21 / 58
さんにんめ
第1回
しおりを挟む
1
「なぁーんだ、茜ちゃんか」
今にも舌打ちしかねない様子で残念そうに真帆さんは言った。
わたしは若干ムッとした表情を浮かべながら、
「わたしで悪かったですね。っていうか、相変わらず暇そうなご様子で」
あからさまな嫌味を言ってやる。
もちろん、本気じゃない。いつもの挨拶みたいなものだ。
真帆さんもそのことをちゃんと理解しているから、いつものようにニヤリと笑って、
「違いますよ、暇なんじゃありません。来るお客さんをこちらから制限しているだけです」
「やる気がないから?」
「やる気ならありますよ? でも、やる気だけあっても空回りしてたら意味がないでしょう?」
「なんだそりゃ」
結局やる気なんてないんじゃん?とは言わない。どうせいつものことだから。
わたしは抱えていた二十センチ角くらいの木の箱をちょっと上に掲げて示しながら、
「これ、いつもの」
「はい、ありがとうございます。そこに置いといて頂けますか?」
真帆さんの指差すカウンターの端に、よっこらしょっとその箱を置いた。
中身はいつも一緒。わたしの師匠である魔法使いのおばあちゃん(わたしのおばあちゃんじゃなくて、わたしの彼氏のおばあちゃんだ)謹製の惚れ薬のアンプル詰め合わせだ。
「いつも思うんだけど、こんなに惚れ薬ばかり仕入れて、何に使ってるの? ここって特に恋愛専門の魔法店じゃなかったよね?」
タメ口になっちゃったけど、いつものことだからお互い気にしない。
真帆さんは綺麗に整えられた自分の爪を眺めながら、
「言ったことありませんでしたっけ? 私、人間の感情や動機なんて所詮は相手に対する好き嫌いから来てると思ってるんですよね」
ん? どゆこと?
首を傾げるわたしに真帆さんは微笑みを浮かべながら、
「結局、人と人の関係って、恋愛にしろ日常的な関係にしろ、その繋がりって相手の事が好きか嫌いかで決まると思うんです」
と、いうと??
「例えばほら、友人関係だってそうじゃないですか。相手の事が好きだから一緒にいて、一緒に遊ぶ。相手の事が嫌いだったら一緒に居たくないし、遊びたいとも思わないでしょ?」
はあ、まあ、そうですね。
「ってことはですよ。うちに来る大概のお客さんは対人に関する相談が多いので、惚れ薬があれば大抵の問題は解決するわけです。これって万能薬と思いません? ビバ! 惚れ薬!」
言って真帆さんはワザとらしく万歳して惚れ薬を賞賛した。
う~ん…… でも、真帆さんの場合は……
「万能薬っていうか、考えるのが面倒でとりあえず使ってる気がしないでもない」
すると真帆さんは貼り付けたような笑顔のまま、
「ソンナコトナイデスヨー」
明らかな棒読み。
ダメだ、この人やっぱり適当だ。知ってたけど。
「私だって惚れ薬以外の魔法薬や魔法具を使いますよ?」
例えばどんな?
「例えばですね……」
と真帆さんは後ろの陳列棚を振り向き、
「これとか。人払いをする懐中時計。どこかの魔法使いが時を止める時計を作る途中で間違えて作っちゃった品を格安で譲ってもらったものです。先日はこれを中学生の女の子にお貸ししました」
へー。他には?
「あとはこれ、オトリドリ」
真帆さんはいったいどこから出したのか一羽の真っ赤なインコを右腕に乗せ、
「命を狙われていると仰っていた男の子に貸して差し上げました。この子も本来はマナバードと呼ばれる空気中の魔力を集める種の南国の鳥さんだったんですけど、その力に恵まれなかったのを業者さんから格安で譲って頂いて教え込みました。いやー、大変でした」
うん、そこまでは訊いてないんだけどな。
「それと、そうですねえ。これなんて面白いですよ」
真帆さんはカウンターの向こうから古めかしい瓶底メガネを取り出すと、
「かけると目の前に居る人の顔が好きな人の顔に変わります。いつでも好きな人の顔が見ていたい方や、嫌いな上司なんかに怒られる時にかければ、ちょっと心に余裕ができます」
なにそれ、ちょっと面白そう。
「……と、あとはシンデレラみたいに色々とお手伝いをしてくれるネズミさん――」
「ストップ! ストップ! 真帆さん!」
カウンターの下に手を伸ばした真帆さんを、私は大慌てで制した。
「はい?」
「ま、まあ、真帆さんが惚れ薬だけじゃないのはわかりました」
わたしはうんうん頷き、
「けど、やっぱり真帆さんが惚れ薬以外の魔法を使ってるのを見てみたいなぁ。後学のために」
ほほう、と真帆さんは顎に手をやりながら、
「勉強熱心ですねぇ、感心感心。でも残念ながら今のところ依頼人が居ませんからね。どうしても私の魔法が見たいのでしたら、やはりそのご依頼をして頂いて、それなりのお代を……」
その時、ニャオンと猫の鳴き声が聞こえて顔を向けると、いつのまにか黒猫がカウンターの上でお座りしていて、お店の入り口を見つめていた。
なんだろう、と真帆さんと二人顔を向ければ。
「あの、すみません……」
と一人の男の子が恐る恐ると言った様子で扉を開けこちらを見ていた。
私はニヤッと口元に笑みを浮かべながら真帆さんに振り向き、
「来ましたね、お客さん」
「……ちっ」
真帆さんはあからさまに舌打ちした。
「なぁーんだ、茜ちゃんか」
今にも舌打ちしかねない様子で残念そうに真帆さんは言った。
わたしは若干ムッとした表情を浮かべながら、
「わたしで悪かったですね。っていうか、相変わらず暇そうなご様子で」
あからさまな嫌味を言ってやる。
もちろん、本気じゃない。いつもの挨拶みたいなものだ。
真帆さんもそのことをちゃんと理解しているから、いつものようにニヤリと笑って、
「違いますよ、暇なんじゃありません。来るお客さんをこちらから制限しているだけです」
「やる気がないから?」
「やる気ならありますよ? でも、やる気だけあっても空回りしてたら意味がないでしょう?」
「なんだそりゃ」
結局やる気なんてないんじゃん?とは言わない。どうせいつものことだから。
わたしは抱えていた二十センチ角くらいの木の箱をちょっと上に掲げて示しながら、
「これ、いつもの」
「はい、ありがとうございます。そこに置いといて頂けますか?」
真帆さんの指差すカウンターの端に、よっこらしょっとその箱を置いた。
中身はいつも一緒。わたしの師匠である魔法使いのおばあちゃん(わたしのおばあちゃんじゃなくて、わたしの彼氏のおばあちゃんだ)謹製の惚れ薬のアンプル詰め合わせだ。
「いつも思うんだけど、こんなに惚れ薬ばかり仕入れて、何に使ってるの? ここって特に恋愛専門の魔法店じゃなかったよね?」
タメ口になっちゃったけど、いつものことだからお互い気にしない。
真帆さんは綺麗に整えられた自分の爪を眺めながら、
「言ったことありませんでしたっけ? 私、人間の感情や動機なんて所詮は相手に対する好き嫌いから来てると思ってるんですよね」
ん? どゆこと?
