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2 フルーツ味の豆腐⑦
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あれ以来、豆腐少女とは会っていない。
全人類(精神体やAIも含む)を1個の脳内ネットワークに編成した第6世代ソーシャルネットワークに接続してみたが、痕跡すら見つけられなかった。未来世界でも一期一会というものはどうやらあるらしい。
しかし、ニアはあの少女のことを忘れられなかった。
あの美貌。整形やMRによる補正が当たり前の時代において、それらを遥かに凌駕する完璧としか言いようのない美しさ。それに比べれは豆腐の腕前や多少の奇行など豆腐に乗せたネギや生姜ぐらいにしか過ぎない。
というわけで、妄想の世界で再現してみることにした。
妄想といっても仮想空間の中に再現した仮想体である。
犯罪捜査のモンタージュ写真を作るような感覚で作るのだが、生成AIを噛ませることで記憶よりも鮮明で実物よりもリアルな人間になるのだ。事実、完成した少女の仮想体を見たとき、ニアは「これはさすがに犯罪ではないか」と自らの倫理感が揺らいだ。
しかし、これが犯罪ではないのだから未来世界は度し難い。一方で現実と妄想を巡る倫理の議論は81年間のうちにとっくに議論され尽くされていた。そして、出た結論は妄想は個人の自由であり、現実に波及しない限りはどこまでも許されるということ。
だから、未来世界では―――たとえ喫茶店で数秒間横にいただけでもあっても―――気に入った異性を仮想世界で再現して性交も凌辱もありとあらゆる猟奇的な行為が許される。そもそもそれらは本物の脳内で誰でもできることなのだから。
仮想世界上で再現した豆腐少女は完璧だった。それは期せずして生き返らせた男が再構築した脳の記憶能力を証明したことでもあるのだが、そんなことはどうでもいい。
ヤバい、これはヤバすぎる!
月夜の露天風呂に佇む豆腐少女を前にしたとき、脳内はドーパミンがドバドバになり、耳の穴から漏れるかと思った。こんなにも興奮したのは、10歳のときに初めて成人向けのBLコミックを古本屋で買ったとき以来だろうか。
そして、あの夜、決して現れなかった選択肢を思う存分堪能したのである。
心地よい陶酔と背徳感に包まれながら、ニアは神奈川旅行で思いもかけず手に入れたお土産にほくそ笑んだ。しかし、ニアはそのとき知る由もなかった。何もかもが思考の外にあったあの月夜のあの出会いが、永遠の悪夢の始まりであったことを。
再現AIと最初に遊んで僅か6時間後、渋谷の定食屋で栄養補給をしたニアは馴染みのレンタルスペースで再び0Gボックスにインした。典型的なVS依存症の初期症状であることは薄々自覚していたが、無視する。
破滅するなら破滅するで、望むまでだ。
そんなことをぼんやり思いながら、再び仮想世界に入った瞬間だった。
突然、視界が反転した。
そして、意識が飛びかけるような強烈な痛みが頭部を襲った。あり得ない。仮想空間上でも痛みは感じるが、それはもちろん本物の痛みではない。現実感を近づけるための演出であり、現実の身体に影響を及ぼすことは一切ない、はずだった。
しかし、この意識が白むほどの衝撃と遅れてやってくる吐き気は何だ!?
不具合? バグ? 千々に乱れる意識の中でニアは考える。
とにかく一度ここから出ないと―――。
―――お姉さま、愛してますわ。
豆腐少女が眼前でにっこりと笑っていた。
まるで天使のような微笑。
それに見惚れる間もなく、今度は右側から衝撃が襲う。奥歯と顎が砕ける乾いた音。口中に流れ出す血潮の生温かくてぬるりとした不快な感覚。
石畳に倒れながら朦朧とする意識のなかでニアは見た。少女の小さな手が何かを持っていることを。それは1メートルほどのオールのようなものだった。
「嬉しい、またわたくしに会いにきてくださったんですね!」
恍惚とした表情のまま、少女が振りかぶる。ちなみにニアは知らなかったが、棒の名前は「エンマ棒」という。大鍋をかき混ぜるときに使うものだ。
「愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます!」
睦言が呟かれる度に硬い棒がニアの身体に愛した証拠を残していく。
ホワイトアウトした意識は思考を完全に停止し、結局そのときは0Gボックスから強制排出されるまで続いた。
そして、その次の日も、その次の日も、さらにその次の日も、少女の仮想体による凌辱は続いた。それどころか暴行はより凄惨なものになっていった。
さすがに美少女に昼も夜も殴り殺され続けるのにはウンザリしたのでニアは久々にBLのRPGを遊ぶことにした。RPGといっても勇者が魔王を倒すレトロゲームの類ではなく、文字通りの仮想世界のロールプレイングゲームだ。一昔前の生徒会を舞台にしたゲームで、プレイヤーは生徒会メンバーとなって4人のイケメンたちと学園生活を楽しむのである。
その日もニアは甘やかされ系生徒会長となって有能でイケメンな生徒会の仲間たちとともに学園の事件を解決すべくチヤホヤされていた。
そして、待ちに待ったご褒美イベントが始まったときだった―――。
「お姉さま、こんなところにいらっしゃったのですね♪ 探しましたわ」
生徒会室に立っていたのは全身を真っ赤に染めたあの豆腐少女であった。「なぜ」という間もなく、横に立っていた副会長が膝をつく。そして、赤くなった床の上でそのままピクリとも動かなくなった。
「―――っっ!!!」
「お姉さま、愛してますわ、愛しています、愛してます、愛しています!」
その後、様々なRPGを試してみた。
