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魔法使いの弟子
第4回
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「おばあちゃんのお孫さんですか?」
つかさちゃんは首を傾げ、
「たぶん、来てないと思いますけど……」
とどこか自信なさげにそう答えた。
翌日、日曜日。
お店のバイトが休みの私は、数か月ぶりに神楽のおばあちゃんの今の弟子、柊つかさちゃんのバイト先を訪れていた。
つかさちゃんのパートナーで狸の少年?であるコタローくんは、その傍らでせっせと商品の陳列を手伝っていた。
話によると、今ではつかさちゃんの『弟』として一緒に働いているらしい。
コタローくんも性根が真面目なようで、なかなかにしっかり働いているのだとか。
それにしても、人に化けられる(変身できる?)獣なんて、何度見てもやっぱりすごい。
私はこれまでの人生で、コタローくん以外には人に姿を変えられる獣なんて見たことがなかった。
真帆さんによれば、真帆さんのパートナーである黒猫のセロも、契約する前は人に姿を変えることができたらしい。だけど、契約によってその魔力が真帆さんに流れ始めてからは、人の姿にはなれなくなってしまったという話だ。
もしかしたら、コタローくんも正式につかさちゃんと契約したなら、もう人の姿にはなれなくなってしまうのだろうか。
そんなことを考えていると、
「でも、もし帰国していても、おばあちゃんのところには来ないんじゃないかと思います」
私は首を傾げながら、
「どうして? だって結婚するんだよ? 挨拶くらいするでしょ」
「どうでしょう?」
とつかさちゃんも小首を傾げ、
「だって、半ば家出みたいに、そのアイザさんって人と一緒にイギリスに行っちゃったんですよね?」
「……まぁ、うん」
「茜さんも怒ったでしょうけど、おばあちゃんはどうでした?」
「激怒してた。あんな奴はたとえ孫でも破門だって。帰ってきたらネズミにしてやるって」
どこまでが本気なのか解らないけれど、ミキエおばあちゃんはあの時、たしかに怒り狂っていたのを私は鮮明に覚えている。
普段はとても優しいのに、おばあちゃんは怒るとめちゃくちゃ怖い。
いつだったか、神楽くんが魔法の修業をサボってただ友達と遊び惚けていたのがおばあちゃんにバレて、箒を振り回しながら神楽くんを追いかけまわした挙句、そのお尻を何度も叩いて数時間みっちり説教をする、なんて姿を見たこともあったくらいだ。
私にはそんなことまでしたことはないのだけれど、勝手にクッキーをつまみ食いして叱責されたことなら何度かあった。
「でしょう?」
とつかさちゃんは頷くと、
「私にも時々、夢矢さんの話を聞かせてくれますけど、やっぱりおばあちゃん、まだ夢矢さんのことを許せないみたいです。茜さんに申し訳ない、いつか必ず、ちゃんと謝らせないといけないって。夢矢さんもたぶん、そんなおばあちゃんの事をよく解っているから、怖くて会えないんじゃないですかね?」
「それは……そうだね」
そう、夢矢くんは弱かった。
何が弱いって、たぶん、心が弱い。
今はどうか知らないけれど、記憶の中の彼はいつもどこか自信なさげで、優柔不断で。
常に辛いことから逃れようとしている、そんな印象すら私にはあった。
確かに、そんな奴がおばあちゃんのもとへ帰ってくるだなんて思えなかった。
まぁ、この六年間で内面が変わっていたら解らないけど、何となくそんなことはないような気がした。
だってそうじゃない?
もし内面が変わっていたら、いの一番にあんな別れ方をした私のもとへ謝りに来るべきでしょ?
