魔法百貨堂 〜歌と魔法の物語〜

ノムラユーリ(野村勇輔)

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魔法使いの弟子

第1回

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 微笑んで、私は微笑んだことを心の底から後悔した。

「げ」
 と思わず口にして、眉間に皺を寄せてしまう。

「ひさしぶり、アカネ」
 そこには、一人のいけ好かない女が立っていた。

 波打つブロンドの長髪に吊り上がった眉、サングラスをかけたその顔はやたらと化粧が濃くてけばけばしている。

 ふわふわのファーがついた真っ黒いコートに、同じく真っ黒のタイツと無駄に高いハイヒールが如何にも悪い魔女っぽい。

 事実、私にとっては悪い魔女以外の何者でもなかった。

 数年ぶりに目にしたその姿に、私はイライラを隠すことなく、
「――なにしに来たわけ? アイザ」
 つっけんどんに、そう口にした。

 アイザはサングラスを外しながら、
「何だかやたらとぼろい店ね」
 と私の質問には答えることなく、ニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 しばらくの間私たちはにらみ合っていたが、やがてアイザは小さくため息を吐くと、
「……別に、理由なんてないわ。あなたがここで働いてるってミキエから聞いたから、何となく様子を見に来ただけ」
 言って辺りを見回しながら、
「よくまぁ、こんなところで働けるわね。私だったら一時間も耐えられないわ」

「あんたにはそうでしょうともよ」

 真帆さんじゃないけど、舌打ちしてやりたくて仕方がなかった。

 アイザは腕を組みながら店の中を歩き回り、時折私の方に顔を向けては厭味ったらしい言葉を投げかけてきた。

 私はそのすべてを聞き流し、後ろの陳列棚の整理を(整理なんてする必要がないくらい綺麗なんだけれど)続ける。

 彼女の名前は房崎アイザ。

 イギリス人と日本人のハーフで、私が高校三年の夏頃に突然学校に転校してきた腹黒女だ。

 西洋的な顔立ちと妙な色香に惑わされた男子は数知れず。

 その正体は私と同じ魔女で、たった半年の間に私の彼氏だった神楽夢矢を誘惑し、ついには卒業と共に一緒にイギリスへ行ってしまった泥棒猫だ。

 あの時、私は空港まで神楽くんを追いかけていった。

 なんで私を捨てるのか、どうして何も言ってくれなかったのか。

 いや、そもそも神楽くんは、私たちの魔法の師匠であるおばあちゃん――神楽ミキエさんにも何も告げずに旅立とうとしていたのだ。

 搭乗ゲートへ向かう神楽くんに、私は叫んだ。

「お前は、可愛い彼女を捨ててその女を選ぶのか!」

 それに対して、神楽くんは物悲しそうな眼を私に向けながら、
「――僕を捨てて、魔法を選んだのは那由多さんの方じゃないか」
 そう言い残して、アイザと共に行ってしまった。

 そもそも私が魔法使い――魔女を目指すようになったのは、高校一年生の時、一目惚れした神楽くんが魔法使いだということを知って、だったら私も魔法使いになりたい! 将来の夢は立派な魔女になること! なんてわりと軽いノリで口にしたのが始まりだった。

 私と神楽くんは恋人同士となり、互いに切磋琢磨しながらおばあちゃんから色々な魔法を教わった。

 正直、神楽くんより私の方が魔法のセンスは良かった。

 神楽くんが四苦八苦しながら魔法の練習を繰り返すすぐ横で、私は別段苦労することなくその魔法を唱えることに成功する、そんな日々がずっと続いた。

 そのうち神楽くんは自分の魔法のセンスの無さに嫌気がさしたのか、何かと理由をつけては姿をくらますことが多くなっていった。

 そんな時に現れたのが、悪い魔女、房崎アイザだったのだ。

 アイザは元々おばあちゃんの知り合いのお孫さんで、何かの理由で(何だったのかもう忘れてしまった)おばあちゃんの家に半年間、居候することとなった。

 たぶん、それがすべての始まりであり、私と神楽くんの関係を終わらせるきっかけとなった。

 アイザは事あるごとに神楽くんに近づき、彼の自尊心を利用して私から神楽くんの気持ちを離れさせた。

 ……いや、私も自分の魔法の修業にばかり集中していた、それも事実だった。

 私と神楽くんの関係はアイザの手によってより悪い方悪い方へ転がっていき、そして。

「――夢矢は元気よ」

 唐突に神楽くんの名前を口にして、アイザはカウンター越しに私に顔を近づける。

 やたら鼻につく香水の香りが臭くて仕方がない。

 これ見よがしにしかめっ面をしてやるけれど、アイザは「ふふん」と鼻で笑うばかりで、
「本当は連れてきたかったんだけど、あの子、どうしてもあなたに会いたくないって」

「……私だって、あんな奴とは二度と会いたくはないわ」
 はっきりと、言い返してやる。

 私を捨てた男なんて、正直どうでもいい。

 けれど、そんな私にアイザは笑い声を上げながら、
「ホントに? それは良かったわ」

「何が?」

「だって、私と夢矢、結婚することになったから」

「――えっ」

 その瞬間、私の胸に、強く締め付けるような痛みが走ったのだった。
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