26 / 40
第4章 あちらとこちら
第2回
しおりを挟む
2
イノクチ先生はわたしたちの夢の話を聞いて、しばらくの間考え込んでいた。
眉間に皺を寄せて、廊下の一点を見つめながら、やがて小さくため息を吐いて、
「わかった」
それだけ答えて、踵を返した。
職員室の前の廊下。
わたしたちはイノクチ先生と向き合って、昨日見た夢について話をしていた。
夢に閉じ込められて、楸先輩と出会って、夢魔と遭遇して、それから逃げて――目が覚めた。
あの後、楸先輩はどうなってしまったのだろうか。
わたしたちは、どうやって目を覚ましたのだろうか。
「これから、どうするんですか?」
わたしが先生の背中に訊ねると、先生は、
「ちょっと協会の爺さま方に連絡してくる。さすがに俺だけでは手に負えない」
「わ、私たちは?」
ユキは一歩踏み出して、先生の袖を引っ掴み、
「もう、あんな怖い思いはしたくないの! 私たちはどうしたらいいわけ?」
「そうだな」
とイノクチ先生は口にして、
「とりあえず、今からアリスさんを呼んでおく。昼休みにカウンセリング室に来なさい。しばらく夢を見ないように、より深い魔法をかけた方がよさそうだ」
そう言い残すと、すたすたと廊下の奥へと姿を消した。
わたしたちはその後ろ姿を見送り、顔を見合わせる。
「……アリスさんって?」
「わたしや楸先輩と同じ、魔女だよ。凄い綺麗な人」
「また、魔女かぁ――」
「なに?」
訊ねると、ユキは自嘲気味に笑いながら、
「私さ、小さい頃から魔女ってのに憧れがあったんだよね。だって、夢があるじゃない? ちょっと杖を振ったり呪文を唱えるだけで、何でもできちゃうんだもの。だから、幼稚園や小学生の頃の夢、魔女になることだったの。お兄ちゃんにはさんざん馬鹿にされたけどね。魔法なんてあるわけがない、もっと現実的な夢にしろって。けど、私は信じてた。絶対にこの世には魔法があるって。いつか私も、不思議な力を手に入れられるって。けど――」
それからユキはわたしに顔を向け、にっこりと微笑むと、
「まさか本当に魔法があって、アオイが魔女だったなんてね。空を飛んでるところを見た時、嬉しいの半分、自分の目を疑ったのが半分。たぶん、内心お兄ちゃんに言われた通り、魔法なんてないって思い始めてたんだと思う。諦めかけていたんだと思う。だから、自分が見たものをどうしても信じられなかった。だから」
とわたしの手を取り、ユキはきらきらとした瞳で、
「アオイが魔女だって知って、私は凄く嬉しかった。本当に魔女が居るんだって、今まで信じてきて良かったって、そう思ったんだ。それにさ――」
ユキはわたしの顔に、ずいっとその可愛い顔を近づけて、
「私も、魔女になりたい」
「えっ」
その言葉に、私は思わず目を見開く。
「魔女に、なりたい?」
「うん。言ったじゃん。私も魔女になるのが夢だったんだって。ねぇ、どうやったら魔女になれるの? どうすれば魔法を身につけられるの? やっぱり、家系とか血とか、関係あったりする? もしなれるんなら、私もアオイと一緒に魔女になりたい」
「……ユキ」
その真剣な眼差しに、わたしはどう答えたら良いのか判らなかった。
魔法使いに、魔女になりたい。
わたしは生まれた時からおばあちゃんやママから魔法を学んできた。
それが当たり前のように、物心ついたころにはすでにいくつかの魔法を使えるようになっていた。
それが家系によるものか、血によるものか、わたしは知らない。
けれど、わたしの友達が、私と同じ、魔女になりたいと言っている。
魔法使いになりたいと願っている。
なら、わたしは――
「……わかった」
わたしは頷き、ユキに微笑む。
「ちょっとママに相談してみる。それで、もしユキも魔法使いに、魔女になれるんだったら」
ユキの手を握り返しながら、わたしは言った。
「――一緒に、魔女になろう」
