白い魔女と小さな魔女

ノムラユーリ

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ごにんめ

第5回

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 ジャバウォックだ、と思った時にはその鋭利な鉤爪が私たちに襲い掛かってきた。

 寸でのところで私はその攻撃を避け、榎先輩に叫んだ。

「しっかり捕まっていてください!」

 返事のないまま、夏希先輩は私の腰にがっしりとしがみついてくる。

 二撃目、三撃目、ジャバウォックはその長い首を大きく伸ばして、更に私の乗るホウキに噛みつこうと牙を剥き出し、カチカチと空を噛んだ。

「葵ちゃん! 夏希ちゃん!」

 先を飛んでいたアリスさんがこちらを振り向き、手を伸ばした。その手から無数の白い羽が宙に浮かび、それぞれが鳥の姿に変化すると、一斉にジャバウォックに向かって襲い掛かかる。

 ジャバウォックは奇声を発しながら、まとわりついてくるその鳥の群れを払い除けようと鉤爪を振り回し、首をしならせ、鋭利な牙で噛みつく。

 私はその隙に、大きく曲線を描くようにしてジャバウォックから距離を広げた。

 アリスさんは私たちに並走するように近づいてきて、
「大丈夫っ?」

「な、なんとか」
 片手で胸を押さえながら、私は答えた。

 夏希先輩も、私の腰に強く両腕を回したまま、
「ヤバかったね。さすがにいきなり出てくるとは思わなかった……」

 とはいえ、アリスさんが魔法で出してくれたあの鳥たちも、いつまでジャバウォックを引き留めていてくれるかわからない。

 私は改めて夏希先輩に顔を向けて、
「真奈ちゃんの位置、どうなってますか?」

 夏希先輩が魔力磁石を取り出し、
「――たぶん、そろそろだと思うけど」
 と眉根を寄せた時だった。

「あ、あれを見て!」
 アリスさんが、前方を指さした。

 見れば、森の中でひと際目立つ巨木がそこにはあって、その根元の方に、淡く輝く白い光が見える。

「行ってみましょう!」

 アリスさんは言うが早いか、私たちより先に飛んでいく。

「あ、待ってください!」

 そんなアリスさんの後ろを、私たちも慌てて追いかけた。

 その巨木までの距離は思っていたよりも遠く、見えていた部分よりもより巨大だった。

 まるで街中に建つ大きなビルのような幹からは、沢山の太い枝が四方に延び、見たこともない形の色とりどりの葉っぱに覆われている。

 ごつごつした幹の下には、地を這うように太い根が張り巡らされており、

「――真奈ちゃん!」

 その光り輝く場所に、私たちは真奈ちゃんの姿を見つけ出した。

 地面に降り立ち、私たちは真奈ちゃんに駆け寄る。

 光の正体は恐らく獣避けか何かの魔法だったのだろう、真奈ちゃんの身体を取り巻くように、小さな光が無数に漂い、ふわりふわりと浮いていた。

「真奈ちゃん? 真奈ちゃん!」

 真奈ちゃんは、けれどアリスさんの呼びかけに答える様子はまるでなかった。

 ただそこにぼんやりと立ち尽くし、虚ろな瞳で地面をじっと見つめている。

 その姿に、私も夏希先輩も息を飲んだ。

 これは、もしかしたら――

「真奈ちゃん! 真奈ちゃん! お返事して!」

 アリスさんは真奈ちゃんの両肩を掴み、必死に彼女の名前を呼び続けた。

 けれど、やはり返事はない。

 アリスさんに身体を揺すられても、まるで動じる様子もなかった。

「葵、これって」
 夏希先輩が口にして、私も、
「……たぶん」

 真奈ちゃんは、すでに多くの記憶を失っている。

 いや、記憶どころか、その意識さえも手放そうとしているのではないだろうか。

 ぼんやりとした視線、小さく開かれたままの口、呼びかけられているにもかかわらず聞こえている様子もなく、全く反応がない。

 これは――マズい。

 私はアリスさんに歩み寄り、必死に真奈ちゃんに呼び掛けているその背中に、

「アリスさん、とにかく、ここから離れましょう。早く帰らないと、私たちまで危ないです」

「え、あ……うん、そ、そうね、わかったわ……」

 それからアリスさんは、真奈ちゃんの身体を優しく抱くように、もう一度ホウキに乗って、

「行きましょう、ふたりとも」

 私たちは、再び黒い空に浮かび上がった。

 神経を研ぎ澄ませて、あちら側から流れてくる仲間たちの魔力に意識を集中させる。

 魔力の流れを捉え、私たちは一路、その魔力の流れに沿って、もと来た道を引き返した。

 ぎゃーぎゃーとどこからか鳥たちの鳴く不気味な叫び声が聞こえてくる。

 ざわざわと森の木々が大きくざわめき、唸るような声と、地を走る足音に私は森の中を見下ろした。

 そこには、無数の黒い獣の姿があった。

 伸び縮みする長い首、カチカチとならされる大きな牙と、強大な顎。

「バンダースナッチが、あんなにたくさん……」

 夏希先輩が、不安そうな声を漏らした。

 バンダースナッチたちは、明らかに私たちのあとを追うように走り続けていた。

 私たち――というより、彼らの視線は何故か、アリスさんの抱く真奈ちゃんの方にばかり向けられている。

 いったい、どうして……?

 いや、今はそんなこと、考える必要なんてない。

 一刻も早く、私たちの世界に戻らないと……!

 けれど。

「――やっぱりきたよ!」

 夏希先輩の言葉に、私は眉間に皺を寄せた。

「ジャバウォック」
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