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ごにんめ
第1回
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ひんやりとした朝の空気に、私は『完全に夏は終わったんだなぁ』とぼんやり思った。
吹きすさぶ風に肩まで伸びた髪は激しく乱れ、しっかりと柄を握っていないとホウキごとどこかへ吹き飛ばされてしまいそうだ。
一週間くらい前まではまだ夏の名残を感じるほどだったけれど、そろそろ本格的に秋が訪れようとしているのかも知れない。
とはいえ、日中はそれでもまだまだ陽射しが強く、茹だるような暑さを感じることもあるのだけれども。
私は眼下に広がる見知った町並みを見下ろしながら、何とも言えない懐かしさを感じていた。
私がこの町で暮らしていたのは、高校を卒業するまでのことだった。
親の都合で隣の県に引っ越してからは、戻ることもあまりなかった。
たまにこうして高校の頃の知人に呼ばれて来るくらい――それも数年に一度程度のことで、自らこの町に戻ってくることなんてまったくない。
別にこの町が嫌いなわけじゃない。
むしろ、高校の頃に出会った人たちとの思い出溢れる、思い入れのある町だ。
ただ、引っ越してからの生活の中で、なかなか訪れる機会がなかったのだ。
専門学校を卒業して、就職して、結婚して、子育てして、何だかあれよあれよと思っているうちにいつの間にか時は流れて、気付くとこの歳(それは秘密だ)になっていたのである。
今日も突然、アリスさんたちから連絡があって、子供たちを両親に預け、急遽ここまでホウキに乗ってやってきた。
その理由は、高校の頃の先輩である楸真帆の娘、楸真奈の捜索協力だった。
私が比較的近場(それでも隣の県だけれど)に住んでいることもあって、同じく彼女たちと“魔女”を生業としている私が呼ばれたというわけだ。
高校の頃は真帆先輩たちと一緒に秘密クラブ『現代魔法研究部』通称魔法部で、日々魔法の研究(という名目のもと、ただ遊んでいただけ)に励んでいた。
そのころの外部顧問(という名目のお目付け役)が楾アリスさんだったのだ。
アリスさんには今でも色々とお世話になっていて、魔女としての仕事の際にも都度連絡して、たくさんのアドバイスをもらっている。
高校の頃から無鉄砲で自由人だった真帆先輩とは対照的で、とても頼れる人物だ。
そんなアリスさんからの頼みを断れるはずもなかったし、なにより真帆先輩の娘さんが行方不明になったとあっては居ても立ってもいられなかった。
私にも、ふたりの可愛い子供たちがいる。
真帆先輩の気持ちを思えばこそ、心配で心配でたまらなかった。
しかも、その真帆先輩は現在、魔法協会からの依頼で遠方に出張に行っているらしく、すぐには戻ってこられないというではないか。
なるべくなら、真帆先輩が戻ってくる前に真奈ちゃんをどうにか見つけてあげたい。
そう、私は思っていた。
しばらく町の上空を飛び続けて、かつて住んでいた家があった場所、通っていた小学校、中学校、そして高校の校舎を望みながら、やがて私はアリスさんが現在住んでいる住宅地の片隅――ひときわ目立つレンガ造りの洋館の前に降り立った。
いかにもアリスさん好みのデザインで、おとぎの世界に足を踏み入れたような気分になる。
私は装飾の施された鉄の門の前に立ち、傍らに取り付けられたインターホンのボタンを押した。
ジリリリリッ、と機械的な音がしてしばらく待っていると、
「――はい」
聞き慣れた声で、けれどとても落ち込んでいるような声がスピーカーから聞こえてくる。
私は小さなカメラを覗き込むようにして、
「お久しぶりです、アリスさん。鐘撞葵です」
すると、スピーカーの向こうから少し安堵するような吐息が聞こえて、
「葵ちゃん、すぐ開けるわね」
ぷつん、とスピーカーからの音が途切れる。
私が鉄の門を開けて玄関前に向かうのとほぼ同時に、玄関扉がガチャリと開いて、
「――来てくれてありがとう、葵ちゃん」
