45 / 58
ごにんめ
第5回
しおりを挟む
ジャバウォックだ、と思った時にはその鋭利な鉤爪が私たちに襲い掛かってきた。
寸でのところで私はその攻撃を避け、榎先輩に叫んだ。
「しっかり捕まっていてください!」
返事のないまま、夏希先輩は私の腰にがっしりとしがみついてくる。
二撃目、三撃目、ジャバウォックはその長い首を大きく伸ばして、更に私の乗るホウキに噛みつこうと牙を剥き出し、カチカチと空を噛んだ。
「葵ちゃん! 夏希ちゃん!」
先を飛んでいたアリスさんがこちらを振り向き、手を伸ばした。その手から無数の白い羽が宙に浮かび、それぞれが鳥の姿に変化すると、一斉にジャバウォックに向かって襲い掛かかる。
ジャバウォックは奇声を発しながら、まとわりついてくるその鳥の群れを払い除けようと鉤爪を振り回し、首をしならせ、鋭利な牙で噛みつく。
私はその隙に、大きく曲線を描くようにしてジャバウォックから距離を広げた。
アリスさんは私たちに並走するように近づいてきて、
「大丈夫っ?」
「な、なんとか」
片手で胸を押さえながら、私は答えた。
夏希先輩も、私の腰に強く両腕を回したまま、
「ヤバかったね。さすがにいきなり出てくるとは思わなかった……」
とはいえ、アリスさんが魔法で出してくれたあの鳥たちも、いつまでジャバウォックを引き留めていてくれるかわからない。
私は改めて夏希先輩に顔を向けて、
「真奈ちゃんの位置、どうなってますか?」
夏希先輩が魔力磁石を取り出し、
「――たぶん、そろそろだと思うけど」
と眉根を寄せた時だった。
「あ、あれを見て!」
アリスさんが、前方を指さした。
見れば、森の中でひと際目立つ巨木がそこにはあって、その根元の方に、淡く輝く白い光が見える。
「行ってみましょう!」
アリスさんは言うが早いか、私たちより先に飛んでいく。
「あ、待ってください!」
そんなアリスさんの後ろを、私たちも慌てて追いかけた。
その巨木までの距離は思っていたよりも遠く、見えていた部分よりもより巨大だった。
まるで街中に建つ大きなビルのような幹からは、沢山の太い枝が四方に延び、見たこともない形の色とりどりの葉っぱに覆われている。
ごつごつした幹の下には、地を這うように太い根が張り巡らされており、
「――真奈ちゃん!」
その光り輝く場所に、私たちは真奈ちゃんの姿を見つけ出した。
地面に降り立ち、私たちは真奈ちゃんに駆け寄る。
光の正体は恐らく獣避けか何かの魔法だったのだろう、真奈ちゃんの身体を取り巻くように、小さな光が無数に漂い、ふわりふわりと浮いていた。
「真奈ちゃん? 真奈ちゃん!」
真奈ちゃんは、けれどアリスさんの呼びかけに答える様子はまるでなかった。
ただそこにぼんやりと立ち尽くし、虚ろな瞳で地面をじっと見つめている。
その姿に、私も夏希先輩も息を飲んだ。
これは、もしかしたら――
「真奈ちゃん! 真奈ちゃん! お返事して!」
アリスさんは真奈ちゃんの両肩を掴み、必死に彼女の名前を呼び続けた。
けれど、やはり返事はない。
アリスさんに身体を揺すられても、まるで動じる様子もなかった。
「葵、これって」
夏希先輩が口にして、私も、
「……たぶん」
真奈ちゃんは、すでに多くの記憶を失っている。
いや、記憶どころか、その意識さえも手放そうとしているのではないだろうか。
ぼんやりとした視線、小さく開かれたままの口、呼びかけられているにもかかわらず聞こえている様子もなく、全く反応がない。
これは――マズい。
私はアリスさんに歩み寄り、必死に真奈ちゃんに呼び掛けているその背中に、
「アリスさん、とにかく、ここから離れましょう。早く帰らないと、私たちまで危ないです」
「え、あ……うん、そ、そうね、わかったわ……」
それからアリスさんは、真奈ちゃんの身体を優しく抱くように、もう一度ホウキに乗って、
「行きましょう、ふたりとも」
私たちは、再び黒い空に浮かび上がった。
神経を研ぎ澄ませて、あちら側から流れてくる仲間たちの魔力に意識を集中させる。
魔力の流れを捉え、私たちは一路、その魔力の流れに沿って、もと来た道を引き返した。
ぎゃーぎゃーとどこからか鳥たちの鳴く不気味な叫び声が聞こえてくる。
ざわざわと森の木々が大きくざわめき、唸るような声と、地を走る足音に私は森の中を見下ろした。
そこには、無数の黒い獣の姿があった。
伸び縮みする長い首、カチカチとならされる大きな牙と、強大な顎。
「バンダースナッチが、あんなにたくさん……」
夏希先輩が、不安そうな声を漏らした。
バンダースナッチたちは、明らかに私たちのあとを追うように走り続けていた。
私たち――というより、彼らの視線は何故か、アリスさんの抱く真奈ちゃんの方にばかり向けられている。
いったい、どうして……?
いや、今はそんなこと、考える必要なんてない。
一刻も早く、私たちの世界に戻らないと……!
けれど。
「――やっぱりきたよ!」
夏希先輩の言葉に、私は眉間に皺を寄せた。
「ジャバウォック」
寸でのところで私はその攻撃を避け、榎先輩に叫んだ。
「しっかり捕まっていてください!」
返事のないまま、夏希先輩は私の腰にがっしりとしがみついてくる。
二撃目、三撃目、ジャバウォックはその長い首を大きく伸ばして、更に私の乗るホウキに噛みつこうと牙を剥き出し、カチカチと空を噛んだ。
「葵ちゃん! 夏希ちゃん!」
先を飛んでいたアリスさんがこちらを振り向き、手を伸ばした。その手から無数の白い羽が宙に浮かび、それぞれが鳥の姿に変化すると、一斉にジャバウォックに向かって襲い掛かかる。
ジャバウォックは奇声を発しながら、まとわりついてくるその鳥の群れを払い除けようと鉤爪を振り回し、首をしならせ、鋭利な牙で噛みつく。
私はその隙に、大きく曲線を描くようにしてジャバウォックから距離を広げた。
アリスさんは私たちに並走するように近づいてきて、
「大丈夫っ?」
「な、なんとか」
片手で胸を押さえながら、私は答えた。
夏希先輩も、私の腰に強く両腕を回したまま、
「ヤバかったね。さすがにいきなり出てくるとは思わなかった……」
とはいえ、アリスさんが魔法で出してくれたあの鳥たちも、いつまでジャバウォックを引き留めていてくれるかわからない。
私は改めて夏希先輩に顔を向けて、
「真奈ちゃんの位置、どうなってますか?」
夏希先輩が魔力磁石を取り出し、
「――たぶん、そろそろだと思うけど」
と眉根を寄せた時だった。
「あ、あれを見て!」
アリスさんが、前方を指さした。
見れば、森の中でひと際目立つ巨木がそこにはあって、その根元の方に、淡く輝く白い光が見える。
「行ってみましょう!」
アリスさんは言うが早いか、私たちより先に飛んでいく。
「あ、待ってください!」
そんなアリスさんの後ろを、私たちも慌てて追いかけた。
その巨木までの距離は思っていたよりも遠く、見えていた部分よりもより巨大だった。
まるで街中に建つ大きなビルのような幹からは、沢山の太い枝が四方に延び、見たこともない形の色とりどりの葉っぱに覆われている。
ごつごつした幹の下には、地を這うように太い根が張り巡らされており、
「――真奈ちゃん!」
その光り輝く場所に、私たちは真奈ちゃんの姿を見つけ出した。
地面に降り立ち、私たちは真奈ちゃんに駆け寄る。
光の正体は恐らく獣避けか何かの魔法だったのだろう、真奈ちゃんの身体を取り巻くように、小さな光が無数に漂い、ふわりふわりと浮いていた。
「真奈ちゃん? 真奈ちゃん!」
真奈ちゃんは、けれどアリスさんの呼びかけに答える様子はまるでなかった。
ただそこにぼんやりと立ち尽くし、虚ろな瞳で地面をじっと見つめている。
その姿に、私も夏希先輩も息を飲んだ。
これは、もしかしたら――
「真奈ちゃん! 真奈ちゃん! お返事して!」
アリスさんは真奈ちゃんの両肩を掴み、必死に彼女の名前を呼び続けた。
けれど、やはり返事はない。
アリスさんに身体を揺すられても、まるで動じる様子もなかった。
「葵、これって」
夏希先輩が口にして、私も、
「……たぶん」
真奈ちゃんは、すでに多くの記憶を失っている。
いや、記憶どころか、その意識さえも手放そうとしているのではないだろうか。
ぼんやりとした視線、小さく開かれたままの口、呼びかけられているにもかかわらず聞こえている様子もなく、全く反応がない。
これは――マズい。
私はアリスさんに歩み寄り、必死に真奈ちゃんに呼び掛けているその背中に、
「アリスさん、とにかく、ここから離れましょう。早く帰らないと、私たちまで危ないです」
「え、あ……うん、そ、そうね、わかったわ……」
それからアリスさんは、真奈ちゃんの身体を優しく抱くように、もう一度ホウキに乗って、
「行きましょう、ふたりとも」
私たちは、再び黒い空に浮かび上がった。
神経を研ぎ澄ませて、あちら側から流れてくる仲間たちの魔力に意識を集中させる。
魔力の流れを捉え、私たちは一路、その魔力の流れに沿って、もと来た道を引き返した。
ぎゃーぎゃーとどこからか鳥たちの鳴く不気味な叫び声が聞こえてくる。
ざわざわと森の木々が大きくざわめき、唸るような声と、地を走る足音に私は森の中を見下ろした。
そこには、無数の黒い獣の姿があった。
伸び縮みする長い首、カチカチとならされる大きな牙と、強大な顎。
「バンダースナッチが、あんなにたくさん……」
夏希先輩が、不安そうな声を漏らした。
バンダースナッチたちは、明らかに私たちのあとを追うように走り続けていた。
私たち――というより、彼らの視線は何故か、アリスさんの抱く真奈ちゃんの方にばかり向けられている。
いったい、どうして……?
いや、今はそんなこと、考える必要なんてない。
一刻も早く、私たちの世界に戻らないと……!
けれど。
「――やっぱりきたよ!」
夏希先輩の言葉に、私は眉間に皺を寄せた。
「ジャバウォック」
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界宇宙SFの建艦記 ――最強の宇宙戦艦を建造せよ――
黒鯛の刺身♪
SF
主人公の飯富晴信(16)はしがない高校生。
ある朝目覚めると、そこは見たことのない工場の中だった。
この工場は宇宙船を作るための設備であり、材料さえあれば巨大な宇宙船を造ることもできた。
未知の世界を開拓しながら、主人公は現地の生物達とも交流。
そして時には、戦乱にも巻き込まれ……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる