魔法百貨堂 〜よろず魔法承ります〜

野村勇輔(ノムラユーリ)

文字の大きさ
13 / 58
ふたりめ

第3回

しおりを挟む
   3

「へぇ。良かったじゃないですか」

 真帆さんはこちらに背を向けたまま、所狭しと並べられた商品の整理をしながらそう言った。

 あのハンカチを類人くんに渡した後、わたしはそのことを誰よりもまず真帆さんに報告したくて、ダッシュで魔法百貨堂にやってきた。

 息も切れ切れで、興奮冷めやらぬこの気持ちを抑えきれないまま、わたしは捲し立てるように次から次へと言葉を発した。

 自分でも何を言っているのか解らないくらいの興奮がようやく収まりかけたころ、仕事のひと段落した真帆さんがこちらに体を向け、あの優し気な微笑みを浮かべながら、
「ところで、昨夜はよく眠れましたか?」
 と小首を傾げながら訊いてきた。

 今日はデニムのパンツに白い袖なしのワイシャツといった出で立ちで、白い腕のきめ細やかな肌がとても綺麗だった。

 わたしは、わたしもあんな肌を目指さないとな、と思いながら、
「はい!  おまけに類人くんとデートしてる夢まで見ちゃいました!」
 と答えた。

「そうですか、それは何より」
 真帆さんは頷き、
「じゃあ、次はどうしましょうか」

 わたしはその言葉に、思わずぽかんと口を開ける。

「……次?」

「えぇ、次です。確かにハンカチの魔法でその男の子……大地くん、でしたっけ?」

 首を傾げる真帆さん。

 わたしも同じように首を傾げながら、
「?   類人くんです」

「ああ、ごめんなさい、間違えました」

 真帆さんは口元に手をやりながらペコリと頭を下げて、それからニコリと可愛らしく微笑んだ。

「あのハンカチで、類人くんの気持ちは萌絵さんにも向きました。けれど、まだそれだけです。次はデートに誘っちゃいましょう!」

「でで、で、デートっ?」

 わたしは驚きのあまり一歩後退り、まじまじと真帆さんの顔を見つめる。

 そんな、デートだなんて、まだ、早すぎて。

「そうです」
 と真帆さんは頷き、
「魔法が切れないうちにデートに誘って、一気に告白まで持っていきましょう!」

「え、だって、そんな、わたし……!」

 しどろもどろになりながら、わたしはカウンター越しに真帆さんの腕に縋り付く。

 ちょっとひんやりとした、しなやかな肌の感触。

「じゃあ、もうここで終わりにします?」

 真帆さんの言葉にわたしは瞬きをして、すぐに大きく首を横に振った。

 そんなわけにはいかない。この気持ちを、ちゃんと伝えないと!

「でも、どうやって誘ったら良いか……  あれだけいつも周りに人が居るんです。わたしだけデートに誘って、もしあとでみんなから何か言われたら……」

「つまり、人払いが出来ればいいんですね?」

「え?」

「たしか、ちょうど良いのがこの辺りに……」

 そう言って、真帆さんは右端の棚に手を伸ばした。

 程なくして、チェーンのついた小さな金色の懐中時計をカウンターの上に置きながら、
「これ、売り物ではないんですけど、特別にお貸しします」

「もしかして、時が止まる……とか?」

 いかにも魔法の道具っぽい!  なんて思っていると、

「いえいえ、違いますよ。残念ながらね、ぷぷっ!」
 真帆さんは噴き出すようにちょっと笑った。
「人払いしてくれるだけです。チェーンがついてるこの上の部分がボタンになっていて、それを押すと三十秒、周囲から人が居なくなります。その隙にデートに誘ってください」

 わたしはその手のひらにすっぽり収まるほど小さな時計を手に取ると、
「あ、ありがとうございます!   頑張ります!」

 お礼を言って、大きく頭を下げたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます! 神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。 美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者! だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。 幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?! そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。 だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった! これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。 果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか? これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。 *** イラストは、全て自作です。 カクヨムにて、先行連載中。

最初から最強ぼっちの俺は英雄になります

総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

処理中です...