首を傾げるわたしに真帆さんは微笑みを浮かべながら、
「結局、人と人の関係って、恋愛にしろ日常的な関係にしろ、その繋がりって相手の事が好きか嫌いかで決まると思うんです」
と、いうと??
「例えばほら、友人関係だってそうじゃないですか。相手の事が好きだから一緒にいて、一緒に遊ぶ。相手の事が嫌いだったら一緒に居たくないし、遊びたいとも思わないでしょ?」
はあ、まあ、そうですね。
「ってことはですよ。うちに来る大概のお客さんは対人に関する相談が多いので、惚れ薬があれば大抵の問題は解決するわけです。これって万能薬と思いません? ビバ! 惚れ薬!」
言って真帆さんはワザとらしく万歳して惚れ薬を賞賛した。
う~ん…… でも、真帆さんの場合は……
「万能薬っていうか、考えるのが面倒でとりあえず使ってる気がしないでもない」
すると真帆さんは貼り付けたような笑顔のまま、
「ソンナコトナイデスヨー」
明らかな棒読み。
ダメだ、この人やっぱり適当だ。知ってたけど。
「私だって惚れ薬以外の魔法薬や魔法具を使いますよ?」
例えばどんな?
「例えばですね……」
と真帆さんは後ろの陳列棚を振り向き、
「これとか。人払いをする懐中時計。どこかの魔法使いが時を止める時計を作る途中で間違えて作っちゃった品を格安で譲ってもらったものです。先日はこれを中学生の女の子にお貸ししました」
へー。他には?
「あとはこれ、オトリドリ」
真帆さんはいったいどこから出したのか一羽の真っ赤なインコを右腕に乗せ、
「命を狙われていると仰っていた男の子に貸して差し上げました。この子も本来はマナバードと呼ばれる空気中の魔力を集める種の南国の鳥さんだったんですけど、その力に恵まれなかったのを業者さんから格安で譲って頂いて教え込みました。いやー、大変でした」
うん、そこまでは訊いてないんだけどな。
「それと、そうですねえ。これなんて面白いですよ」
真帆さんはカウンターの向こうから古めかしい瓶底メガネを取り出すと、
「かけると目の前に居る人の顔が好きな人の顔に変わります。いつでも好きな人の顔が見ていたい方や、嫌いな上司なんかに怒られる時にかければ、ちょっと心に余裕ができます」
なにそれ、ちょっと面白そう。
「……と、あとはシンデレラみたいに色々とお手伝いをしてくれるネズミさん――」
「ストップ! ストップ! 真帆さん!」
カウンターの下に手を伸ばした真帆さんを、私は大慌てで制した。
「はい?」
「ま、まあ、真帆さんが惚れ薬だけじゃないのはわかりました」
わたしはうんうん頷き、
「けど、やっぱり真帆さんが惚れ薬以外の魔法を使ってるのを見てみたいなぁ。後学のために」
ほほう、と真帆さんは顎に手をやりながら、
「勉強熱心ですねぇ、感心感心。でも残念ながら今のところ依頼人が居ませんからね。どうしても私の魔法が見たいのでしたら、やはりそのご依頼をして頂いて、それなりのお代を……」
その時、ニャオンと猫の鳴き声が聞こえて顔を向けると、いつのまにか黒猫がカウンターの上でお座りしていて、お店の入り口を見つめていた。
なんだろう、と真帆さんと二人顔を向ければ。
「あの、すみません……」
と一人の男の子が恐る恐ると言った様子で扉を開けこちらを見ていた。
私はニヤッと口元に笑みを浮かべながら真帆さんに振り向き、
「来ましたね、お客さん」
「……ちっ」
真帆さんはあからさまに舌打ちした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
最初から最強ぼっちの俺は英雄になります
総長ヒューガ
ファンタジー
いつも通りに一人ぼっちでゲームをしていた、そして疲れて寝ていたら、人々の驚きの声が聞こえた、目を開けてみるとそこにはゲームの世界だった、これから待ち受ける敵にも勝たないといけない、予想外の敵にも勝たないといけないぼっちはゲーム内の英雄になれるのか!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる