芥川繭子という理由

新開 水留

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53「白き蟷螂」

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ノイズの酷い、荒く古ぼけた映像がある。
斜め上から見下ろす形で、恐らくは天井に設置されたカメラで撮影された物だと思われる。
画面奥、鉄製の防火扉の前に一人の男が立っており、5メートル程離れた正面に立つ女性の後ろ姿が映っている。背を向けている女性はもちろん、男の顔もはっきりとは識別出来ない。男は自分の右胸辺りを握って立ち、微かに頭部が動いている。しかし女性の方は微動だにしない。2、3分動きのないそのままの状態が続き、やがて女性の背後から三名の男性が現れて男の方へ詰め寄った。



2017年、1月下旬。
バイラル4スタジオ、会議室にて。
長机を挟んで3対1の構図で座る、繭子を除いたドーンハンマーと、URGAの座談である。
URGA(U)×ドーンハンマー・池脇(R)、伊澄(S)、神波(T)。


U「年末の少し前に、事務所の大掃除をした時にDVDを見つけて。…そうか、今なんだなって思って。だけどタイミングを逃したまま時間だけが過ぎて、今日ようやくここへ来て、話をしようと決心しました。竜二君。クリスマスの朝に、二人で話をした時に、一度だけアキラ君の名前が出たでしょ。竜二君はあの時の会話を覚えてる?」
R「…」
U「覚えてない?」
R「…繭子の前にドラムを叩いてたって話か?」
U「うん」
R「覚えてるよ。それが?」
U「あの時、私『アキラくんでしょ、知ってる』って返事したんだけど、竜二君は何も感じなかった?」
R「何もって?」
U「違和感みたいなものは、なかった?」
R「え、何の話してんだよ」
S「お前無駄に顔が怖いぞ。どういうのを違和感って言ってんの?その時のあんたの様子?言葉?」
U「言葉(笑)」
S「知ってるってことがか?」
T「別に…、変じゃないと思うけど」
U「そうなのかな」
R「…」
S「え?」
T「なんだよ、俺頭悪いから全然分からないんだけど(笑)」
U「難しい話では、ないよ」
S「今思った事なんだけど。例えばさ、俺に関して言えば、実際にあんたと顔を会わせて話をしたのは、去年のアルバムを手伝ってもらったあの時が、実は初めてなんだよ」
U「そうだったね」
S「…そういう話?」
R「アキラには会った事があるって言いたいのか?」
U「うん」
T「ええっ?」
S「えー」
R「ウソだよな?あいつが死んだのはもう10年も前だぞ?」
U「うん。ウソじゃない」
R「そんな事今まで一度も言わなかったじゃねえか。あいつからも聞いた事ねえしさ。一体なんの話をしてんだ?」
S「なんで今まで言わなかったんだ?」
U「言えなかったんだよ。言わなかったんじゃなくて、言えなかったの」
R「ちょっとちょっと、ちょっと待てって、本当の話をしてんのか?本当にアキラと会った事あるってのか?見かけたとかそういう事じゃなしにか?」
U「うん」
S「え、ごめんな。それは、誰の何に関する話だ?」
U「アキラ君と、竜二君かな」
(伊澄と神波が真ん中の池脇を越えて顔を見合わせる)
S「席、外した方がいいんじゃないか?」
U「ううん、大丈夫。…大丈夫だと思う」
R「あはは、混乱して来た。なんかちょっと怖えんだけど」
U「その年末に見つけたDVDの中身っていうのはね、実は防犯カメラの映像なの。まだ私が以前の事務所で歌っていた頃の話。映像に記録されていた日付を見たら、2002年の、11月17日だった。なにか、意味があると思う?」
S「17日?」
T「それって」
R「ノイが死んで2日後だ」
U「(大きく息を吸い込み、長くゆっくりと吐き出す)。そういう事なんだね。それは流石に知らなかった。私も今初めて知った」
R「なんだよ。え、ノイが死んだ2日後に、アキラと会ってるってそう言いたいのか?」
U「うん。そうみたいだね」
R「話したのか?」
U「うん」
R「その映像ってのには音声も残ってんのか?」
U「ううん。テレビ局の駐車場に出る廊下の物だから、本当に記録用のカメラ映像。音はないの。あのね、昔私をマネージメントしてくれてた人が、もし何かあった時に証拠になるかもしれないからって、局に頼んで貰ったものだったみたい。今私の事務所の社長をしている、母からはそう聞いた」
R「アキラ、何かやらかしたのか」
U「ううん。怖い事は何も。強いて言えば、許可なくテレビ局に入った事は、まあ許されないかな(笑)」
S「14年前か。一応前の4人の時代ではあるな」
T「…」
S「アキラは、あんたに会いに行ったのかな」
U「うん」
R「え、なんで今まで言わなかったんだよ」
U「だから。言えなかったんだってば」
R「どういう事だよっ」
S「うるせえな。どういう話をしたのか、覚えてる事を伝えに来てくれたってこと?」
U「うん。年末にそのDVDを見返して、鮮明に思い出したよ。アキラくんね。私の前に姿を見せた時にはもう、少し泣いてたんだよ。あまり上手ではない、使い慣れていない感じのする敬語で、だけど力強い目で、私に言ったの」


『初めまして、善明アキラと言います。僕はここから一歩も動かないので、話だけ聞いてください。あなたはデビュー以来、とても温かい素晴らしい歌声で、多くの人間の心を震わせているんだと、いつも聞かされています。もし、この先、いつか、この先、そんなあなたの前に、…池脇竜二という男が現れる事があったら。もし、その男が、あなたの目の前に立つ事があったら、その時はどうか、どうか、たった一度でも良いですから、その男の事を見てあげて欲しいのです。池脇竜二という男の頑張りを見てやって欲しいのです。もしかしたら、現れないかもしれません。その時は忘れて下さい。突然の事で、失礼な事をしていると分かっています。でも、もし、もしあいつがあなたの前に立った時は、…その時は思い出してほしい。そして、その時あいつはきっと、…きっと死ぬほど頑張ってるはずだから、笑顔で、その、あいつの頑張りっていうものを、見てやって欲しいのです』


R「…」
T「何だよそれ…」
S「…」
U「…当時私は、目の前に現れた善明アキラという人も、池脇竜二という人の事も知らなかった。駆け付けたスタッフとマネージャーが間に入って、その場は無理やり引き離されたから、その後彼がどうなったかは知らない。それに、その後彼の顔と名前が完全に一致したのは、彼が亡くなった後だったの」