アイザだって言っていたじゃないか。
『どうしてもあなたに会いたくないって』
そう、そういうやつなのだ、神楽夢矢という男は。
そんなくだらない男なのに、どうしてこうも私の胸に引っ掛かって、なかなか消えてくれないのだろう。
私は小さくため息を一つ吐くと、
「――うん、わかった。ありがとね、つかさちゃん」
可愛い妹弟子(って言ってもいいよね?)にお礼を言ってから、
「もしおばあちゃんのところにアイツが来たら、私に教えてね」
つかさちゃんは小さく頷き、
「良いですけど、でも、会ってどうするんですか?」
と訊ねてくる。
私は右拳を軽く上にあげてから、
「とりあえず、一発ぶん殴る」
それを聞いて、つかさちゃんは小さく笑ったのだった。
「おばあちゃんのお孫さんですか?」
つかさちゃんは首を傾げ、
「たぶん、来てないと思いますけど……」
とどこか自信なさげにそう答えた。
翌日、日曜日。
お店のバイトが休みの私は、数か月ぶりに神楽のおばあちゃんの今の弟子、柊つかさちゃんのバイト先を訪れていた。
つかさちゃんのパートナーで狸の少年?であるコタローくんは、その傍らでせっせと商品の陳列を手伝っていた。
話によると、今ではつかさちゃんの『弟』として一緒に働いているらしい。
コタローくんも性根が真面目なようで、なかなかにしっかり働いているのだとか。
それにしても、人に化けられる(変身できる?)獣なんて、何度見てもやっぱりすごい。
私はこれまでの人生で、コタローくん以外には人に姿を変えられる獣なんて見たことがなかった。
真帆さんによれば、真帆さんのパートナーである黒猫のセロも、契約する前は人に姿を変えることができたらしい。だけど、契約によってその魔力が真帆さんに流れ始めてからは、人の姿にはなれなくなってしまったという話だ。
もしかしたら、コタローくんも正式につかさちゃんと契約したなら、もう人の姿にはなれなくなってしまうのだろうか。
そんなことを考えていると、
「でも、もし帰国していても、おばあちゃんのところには来ないんじゃないかと思います」
私は首を傾げながら、
「どうして? だって結婚するんだよ? 挨拶くらいするでしょ」
「どうでしょう?」
とつかさちゃんも小首を傾げ、
「だって、半ば家出みたいに、そのアイザさんって人と一緒にイギリスに行っちゃったんですよね?」
「……まぁ、うん」
「茜さんも怒ったでしょうけど、おばあちゃんはどうでした?」
「激怒してた。あんな奴はたとえ孫でも破門だって。帰ってきたらネズミにしてやるって」
どこまでが本気なのか解らないけれど、ミキエおばあちゃんはあの時、たしかに怒り狂っていたのを私は鮮明に覚えている。
普段はとても優しいのに、おばあちゃんは怒るとめちゃくちゃ怖い。
いつだったか、神楽くんが魔法の修業をサボってただ友達と遊び惚けていたのがおばあちゃんにバレて、箒を振り回しながら神楽くんを追いかけまわした挙句、そのお尻を何度も叩いて数時間みっちり説教をする、なんて姿を見たこともあったくらいだ。
私にはそんなことまでしたことはないのだけれど、勝手にクッキーをつまみ食いして叱責されたことなら何度かあった。
「でしょう?」
とつかさちゃんは頷くと、
「私にも時々、夢矢さんの話を聞かせてくれますけど、やっぱりおばあちゃん、まだ夢矢さんのことを許せないみたいです。茜さんに申し訳ない、いつか必ず、ちゃんと謝らせないといけないって。夢矢さんもたぶん、そんなおばあちゃんの事をよく解っているから、怖くて会えないんじゃないですかね?」
「それは……そうだね」
そう、夢矢くんは弱かった。
何が弱いって、たぶん、心が弱い。
今はどうか知らないけれど、記憶の中の彼はいつもどこか自信なさげで、優柔不断で。
常に辛いことから逃れようとしている、そんな印象すら私にはあった。
確かに、そんな奴がおばあちゃんのもとへ帰ってくるだなんて思えなかった。
まぁ、この六年間で内面が変わっていたら解らないけど、何となくそんなことはないような気がした。
だってそうじゃない?
もし内面が変わっていたら、いの一番にあんな別れ方をした私のもとへ謝りに来るべきでしょ?
アイザだって言っていたじゃないか。
『どうしてもあなたに会いたくないって』
そう、そういうやつなのだ、神楽夢矢という男は。
そんなくだらない男なのに、どうしてこうも私の胸に引っ掛かって、なかなか消えてくれないのだろう。
私は小さくため息を一つ吐くと、
「――うん、わかった。ありがとね、つかさちゃん」
可愛い妹弟子(って言ってもいいよね?)にお礼を言ってから、
「もしおばあちゃんのところにアイツが来たら、私に教えてね」
つかさちゃんは小さく頷き、
「良いですけど、でも、会ってどうするんですか?」
と訊ねてくる。
私は右拳を軽く上にあげてから、
「とりあえず、一発ぶん殴る」
それを聞いて、つかさちゃんは小さく笑ったのだった。
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