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ごにんめ
第6回
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現実世界に於いて、こんな漫画みたいな戦闘を繰り広げる、なんてことは当然なかった。
ゲームのように攻撃魔法なんてものがあるわけでもなし、シールドを張る防御魔法なんてものも知らなかった。
大昔、それこそ日常的に戦争が行われていた時代ならいざ知らず、現代魔法使いは比較的安穏な日常を送っているので、そんなものを身につける必要なんて全くないのだ。
なにより、私は全国魔法遣い協会――全魔協にすら所属しておらず、一般人としてこれまで生活してきた。そこまでたくさんの魔法が使えるわけでもない。
だから、こんな命を懸けたような争い、そもそもできるはずがないのである。
「目が回る目が回る目が回る!」
私が慣れないアクロバティック飛行でジャバウォックからの攻撃を回避するたびに、夏希先輩はすぐ後ろでそんな悲鳴を上げた。
「先輩! 喋らないでください! 舌噛みますよ!」
「ひぃ~~~っ!」
ぶんっ、とジャバウォックがその鉤爪を大きく振るう。
私は一気に下降して攻撃を避け、蛇行しながらジャバウォックの進行を翻弄した。
その間、アリスさんは真奈ちゃんの身体を守るようにして抱きかかえ、必死に帰路を急いだ。
私たちはなんとかアリスさんたちからジャバウォックの気を逸らすべく、付かず離れず飛び続ける。
ジャバウォックの視線がアリスさんたちに向けられるたび、その視界に入り知っている限りの魔法を使う。
と言っても、私や夏希先輩にできることなんて高が知れている。
風を巻き起こすか、光を出して眼をくらませるか、その程度だ。
けれど、次第にジャバウォックも苛立ちを募らせてきたのだろう。
その攻撃が乱雑になるのと同時に、より強力な一撃を喰らわせようと、大きな鉤爪を強く振り回し、カチカチと牙を打ち鳴らしながら長い首を伸ばしてきた。
――バリリッ!
「当たってる! 当たってるよ、アオイ!」
ホウキの毛先に牙を引っかけられて、大きくバランスを崩してしまう。
何とか引き離して態勢を立て直したところで、けれど次の攻撃が飛んできた。
ガリリッと背後の柄がその鉤爪によって軽く抉られたが、寸でのところで夏希先輩の身体には当たらず冷や汗を掻く。
「ヤバいっ! ヤバいって!」
焦りまくる夏希先輩が、より強く私のお腹にしがみついてくる。
「どうすんのさ! これじゃ逃げらんないよ!」
「と、とにかく早くあっちに戻らないと――きゃあぁっ!」
ガチンッ! 私のすぐ耳元でジャバウォックの牙が打ち鳴らされて、思わず悲鳴をあげてしまった。
それを避けるように大きく旋回するけれど、ジャバウォックは私たちの後ろをぴったりくっついてきて、思った以上に距離を離せなかった。
「葵ちゃん! 夏希ちゃん!」
遙か前方から、アリスさんの声が飛んできた。
アリスさんはこちらを振り向き、泣きそうな表情を浮かべている。
私たちを助けようと腕を伸ばそうと試みるも、アリスさんの左手はホウキの柄を掴んでいるし、右手は真奈ちゃんを抱えている。
「いいから、アリスさんは早く行って!」
「――アオイ!」
夏希先輩の叫びに、私はハッと我に返った。
すぐ脇にジャバウォックの鍵爪があって、私は慌ててそれを避けるべく左に身体を捻って、
「……あっ」
冷や汗に濡れた両手が、掴んでいた柄からスルリと抜けた。
その途端、ホウキにかかっていた魔法がパッと消える。
「――っ!」
「あおっ――」
叫ぶよりも早く、私と夏希先輩の身体は、大きく宙へと投げ出された。
重力に逆らえず、そのまま地面に向かって落下を始める。
お腹の奥がひゅんっとなって、私は死を覚悟した。
すぐ横には、両目を固く瞑り、身体を縮こまらせている夏希先輩の姿が見える。
脳裏をよぎったのは、両親に預けた我が子たちの笑顔だった。
――あぁ、私はこんなところで死んじゃうのか。
それはとても非現実的な感覚だった。
実際の私はまだベッドの中にいて、ここに居るのはただの意識だけ。
初めてこちらの世界を訪れた時のような、そんな夢を見ているような不思議な感覚。
けれど、私たちの身体は現実にこちら側にあって、このまま地面に強く叩きつけられて――
「葵ちゃん! 夏希ちゃん!」
再び、アリスさんの叫ぶ声が聞こえてきた。
その途端、私たちの周囲を強い風が包み込んだ。
それまで感じていた重力から切り離され、ふわりふわりと地面に降り立つ。
改めて周囲を見回せば、夏希先輩も眼を瞬かせながら突っ立っている。
「大丈夫っ? ふたりとも!」
アリスさんが、私たちのすぐ目の前に降り立ち、叫んだ。
相変わらずその腕には真奈ちゃんの身体が抱かれており、真奈ちゃんは虚ろな瞳で地面を見ている。
「あ、アリスさん、すみません……」
「良かった、間に合って」
ほっと胸を撫でおろすアリスさんに、私は本当に申し訳なく思う。
それと同時に、あまり悠長にしていられない現実もそこにはあった。
「また来た!」
夏希先輩が指さした上空に顔を向ければ、ジャバウォックが今まさに私たちに襲い掛かろうと、大きく口を開きながら急降下してくるところだった。
何とかしなくちゃ!