そんなわたしの言葉に、ユキは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて。
「ありがとう! アオイ!」
急にわたしに抱き着いてくる。
「ちょ、ちょっと、ユキ!」
わたしもそんなユキの身体を抱きしめ返して――その背後に立つ、人の姿に気が付いた。
長い黒髪に虹色の瞳。美しいその顔には微笑みを湛えていて。
「ひ、楸先輩?」
思わず口にすると、ユキも、
「えっ? 楸先輩?」
慌てたようにわたしから離れ、楸先輩の方に身体を向ける。
「よかった、無事だったんですね!」
わたしは安堵しながらそう口にして、一歩踏み出して、気付いた。
……違う。
雰囲気が、まとっている空気が、全然違う。
楸先輩はその口元を弧の字に歪ませながら、
「――どうかしましたか?」
わずかに低い声で、声を発した。
「ど、どうしたの、アオイ?」
心配そうに口にするユキに、わたしはごくりと唾を飲み込み、小さく、答えた。
「――違う」
「違う?」
わたしは二、三歩後退りながら、ユキの腕を引っ張って。
「――この人は、楸先輩じゃ、ない」
「そ、それ、どういうこと……?」
不安そうな表情で、ユキは楸先輩の姿を見つめる。
楸先輩は不気味な微笑みを浮かべたままで、
「私が、私じゃない? それ、どういう意味ですか? 私は私です。楸真帆です。私が楸真帆でないというのなら、じゃぁ、ここにいる私はいったい、誰だというんですか?」
その問いに、わたしは答えることができなかった。
ただ後退りしながら、いつ襲われてもすぐに逃げ出せるように、ユキの腕を掴んだまま、じっと楸先輩の挙動に注視する。
けれど、楸先輩はそんな私たちの様子に、おかしそうに「ふふっ」と笑い、
「それにしても、昨日は大変でしたね。あんな怖い夢を見るだなんて、私も思っていませんでした。あなたたちがちゃんと逃げることができて、本当に良かったです」
それに対して、ユキは「ほ、ほら」と小さく口にする。
「やっぱり、楸先輩だよ。昨日見た夢のことでしょ?」
けれど、それはまるで、自分を安心させるかのような口調だった。
たぶん、ユキも楸先輩の様子をどこかおかしいと思っているはずだ。
そうでないと、こんなに動揺した言い方をするわけがない。
わたしはじっと楸先輩を睨みつけたままで、
「ひ、楸先輩は、あのあと、どうやって目を覚ましたんですか? 夢魔は? あの化け物は、いったいどうなったんですか?」
訊ねると、楸先輩は小首を傾げながら、
「さぁ?」
おどけたように、ニヤリと笑った。
「夢魔? でしたっけ? あんなの、大したことありませんでした。わたしがちょっと風の魔法を使ったら、そのままどこかへ消えてしまいました」
だから、と楸先輩はわたしたちの方へ一歩踏み出し、
「安心してください。私は私です。楸真帆です。ね?」
すっと右手を差し出してきて、その瞳がどんよりとした鈍色に染まって――
「真帆、ここに居たんだ」
その声に、楸先輩は差し出した右手をすっと下におろした。
嬉しそうに口元に笑みを浮かべながら、
「――シモフツ君!」
言って、後ろを振り向く。
そこにはシモハライ先輩の姿があって、楸先輩は二、三歩でシモハライ先輩に駆け寄ると、その首に両腕を回すように抱き着き、
「すみません、ちょっと可愛い後輩さんたちとお話ししていました」
これ見よがしに、わたしたちの目の前で軽くキスをする。
シモハライ先輩はそんな楸先輩の行動に目を見開き、慌てたように楸先輩の身体を引きはがしながら、
「ちょっ、やめろって、こんなところで……」
「え~っ? いいじゃないですか、別にどこでキスしようが一緒じゃないですか」
頬を膨らませる楸先輩。
彼女はシモハライ先輩の身体に再度抱き着き、その首元にすりすりと頬を近づける。
その姿は先ほどまでの雰囲気とは全く異なり、まるで飼い主にすり寄って甘える猫のようだった。
まとっていた空気や影そのものを完全に潜ませ、けれど時折、挑発的な視線をこちらに寄越す。
「ど、どうしたんだよ、真帆。なんで急にそんなに」
「だって、私はシモフツ君のモノで、シモフツ君は私のモノでしょう?」
「いや、それは――」
「……違うんですか?」
その瞳に影が差して、シモハライ先輩は「とんでもない!」といった様子で首を横に振って、
「ち、違わないけど、前はそんなに人前でくっついてきたりしなかったじゃないか」
「そうでしたっけ? そんな昔のこと、忘れちゃいました」
「そんな昔って、そこまで昔じゃないでしょ?」
「昔は昔です。一日経てばみんな昔の出来事です。過去は全て昔の出来事なんですよ、知っていましたか?」
「なに? その屁理屈……」
「と・に・か・く」
と、楸先輩はシモハライ先輩の唇に人差し指をあてながら、
「昔は昔、過去は過去、今は今、未来は未来。今の私はシモフツ君とイチャイチャしたいんです。誰が何と言おうと、私はこの気持ちに正直であるつもりです。例え私たちの間に邪魔が入ろうとしても、私はその邪魔するものを排除してでもそうしたいんです」
それから楸先輩はわたしたちの方に顔を向けて、一切の表情を失った顔で。
「――わかりましたか?」
それは明らかに、わたしたち(たぶん、わたしだ)に対する確認であり、警告であり、脅迫だった。
その無表情があまりにも恐ろしくて、気持ち悪くて、不気味過ぎて、わたしもユキも、何も答えられないまま、その場にじっと立ち尽くすことしかできなかった。
やがて楸先輩は、再びその顔に作ったような笑顔を浮かべると、シモハライ先輩の方に顔を戻して、
「さぁ、行きましょうか。私たちの秘密基地に」
「……あ、うん」
そんな楸先輩の様子に、シモハライ先輩もどこか違和感を覚えたのだろうか、眉間に皺を寄せながらも小さく頷き、けれど楸先輩にされるがままふたりは腕を組むと、
「それじゃぁ、カネツキさん、ユキさん。また夢で逢いましょうね」
鈍色の瞳をこちらに向けて、口元に小さく、笑みを浮かべた。
イノクチ先生はわたしたちの夢の話を聞いて、しばらくの間考え込んでいた。
眉間に皺を寄せて、廊下の一点を見つめながら、やがて小さくため息を吐いて、
「わかった」
それだけ答えて、踵を返した。
職員室の前の廊下。
わたしたちはイノクチ先生と向き合って、昨日見た夢について話をしていた。
夢に閉じ込められて、楸先輩と出会って、夢魔と遭遇して、それから逃げて――目が覚めた。
あの後、楸先輩はどうなってしまったのだろうか。
わたしたちは、どうやって目を覚ましたのだろうか。
「これから、どうするんですか?」
わたしが先生の背中に訊ねると、先生は、
「ちょっと協会の爺さま方に連絡してくる。さすがに俺だけでは手に負えない」
「わ、私たちは?」
ユキは一歩踏み出して、先生の袖を引っ掴み、
「もう、あんな怖い思いはしたくないの! 私たちはどうしたらいいわけ?」
「そうだな」
とイノクチ先生は口にして、
「とりあえず、今からアリスさんを呼んでおく。昼休みにカウンセリング室に来なさい。しばらく夢を見ないように、より深い魔法をかけた方がよさそうだ」
そう言い残すと、すたすたと廊下の奥へと姿を消した。
わたしたちはその後ろ姿を見送り、顔を見合わせる。
「……アリスさんって?」
「わたしや楸先輩と同じ、魔女だよ。凄い綺麗な人」
「また、魔女かぁ――」
「なに?」
訊ねると、ユキは自嘲気味に笑いながら、
「私さ、小さい頃から魔女ってのに憧れがあったんだよね。だって、夢があるじゃない? ちょっと杖を振ったり呪文を唱えるだけで、何でもできちゃうんだもの。だから、幼稚園や小学生の頃の夢、魔女になることだったの。お兄ちゃんにはさんざん馬鹿にされたけどね。魔法なんてあるわけがない、もっと現実的な夢にしろって。けど、私は信じてた。絶対にこの世には魔法があるって。いつか私も、不思議な力を手に入れられるって。けど――」
