魔法百貨堂 〜歌と魔法の物語〜

ノムラユーリ(野村勇輔)

文字の大きさ
51 / 56
魔法使いの弟子

第4回

しおりを挟む
   4

「おばあちゃんのお孫さんですか?」
 つかさちゃんは首を傾げ、
「たぶん、来てないと思いますけど……」
 とどこか自信なさげにそう答えた。

 翌日、日曜日。

 お店のバイトが休みの私は、数か月ぶりに神楽のおばあちゃんの今の弟子、柊つかさちゃんのバイト先を訪れていた。

 つかさちゃんのパートナーで狸の少年?であるコタローくんは、その傍らでせっせと商品の陳列を手伝っていた。

 話によると、今ではつかさちゃんの『弟』として一緒に働いているらしい。

 コタローくんも性根が真面目なようで、なかなかにしっかり働いているのだとか。

 それにしても、人に化けられる(変身できる?)獣なんて、何度見てもやっぱりすごい。

 私はこれまでの人生で、コタローくん以外には人に姿を変えられる獣なんて見たことがなかった。

 真帆さんによれば、真帆さんのパートナーである黒猫のセロも、契約する前は人に姿を変えることができたらしい。だけど、契約によってその魔力が真帆さんに流れ始めてからは、人の姿にはなれなくなってしまったという話だ。

 もしかしたら、コタローくんも正式につかさちゃんと契約したなら、もう人の姿にはなれなくなってしまうのだろうか。

 そんなことを考えていると、
「でも、もし帰国していても、おばあちゃんのところには来ないんじゃないかと思います」

 私は首を傾げながら、
「どうして? だって結婚するんだよ? 挨拶くらいするでしょ」

「どうでしょう?」
 とつかさちゃんも小首を傾げ、
「だって、半ば家出みたいに、そのアイザさんって人と一緒にイギリスに行っちゃったんですよね?」

「……まぁ、うん」

「茜さんも怒ったでしょうけど、おばあちゃんはどうでした?」

「激怒してた。あんな奴はたとえ孫でも破門だって。帰ってきたらネズミにしてやるって」

 どこまでが本気なのか解らないけれど、ミキエおばあちゃんはあの時、たしかに怒り狂っていたのを私は鮮明に覚えている。

 普段はとても優しいのに、おばあちゃんは怒るとめちゃくちゃ怖い。

 いつだったか、神楽くんが魔法の修業をサボってただ友達と遊び惚けていたのがおばあちゃんにバレて、箒を振り回しながら神楽くんを追いかけまわした挙句、そのお尻を何度も叩いて数時間みっちり説教をする、なんて姿を見たこともあったくらいだ。

 私にはそんなことまでしたことはないのだけれど、勝手にクッキーをつまみ食いして叱責されたことなら何度かあった。

「でしょう?」
 とつかさちゃんは頷くと、
「私にも時々、夢矢さんの話を聞かせてくれますけど、やっぱりおばあちゃん、まだ夢矢さんのことを許せないみたいです。茜さんに申し訳ない、いつか必ず、ちゃんと謝らせないといけないって。夢矢さんもたぶん、そんなおばあちゃんの事をよく解っているから、怖くて会えないんじゃないですかね?」

「それは……そうだね」

 そう、夢矢くんは弱かった。
 何が弱いって、たぶん、心が弱い。

 今はどうか知らないけれど、記憶の中の彼はいつもどこか自信なさげで、優柔不断で。

 常に辛いことから逃れようとしている、そんな印象すら私にはあった。

 確かに、そんな奴がおばあちゃんのもとへ帰ってくるだなんて思えなかった。

 まぁ、この六年間で内面が変わっていたら解らないけど、何となくそんなことはないような気がした。

 だってそうじゃない?

 もし内面が変わっていたら、いの一番にあんな別れ方をした私のもとへ謝りに来るべきでしょ?

 アイザだって言っていたじゃないか。

『どうしてもあなたに会いたくないって』

 そう、そういうやつなのだ、神楽夢矢という男は。

 そんなくだらない男なのに、どうしてこうも私の胸に引っ掛かって、なかなか消えてくれないのだろう。

 私は小さくため息を一つ吐くと、
「――うん、わかった。ありがとね、つかさちゃん」
 可愛い妹弟子(って言ってもいいよね?)にお礼を言ってから、
「もしおばあちゃんのところにアイツが来たら、私に教えてね」
 つかさちゃんは小さく頷き、
「良いですけど、でも、会ってどうするんですか?」
 と訊ねてくる。

 私は右拳を軽く上にあげてから、
「とりあえず、一発ぶん殴る」

 それを聞いて、つかさちゃんは小さく笑ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...