R「…」
U「同じレコード会社という事もあって、周りにあなた達のファンもいたから、若くして亡くなった事は自然と耳に入って来た。だけどその時私はもう既に、大切な人と出会っていたし、あまりにも急な出来事で何をどう受け止めていいのか分からないのもあって、アキラくんの言葉を真剣に考える余裕はなかった。彼が亡くなったと聞いた時、同じバンドのメンバーに池脇竜二という男性がいる事を知った。自分なりに向きあうべきかどうか、考えてはみたけれど、その時にはもう私の中で現実味が薄れていた事もあって、結局は理解をしないまま時間はあっと言う間に過ぎていった。だから今でも、彼が亡くなった事に対して少し後ろめたさを感じる」
T「え?」
R「なん」
U「私がたった一歩を踏み出して、どういう事だったのかと話だけでも聞きに行っていれば。直接私が行くんじゃなくたっていい。そういう冷静な判断をしていれば、彼の思いを10年以上も眠らせる事はなかったんだと思うと」
R「いっ」
U「それが! …良いとか悪いとかじゃなくて」
R「…」
U「彼が亡くなった事で私の中では、解明されることのない不思議な体験として、小さなしこりが胸の中にあり続けた。今から数年前、私のコンサートを見に来てくれていた大成君とオリーと知り合えた事で、ドーンハンマーの存在が私の中に居場所を作った。少し、ドキドキした。だけど実際には一昨年、オリーに誘われてこのスタジオへ招かれて、そこで初めて真正面から池脇竜二という男の絶唱を聞いたのが最初。ドーンハンマーというバンドの熱気を浴びたのも最初。その時私は素直に、凄い人、凄い人達がいるなーって、そう思ったよ。嬉しかった。前にも言ったけどさ、どこか私に似てるなって思ったし、大きなものを背負ってる人の横顔だなって思って、嬉しかったんだよ」
R「(小さくため息)」
U「誤解しないでほしいのは、あなた達4人の音を体で感じた時に抱いた衝撃は、お伝えした通りウソ偽りはないし、嫉妬して、打ちのめされて、たくさん考えさせられる切っ掛けにもなったし、今の私の糧となった事は間違いありません。だけど、そこにアキラくんの言った言葉の意味が、全く影響しなかったかと言えば、それもゼロではないと思う。特に、やっぱり竜二くん。14年目にしてようやく、真正面からあなたの歌声と人柄を感じた時、そりゃあやっぱり、初めて会った気がしなかったよ。こういう人が実は、私の意外とすぐ身近な所にいたんだなあっていう驚きと、ああ、あの時のアキラ君が私に何か、思いを託そうとした人が、今目の前にいるんだっていう、懐かしさと、ようやくと言う思いを感じた。でもその時はまだ、竜二君が大切な人を失っていることを私は知らないし、言い方は色々だけど、あなたが自ら私の前に立ったわけでもなかったから、アキラ君との事は言えなかった。きっと、あなたには誰かいい人がいるんだろうし、失ったとはいえ、私の中にも大切な人はいる。だから、言えなかったんだよ」
R「…」
T「(乱暴に涙を拭く)」
U「それに、核心的な事は聞けず終いだったし、私の前に立つという言葉の本当の意味だって、私には判断がつかなかった。ところがだよ。自分でもびっくりだよ。去年、あの日、竜二君は他には言いようのない意味で、私の前に立ってくれたよね」
R「…」
U「オリーから妹さんの事を聞いて、『END』を一緒に歌って、そして時枝さんからの依頼であなたとの対談が決まった時、近づいてくる運命の足音を聞いた気がした。それは単なるあなたのブーツの音だったのかもしれないし、私の心臓の音だったかもしれない。対談が始まってからも、今日言おうか、今言おうかと迷いながら、それでも私はまだ悩んでた。だって、もしかしたら竜二くんはすでにアキラくんからその話を聞いちゃってるのかもしれないし、皆知ってる話なのかもしれないって思ったら、あえてカメラの回ってる前で、今言うべき事じゃないのかもしれないって、そう思ったの。だから、対談の最中に、アキラ君の事知ってるよって言ってみたんだけど、竜二君はそこで立ち止まらずに通り過ぎた」
S「…」
T「(涙を拭う)」
U「…あの日、二人でたくさん話をしたね」
R「(何度も頷く)」
U「何ひとつ、私、ウソ言ってないよ」
R「ああ」
U「最後の最後、真剣な目をした竜二君が立ち上がった時、私は照れて笑っていたけれど、本当は、胸が張り裂けそうだった。色んな人の思いがぐるぐると私の中を駆け巡った。その中にはもちろんあの時のアキラ君もいて、泣きながら私に訴えかけた言葉がよみがえって来た。『その時あいつはきっと、きっと死ぬほど頑張ってるはずだから、その頑張りを見てあげて欲しい』」
R「(両手で顔を覆う)」
U「本当は、私達二人ともが、こうなる未来を望んでたわけじゃなかったよね」
S「(URGAから視線を外す)」
U「2年前。あの人がこの世からいなくなって私一人が残された時、喉が千切れても構わないと思った、心の底から愛してるよって叫んだ、その気持ちは今も消えずにここにある。それでも、たった一度しか会えなかったけど、アキラ君の涙と言葉も私の中からは消えなかった」
R「(涙を拭う)」
T「(俯いている)」
U「クリスマスの対談で、竜二君が私に言ったの」

『もっとやれる、もっとだ、もっと!って常に思ってる気持ちの先端部分はきっと、歪んでイビツな形をしてるだろうなって』

U「あああぁ、この人は一体どれ程の悲しみに耐えて、今日まで生きてきたんだろうか。アキラくん、私ちゃんと見てるよ、今ちゃんと竜二君が目の前にいるよ。私をここまで育ててくれた大切な人にもありがとうを言いたい。今私と、竜二君の中にはとてつもない悲しみと葛藤しかないけれど、それでも、私達は今向かい合ってここにいるよって。叫び出しそうで怖かった」
R「(涙を拭う)」
U「アキラ君が私の前に現れるほんの二日前に、竜二君は大切な人を亡くしていたんだね。あの時の私には知りようもない事だったけれど、全てがつながった今あの時のアキラ君の顔を思い返すと、背筋が凍る思いがするよ。本当に彼も凄いと思う。自分だって大切な友達を亡くしたばかりなのに、それなのに彼は、いつ現れるかも分からない友達の事を私に託して行ったんだよね」
R「…」
T「…」
S「…」