それからユキはわたしに顔を向け、にっこりと微笑むと、
「まさか本当に魔法があって、アオイが魔女だったなんてね。空を飛んでるところを見た時、嬉しいの半分、自分の目を疑ったのが半分。たぶん、内心お兄ちゃんに言われた通り、魔法なんてないって思い始めてたんだと思う。諦めかけていたんだと思う。だから、自分が見たものをどうしても信じられなかった。だから」
とわたしの手を取り、ユキはきらきらとした瞳で、
「アオイが魔女だって知って、私は凄く嬉しかった。本当に魔女が居るんだって、今まで信じてきて良かったって、そう思ったんだ。それにさ――」
ユキはわたしの顔に、ずいっとその可愛い顔を近づけて、
「私も、魔女になりたい」
「えっ」
その言葉に、私は思わず目を見開く。
「魔女に、なりたい?」
「うん。言ったじゃん。私も魔女になるのが夢だったんだって。ねぇ、どうやったら魔女になれるの? どうすれば魔法を身につけられるの? やっぱり、家系とか血とか、関係あったりする? もしなれるんなら、私もアオイと一緒に魔女になりたい」
「……ユキ」
その真剣な眼差しに、わたしはどう答えたら良いのか判らなかった。
魔法使いに、魔女になりたい。
わたしは生まれた時からおばあちゃんやママから魔法を学んできた。
それが当たり前のように、物心ついたころにはすでにいくつかの魔法を使えるようになっていた。
それが家系によるものか、血によるものか、わたしは知らない。
けれど、わたしの友達が、私と同じ、魔女になりたいと言っている。
魔法使いになりたいと願っている。
なら、わたしは――
「……わかった」
わたしは頷き、ユキに微笑む。
「ちょっとママに相談してみる。それで、もしユキも魔法使いに、魔女になれるんだったら」
ユキの手を握り返しながら、わたしは言った。
「――一緒に、魔女になろう」
そんなわたしの言葉に、ユキは嬉しそうに満面の笑みを浮かべて。
「ありがとう! アオイ!」
急にわたしに抱き着いてくる。
「ちょ、ちょっと、ユキ!」
わたしもそんなユキの身体を抱きしめ返して――その背後に立つ、人の姿に気が付いた。
長い黒髪に虹色の瞳。美しいその顔には微笑みを湛えていて。
「ひ、楸先輩?」
思わず口にすると、ユキも、
「えっ? 楸先輩?」
慌てたようにわたしから離れ、楸先輩の方に身体を向ける。
「よかった、無事だったんですね!」
わたしは安堵しながらそう口にして、一歩踏み出して、気付いた。
……違う。
雰囲気が、まとっている空気が、全然違う。
楸先輩はその口元を弧の字に歪ませながら、
「――どうかしましたか?」
わずかに低い声で、声を発した。
「ど、どうしたの、アオイ?」
心配そうに口にするユキに、わたしはごくりと唾を飲み込み、小さく、答えた。
「――違う」
「違う?」
わたしは二、三歩後退りながら、ユキの腕を引っ張って。
「――この人は、楸先輩じゃ、ない」
「そ、それ、どういうこと……?」
不安そうな表情で、ユキは楸先輩の姿を見つめる。
楸先輩は不気味な微笑みを浮かべたままで、
「私が、私じゃない? それ、どういう意味ですか? 私は私です。楸真帆です。私が楸真帆でないというのなら、じゃぁ、ここにいる私はいったい、誰だというんですか?」
その問いに、わたしは答えることができなかった。
ただ後退りしながら、いつ襲われてもすぐに逃げ出せるように、ユキの腕を掴んだまま、じっと楸先輩の挙動に注視する。
けれど、楸先輩はそんな私たちの様子に、おかしそうに「ふふっ」と笑い、
「それにしても、昨日は大変でしたね。あんな怖い夢を見るだなんて、私も思っていませんでした。あなたたちがちゃんと逃げることができて、本当に良かったです」
それに対して、ユキは「ほ、ほら」と小さく口にする。
「やっぱり、楸先輩だよ。昨日見た夢のことでしょ?」
けれど、それはまるで、自分を安心させるかのような口調だった。