私はジャバウォックに向かって手をかざして、呪文を唱えて、けれど、あの速さじゃ到底間に合いそうにない。
ダメか、とあきらめかけた、その時だった。
「――う、あぁっ」
呻くように口にした真奈ちゃんの眼が、ジャバウォックに向けられて。
――バクンッ
突如現れた大きな黒い影が、ジャバウォックをひと口で飲み込んだのだ。
私も夏希先輩も、真奈ちゃんを抱えていたアリスさんも驚愕した。
その黒い影はごくんっとジャバウォックを飲み下すと、するすると真奈ちゃんの小さな影となって、何事もなかったかのように、そこにあった。
「……えっ、なに、今の」
夏希先輩が、一歩後ずさりながら、眼を大きく見開いた。
私も、あまりのことに、言葉を失う。
アリスさんは眉間に皺を寄せて、「そんな……」と呟く。
「今のは――夢魔」
現実世界に於いて、こんな漫画みたいな戦闘を繰り広げる、なんてことは当然なかった。
ゲームのように攻撃魔法なんてものがあるわけでもなし、シールドを張る防御魔法なんてものも知らなかった。
大昔、それこそ日常的に戦争が行われていた時代ならいざ知らず、現代魔法使いは比較的安穏な日常を送っているので、そんなものを身につける必要なんて全くないのだ。
なにより、私は全国魔法遣い協会――全魔協にすら所属しておらず、一般人としてこれまで生活してきた。そこまでたくさんの魔法が使えるわけでもない。
だから、こんな命を懸けたような争い、そもそもできるはずがないのである。
「目が回る目が回る目が回る!」
私が慣れないアクロバティック飛行でジャバウォックからの攻撃を回避するたびに、夏希先輩はすぐ後ろでそんな悲鳴を上げた。
「先輩! 喋らないでください! 舌噛みますよ!」
「ひぃ~~~っ!」
ぶんっ、とジャバウォックがその鉤爪を大きく振るう。
私は一気に下降して攻撃を避け、蛇行しながらジャバウォックの進行を翻弄した。
その間、アリスさんは真奈ちゃんの身体を守るようにして抱きかかえ、必死に帰路を急いだ。
私たちはなんとかアリスさんたちからジャバウォックの気を逸らすべく、付かず離れず飛び続ける。
ジャバウォックの視線がアリスさんたちに向けられるたび、その視界に入り知っている限りの魔法を使う。
と言っても、私や夏希先輩にできることなんて高が知れている。
風を巻き起こすか、光を出して眼をくらませるか、その程度だ。
けれど、次第にジャバウォックも苛立ちを募らせてきたのだろう。
その攻撃が乱雑になるのと同時に、より強力な一撃を喰らわせようと、大きな鉤爪を強く振り回し、カチカチと牙を打ち鳴らしながら長い首を伸ばしてきた。
――バリリッ!
