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よにんめ
第3回
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3
それから数日後、僕は再びお姉さんのもとを訪れた。
お姉さんに会ってから数日、僕は必死に生き抜いた。
人の姿で何とかやっていこうとしたけれど、結局僕にはそれだけの力なんてなくて、諦めて山に帰ろうと思ったのだ。
最後にお礼だけでも言いたくて、僕はお姉さんと会ったコンビニに向かった。
けれど、そこにお姉さんは居なかった。
僕はしばらくそのコンビニのそばをうろうろしていた。
何処へ行けばお姉さんに会えるのか解らなかったし、ここに居ればいつかお姉さんが来てくれると思っていたから。
どれくらいお姉さんが来るのを待っていただろうか。
もしかしたらこのままお姉さんは来ないんじゃないかと思い始めた頃。
「――あれ? 君」
待ちに待ったお姉さんがやってきたのだ。
長い髪を二つ結びにして、その肩には大きなカバンを提げていた。
黒い上着の襟元にはピンクのラインが入っていて、黒いスカートを履いていた。
たぶん、高校生ってやつなんだろう。
お姉さんは僕のもとまで小走りに駆けてくると、
「どうしたの? またお腹でも空いてるの?」
優しく微笑むお姉さんに、僕は首を横に振って、
「……こないだのお礼を、言いに来ました」
「あぁ。いいのに、別に。それよりも大丈夫?」
「だ、大丈夫です。もう、家に帰ろうと思って、最後にお礼だけ言っておきたくて」
「――そっか」
とお姉さんは一つ頷いて、
「そうだね。気をつけて帰るんだよ? 途中まで送ってあげようか?」
その言葉に、僕はもう一度首を横に振った。
「……大丈夫です」
「そう? もう無理をしちゃダメだよ?」
「はい。ありがとうございました」
僕はもう一度頭を下げて、
「それじゃぁ、さようなら」
「うん、じゃぁね」
お姉さんは軽く手を振りながら、僕に微笑んでくれた。
そんなお姉さんに見送られながら数歩歩いて、僕は振り向き、
「――あの、最後にいいですか」
「ん? なに?」
「……どうして、そんなに優しくしてくれるんですか?」
僕の率直な問いに、お姉さんはにっこりと微笑むと、
「さぁ、どうしてかな。私も誰でも彼でも助けるような善人じゃないけど、どうしても君のことをほっとけなかったの。なんでだろうね? それは私にも解らない。けど、もしまた何か困ったことがあったら会いにおいでよ。私にできることがあったら、できるだけのことはしてあげるから」
僕はしばらく、じっとお姉さんの顔を見つめていた。
その間、お姉さんもずっと僕に微笑みを向けてくれていた。
すごく綺麗な人だと僕は思った。
どこまでも優しくて、美しくて、魅力的で。
その輝くような姿に、僕はもう一度頭を下げて、
「……ありがとうございます。それじゃぁ」
「うん、じゃね」
もう一度手を振ってくれたお姉さんから、一歩足を踏み出した。
山里に戻った僕を、父母も兄弟も優しく迎え入れてくれた。
「仕方がないね」
「お前はよく頑張った」
「大丈夫、次はうまくいくさ」
「しばらくゆっくり休むといい」
仲間の優しさが、すごく嬉しかった。
けれど、山里に戻ってから数日しても、僕の頭からお姉さんの姿が消え去ることはなかった。
もう一度会いたい、会って話がしたい、仲良くなりたい。
お友達になりたい、恋人になりたい、結婚したい。
――ずっと一緒に居たい。
そんなことを思うようになっていった。
けど、僕は人じゃない、狸だ。
狸が人と結婚なんてできるはずがない。
けど、日に日にお姉さんへの想いは大きくなっていって、胸が苦しくて苦しくて仕方がなくて、ある日僕は、僕と同じようにその昔、町から出戻ってきた知り合いのおじさんに、そのことを相談してみた。
するとおじさんは教えてくれた。
「あの町のどこかに、楸真帆って魔女がいて、どんな願いでも叶えてくれるらしいぞ。一度相談してみたらどうだ? ほら、これを持っていけ」
そう言っておじさんがくれたのは、『魔法百貨堂 楸真帆』と書かれた小さな紙きれだった。
「この名刺が店まで案内してくれるそうだ。知り合いから貰ったものだが、俺は要らないからお前にやるよ」
「あ、ありがとう、おじさん! 僕、行ってみるよ!」