U「あの日から、あなたはずっと今日まで、大声で叫び続けていたんだね。自分の時間に置き換えるとよく分かる。本当に長い間、よく、頑張ってこれたねえ。アキラ君の希望通りの、とても笑顔ではいられないけれど、私は竜二君を心から尊敬する。あなたは誰にも負けない素晴らしい人だと思う。素晴らしい友に、素晴らし家族に恵まれた、素晴らしい歌うたいだと思う。それが、出会ってからこれまで私が見て来た、あなたの頑張りです」
R「(押し殺した声が漏れる)」
T「…」
S「…」
U「『いろどり橋』で、アキラくんのお母さまにお会いして、我慢なんかしちゃだめだって言ってもらえた事も。きっと、たった一日だって恋人を忘れた事はないんだろうなって思える竜二君の人柄も。あなたの常に側にいて、一緒に泣いて笑って生きて来た翔太郎君や大成君と出会えた事も。今のURGAを一緒になって作り上げてくれたあの人も。私は会った事はないけれど、竜二君の隣に今もいる素敵な女性の存在も。全部、全部、大切だね」
R「(何度も頷く)」
U「私達、きっともう十分幸せだよね」
R「…ああ。間違いねえな」
U「そういう意味では竜二君こそが、『白き蟷螂』だったね」
R「はっ。そんな大層なもんじゃねえよ。何より、辛い事や苦しい事に耐えて来たのは俺だけじゃねえから。こいつらだって皆そうだ。確かにノイは俺にとって掛け替えのない人だった。でもそれは同時にこいつら皆にとってもそうなんだよ」
U「うん」
R「俺達は色んな物を失い続けて生きてきた。だけど、だからって俺達は一度も何かを我慢したことはねえよ」
U「…そう?」
S「(俯く)」
R「だから…俺はあんたを」
U「…私を?」
R「…」
T「ああああ」
R「…」
T「外でやってくれる?」
S「(こらえ切れず、爆笑)」
U「(涙を拭いながら、笑って視線を外す)」
R「…ああ、お前らまだいたのかよ」
T「クソがぁ。ああああ(両手で涙を拭いながら)、こんなの完全に貰い事故だわ」
U「確かにそうだね(笑)」
T「泣いたー、あああ、もう!」
R「ははは、(鼻をすする)。あああ、でも、聞けて良かったよ。うん」
S「あの野郎はなぁ」
U「でも、3人のリアクションを見る限り、皆知らなかったって事だね、結局ね」
T「知らなかった。なあ?」
R「ああ」
U「…翔太郎君も?」
T「…」
R「あ?」
S「…いや。ホント、つくづくあいつ、生きてんなあーって思って。アキラ」
R「(荒々しく両手で顔をこする)」
T「ふふ」
S「あいつ本当何なんだよ(笑)。うん、俺も知らなかったけどさ、でもよく言う気になったなぁ。14年間黙ってた事を言い出す勇気って相当なもんだよな。別にさ、余計な誤解を招く恐れもあったわけだし、言わなくたって良かったって見方もあると思うよ」
U「うん。実はね、繭ちゃんのおかげなんだ」
S「繭子?」
U「昨日うちに来てくれてね、たくさんお話をしたの」
S「へー」
U「電話がかかって来てね。私のお家に呼んで、二人でいーっぱい話をした。本当言うとね、翔太郎くんの言うように、もしかしたらこのまま黙っていた方が良いのかもって、私の中ではちょっとそっちに傾きかけてたんだよ」
S「俺でもそう思うよ」
U「あなたなら墓場まで持って行ってくれそうだね(笑)。それに、せっかく竜二君と腹割って思いのたけをぶちまけたのにさ、そういうの全部ひっくり返るんじゃないかっていう怖さも、うん、あったしね」
S「あ、それで俺らも同席してるわけか。フォロー要員として」
U「…相変わらず頭良いなぁ!」
R「あははは!」
T「なるほどねえ」
S「出来が違わぁな。こんな筋肉ダルマ焼酎と一緒にしないでくれるか?」
R「あははは!(嬉しそうな笑顔)」
U「えー、怒って良いと思うけど。普通そこは笑わないと思うんだけど。君達ってホント独特だよねえ(笑)」
T「ふふ。それで、繭子なんて言ったの?」
U「ああ、うん。具体的な話の内容は言えないけどね。繭ちゃんの、竜二君に対する思いとか、昔から私に対して抱いてくれていた思いを聞かせてくれたの。やっぱり、物凄く良い子だね」
R「ありがとう」
U「一つ私の方から意地悪な質問をしてみたの。竜二くん達と一緒に生きてて、困る事はないの?って」
S「うん」
R「そりゃ一杯あるだろうな」
U「ないんだって」
R「え?」
U「ないんだって(笑)。一つも?って聞いたら、ないですって。即答するからさ、『ん、なんかこの子意固地になってないか?』って思ってもうちょっと突っ込んで聞いてみたりもしたの」
R「うん」
U「だってさ、好き嫌いの問題じゃなくてさ、男と女なわけでしょ。あえて恋愛の話は置いといてもさ、もう絶対的な属性の差っていう物があるわけだから、何か一つや二つくらい、困った事にもなるでしょうって」
R「あるだろ」
U「ないんだって(笑)」
S「あはは!あー、もう」
T「繭子らしいね」
U「でもよくよく聞いて見るとさ、理解できる気がしてさ」
S「何でだよ。あいつ人丸め込むの上手いからなあ」
U「そんな言い方しない(笑)」
T「話盛るしねえ」
S「そうなんだよ、誰に似たんだかさあ」
R、T「お前だよ!」
U「(一瞬面食らって、爆笑)」
S「うるせえなあ。でもさ、フォローすんのも変な話だし言っていいのかもちょっと迷うけどさ、別に俺達だってないよな?」
R「(考える様子)」
T「あー、確かに」
U「なんでちょっと迷うの?」
S「だってそれは俺達が困った事にならないように繭子が気を使ってくれてるって事だろう。それを無視して、別に俺らも困ってねえよなんて言ってたら、すげえ馬鹿な大人って事になるんじゃないの」
R「あー、はいはい」
U「…すごっ」
S「ん?」
U「もうね、全く同じ事言ってたよあの子。え、2人は何、付き合ってんのか?」
S「ふふ」
T「(URGAを見ながら)今日イチ怒ってんじゃん」
R「あははは!」
U「もー、だからなんでそこで笑っていられるのよ、君は(笑)」
R「はー、お腹痛い。なんか良いなと思って。URGAさんとこいつらが笑って絡んでる姿をこんな間近で見られて、すげえ不思議だもんなんか。今でもちょっとウソなんじゃねえかって思うし」
U「またその話かあ?」
T「俺もそれ分かる。お互いそうなんじゃないかな。だから俺なんかは織江を挟む機会が多いから、今はもう話してる時にそこまで緊張とかないんだけど、翔太郎や竜二と親し気に話してるのを見てると、いまだになんかぐっと来るんだよね」
R「分かる」
S「分かる分かる。最初はめちゃくちゃ緊張したけどな、今はもうなんていうか、この人も相当気を使うし場の空気をうまい事コントロール出来る人だから、自分自身が話をするだけならすぐ慣れるんだよ。でも他の奴らと絡んでる姿はなんか、ぐっと来る」
R「分かる。いや、俺は俺で、自分が話してても時々ぐっと来るけど」
U「もう新曲作れ!『ぐっと来る』っていう新曲作れ!」
(一同、笑)
U「でも本当、凄いよね。繭ちゃんもさ、そう言ってたんだよ。私は何も考えずにただ楽しく生きてます。それでいて困った事にならないのは、私が何かを我慢してるわけでも避けてるわけでもなくて、あの人達がひたすら優しくて気を使ってくれてるからだと思いますって。凄いなーと思って。どういう関係性を築けばこんな風に言えるんだ?って、教えてもらいたいくらいだよって。そしたらさ、彼女言うわけ。大切な物とか大切な人って、そんなに一杯ないですからねって」
R「どういう意味?」
U「そこがどういう意味って言う話よりもさ、彼女の中にあるそう多くはない大切な事意外はどうでもいいんだっていう心の広さとか器の大きさみたいな所が、凄いなあと思うんだよ」
R「ああ、うん」
U「それってさ、きっと私なら相手を睨んじゃうような場面でも繭ちゃんなら全然気にしないでいられるって事なんだと思うの」
R「…うん、そうなのかな(笑)。分かんねえけど」
U「それと同時にね、きっと君達もそうなんだろうなって思った」
R「いやあー?」
T「っはは、自分達を器の大きな人間だと思った事は生まれてこの方一度たりともないけどね」
S「あははは!ないない、あるわけがない」
U「えー、でもそれでいてさあ、お互いを傷つけずに同じ時間を生きていけるってどうなのよ。凄すぎない?人間どこかしらで我慢を重ねて生きて行くものだし、そのおかげで強くなる部分だってきっとあるでしょ。皆が皆同じ方向を、向こうと思ったって向けるわけじゃないし」
S「んー」
R「(天井を見上げて考える様子)」
T「(池脇と伊澄を見やって)言ってもいい?」
S「どうぞ」
R「よろしく」
U「あはは」
T「誠の話なんだけどね」
S「(苦笑)」
R「(頭頂部を指で掻く)」
U「(ニコニコしながら)うん」
T「全然関係ない話かもしれないけど、今あのグレープフルーツの話思い出して」
S「(突然吹き出して笑う)」
U「なんだなんだ、そんなに面白いの?」
R「あー(嬉しそう)」
T「もう大分前の話なんだけど、誠が実験した事があって。それは何かって言うと、香水の代わりにトイレの芳香剤みたいな強烈な匂いを漂わせて俺達の周りをウロウロしたらどんなリアクションをされるか、みたいな事なんだけど」
U「(声を上げて笑いたいのを遠慮しながら)随分と、変わった子だね」
T「ありえないぐらいのインパクトなんだよ。普段誠がそんな風になる事まずないからさ、あれ、何だこの匂いは、何かの間違いじゃないかって、ちょっと信じられなくて」
R「あれグレープフルーツなのか。もう超臭いんだよ、まじで半端ないぐらいの、寄るな!触るな!ってぐらいの、酸っぱいし、苦いし、鼻が痛えし、何か、刺激臭?」
U「だろうねえ、だって等身大トイレの芳香剤でしょ?」
S「物が何なのか分からないんだけどな、例えるならそんな感じ」
T「何かね、普段の俺達って実は、そんなに、ギャーギャーとスタジオ内で喋ってるわけじゃないんだけど、さすがにこれは皆からガンガンに突っ込まれるだろうって、盛り上がるだろうなって、あいつもそれを期待しての事だったらしいんだけど」
U「ふふ、うん」
T「だーれもなーんにも言わなかったんだって」
U「何もって、何も?無視って事?」
T「うん。結果的にそうなって」
U「なんで!?」
T「まず俺と織江はね、ありえないって分かっててもさ、もし万が一誠がそれを良いと思ってたり、好きだと思ってたりするかもしれないから臭いとは言えないってなって。何か不可抗力的な事があったのかもしれないし。相手は年頃の女の子だから、これって何の匂いって聞く事すら出来ないって(笑)。勘のいい子だからね、それだけで傷つくんじゃないかって。それに、例えここで黙ってたって翔太郎が何か言ってくれるだろうから、俺達は黙っていようって」
U「優しいー。さすがだね」
T「でも結局その後竜二も繭子も何も言わないし、翔太郎もな?」
S「うん、その日は、うん。言ってない」
U「それは翔太郎君も大成君と同じ気持ちでってこと?」
S「うーん、…どっちかって言うと俺は、面倒臭いなと思って」
U「はあっ!?」
R「あはは!」
S「こーわ。おい(池脇を肘で突く)」
U「なんでそんな事言うのよ。え、言ってないよね?」
S「本人に?言ってはないけど、別にそんな事くらいで俺は何にも思わねえもんだって」
T「(両腕を広げて見せる)これぞ、我らが伊澄翔太郎でございます」
S「汚なっ!」
T「いやー、俺これ良い話だなと思ってて」
U「あはは、なるほど。その程度の事は何も問題にしないよって?…ははー(笑)」
T「だから、臭いとか変な匂いとか、相手がどういうつもりでとか、そこを全く見ないでいられるぐらいの関係だったり、お互いの人間性だったりも重要だけど、本当ありえないぐらい強烈だったあの日の誠を見ても『まあそれはそれとして』って明らかな欠点をどこかへ押やれる凄さってのを、俺と織江は感じたんだよね。今繭子の話しててそれ思いだしたんだよ。なんか、そういう事なんじゃないかなって思って」
U「いいねえ。結構器大きいじゃないかー、このこのー」
S「いやいやいや、待てって。そりゃどっちが優しいんだって話になったら圧倒的に大成だと思うぞ、俺は」
R「あはは、俺もそう思うわ」
S「なあ?」
U「んんー(笑)。私はちゃんと言ってあげるのが優しさだと思っちゃうかも」
R「うん、だとしても言う人間って大事なんじゃねえかな。俺が言うと傷つくかもしんねえけど、こいつ(伊澄)だったら誠も平気だろうな、とか」
U「なるほど」
S「だから面倒なんだよもう、そんな事」
R「台無し(笑)」
U「(笑)」
S「世間の流行とか全然疎いからさ、あいつが『これ流行ってるんだ』って言えばそんなもんかと思うし、俺が臭えって思ってても世の中には受け入れられてるのかもしれないだろ。そんな事いちいち考えるのも面倒くさい。そんな事で何も変わらないって」
U「でも超ー!臭いんだよ、自分の恋人が」
S「うん、だからそこを面倒臭いと思って取り合わない俺よりもさ、あいつ頭おかしいんじゃねえかなって心配してやってる織江の方が優しいだろ?」
R「あははは!」
T「んな事言ってねえから(笑)」
U「あー、そっかそっか。でも、実際どういう心境になるの?そんな、嗅いだ事ないけどありえない程臭い事に気づいた瞬間って」
S「いや、本当、何も。そりゃあドブ臭いとかなら言ったかもしれないけど、そこがグレープルーツってのがあいつの詰めの甘さだよな。自分を殺しきれないというか」
T「お前、厳しいなあ(笑)」
S「はは、でもそれより強烈だったのがさ、『最終的にただの臭い女として一日が無駄に過ぎた』って言ったあいつの一言が一番笑った。そん時の悲しい顔見た時、俺アキラより面白い奴初めて見たって思って」
(一同、爆笑)」
S「でもこれ繭子の良い話と全然繋がらないと思うけど」
U「そんな事ないよ。同じだと思う」
T「だろう?」
S「そうかあ?」
U「うん。繭ちゃんも言ってたようにね、本当に譲れない事以外はどうでも良いと思ってるからそんなに簡単に傷つかないし、お互いがお互いをちゃんと大切に思い合ってる事もうまく作用して、何も問題が起こらないっていう事なんだろうね。起こってたとしても、気にも留めないっていうかさ」
S「(神波を指さし)遠慮して傍観、(自分を指さし)気付いても関わろうとしない、(池脇を指さし)そもそも気付かねえ。これのどこに器のデカさがあんだよ」
(一同、爆笑)
R「いや俺気付くから、そこまで鈍感じゃねえから!」
S「お前が今更俺に何言ったって駄ー目(笑)」
T「(手を叩いて笑う)」
R「ああああ?(怒った振り)」
U「面白いねえ、君達は見てて飽きないね。こういう姿を見てるとさあ、楽曲制作でああいう即興音楽的なスタンスがぴたっと嵌る理由が分かるよ。各々音源持ち帰って、一人で頭捻って考えてって、そういうの、似合わないね」
T「いやいや(笑)」
S「そこは単純に技術的な問題だろ。似合う似合わないじゃなくて、出来ないんだから」
U「はいはい(笑)」
R「(苦笑)」
T「あはは」
S「ただでもそれで言うとさ、もう別に喋らなくても良いって思ってるとこもあって」
U「普段?」
T「ああ、スタジオ内とかでね」
S「そう。コミュニケーションって、いる?」
U「おお? そりゃいるでしょ(笑)。え、いらないと思ってるの?」
S「でも、…うん、いらないかな、もう」
U「なんでー!」
R「(腕を組んで下を向いたまま楽しそうに笑う)」
U「ええ、ここ(池脇)も笑うって事は全員そんな感じって事なの?」
S「さっき大成が話した誠って奴の実験の切っ掛けは、そもそも俺らが全然喋らない事が理由としてあって。俺達自身はそれが普通だったし、困る事もないんだけど、見ててあまり気持ちのいい空気じゃなかったらしくてな。曲作りとかは普通に喋ってるし会議だってしょっちゅうやってるし、意識して見れば普通に話してるはずなんだけど、練習中はとにかくなんか、鬼気迫るというか」
U「うん。それは今もそうだよね」
S「そう。それをあいつなりに改善しようとした結果凄い臭い女を演じたっていう事なんだけど、問題はさ、そもそも改善されなきゃいけないような関係じゃないんだよ、俺達は」
U「うん。なんとなく、話は見えたぞ(笑)」
S「そうなんだよ。だから極端な言い方すると他所で誰が何を喋ってようが、それを俺が又聞きしようが、雑誌の紙面で初めて知ろうがどうでも良くて」
T「どうでも良いわけじゃないぞ(笑)」
S「ああ、そっか。そこはもう、根っから信頼してると思うんだよ。言い方本当気持ち悪いけど、疑う事すらしないというか」
R「(大きく頷く)」
T「そうだね。言い方や表現の癖は色々あるけど、180度考えの食い違うような事は絶対に言わないと思ってるし、そこを再確認したいとは、もう思わないかな」
S「面倒臭いよな。だから今回、今いないけど時枝さんの取材でもさ、そういう意味じゃあ編集者泣かせだと思ってんだ。だって俺ら同じ事しか言わないし、『そうだな』『確かに』っていう相槌打ってるだけな事めちゃくちゃ多いからな」
R「あははは!」
S「普段生きてて、完璧に波長が合うなんて事にはそりゃならないけど、それでも一番根っこの部分をお互い知りすぎてるから、上の方の、ここらへんの、上澄みみたいな部分でいくら食い違おうが揉めようが、また言い方アレだけど、どうでもいいというかな」
U「そこの部分が繭ちゃんの言う、大事な事ってそんなに多くはないという感覚と同じなんだろうね」
S「そうなのかなあ、多分ね。それもあるし、初期の頃なんかはあいつともそんなに意味なくダラダラと喋ったりしなかったから、適度な距離を保ってたのもあるし」
U「ああ、言ってたかもしれない、それも」
S「最近はわりとなんでも話せる所まで近づいたと思ってるけど、どっちかって言うとあいつの方が線引いてる部分があるからな。でもまあ、その方がこっちも色々ボロが出なくて助かるというか(笑)」
T「あはは、それは全くその通り」
S「ふふ、うん」
U「ねえ、聞いてもいいかなぁ」
R「うん?」
S「何」
U「昨日繭ちゃんとお話しててね、竜二君と私以外によく名前が出たのが、その誠さんという人の事」
S「ああ…。うん」
U「ちょっと…思う所もあって」
S「ん?」
U「繭ちゃんがね、泣き出しそうな勢いで、凄くいい人ですから、素敵な人ですからって、私に言うのね」
S「…うん」
R「(目をぎゅっと閉じている。眉間の縦皺に力が漲っている)」
U「ちょっと、圧倒されるぐらいで。なんとなく繭ちゃんは今日、本当はそれを伝えに来たのかなっていう風にも思ったぐらいでさ。これはひょっとして、私は彼女達に余計なストレスを与えてるんじゃないかって、考えたりもしたの」
S「いやいや。あはは、何言ってんの。考え過ぎだって」
U「そお?」
R「だから…」
S「…」
R「やっぱり根っから優しいなあと思うのはよ、大成も翔太郎もあえてこの場でしなくても良い話をしてくれてるって所で、あんたも今この話を切り出しやすかっただろうっていう思いもあって。やっぱり、そういうのはありがてえなーって」
U「ふふ、うん。凄い人達だよね」
S「(神波を見ながら首を振る)」
T「(伊澄を見やって苦笑する)」
