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ごにんめ
第8回
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6
私たちはその後、みんなの魔力線を辿り、何とか無事にこちらの世界に帰還することができた。
無事に、と言っても、本当になに一つ忘れずにこちら側に戻ってこられたのかは、全く判らないのだけれど。
今のところ、自分の名前も判るし、家族構成も覚えているし、目立って忘れ去ってしまったことはないだろうことを、私たちはお互いに確認しあった。
一同は真奈ちゃんを助け出せたことを喜んだけれど、それと同時に、真奈ちゃんの記憶が失われてしまっているかもしれないこと、そして彼女の中に、夢魔が存在していることに言葉を失ったのだった。
私たちは一度場所をアリスさんの家に移し、真奈ちゃんを寝室のベッドに寝かせた。
真奈ちゃんの眼は相変わらず虚ろで、私たちの姿などまるで映し出してはいないようだった。
救いだったのは、真奈ちゃんの身体には傷ひとつなく、健康体そのものだったことだろうか。
問題は、彼女の意識を如何にして取り戻すか。果たして取り戻すことができるのか、ということだった。
「――真帆ちゃんは?」
アリスさんが井口先生や優先輩に訊ねると、井口先生は「まだです」と首を横に振った。
優先輩は小さくため息を漏らしてから、
「急いではいるみたいなんですけど、もう少し時間がかかりそうです」
それから真奈ちゃんの傍らに腰を屈めて、その手を握りながら、
「……真奈」
と目に涙を浮かべる。
翔君も優先輩の隣に腰を下ろすと、眉間に皺を寄せながら、悲しそうに、真奈ちゃんの顔をじっと見つめた。それから彼女のおでこに、そっと右手をのせて、
「――あれだけ、ひとりでは行かないように言っておいたのに」
「……真奈ちゃん、大丈夫なんですよね?」
不安そうにそう口にしたのは、茜ちゃんだった。
「まさか、このまま、なんてこと……」
「それは――」
「――大丈夫ですよ」
アリスさんが言いかけたところを、翔君が確信したように、代わりに答えた。
「真奈は、大丈夫です」
先ほどまであれだけ悲しそうな表情をしていたのに、翔君の言葉は、とても力強かった。
それに賛同するように、アリスさんも改めて大きく頷く。
「……えぇ、そうね。真奈ちゃんは、きっと大丈夫」
茜さんはそんなアリスさんや翔君に、こくりと大きく頷いた。
「そう、ですよね」
それから私たちは、アリスさんと真奈ちゃんを寝室に残し、再び応接室に移動した。
真奈ちゃんのことは、魔法協会に申請した魔法医の到着を待つとして、とにかく今私たちが話し合わなければならないのは、夢魔のことだった。
夢を介して、魔法使いたちの魔力を死ぬまで貪る未知の存在、化け物。
かつて真帆先輩の中に封じたというのに、その娘である真奈ちゃんの中に受け継がれてしまったことに、私たちはどう対処すべきか、それが問題だった。
「協会には、報告しない方が良い……ですよね?」
つむぎが恐る恐る、みんなに訊ねた。
その言葉に、私たちは思わず全員が顔を見合わせる。
報告すべきかどうか、と問われれば、当然報告すべきことだろう。
夢魔は、言ってしまえば魔法使い全体の敵ともいえる存在である。
その正体は全くの不明。魔力そのものから生まれたと言われているが、実際のところはなにひとつわかってはいない。
真帆先輩の中に夢魔が存在すると判明した当時、魔法協会の中には、真帆先輩を“処分”すべきだと考えた人たちもいたという。真帆先輩の中で夢魔が眠っているうちに、その存在ごと“抹消してしまえ”と過激なことを発言した年寄りがいたのだそうだ。
結局真帆先輩は、彼女のおばあさんの監視のもと、様子を見ることになった。
けれど、その夢魔が高校生の頃に目覚め、暴れ出し、私たちはなんとか、その夢魔を真帆先輩の中に封じることに成功したのだったが――まさか、ここでまた夢魔と対峙することになるだなんて、思ってもいなかった。
一度は封じることに成功している、ということは今回も対処することは可能ということだし、当時過激なことを言っていた年寄りも、今は引退していて協会には在籍していない。だから、そこまで問題にはならないのではないかと思えるのだけれど、だからと言って、夢魔が危険な存在であることに変わりはない。
