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ひとりめ
第2回
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結局、惚れ薬とやらを受け取り俺は店を後にした。
女店主曰く、「ワインか何かに混ぜて飲ませれば効果があがりますよ」との事で、仕事帰りに夜遅くまでやっているスーパーに立ち寄った。
せっかくなら良いワインを買おうとも思ったのだが、あいにく酒屋は閉まっていたし、スーパーには安物しか取り扱いがなかった。
まあ、仕方がない。これで我慢しよう。
思いながら適当に赤ワインを選んだ。
そう言えば結婚したばかりの頃、嫁とよく晩酌で安物のワインを呑んでいたなぁ。
嫁はもともと酒に強くなく、加えて炭酸が苦手とあって、ワインなら少しは、と毎晩付き合ってくれていた。
息子が生まれてからのこの七年間、全くそんなことはしなくなったけれど、なんだか酷く懐かしく思いながら帰宅する。
時刻は午後十一時過ぎ。
廊下の灯りはつけっぱなしだが、嫁も息子もすでに眠っているらしく、家の中はひっそりしていた。
俺はダイニングの机にワインを置き、昔使っていたグラスを久し振りに出すとそれにワインを注ぎ、妻に飲ませる方に例の惚れ薬を数的垂らした。
本当にこんなものが効くのか? と訝しみながら、グラスを持って寝室へ向かった。
眠っているところを起こしてまた喧嘩になるかも知れないとは思ったが、俺の帰りが遅い以上、一緒に食事をする時に飲ませるというのも難しい。
寝室に入ると嫁はやはり寝息を立てており、悪いとは思いながら、
「紗季、紗季」
と声をかける。
嫁はその声に反応してうっすらと瞼を開けてこちらにちらりと視線を寄越したが、そのまま改めて布団を被る。
「紗季、なぁ、紗季」
「……もう、なに?」
不満げに言う、久しぶりの嫁の声。
「久しぶりに、ワイン飲まないか? 昔はよく一緒に飲んでただろ?」
俺の言葉に、紗季はじとっとした目を向けながら、
「……なんで突然?」
「あぁ、いや、ほら。なんか、飲みたくなってさ」
とくにこれと言った理由が思い浮かばず、適当な返事になる。
そんな俺に、嫁は深いため息を一つ吐き、
「……あのね、私も明日早くから仕事なの。あなただって朝早んでしょう? こんな時間から飲めるわけないじゃない」
「い、いや、ほら、そこはさ、ちょっとだけ。ほんの一口でいいんだ。一緒に飲んでくれないか?」
「……」
「……」
お互い、しばらくの無言。
やがて低い声で、嫁は言った。
「なんでそんなに飲ませたいわけ? もしかして、毒でも盛ってるの?」
「えっ!」
毒……ではないが、たしかに異物は混入している。
「そ、そんなわけないだろう?」
「……ふうん?」
疑いの眼差し。
「な、なんだよ……」
「じゃぁ、あなた、飲んでみてよ。そうしたら考えてあげる」
え、これを? 俺が? 飲むのか?
思わず嫁用のグラスを見つめてしまう。
「ほら、やっぱり何か入ってるんだ」
「そ、そんなわけないだろう? ほら!」
俺は思い切って二つのグラスを続けざまに仰ぎ飲む。
僅かな辛味。渋み。そして如何にも安っぽいその風味。
「ほ、ほら、大丈夫だろ?」
「……ふぅん?」
相変わらず、嫁の視線は俺を疑っている。
「まぁ、とにかく今日は飲みません。また今度ね」
「えぇ、そ、そんな……」
焦る俺をよそに、嫁は早々と寝息をたて始める。
俺は空になった二つのグラスを見比べながら思った。
……これ、俺が飲んでも大丈夫だったのか?
結局、惚れ薬とやらを受け取り俺は店を後にした。
女店主曰く、「ワインか何かに混ぜて飲ませれば効果があがりますよ」との事で、仕事帰りに夜遅くまでやっているスーパーに立ち寄った。
せっかくなら良いワインを買おうとも思ったのだが、あいにく酒屋は閉まっていたし、スーパーには安物しか取り扱いがなかった。
まあ、仕方がない。これで我慢しよう。
思いながら適当に赤ワインを選んだ。
そう言えば結婚したばかりの頃、嫁とよく晩酌で安物のワインを呑んでいたなぁ。
嫁はもともと酒に強くなく、加えて炭酸が苦手とあって、ワインなら少しは、と毎晩付き合ってくれていた。
息子が生まれてからのこの七年間、全くそんなことはしなくなったけれど、なんだか酷く懐かしく思いながら帰宅する。
時刻は午後十一時過ぎ。
廊下の灯りはつけっぱなしだが、嫁も息子もすでに眠っているらしく、家の中はひっそりしていた。
俺はダイニングの机にワインを置き、昔使っていたグラスを久し振りに出すとそれにワインを注ぎ、妻に飲ませる方に例の惚れ薬を数的垂らした。
本当にこんなものが効くのか? と訝しみながら、グラスを持って寝室へ向かった。
眠っているところを起こしてまた喧嘩になるかも知れないとは思ったが、俺の帰りが遅い以上、一緒に食事をする時に飲ませるというのも難しい。
寝室に入ると嫁はやはり寝息を立てており、悪いとは思いながら、
「紗季、紗季」
と声をかける。
嫁はその声に反応してうっすらと瞼を開けてこちらにちらりと視線を寄越したが、そのまま改めて布団を被る。
「紗季、なぁ、紗季」
「……もう、なに?」
不満げに言う、久しぶりの嫁の声。
「久しぶりに、ワイン飲まないか? 昔はよく一緒に飲んでただろ?」
俺の言葉に、紗季はじとっとした目を向けながら、
「……なんで突然?」
「あぁ、いや、ほら。なんか、飲みたくなってさ」
とくにこれと言った理由が思い浮かばず、適当な返事になる。
そんな俺に、嫁は深いため息を一つ吐き、
「……あのね、私も明日早くから仕事なの。あなただって朝早んでしょう? こんな時間から飲めるわけないじゃない」
「い、いや、ほら、そこはさ、ちょっとだけ。ほんの一口でいいんだ。一緒に飲んでくれないか?」
「……」
「……」
お互い、しばらくの無言。
やがて低い声で、嫁は言った。
「なんでそんなに飲ませたいわけ? もしかして、毒でも盛ってるの?」
「えっ!」
毒……ではないが、たしかに異物は混入している。
「そ、そんなわけないだろう?」
「……ふうん?」
疑いの眼差し。
「な、なんだよ……」
「じゃぁ、あなた、飲んでみてよ。そうしたら考えてあげる」
え、これを? 俺が? 飲むのか?
思わず嫁用のグラスを見つめてしまう。
「ほら、やっぱり何か入ってるんだ」
「そ、そんなわけないだろう? ほら!」
俺は思い切って二つのグラスを続けざまに仰ぎ飲む。
僅かな辛味。渋み。そして如何にも安っぽいその風味。
「ほ、ほら、大丈夫だろ?」
「……ふぅん?」
相変わらず、嫁の視線は俺を疑っている。
「まぁ、とにかく今日は飲みません。また今度ね」
「えぇ、そ、そんな……」
焦る俺をよそに、嫁は早々と寝息をたて始める。
俺は空になった二つのグラスを見比べながら思った。
……これ、俺が飲んでも大丈夫だったのか?
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