たぶん、ユキも楸先輩の様子をどこかおかしいと思っているはずだ。
そうでないと、こんなに動揺した言い方をするわけがない。
わたしはじっと楸先輩を睨みつけたままで、
「ひ、楸先輩は、あのあと、どうやって目を覚ましたんですか? 夢魔は? あの化け物は、いったいどうなったんですか?」
訊ねると、楸先輩は小首を傾げながら、
「さぁ?」
おどけたように、ニヤリと笑った。
「夢魔? でしたっけ? あんなの、大したことありませんでした。わたしがちょっと風の魔法を使ったら、そのままどこかへ消えてしまいました」
だから、と楸先輩はわたしたちの方へ一歩踏み出し、
「安心してください。私は私です。楸真帆です。ね?」
すっと右手を差し出してきて、その瞳がどんよりとした鈍色に染まって――
「真帆、ここに居たんだ」
その声に、楸先輩は差し出した右手をすっと下におろした。
嬉しそうに口元に笑みを浮かべながら、
「――シモフツ君!」
言って、後ろを振り向く。
そこにはシモハライ先輩の姿があって、楸先輩は二、三歩でシモハライ先輩に駆け寄ると、その首に両腕を回すように抱き着き、
「すみません、ちょっと可愛い後輩さんたちとお話ししていました」
これ見よがしに、わたしたちの目の前で軽くキスをする。
シモハライ先輩はそんな楸先輩の行動に目を見開き、慌てたように楸先輩の身体を引きはがしながら、
「ちょっ、やめろって、こんなところで……」
「え~っ? いいじゃないですか、別にどこでキスしようが一緒じゃないですか」
頬を膨らませる楸先輩。
彼女はシモハライ先輩の身体に再度抱き着き、その首元にすりすりと頬を近づける。
その姿は先ほどまでの雰囲気とは全く異なり、まるで飼い主にすり寄って甘える猫のようだった。
まとっていた空気や影そのものを完全に潜ませ、けれど時折、挑発的な視線をこちらに寄越す。
「ど、どうしたんだよ、真帆。なんで急にそんなに」
「だって、私はシモフツ君のモノで、シモフツ君は私のモノでしょう?」
「いや、それは――」
「……違うんですか?」
その瞳に影が差して、シモハライ先輩は「とんでもない!」といった様子で首を横に振って、
「ち、違わないけど、前はそんなに人前でくっついてきたりしなかったじゃないか」
「そうでしたっけ? そんな昔のこと、忘れちゃいました」
「そんな昔って、そこまで昔じゃないでしょ?」
「昔は昔です。一日経てばみんな昔の出来事です。過去は全て昔の出来事なんですよ、知っていましたか?」
「なに? その屁理屈……」
「と・に・か・く」
と、楸先輩はシモハライ先輩の唇に人差し指をあてながら、
「昔は昔、過去は過去、今は今、未来は未来。今の私はシモフツ君とイチャイチャしたいんです。誰が何と言おうと、私はこの気持ちに正直であるつもりです。例え私たちの間に邪魔が入ろうとしても、私はその邪魔するものを排除してでもそうしたいんです」
それから楸先輩はわたしたちの方に顔を向けて、一切の表情を失った顔で。
「――わかりましたか?」
それは明らかに、わたしたち(たぶん、わたしだ)に対する確認であり、警告であり、脅迫だった。
その無表情があまりにも恐ろしくて、気持ち悪くて、不気味過ぎて、わたしもユキも、何も答えられないまま、その場にじっと立ち尽くすことしかできなかった。
やがて楸先輩は、再びその顔に作ったような笑顔を浮かべると、シモハライ先輩の方に顔を戻して、
「さぁ、行きましょうか。私たちの秘密基地に」
「……あ、うん」
そんな楸先輩の様子に、シモハライ先輩もどこか違和感を覚えたのだろうか、眉間に皺を寄せながらも小さく頷き、けれど楸先輩にされるがままふたりは腕を組むと、
「それじゃぁ、カネツキさん、ユキさん。また夢で逢いましょうね」
鈍色の瞳をこちらに向けて、口元に小さく、笑みを浮かべた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる