魔法百貨堂 〜歌と魔法の物語〜

ノムラユーリ(野村勇輔)

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魔法使いの弟子

第3回

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   3

 神楽くんと別れてから、もう六年。

 この六年の間に、私は親に言われて(渋々)短大を卒業し、その後は真帆さんの家に居候しながらバイトとして魔法使いの修業に励んできた。

 二年前には魔獣(魔力を持った獣、いわゆる使い魔)であるキバタンのキコをパートナーとして契約し、あとは真帆さんの許可さえ下りれば、魔女として独り立ちできることになっている。

 真帆さんは「ずっとこのお店に居てくれていいんですよ」と言ってくれているけれど、それは私に店番をさせたいだけであり、自分は全魔協からの依頼を受けて、日本全国を旅行気分で飛び回りたいだけなのだということを私は知っている。

 真帆さんは、そういう人だ。

 もともと真帆さんと知り合ったのは、神楽くんのおばあちゃん、ミキエさんから惚れ薬のアンプルを定期的に届ける役目を仰せつかったのがきっかけだった。

 二週に一回程度の割合でこのお店を訪ねるうちに、何となく気が合ったというかなんというか、特に用事もないのに遊びに来るようになったのだ。

 最初のうちこそ神楽くんも一緒に来ていたが、私が真帆さんと談笑している間暇そうにぼうっとしていたり、いつの間にか先に帰っていたり、そんなことが増えていっていつしかついてくることもなくなった。

 思えばあの頃から、神楽くんは私を避けるようになった気がする。

 加えて私の方が先に先に魔法を習得していくのが面白くなかったのだろう、おばあちゃんに何度も怒られるうちに不貞腐れたように家を出ていったり、「友達と遊ぶ約束があるから」「補習があるから」「委員会の仕事が」などと言っては魔法の修業に顔を出さなくなっていった。

 当時の私はその事に対して、特に気に留めることもなかった。

「そうか、約束があるんなら仕方がないよね」
「補習? まぁ、勉強苦手だったもんね、仕方ないよ」
「今日委員会? うん、わかった、頑張ってね」

 そんな言葉を掛けるだけで、神楽くんの本当の気持ちには終ぞ気付くことはなかった。

 もう少し神楽くんに目を向けていれば。

 魔法にばかりかまけずに、もう少し恋人である神楽くんの事も見てあげていれば良かったんだろうか。

 後悔というほどではないのだけれど、そんなことを今でも思うことがあった。

 どこから想いの行き違いが生じていたのだろう。

 神楽くんを孤独にさせた私が悪かったんだろうか。

 あの時、神楽くんはいったいどんな気持ちだったんだろう。

 考えても考えても答えなんて出てくるはずもなくて、特にキコをパートナーにしてからのこの二年間、事あるごとに私は、
『神楽くんは今頃どうしているんだろう。私と同じように、イギリスで魔法の修業に励んでいるんだろうか。どんな獣をパートナーに選んだんだろう。やっぱり、おばあちゃんと同じネズミとかだったりして』
 なんてことを夜に突然考えたりすることも確かにあった。

 ……なるほど。

 真帆さんの言う通り、どうやら私の中で神楽くんの事はいまだにくすぶり続けているらしい。

 でも、それも仕方のないことじゃないか。

 あんな唐突な別れ方をして、しかもそれがぽっと出の、あんなプライドの高そうな女に奪われるような形とあっては、忘れられるはずがない。

 あの女の、昼間の勝ち誇ったような笑い声もやたらムカついたし、わざわざ私の所まで来て心の中を引っ搔き回していきやがって、到底許せるはずもない。

 ムッキー! って感じだ。

 ここにパンチングマシーンなんかあったら、今頃私は間違いなくそのマシーンを魔法を使って木端微塵にぶっ壊していたことだろう。

 それくらい、私は不機嫌になっていた。

 結婚? 神楽くんと?
 はっ! あんな情けない男、こっちから願い下げよ!
 いつも一人でウジウジして、失敗したら不貞腐れて!
 そんなの、私が悪いんじゃなくて、神楽くんの問題じゃない!
 それなのに、なんで私が思い悩んだりしなきゃならないわけ?
 バカバカしいにもほどがあるわ!

 私は頬を思いっきり膨らませると、ばたりとベッドに仰向けに寝転がった。

 この気持ち、どうしてくれよう。
 ただただ腹が立って仕方がなかった。

 昔みたいなどうしようもない感情が溢れてきて、止まらない。

 そこでふと、私はアイザが言った言葉を思い出した。

『本当は連れてきたかったんだけど、あの子、どうしてもあなたに会いたくないって』

『だって、私と夢矢、結婚することになったから』

 もしかして、わざわざこっちに戻ってきたのって、神楽のおばあちゃんにその報告をするためだったんじゃない?

 ってことは、神楽くんも今、この町のどこかに……?

 私は固く拳を握り締めると、じっと暗い窓の外に目を向けた。

 ──やっぱり、会いに行こう。

 私のこの気持ちに、けじめをつける為に。

 そして一発、引っ叩いてやるのだ。
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