どうするべきか、というのは非常に難しい問題だった。
優先輩はソファに腰かけ、祈るように両手を組んで額に強く押し当て、黙りこくっている。
その傍らには、まるで何かを達観したように、翔君が同じく腰を下ろしていた。
茜ちゃんは相変わらず不安そうに表情を歪めているし、夏希先輩も口元に手をやり考え込んでいる様子だった。
真帆先輩のお姉さんである加奈さんは、そんな私たちにコーヒーや紅茶を運んできてくれた。
「ごめんなさい、真奈の為に。真帆の時も散々大変だったでしょう。それなのに、妹だけでなく、姪っ子の為にまで尽力して下さって、本当に申し訳ないです」
頭を下げる加奈さんに、私は首を横に振って、
「そんな、気にしないでください……!」
「そうですよ」と井口先生もなるべく笑みを浮かべながら、「どれだけ長い付き合いだと思っているんですか。今さら、慣れっこですよ」
なぁ? と皆の顔を見渡す井口先生に、私たちは皆、一様に頷いた。
加奈さんもそれに微笑み、「ありがとう」と改めて軽く頭を下げた。
それから、私たちはそれぞれコーヒーや紅茶を飲んでひと息つく。
そのあと私たちは、これからどうしたものか、どうするべきか。協会には報告せず、改めて自分たちで夢魔を封じることはできないのか。真奈ちゃんの記憶や意識を、何とかして取り戻す方法はないのか――色々なことを話し合った。
いったいどれくらい、私たちは話し合っていただろうか。
そろそろ魔法医や真帆先輩が到着しても良い頃合いなんじゃないだろうかと思った時、私はふと真奈ちゃんやアリスさんのことが気になって、席を立った。
皆にひとこと告げて再び寝室に向かい、軽く扉をノックする。
けれど、返事がない。
「……アリスさん?」
声を掛けてみたけれど、やっぱり返答はなかった。
どうしたんだろう。何かあったんだろうか。
不安になって、私はゆっくりと、扉を開いた。
アリスさんは真奈ちゃんの眠るベッドに、上半身を伏せるように倒れていた。
それだけなら、疲れて眠ってしまったかな、くらいにしか思わなかっただろう。
けれど、そのベッドの傍らに立つ、人型の大きな黒い影を目にして、私は思わず息を飲んだ。
「――っ!」
夢魔、だった。
私たちはその後、みんなの魔力線を辿り、何とか無事にこちらの世界に帰還することができた。
無事に、と言っても、本当になに一つ忘れずにこちら側に戻ってこられたのかは、全く判らないのだけれど。
今のところ、自分の名前も判るし、家族構成も覚えているし、目立って忘れ去ってしまったことはないだろうことを、私たちはお互いに確認しあった。
一同は真奈ちゃんを助け出せたことを喜んだけれど、それと同時に、真奈ちゃんの記憶が失われてしまっているかもしれないこと、そして彼女の中に、夢魔が存在していることに言葉を失ったのだった。
私たちは一度場所をアリスさんの家に移し、真奈ちゃんを寝室のベッドに寝かせた。
真奈ちゃんの眼は相変わらず虚ろで、私たちの姿などまるで映し出してはいないようだった。
救いだったのは、真奈ちゃんの身体には傷ひとつなく、健康体そのものだったことだろうか。
問題は、彼女の意識を如何にして取り戻すか。果たして取り戻すことができるのか、ということだった。
「――真帆ちゃんは?」
アリスさんが井口先生や優先輩に訊ねると、井口先生は「まだです」と首を横に振った。
優先輩は小さくため息を漏らしてから、
「急いではいるみたいなんですけど、もう少し時間がかかりそうです」
それから真奈ちゃんの傍らに腰を屈めて、その手を握りながら、
「……真奈」
と目に涙を浮かべる。
翔君も優先輩の隣に腰を下ろすと、眉間に皺を寄せながら、悲しそうに、真奈ちゃんの顔をじっと見つめた。それから彼女のおでこに、そっと右手をのせて、
「――あれだけ、ひとりでは行かないように言っておいたのに」
「……真奈ちゃん、大丈夫なんですよね?」
不安そうにそう口にしたのは、茜ちゃんだった。
「まさか、このまま、なんてこと……」
「それは――」
「――大丈夫ですよ」
アリスさんが言いかけたところを、翔君が確信したように、代わりに答えた。
「真奈は、大丈夫です」
先ほどまであれだけ悲しそうな表情をしていたのに、翔君の言葉は、とても力強かった。
それに賛同するように、アリスさんも改めて大きく頷く。