R「今、カメラあるっちゃあるけど、この場は俺らだけだし言えるけど、もう俺らなんてただのオッサンだし、俺とこの人(URGA)がどうとか、翔太郎だとか、そんな話で今更…。なんつーか…、ああ、なんて言ったらいいかさ」
U「…うん」
S「…」
R「一番駄目なのはよ、関係ねえ繭子や誠がそういう俺らの個人的な話に変な気を回して、居心地を悪くしちまう事だと思うんだよ。俺はやっぱりそうしたくてあんたの手を掴んだんだけど、そこも、あいつらには関係ねえだろ、本来は」
T「関係ねえとは思ってないんじゃないか?」
R「良いように考えてくれてたらそれにこした事はねえよ。けど、ちょっと俺自身ややこしかったり、誤解を与えてた面もあるだろうし、誠なんかは自分の体の事もあったから気弱になってここを疑ってた時もあるし、今はホッとしてるのかもしんねえけど、そうやってホッとしてる事すらどっかで気に病んで、後悔してんじゃねえかとか、俺は…」
T「まあ、そうかもな」
R「分かんねえよ、それが、あいつらの中でどんくらいデカい問題なのか、別にそれはそれとして、大した事ではないって思ってんのかもしれねえし。それは外から見てたって分かんねえだろ。だから一番いいなって考えてたのは、皆が腹割って言いたい事言えて全部を笑いに変えられたらなって。都合の良い事言ってんじゃねえよって自分でも思うから、テメエじゃ何も、言えなくて」
S「一番うるさい男が今日は口数少ないと思ったんだよ(笑)」
R「悪かったよ。ただ黙って聞いててやっぱり、うん。ありがてえなあって、そこは感じてんだよ。大成がさ、いきなり誠の話を始めたのもきっとそうなんだよ。繭子と同じで、誠をこのままはしておけねえって考えてくれてたんだろうなって感じたし、翔太郎もそれが分かるから、嫌でも話乗っかってんだろーな、とか思ったら」
T「あはは」
S「お前さあ、今日メソメソしすぎじゃない?仮にもお前うちの顔なんだからさ、屁こいてゲラゲラ笑ってりゃあいいんだよ」
R「(慌てて顔をこする)オウッ」
T「あとお前その言い方だと、URGAさんの肩身が狭い感じになるから。いちいち思った事全部喋るんじゃないよ(笑)」
R「オウ、すまん」
U「あははっ」
S「ん?」
U「ごめんごめん、堪え切れなかった。でも分かった。こりゃー、傷なんてつかないわ」
S「何?」
U「世界を包むブランケットボイスと称されたこのURGAさんを(笑)。ほわっと包んでくれる綿毛のように皆優しいんだね。そんなのさぁ、傷つきようがないよね。愛情しか感じないもん。繭ちゃんがウソついてないんだって事は君達自身が証明したね」
S「いやー、ああー、んんー。ええーっと、…はあ!?」
(一同、笑)
R「いやー、ちょっとさ、時枝さんじゃねえけど、誠とか繭子の話になるとどうにも感情移入しちまってな、駄目だ」
U「そうなんだ?」
R「付き合いの長さはそのまま、あいつらを見て来た時間だろ。いい思い出も悪い思い出も、両腕一杯あるから。さっきも大成の言ったグレープフルーツの話聞いてて思い出したのが、あの、なんて言うのあれ、あれ?」
U「(池脇の手の仕草を見て)…CD?」
R「あ、うん、そうなんだけど」
T「ああ、…もしかしてヨーコのやつか?」
R「それ!それ!」
S「(一拍置いて、吹き出す)」
U「ヨーコ?」
R「俺と大成が前にやってたクロウバーのさ、ドラムスで渡辺ってのがいるんだけど」
U「うん。知ってるよ、何度も会ってるし、春のツアーでも一緒にお仕事する予定だし」
T「ウソ!」
R「まじか!おおー、良かったあ、え、何で?」
U「オリーの紹介。ってかなんで大成君知らないのよ(笑)。それで?」
R「の娘がさ、ヨーコって名前なんだけど。ヨーコが生まれてまだ1歳かそこらの時に俺達は誠と出会ってて。んで、誕生日かな、周りがやれ服だオモチャだって、分からねえなりに買って来て渡してる中でさ、誠がね、CD-Rみたいなのにリボン付けて渡すわけだ。その中身ってのがな、色んな声色と口調でさ、15分以上ずっと『いないな~い、ばあ!』って言ってるだけの音源なんだよ」
U「あははは、それはいいなあ。すごい。温かい贈り物だねえ。好きだなあ、そういうの」
R「そうだろう?もーさー。それ、俺もいいなあって思って」
U「うん。分かるよ」
T「(伊澄を指さし)一人だけ馬鹿笑いしてるけど」
S「懐かしい」
R「なんか、色々考えちまうよな、そういう気持ちのあるプレゼントって人柄がはっきり出るし。例えば手編みの帽子とか手袋とか、そういうのはきっとヨーコの母ちゃんが作りたいだろうし、既製品買って渡すのだってそこはちょっと迷うだろ。どうせ現金が一番嬉しいんじゃねえかって思ったりとか(笑)。でも出会ってまだ間もない誠がさ、どんな顔で、どんな笑顔でそれ15分以上録音して、どんな気持ちでやってたんかなあとか想像すると泣けてくるんだよ俺。ヨーコの母ちゃんは看護師だからよ、共働きでずっと忙しくしてる人だったから、誠はそういう事も知ってて、ヨーコが少しでも寂しくないように、母ちゃんの負担が減るようにとか、そういう事考えてやってくれたんだろうな、とか、あいつも、早くに…」
S「泣くな気持ち悪い!」
U「(爆笑しながら、目尻を拭う)」
T「本人はただ楽しい事思いついてやってるだけなんだけどね、きっと」
R「若気の至りだとは言ってたけどよ。でも、優しい奴だからなぁ」
S「何が一番面白いってさ」
U「っはは、いや、面白い話にしてくれなくていいんだけど。せっかくじんわり感動してるのに」
S「ええ?いや、面白いって、ほんとに」
U「だからぁ」
S「誠がそれをさ、録音してる後ろに俺とアキラがいたんだよ。もうほんと5分超えたあたりから俺笑いが堪え切れなくてさ。はなっから映像なしの声だけで『いないいないばあ』やる事に無理あるなって思ってたし、そもそもプロの声優でもなんでもないあいつがどれほどのレパートリーを持ってるんだって話だよ。結果やっぱり何回かに一回同じ声の奴が登場するからさ、俺もう歯を食いしばって笑い出すの我慢してるわけ。それでも10分は頑張ったけどついにもう限界が来て、『お前さっきから何回同じ奴出てくんだよ』って言っちゃって。誠が怒って『もー!』って叫んで。アキラが『そこは別に良いじゃんかよー』とかフォロー入れてんの」
(一同、爆笑)
S「その声はもちろん音源にも録音されて。でさ、ヨーコ。最後に俺が突っ込んで誠が怒って、アキラがフォローしてる部分になるとヨーコがめちゃくちゃ笑うんだって。ケラッケラ言って一番笑うって。のぞみちゃん(ナベさんの奥様)からそれ聞いてショック受けてる時の誠の顔が凄くってさ、やっぱりこいつ本気で面白いなぁって」