しかし、それがたとえ恋愛に一切関係のないジャンルであっても、豆腐少女が唐突に現れて殴り殺される結末に収束した。
全人類(精神体やAIも含む)を1個の脳内ネットワークに編成した第6世代ソーシャルネットワークに接続してみたが、痕跡すら見つけられなかった。未来世界でも一期一会というものはどうやらあるらしい。
しかし、ニアはあの少女のことを忘れられなかった。
あの美貌。整形やMRによる補正が当たり前の時代において、それらを遥かに凌駕する完璧としか言いようのない美しさ。それに比べれは豆腐の腕前や多少の奇行など豆腐に乗せたネギや生姜ぐらいにしか過ぎない。
というわけで、妄想の世界で再現してみることにした。
妄想といっても仮想空間の中に再現した仮想体である。
犯罪捜査のモンタージュ写真を作るような感覚で作るのだが、生成AIを噛ませることで記憶よりも鮮明で実物よりもリアルな人間になるのだ。事実、完成した少女の仮想体を見たとき、ニアは「これはさすがに犯罪ではないか」と自らの倫理感が揺らいだ。
しかし、これが犯罪ではないのだから未来世界は度し難い。一方で現実と妄想を巡る倫理の議論は81年間のうちにとっくに議論され尽くされていた。そして、出た結論は妄想は個人の自由であり、現実に波及しない限りはどこまでも許されるということ。
だから、未来世界では―――たとえ喫茶店で数秒間横にいただけでもあっても―――気に入った異性を仮想世界で再現して性交も凌辱もありとあらゆる猟奇的な行為が許される。そもそもそれらは本物の脳内で誰でもできることなのだから。
仮想世界上で再現した豆腐少女は完璧だった。それは期せずして生き返らせた男が再構築した脳の記憶能力を証明したことでもあるのだが、そんなことはどうでもいい。
ヤバい、これはヤバすぎる!
月夜の露天風呂に佇む豆腐少女を前にしたとき、脳内はドーパミンがドバドバになり、耳の穴から漏れるかと思った。こんなにも興奮したのは、10歳のときに初めて成人向けのBLコミックを古本屋で買ったとき以来だろうか。
そして、あの夜、決して現れなかった選択肢を思う存分堪能したのである。
心地よい陶酔と背徳感に包まれながら、ニアは神奈川旅行で思いもかけず手に入れたお土産にほくそ笑んだ。しかし、ニアはそのとき知る由もなかった。何もかもが思考の外にあったあの月夜のあの出会いが、永遠の悪夢の始まりであったことを。
再現AIと最初に遊んで僅か6時間後、渋谷の定食屋で栄養補給をしたニアは馴染みのレンタルスペースで再び0Gボックスにインした。典型的なVS依存症の初期症状であることは薄々自覚していたが、無視する。
破滅するなら破滅するで、望むまでだ。
そんなことをぼんやり思いながら、再び仮想世界に入った瞬間だった。
突然、視界が反転した。
そして、意識が飛びかけるような強烈な痛みが頭部を襲った。あり得ない。仮想空間上でも痛みは感じるが、それはもちろん本物の痛みではない。現実感を近づけるための演出であり、現実の身体に影響を及ぼすことは一切ない、はずだった。
しかし、この意識が白むほどの衝撃と遅れてやってくる吐き気は何だ!?
不具合? バグ? 千々に乱れる意識の中でニアは考える。
とにかく一度ここから出ないと―――。
―――お姉さま、愛してますわ。
豆腐少女が眼前でにっこりと笑っていた。
まるで天使のような微笑。
それに見惚れる間もなく、今度は右側から衝撃が襲う。奥歯と顎が砕ける乾いた音。口中に流れ出す血潮の生温かくてぬるりとした不快な感覚。
石畳に倒れながら朦朧とする意識のなかでニアは見た。少女の小さな手が何かを持っていることを。それは1メートルほどのオールのようなものだった。
「嬉しい、またわたくしに会いにきてくださったんですね!」
恍惚とした表情のまま、少女が振りかぶる。ちなみにニアは知らなかったが、棒の名前は「エンマ棒」という。大鍋をかき混ぜるときに使うものだ。
「愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます! 愛してます!」
睦言が呟かれる度に硬い棒がニアの身体に愛した証拠を残していく。
ホワイトアウトした意識は思考を完全に停止し、結局そのときは0Gボックスから強制排出されるまで続いた。
そして、その次の日も、その次の日も、さらにその次の日も、少女の仮想体による凌辱は続いた。それどころか暴行はより凄惨なものになっていった。
さすがに美少女に昼も夜も殴り殺され続けるのにはウンザリしたのでニアは久々にBLのRPGを遊ぶことにした。RPGといっても勇者が魔王を倒すレトロゲームの類ではなく、文字通りの仮想世界のロールプレイングゲームだ。一昔前の生徒会を舞台にしたゲームで、プレイヤーは生徒会メンバーとなって4人のイケメンたちと学園生活を楽しむのである。
その日もニアは甘やかされ系生徒会長となって有能でイケメンな生徒会の仲間たちとともに学園の事件を解決すべくチヤホヤされていた。
そして、待ちに待ったご褒美イベントが始まったときだった―――。
「お姉さま、こんなところにいらっしゃったのですね♪ 探しましたわ」
生徒会室に立っていたのは全身を真っ赤に染めたあの豆腐少女であった。「なぜ」という間もなく、横に立っていた副会長が膝をつく。そして、赤くなった床の上でそのままピクリとも動かなくなった。
「―――っっ!!!」
「お姉さま、愛してますわ、愛しています、愛してます、愛しています!」
その後、様々なRPGを試してみた。
しかし、それがたとえ恋愛に一切関係のないジャンルであっても、豆腐少女が唐突に現れて殴り殺される結末に収束した。
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