「……えぇ、そうね。真奈ちゃんは、きっと大丈夫」
茜さんはそんなアリスさんや翔君に、こくりと大きく頷いた。
「そう、ですよね」
それから私たちは、アリスさんと真奈ちゃんを寝室に残し、再び応接室に移動した。
真奈ちゃんのことは、魔法協会に申請した魔法医の到着を待つとして、とにかく今私たちが話し合わなければならないのは、夢魔のことだった。
夢を介して、魔法使いたちの魔力を死ぬまで貪る未知の存在、化け物。
かつて真帆先輩の中に封じたというのに、その娘である真奈ちゃんの中に受け継がれてしまったことに、私たちはどう対処すべきか、それが問題だった。
「協会には、報告しない方が良い……ですよね?」
つむぎが恐る恐る、みんなに訊ねた。
その言葉に、私たちは思わず全員が顔を見合わせる。
報告すべきかどうか、と問われれば、当然報告すべきことだろう。
夢魔は、言ってしまえば魔法使い全体の敵ともいえる存在である。
その正体は全くの不明。魔力そのものから生まれたと言われているが、実際のところはなにひとつわかってはいない。
真帆先輩の中に夢魔が存在すると判明した当時、魔法協会の中には、真帆先輩を“処分”すべきだと考えた人たちもいたという。真帆先輩の中で夢魔が眠っているうちに、その存在ごと“抹消してしまえ”と過激なことを発言した年寄りがいたのだそうだ。
結局真帆先輩は、彼女のおばあさんの監視のもと、様子を見ることになった。
けれど、その夢魔が高校生の頃に目覚め、暴れ出し、私たちはなんとか、その夢魔を真帆先輩の中に封じることに成功したのだったが――まさか、ここでまた夢魔と対峙することになるだなんて、思ってもいなかった。
一度は封じることに成功している、ということは今回も対処することは可能ということだし、当時過激なことを言っていた年寄りも、今は引退していて協会には在籍していない。だから、そこまで問題にはならないのではないかと思えるのだけれど、だからと言って、夢魔が危険な存在であることに変わりはない。
どうするべきか、というのは非常に難しい問題だった。
優先輩はソファに腰かけ、祈るように両手を組んで額に強く押し当て、黙りこくっている。
その傍らには、まるで何かを達観したように、翔君が同じく腰を下ろしていた。
茜ちゃんは相変わらず不安そうに表情を歪めているし、夏希先輩も口元に手をやり考え込んでいる様子だった。
真帆先輩のお姉さんである加奈さんは、そんな私たちにコーヒーや紅茶を運んできてくれた。
「ごめんなさい、真奈の為に。真帆の時も散々大変だったでしょう。それなのに、妹だけでなく、姪っ子の為にまで尽力して下さって、本当に申し訳ないです」
頭を下げる加奈さんに、私は首を横に振って、
「そんな、気にしないでください……!」
「そうですよ」と井口先生もなるべく笑みを浮かべながら、「どれだけ長い付き合いだと思っているんですか。今さら、慣れっこですよ」
なぁ? と皆の顔を見渡す井口先生に、私たちは皆、一様に頷いた。
加奈さんもそれに微笑み、「ありがとう」と改めて軽く頭を下げた。
それから、私たちはそれぞれコーヒーや紅茶を飲んでひと息つく。
そのあと私たちは、これからどうしたものか、どうするべきか。協会には報告せず、改めて自分たちで夢魔を封じることはできないのか。真奈ちゃんの記憶や意識を、何とかして取り戻す方法はないのか――色々なことを話し合った。
いったいどれくらい、私たちは話し合っていただろうか。
そろそろ魔法医や真帆先輩が到着しても良い頃合いなんじゃないだろうかと思った時、私はふと真奈ちゃんやアリスさんのことが気になって、席を立った。
皆にひとこと告げて再び寝室に向かい、軽く扉をノックする。
けれど、返事がない。
「……アリスさん?」
声を掛けてみたけれど、やっぱり返答はなかった。
どうしたんだろう。何かあったんだろうか。
不安になって、私はゆっくりと、扉を開いた。
アリスさんは真奈ちゃんの眠るベッドに、上半身を伏せるように倒れていた。
それだけなら、疲れて眠ってしまったかな、くらいにしか思わなかっただろう。
けれど、そのベッドの傍らに立つ、人型の大きな黒い影を目にして、私は思わず息を飲んだ。
「――っ!」
夢魔、だった。
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