そうして僕は、期待を胸に再び町に向かって――
それから数日後、僕は再びお姉さんのもとを訪れた。
お姉さんに会ってから数日、僕は必死に生き抜いた。
人の姿で何とかやっていこうとしたけれど、結局僕にはそれだけの力なんてなくて、諦めて山に帰ろうと思ったのだ。
最後にお礼だけでも言いたくて、僕はお姉さんと会ったコンビニに向かった。
けれど、そこにお姉さんは居なかった。
僕はしばらくそのコンビニのそばをうろうろしていた。
何処へ行けばお姉さんに会えるのか解らなかったし、ここに居ればいつかお姉さんが来てくれると思っていたから。
どれくらいお姉さんが来るのを待っていただろうか。
もしかしたらこのままお姉さんは来ないんじゃないかと思い始めた頃。
「――あれ? 君」
待ちに待ったお姉さんがやってきたのだ。
長い髪を二つ結びにして、その肩には大きなカバンを提げていた。
黒い上着の襟元にはピンクのラインが入っていて、黒いスカートを履いていた。
たぶん、高校生ってやつなんだろう。
お姉さんは僕のもとまで小走りに駆けてくると、
「どうしたの? またお腹でも空いてるの?」
優しく微笑むお姉さんに、僕は首を横に振って、
「……こないだのお礼を、言いに来ました」
「あぁ。いいのに、別に。それよりも大丈夫?」
「だ、大丈夫です。もう、家に帰ろうと思って、最後にお礼だけ言っておきたくて」
「――そっか」
とお姉さんは一つ頷いて、
「そうだね。気をつけて帰るんだよ? 途中まで送ってあげようか?」
その言葉に、僕はもう一度首を横に振った。
「……大丈夫です」
「そう? もう無理をしちゃダメだよ?」
「はい。ありがとうございました」
僕はもう一度頭を下げて、
「それじゃぁ、さようなら」
「うん、じゃぁね」
お姉さんは軽く手を振りながら、僕に微笑んでくれた。
そんなお姉さんに見送られながら数歩歩いて、僕は振り向き、
「――あの、最後にいいですか」
「ん? なに?」
「……どうして、そんなに優しくしてくれるんですか?」
僕の率直な問いに、お姉さんはにっこりと微笑むと、
「さぁ、どうしてかな。私も誰でも彼でも助けるような善人じゃないけど、どうしても君のことをほっとけなかったの。なんでだろうね? それは私にも解らない。けど、もしまた何か困ったことがあったら会いにおいでよ。私にできることがあったら、できるだけのことはしてあげるから」
僕はしばらく、じっとお姉さんの顔を見つめていた。
その間、お姉さんもずっと僕に微笑みを向けてくれていた。
すごく綺麗な人だと僕は思った。
どこまでも優しくて、美しくて、魅力的で。
その輝くような姿に、僕はもう一度頭を下げて、
「……ありがとうございます。それじゃぁ」
「うん、じゃね」
もう一度手を振ってくれたお姉さんから、一歩足を踏み出した。
山里に戻った僕を、父母も兄弟も優しく迎え入れてくれた。
「仕方がないね」
「お前はよく頑張った」
「大丈夫、次はうまくいくさ」
「しばらくゆっくり休むといい」
仲間の優しさが、すごく嬉しかった。
けれど、山里に戻ってから数日しても、僕の頭からお姉さんの姿が消え去ることはなかった。
もう一度会いたい、会って話がしたい、仲良くなりたい。
お友達になりたい、恋人になりたい、結婚したい。
――ずっと一緒に居たい。
そんなことを思うようになっていった。
けど、僕は人じゃない、狸だ。
狸が人と結婚なんてできるはずがない。
けど、日に日にお姉さんへの想いは大きくなっていって、胸が苦しくて苦しくて仕方がなくて、ある日僕は、僕と同じようにその昔、町から出戻ってきた知り合いのおじさんに、そのことを相談してみた。
するとおじさんは教えてくれた。
「あの町のどこかに、楸真帆って魔女がいて、どんな願いでも叶えてくれるらしいぞ。一度相談してみたらどうだ? ほら、これを持っていけ」
そう言っておじさんがくれたのは、『魔法百貨堂 楸真帆』と書かれた小さな紙きれだった。
「この名刺が店まで案内してくれるそうだ。知り合いから貰ったものだが、俺は要らないからお前にやるよ」
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そうして僕は、期待を胸に再び町に向かって――
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