。
いったいヒサギさんは、他にどんな魔法が使えるのだろうか。
「これなら簡単に捕まえられるでしょ?」
ヒサギさんは得意げに口にして、すたすたとジャッカロープの方へ歩いていく。
私もはっと我に返って、そのあとを追いかけながら、
「すごいじゃん、ヒサギさん! 結局、山の中を探し回らずに捕まえられたよ!」
それに対して、ヒサギさんは「へへん」と笑んで、
「これが私の実力だよ!」
さすが私! と自画自賛した。
ジャッカロープは風に包まれたまま、必死につむじ風から脱出しようと、激しく身体をひねらせて暴れていた。そのまん丸い黒い瞳を時折こちらに向けてぎろりと睨み、ブゥッブゥッと怒ったような鳴き声をあげている。
「……めちゃくちゃ暴れてるけど、ここからどうやって下ろすの?」
手を伸ばしたらあの角に刺されそうだし、あの鳴き声も正直怖い。
ヒサギさんは両手を腰に当てて、宙に浮いたジャッカロープを見上げながら、
「うん! 考えてなかった!」
それからこちらに顔を向けて、「あははっ」と軽く笑ってから、
「……どうしよっか?」
「えぇ――」
そんなこと言われたって、私にだって解らない。
「いっそ、風に包んだまま移動できないの?」
するとヒサギさんは、軽く頭を掻きながら、
「……やり方がわかんない。私、まだシュギョーチューの身だから」
「えぇ――」
私たちは困り果てて、ただ風の中で暴れ続けるジャッカロープを見上げていたのだけれど、
「あっ、ヤバい」
ヒサギさんがそう小さく漏らした途端、ジャッカロープは器用につむじ風の中を駆けあがり、バッと風を蹴って飛び上がったかと思えば、見事に風の拘束から抜け出したのである。
ザっと地面に着地したジャッカロープは鼻息荒く、私たちを見上げて睨みつけてきた。
「……ど、どうするの、ヒサギさん!」
「も、もっかい風の魔法を――!」
なんて会話をしている間に、ジャッカロープはくるりと身をひるがえすと、山の中を一気に駆け上がって行ってしまう。
「あぁっ、逃げちゃう! 追いかけなきゃ!」
ヒサギさんはそう叫ぶと、ジャッカロープを追いかけて、ダッと山の中へと駆けだした。
「えっ、あっ! ま、待って、ヒサギさん!」
私も慌ててヒサギさんを追いかけて、山の中へと、足を踏み入れたのだった。
ヒサギさんは草むらの中にマンドラゴラの鉢植えを置くと、再びこちらに戻ってきて、私と一緒に物陰に身を潜めた。
ふたりしてじっと鉢植えの方を見つめていたのだけれど、なかなかジャッカロープはその姿を現さない。
「……本当にジャッカロープは出てくるの?」
「絶対に出てくるから、だいじょーぶ!」
「根拠は?」
「ないよ」
だよね、と思いながら、根気強く待つこと十分。
大した会話もなく、そろそろ飽きてあくびが出始めたころ、
「――あ、来た!」
囁くようにヒサギさんが口にして、私は慌てて顔を向けた。
見れば、マンドラゴラの鉢植えに上半身を乗っけようとしているジャッカロープの姿がそこにはあった。
ジャッカロープはあの立派な角を振りながら前脚を鉢植えのへりに乗せて、クンクンとマンドラゴラの葉や花のにおいを嗅ぐと、パクリ、とその緑の葉っぱを口にくわえる。
「……本当にきた!」
「だから言ったじゃん。絶対にくるって!」
自信満々に胸を張って、ふんすと鼻を鳴らすヒサギさん。
そんなヒサギさんに、私は訊ねる。
「それで、どうするの? 早く捕まえにいかないと、食べきられちゃうよ」
「だいじょーぶ! ちゃんと考えてるから!」
見ててね、とヒサギさんはにやりと笑んで口にして、小さく何かの呪文?を唱えた。
聞きなれない発音の、聞きなれない言葉の呪文だった。
少なくとも、学校で習う英語とかじゃない。
その呪文が唱えられた直後。
「――あっ」
マンドラゴラの葉を食んでいたジャッカロープの周囲に、小さく風がうねり始めたのだ。
その風はやがて徐々に勢いを増していき、小さなつむじ風へと成長していったかと思えば、ジャッカロープの身体を一気に包み込んで、そのまま宙へと浮かび上がらせたのだった。
「……すごい、なにこれ。どうやったの?」
「風の力でコーソクしてるんだ。本当は自分が空を飛ぶときに使う魔法なんだけど、対象を変えて範囲を狭めることによって、物体を持ち上げることができるの」
――って、お母さんに教えてもらったんだ。
ヒサギさんは付け加えるようにそう言った。
私はそれを耳にしながら、開いた口がふさがらなかった。
考えてみれば、ヒサギさんからまともに魔法を見せてもらったのは初めてじゃないだろうか。
少なくとも、ジャッカロープを一緒に捕まえようと言われたあの日、ヒサギさんの身体を包み込んでいた強い風は、それでも彼女の身体を浮かび上がらせるほどの力はまったくなかった。
それが今は、小さいとはいえ、ジャッカロープの身体を完全に宙に浮かび上がらせているのである。
いったいヒサギさんは、他にどんな魔法が使えるのだろうか。
「これなら簡単に捕まえられるでしょ?」
ヒサギさんは得意げに口にして、すたすたとジャッカロープの方へ歩いていく。
私もはっと我に返って、そのあとを追いかけながら、
「すごいじゃん、ヒサギさん! 結局、山の中を探し回らずに捕まえられたよ!」
それに対して、ヒサギさんは「へへん」と笑んで、
「これが私の実力だよ!」
さすが私! と自画自賛した。
ジャッカロープは風に包まれたまま、必死につむじ風から脱出しようと、激しく身体をひねらせて暴れていた。そのまん丸い黒い瞳を時折こちらに向けてぎろりと睨み、ブゥッブゥッと怒ったような鳴き声をあげている。
「……めちゃくちゃ暴れてるけど、ここからどうやって下ろすの?」
手を伸ばしたらあの角に刺されそうだし、あの鳴き声も正直怖い。
ヒサギさんは両手を腰に当てて、宙に浮いたジャッカロープを見上げながら、
「うん! 考えてなかった!」
それからこちらに顔を向けて、「あははっ」と軽く笑ってから、
「……どうしよっか?」
「えぇ――」
そんなこと言われたって、私にだって解らない。
「いっそ、風に包んだまま移動できないの?」
するとヒサギさんは、軽く頭を掻きながら、
「……やり方がわかんない。私、まだシュギョーチューの身だから」
「えぇ――」
私たちは困り果てて、ただ風の中で暴れ続けるジャッカロープを見上げていたのだけれど、
「あっ、ヤバい」
ヒサギさんがそう小さく漏らした途端、ジャッカロープは器用につむじ風の中を駆けあがり、バッと風を蹴って飛び上がったかと思えば、見事に風の拘束から抜け出したのである。
ザっと地面に着地したジャッカロープは鼻息荒く、私たちを見上げて睨みつけてきた。
「……ど、どうするの、ヒサギさん!」
「も、もっかい風の魔法を――!」
なんて会話をしている間に、ジャッカロープはくるりと身をひるがえすと、山の中を一気に駆け上がって行ってしまう。
「あぁっ、逃げちゃう! 追いかけなきゃ!」
ヒサギさんはそう叫ぶと、ジャッカロープを追いかけて、ダッと山の中へと駆けだした。
「えっ、あっ! ま、待って、ヒサギさん!」
私も慌ててヒサギさんを追いかけて、山の中へと、足を踏み入れたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる