血みどろ兎と黒兎

脱兎だう

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①第二章 初めての学校に、初めての人間のお友達!

5友達になれたみたい。

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 それから簡単な入学式が終わり、初めての『下校』をする。今はその帰り道、柳下の三丁目にある住宅街だ。

「どうしてあれをつくろうとおもったの?」とろう君に聞かれ、画用紙が足りなくて作れるのが限られていたことを
 正直に話すと、彼はやはり話しかけても大丈夫だと視線を送っていたらしく、申し訳なさそうに「ごめん、つぎからはぼくからこえかけるね」と謝ってくれた。
 いや、話しかけなかった僕が悪いのだ……そんな謝らないで、と言っても聞かないので「じゃあいっしょにかえろう」と言い、今に至る。

「きょうのじゅぎょう、どうだった?」
「やったことないことばっかでむずかしかったなぁ、というか、なんかとちゅーからぼーそー!? しちゃったっていうかぁ~! うぅ」

 目を見開いて口だけ少し笑った彼は、どことなく「それ、自分から蒸し返すの?」なんて言いたげなように見えた。

「まあまぁ。だいじょーぶ、すごかったよ。せんせいもいってたけど、クールだよね」
「……クールって?」

 格好いいってこと。と教えられて見る見るうちに機嫌が良くなる僕。
 何故だろう、ブラビットが笑っている気がするのは。

『歩行者ボタン』を押して横断歩道を渡る。車が多いところではこれを押さないといつまで経っても渡れないとお母さんが言っていたのだが、確かに駅のある柳下通り周辺はヤバかった。
 何がヤバいって、車が止まらないのなんの。
 ボタンを押してパーのマークから歩く人のマークになってもカウントダウンが早くて「あー、ほんといやんなっちゃうよね、ははは」と少しキレ気味なろう君と「ねー、ほんとなにかんがえてんだろうねこれ、はは」と完全にキレている僕の図は相当面白かったのではなかろうか。
 けどこれでも杜介都とうかいとの中で田舎なのだから、都心はもっとヤバいんだろうな。
 車の通りが少なくなり、家までそう遠くない距離になったところで気が付いて、ふと足を止める。

「あ、そういえば。ろうくんもおうちこっちなの?」
「じつはまったくべつほうこう。さいっあく」

 最悪、と言った彼の様子から察するにあの歩行者ボタンでの苛立ちが僕の想像より遥かに耐え難いものだったらしい。
 一種の憎悪を感じた。

「えっ」

 まさか僕の為にわざわざ道を合わせて──? そしたらろう君様様だね? 有難すぎてびっくりしちゃうね。

 なんて唖然とする。彼は僕の顔を見てくすりと笑いを含めた口調で言う。

「じょうだんだよ、ここいってうんとさきにあるぼろーいおうちがぼくのいえ。びんぼうなんだ、ぼくんち。あ、びんぼうっていうのはおかねがないってことね」

「よかったー、ぼくにあわせてくれてたらどうしようかと……びんぼうなの? ろうくん」

 さらりと教えられた『貧乏』という言葉。突然の告白に意図せず言葉に詰まる。
 彼が再び歩き出したので、僕も彼に合わせて歩いて行く。

「このふくも、このランドセルも。みーんなおふるでつかいまわし。せいかつだけでいっぱいいっぱいだから、しかたないんだけどね。ただたまーにおかしとかたべたいなーっておもったりはするよ。もちろん、そんなぜいたくはできないし、いつもがまんしてるんだ」
「……ま、まさかうわさのでんせつの……げすいどうのワニにもであったの……⁉ ゆ、UFOユーフォーとか……」

「……くろとくん、それはホームレスになるまであえないとおもうよ……」

 『ホームレス』? 首を傾げて疑問符を浮かべる。するとブラビットが「貧乏よりも更に下の、完全にお金が無い者の総称です。確か住む場所も無いとか」と教えてくれた。なるほど、つまり金持ち>普通>貧乏>ホームレスの順なのか。

 つまり、ろう君の次の段階はホームレスでは──!? どの道ヤバくない……!?

「だからせつやくしてるんだよ。まだいえはあるしだいじょーぶ」
「そ、そっか……?」

 『節約』の言葉も教えて貰いました。お金をあまり使わないように努力すること、らしい。

 でもそっか、それなら確かに食べられないよなー、うーん。うーん。あ、そうだ、なら僕の家にろう君が遊びに来れば良いんだ! 

 これは我ながらいい提案では? と思った僕は両手でランドセルをしっかり握りながらにっこりと笑いかけた。

「それだったらぼくのいえにきてよ、いっしょにおかしたべよう!」

 いいの!? と目を輝かせて彼は僕の手を取る。甘い物が好きなのかな?

「……くろとくんはやさしいね。のいえにあそびにいくのなんて、ひさしぶりだな。しばらくあそべてなかったし」

 友達という言葉が出た瞬間、僕の中でやまびこのように反響する。何だって……? と、ととと友達だって……? 「えっ」と緊張して上ずった声を上げながらゆっくりと口にする。

「おともだちに、なってくれるの!?」

 僕はもう友達だと思ってるんだけど? と返され、飛び上がる。

 や、や、やったぞ! やったよブラビットー! 
 初めての人間のお友達だよー!

 早く言いたくてうずうずしてくる。きっと喜んでくれるに違いない、と辺りを見ても姿が見えなかった。ひょっとしたら、水を差すといけないと思って隠れているのかもしれない。
 僕は興奮が収まらぬ内に思いの丈をへたっぴな『世界共通言語しゃぱにーず』でぶつける。

「ぼ、ぼくはじめてなの。ろうくんがはじめての、おともだち!」
「お、はじめてだったのか! ぼくも、しょうがっこうでのはじめてのともだちがくろとくんだよ」

 つまり小学校以前はお友達いたんだ、やっぱり凄いなぁろう君は。
 誰とでもすぐ打ち解けそうというか、何というか。
 尊敬の眼差しで見つめながら「なまえよびでいいよ、よろしくね!」と言うと「あらためて、これからよろしく。せきくん」と返してくれた。
 何か困ったことがあったらすぐ呼んでくれていいよとまで言ってくれる彼に、少し感激する。

「ただいまー!」

 午後三時を告げる時計のチャイムが玄関まで響き渡ってくる。
 家に着いたのは丁度三時ぴったりということだから、これは遅くも早くもなく、正に丁度良い時間だ。お帰りなさい、と出迎えてくれるお母さんに夕食のメニューを聞いた後、すぐに階段を駆け上がって自分の部屋の扉を開け、ベッドに向かってジャンプをする。
 ぼふっと音が鳴って柔らかい布団がお帰りなさいと言わんばかりに包み込んでくれる。次第に僕は眠くなって──じゃない!

「(ブラビット!)」

 名前を呼ぶと、やはり空気を読むという行為をすべくして姿を消していたのだろう、
 すぐに僕の前へ影が伸びるようにして現れた。

「(あのね、にんげんのおともだちができたんだよ! ぼく、ちゃんと、できたよ!)」

 きっと喜んでくれる、そしたらきっと笑ってくれる。僕の期待とは裏腹に、彼女の反応は予想とは違った。

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