泣き腫らしたような目元の、アリスさんはそう言った。
ひんやりとした朝の空気に、私は『完全に夏は終わったんだなぁ』とぼんやり思った。
吹きすさぶ風に肩まで伸びた髪は激しく乱れ、しっかりと柄を握っていないとホウキごとどこかへ吹き飛ばされてしまいそうだ。
一週間くらい前まではまだ夏の名残を感じるほどだったけれど、そろそろ本格的に秋が訪れようとしているのかも知れない。
とはいえ、日中はそれでもまだまだ陽射しが強く、茹だるような暑さを感じることもあるのだけれども。
私は眼下に広がる見知った町並みを見下ろしながら、何とも言えない懐かしさを感じていた。
私がこの町で暮らしていたのは、高校を卒業するまでのことだった。
親の都合で隣の県に引っ越してからは、戻ることもあまりなかった。
たまにこうして高校の頃の知人に呼ばれて来るくらい――それも数年に一度程度のことで、自らこの町に戻ってくることなんてまったくない。
別にこの町が嫌いなわけじゃない。
むしろ、高校の頃に出会った人たちとの思い出溢れる、思い入れのある町だ。
ただ、引っ越してからの生活の中で、なかなか訪れる機会がなかったのだ。
専門学校を卒業して、就職して、結婚して、子育てして、何だかあれよあれよと思っているうちにいつの間にか時は流れて、気付くとこの歳(それは秘密だ)になっていたのである。
今日も突然、アリスさんたちから連絡があって、子供たちを両親に預け、急遽ここまでホウキに乗ってやってきた。
その理由は、高校の頃の先輩である楸真帆の娘、楸真奈の捜索協力だった。
私が比較的近場(それでも隣の県だけれど)に住んでいることもあって、同じく彼女たちと“魔女”を生業としている私が呼ばれたというわけだ。
高校の頃は真帆先輩たちと一緒に秘密クラブ『現代魔法研究部』通称魔法部で、日々魔法の研究(という名目のもと、ただ遊んでいただけ)に励んでいた。
そのころの外部顧問(という名目のお目付け役)が楾アリスさんだったのだ。
アリスさんには今でも色々とお世話になっていて、魔女としての仕事の際にも都度連絡して、たくさんのアドバイスをもらっている。
高校の頃から無鉄砲で自由人だった真帆先輩とは対照的で、とても頼れる人物だ。
そんなアリスさんからの頼みを断れるはずもなかったし、なにより真帆先輩の娘さんが行方不明になったとあっては居ても立ってもいられなかった。
私にも、ふたりの可愛い子供たちがいる。
真帆先輩の気持ちを思えばこそ、心配で心配でたまらなかった。
しかも、その真帆先輩は現在、魔法協会からの依頼で遠方に出張に行っているらしく、すぐには戻ってこられないというではないか。
なるべくなら、真帆先輩が戻ってくる前に真奈ちゃんをどうにか見つけてあげたい。
そう、私は思っていた。
しばらく町の上空を飛び続けて、かつて住んでいた家があった場所、通っていた小学校、中学校、そして高校の校舎を望みながら、やがて私はアリスさんが現在住んでいる住宅地の片隅――ひときわ目立つレンガ造りの洋館の前に降り立った。
いかにもアリスさん好みのデザインで、おとぎの世界に足を踏み入れたような気分になる。
私は装飾の施された鉄の門の前に立ち、傍らに取り付けられたインターホンのボタンを押した。
ジリリリリッ、と機械的な音がしてしばらく待っていると、
「――はい」
聞き慣れた声で、けれどとても落ち込んでいるような声がスピーカーから聞こえてくる。
私は小さなカメラを覗き込むようにして、
「お久しぶりです、アリスさん。鐘撞葵です」
すると、スピーカーの向こうから少し安堵するような吐息が聞こえて、
「葵ちゃん、すぐ開けるわね」
ぷつん、とスピーカーからの音が途切れる。
私が鉄の門を開けて玄関前に向かうのとほぼ同時に、玄関扉がガチャリと開いて、
「――来てくれてありがとう、葵ちゃん」
泣き腫らしたような目元の、アリスさんはそう言った。
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