「当たってる! 当たってるよ、アオイ!」
ホウキの毛先に牙を引っかけられて、大きくバランスを崩してしまう。
何とか引き離して態勢を立て直したところで、けれど次の攻撃が飛んできた。
ガリリッと背後の柄がその鉤爪によって軽く抉られたが、寸でのところで夏希先輩の身体には当たらず冷や汗を掻く。
「ヤバいっ! ヤバいって!」
焦りまくる夏希先輩が、より強く私のお腹にしがみついてくる。
「どうすんのさ! これじゃ逃げらんないよ!」
「と、とにかく早くあっちに戻らないと――きゃあぁっ!」
ガチンッ! 私のすぐ耳元でジャバウォックの牙が打ち鳴らされて、思わず悲鳴をあげてしまった。
それを避けるように大きく旋回するけれど、ジャバウォックは私たちの後ろをぴったりくっついてきて、思った以上に距離を離せなかった。
「葵ちゃん! 夏希ちゃん!」
遙か前方から、アリスさんの声が飛んできた。
アリスさんはこちらを振り向き、泣きそうな表情を浮かべている。
私たちを助けようと腕を伸ばそうと試みるも、アリスさんの左手はホウキの柄を掴んでいるし、右手は真奈ちゃんを抱えている。
「いいから、アリスさんは早く行って!」
「――アオイ!」
夏希先輩の叫びに、私はハッと我に返った。
すぐ脇にジャバウォックの鍵爪があって、私は慌ててそれを避けるべく左に身体を捻って、
「……あっ」
冷や汗に濡れた両手が、掴んでいた柄からスルリと抜けた。
その途端、ホウキにかかっていた魔法がパッと消える。
「――っ!」
「あおっ――」
叫ぶよりも早く、私と夏希先輩の身体は、大きく宙へと投げ出された。
重力に逆らえず、そのまま地面に向かって落下を始める。
お腹の奥がひゅんっとなって、私は死を覚悟した。
すぐ横には、両目を固く瞑り、身体を縮こまらせている夏希先輩の姿が見える。
脳裏をよぎったのは、両親に預けた我が子たちの笑顔だった。
――あぁ、私はこんなところで死んじゃうのか。
それはとても非現実的な感覚だった。
実際の私はまだベッドの中にいて、ここに居るのはただの意識だけ。
初めてこちらの世界を訪れた時のような、そんな夢を見ているような不思議な感覚。
けれど、私たちの身体は現実にこちら側にあって、このまま地面に強く叩きつけられて――
「葵ちゃん! 夏希ちゃん!」
再び、アリスさんの叫ぶ声が聞こえてきた。
その途端、私たちの周囲を強い風が包み込んだ。
それまで感じていた重力から切り離され、ふわりふわりと地面に降り立つ。
改めて周囲を見回せば、夏希先輩も眼を瞬かせながら突っ立っている。
「大丈夫っ? ふたりとも!」
アリスさんが、私たちのすぐ目の前に降り立ち、叫んだ。
相変わらずその腕には真奈ちゃんの身体が抱かれており、真奈ちゃんは虚ろな瞳で地面を見ている。
「あ、アリスさん、すみません……」
「良かった、間に合って」
ほっと胸を撫でおろすアリスさんに、私は本当に申し訳なく思う。
それと同時に、あまり悠長にしていられない現実もそこにはあった。
「また来た!」
夏希先輩が指さした上空に顔を向ければ、ジャバウォックが今まさに私たちに襲い掛かろうと、大きく口を開きながら急降下してくるところだった。
何とかしなくちゃ!
私はジャバウォックに向かって手をかざして、呪文を唱えて、けれど、あの速さじゃ到底間に合いそうにない。
ダメか、とあきらめかけた、その時だった。
「――う、あぁっ」
呻くように口にした真奈ちゃんの眼が、ジャバウォックに向けられて。
――バクンッ
突如現れた大きな黒い影が、ジャバウォックをひと口で飲み込んだのだ。
私も夏希先輩も、真奈ちゃんを抱えていたアリスさんも驚愕した。
その黒い影はごくんっとジャバウォックを飲み下すと、するすると真奈ちゃんの小さな影となって、何事もなかったかのように、そこにあった。
「……えっ、なに、今の」
夏希先輩が、一歩後ずさりながら、眼を大きく見開いた。
私も、あまりのことに、言葉を失う。
アリスさんは眉間に皺を寄せて、「そんな……」と呟く。
「今のは――夢魔」
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