(一同、爆笑)
S「だから、うん。俺は繭子が何言ったか知らないけど、誠に対して繭子の思ってる事とか、あんたに伝えたい部分ってのは、きっとそういう事なんだと思うよ」
U「うん?…ああ、うん。分かってるよ。それはもう正直言われなくても分かってるよって。翔太郎君が選んだ人でしょ、間違いないじゃないかって、ちゃんとそうお答えしておきました」
S「あー、いや、俺がどうとか言いたいわけじゃないよ」
U「だからね、こういう事なの。そういう話をする、されるっていう事はきっと繭ちゃんにとっては皆と、誠さんに対する惜しみない愛情だなと思うし。自惚れかもしれないけど、そこには私も含まれてるかもしれないしね。彼女だって今後の環境の変化を控えて色々と考えないといけない事が山積みなのに、わざわざ会いに来てくれて、そうやって橋渡しを買って出てくれるんだって思うと、もうキューンとしちゃってさ。これは私も負けてらんないぞと、皆の為に出来る事はちゃんとやろう、悩んでる自分は格好悪いぞって、そう思って。本当に昨日、アキラ君の話をしようって決心したんだよね」
R「ああ、そっかそっか、そこへ繋がるわけだ」
U「そ」
T「それってでも、俺なんかは申し訳ない気もするけどね」
U「なんで?」
T「そこもさ、なんていうか、影響とか言うと失礼な言い方になるのかもしれないけどね。例えば竜二と対談してなけりゃ、とか。あるいは昨日繭子が電話なんてしてなけりゃ、とかさ。こうしてURGAさんを動かした色々な事柄に対して、本当はちょっとストレスかもしれないって思うし、相手によっては実際にストレスになり得たわけだからね」
S「(腕組みしたまま大きく頷く)」
U「ん?ん?…なんだって?よく分からないんだけどな」
T「そっとしておいてあげられたはずなのに。色々巻き込んでるなと思ってさ」
U「ぬあああー。底なしかー?神波大成ー」
T「何だよもう(笑)。あんただってそこらへんで遊んでる暇人じゃないんだからさ。内容が内容とは言え自分で考えて動いてもらうには、ちょっと申し訳ないクラスの人だとは思ってるよそりゃ。思うよな?」
S「思う」
U「はああ、オリー、幸せだろうなぁ(顔を斜めに、うっととした表情)」
(一同、爆笑)
T「やめてくれよ」
R「(顔を赤くして、机を叩いて大笑い)」
S「(腕組みをしたまま咳き込み、そっと目尻を拭う)」
U「3人の中でさあ、言ってない事ってないの?隠し事というには大袈裟だけど、私みたいにタイミングを逃し続けて今日まで言わずに来た事とかさ。カメラに向かって正直に言ってみなさいな、いい機会だから」
T「いや、だから」
S「なんか時枝さんも似たような事言ってたな」
T「言ってた、そんなわけないのに」
U「ん?」
R「逆に話してない事だらけだよ、そんなのは」
T「さっきも言ったけど今更何を聞きたいとも思わないし、あんたら二人の事だって報告は受けたけど『なんで』っていう理由や経緯は知らないからね」
U「そうかそうか、そうなのか。…でも翔太郎君は、知りたいでしょー?」
S「出た(笑)。そんな事言っていいならお前だよ(池脇に視線を飛ばす)。結局リディア・ブラントって何だったんだよって話になるぞ」
U「あらららら(笑)」
T「それなあ」
R「あー。ああ、うん」
S「さっきもお前、誤解がどうとか言ってたのはそれじゃないのか?」
R「まあな」
U「誰にも何にも言ってないの?」
R「言ってない。あ、織江は知ってるけど、聞かれないのに俺から言う事もねえしさ」
S「あんたは知ってんのか?」
U「一応は、そこクリアにしておかないとさすがに不味いでしょ?」
S「何だったんだよ、全部ウソなのか?」
R「いやいや、そういう言い方はやめようか。実際今はもう付き合ってるわけじゃないし、だからって俺達のアメリカ行きにそれが影響を及ぼす事もない。だからまあ、言う必要もねえかって思ってたんだけど。あのー…、要するにリディアは、同性愛者なんだよ」
S「おっとっと」
T「(固まる)」
R「あはは、うん、まあ、難しい話ではあるんだけど。PV撮影の時に初めて会った時はそんな事は知らなかったし、試写会であいつが喋った俺達への思いや、インタビューで答えてくれた内容は、今でもウソじゃないって思ってる。俺となら上手くやれるんじゃないかっていう好意を抱いてくれて、一歩踏み出したわけだけど、やっぱり違和感は消えずにずっとあったみたいで。何度も話合った上で、自分を殺して生きるのはつまらねえよなっていう結果に至ったっつーか」
T「なるほど」
R「アメリカはそういう部分でこっちよりは全然開けてるとは言っても、色んな奴がいて足を引っ張り合う事もあるからさ。業界的にも、これからっていう時期に余計なゴシップで躓くのもつまらねえし、昔自分を支えてくれた…って自分で言うのは気持ち悪いけど、そういうバンドと実際に出会えた事なんかにも運命を感じたり、色々タイミングが重なって、そうなってみるのも楽しいかもしれないって、そういう事だったらしい。この春から新作の主演映画の公開が控えてるから、とりあず今はまだこの話はオフで頼む」
S「(頷く)」
U「この話を聞いた時に色々腑には落ちたんだけどさ、一つだけ気になって。あちらの思いはそうだとして、竜二君はそれを打ち明けられてどう思ったの?って」
S「腹立たないのかって?」
U「そう」
R「織江と同じ事言うからさ(笑)」
T「ああ、その話だったのか」
U「やっぱり聞いてた?」
T「いやいや、珍しく家ん中で機嫌の悪い日が続いて、どうしたって聞いてみたら『竜二の話だから竜二に聞いて』って言われてさ。あー、じゃー、いいかって(笑)」
S「そりゃそうだ!」
R「違えねえ」
U「(笑)、でもやっぱりオリー怒ってたんだ?」
R「うん、正直。有難いけど、別にいいのにって俺なんかは。あいつ、ウチの竜二を何だと思ってんだ!って向こうの事務所まで乗り込む勢いだったんだよ。ニッキーの名前使えば出て来るだろどうせ!ちょっと言(行)ってやるから!とかって。待て待て俺は子供かっつって。だってよぉ、別に誰も悪くねえだろ。付き合う?って言われて、付き合うって答えて。やっぱごめんって言われて、分かったって。ただそれだけだしな」
T「まあね(笑)」
S「相手ハリウッド選手だぞ。向こうじゃ日常茶飯事だろうな、そんな事」
R「まあでもそれは人ぞれぞれなんじゃねえかな。リディアに関して言えば、それでもちゃんとしてんなって思ったのはさ、別に自分がレズだって、言わなくても良いだろ本当は。別に、遊びだったでも、他に好きな奴出来たでも、断る理由はいくらでもあっただろうにさ。そこが女優だって言われちまうと何も言えねえけど、泣きながら、自分がずっと思いを寄せてる女の写真も見せられて、何度も謝られて。そういうのひっくるめて全部ウソだったとしてもよ、そこまで大芝居打ってくれんなら俺は全然構わねえ。そもそもウソだとも俺自身は思ってねえから。繭子風に言えば、そんな事で俺は傷一つつかねえ」
S「何だったらハクがついたくらいの」
R「そうそう」
S「いいじゃないか、それでこそだ」
R「(頷く)」
U「それもだから、竜二君らしいなあと思ってさ。だってね、そこには相手への優しさしかないわけだよ。今こうやって笑顔で話出来てるけどさ、その時点では本当に彼女の事を愛してたんだって思うとさ、そりゃオリーの反応は分かるよ。この人の事を良く知っていればいる程私の何百倍も『おい、フザケんな!』って思っただろうなって。私だって今がどうとか関係なしに、男池脇竜二の本気を真横で感じて震えが止まらなかったんだからさ、リディア・ブラントがなんぼのもんじゃい!って」
(一同、爆笑)
U「でもそこはもう、彼は何も考慮してないでしょ。普通そんな風に振舞えないと思うんだよ。あるいは、最初からそこまで好きではなかったか、なんだけど。でも竜二君って、こう見えてちゃんとしてる人だと思うしね」
T「してないしてない(笑)」
S「してないぞ。全然ちゃんしてないぞ」
T「この際はっきり言っとくけど、こいつやることやってるからね。…又聞きだけど」
R「あははは!」
S「ちゃんと首輪嵌めて、こんくらいの(10センチ程の)短いチェーンでがっつり握ってないと」
U「絶対ウソだよ(笑)」
S「いやいやいやいや」
U「私こんなに我慢強い人見た事ないもの。それにね、なんて言うか、今ここまで言ってしまう事にちょっと抵抗を感じる部分もあるにはあるけど、おそらくは、多分。うん、きっと、限りなく近い距離を平行線で歩いていくんだと、私は考えていて」
T「ん?」
S「…うん」
U「前にね、オリーから、伊澄翔太郎っていう男性の偉大なる名言を教えてもらった事があって」
S「(苦笑して首を傾げる)」
U「優先順位の話だったと思うんだけど。…1番と2番は単なる前後でしかない。2枚の紙をピッタリ重ね合わせてもそこには1番2番が出来る。だけどそこにどれだけの差があるというんだろうか?って」
R「(咽かえって笑う)」
T「(懐かしそうに目を細めて伊澄を見やる)」
S「(カメラを避けるように顔を伏せる)」
U「言い訳の天才だなって」
(一同、爆笑)
U「思ったんだけど! 思ったんだけど! …でも、今はよく分かるんだ。私にとって彼の言葉は救いになった。今の私には言い訳でもなんでもなくて、結局人は出会う順番で大事な事を決めてしまっている事が多いけれど、本質はそうじゃないだろうって、そういう事も教えてもらった気がするんだよ。オリーにね、どういう時に、彼はその言葉を言ったの?って聞いたらさ。彼女物凄く照れながら、大成君に告白された時だって言ってた。誤解しないでね、別に彼女が、大成君と他の3人を天秤にかけて迷ってたって話じゃないからね。でも、その時彼女にとって皆は本当に大切な人達だったようだから、大成君を選んでしまう事で何かのバランスが壊れてしまうんじゃないかって、彼女なりに思ったみたい。結果的には拍子抜けするぐらい何も変わらなかったんだけどって、笑ってたけどね。その時どういう質問をしてみたの?って聞いたら、もうとても私の口からは言えないって笑って首を振ってた。もし翔太郎が覚えているなら、彼に聞いてくださいって。…翔太郎君、覚えてる?」
T「(伊澄を見やる)」
R「(腕組みしたまま空中を見つめている)」
S「…恐ろしいくらいの長い沈黙があって、あいつが言ったのは…。『私だって…大好きな人に大好きだって言いたい。きっとこの先彼以上に人を好きになる事はないと思う。だけど、大成が1番だと口に出す事で、他の皆が2番以下になるのが、私はどうしても嫌なんだ』」
U「(押し黙る)」
R「(微笑)」
T「(微笑んではいるが、何も言えない)」
S「…お前一体何に悩んでんの?って。…言って。大成が好きなんだろ。それしか考えなくていいだろって。…あいつは優しい奴だからね、そもそも大切な人間が多すぎるんだよ。ノイも、大成も、俺達や、マーやナベだってそうなんだろうな。そうやって大切な人や友達に囲まれて生きる事はきっと幸せだろうけど、そこに1番や2番っていう順番を付けて誰かを特別視するっていう発想が今はどうしても嫌だって。…でも笑うだろ、それがあいつ、18とか19とかなんだよ。その年でそんなんだからさ、マジでお前何言ってんの?って。男に告白されてそんな反応か!? …まあ、あんまり全部喋り過ぎるとさすがにそこまでは誤算だって事になるだろうから、言わないでおいてやるけど(笑)」
T「ありがたい」
S「ふふ。でもガキなりに。…俺もだけど。ガキなりにすげえ悩んでたのは覚えてるよ、お前の嫁さん。もうだって、完璧に答えを出してる状態ですら、うん、優先順位の話してたからな。だから俺も、そうやって言ったのかな。多分な」
U「翔太郎君にしてみたら、彼女の思い詰めた気持ちは嬉しいけど、なんか複雑だっただろうね」
S「っはは!そりゃそうだよ。もちろん言いたい事は分かるけど、大成と付き合う事と並列で俺らの事気にしてんのがそもそも変だしな、嬉しいなんて思わないって。そんな事で悩んでくれるなよってこっちが気ぃ使うわ。本来そんなのは誰に気をつかうような事でもないんだし。そんなのはさあ、好きにやってくれよと。もうやりきれないよそんな事言われたって」
R「(優しい顔で笑い、肩を揺する)」
T「しかもそん時俺ら」
R「(やや慌てて)まあ、それはいいや」
T「…ああ、そうか」
U「何?」
R「ううん」
U「何よ」
R「また今度な」
U「…えー(伊澄を見やる)」
S「だからあんたも、平行線じゃなくていいんじゃないか?」
U「(目を見開く)」
S「別に何も決めてかからなくても。自由でいいんじゃないか?」
R「(目を閉じる)」
U「…」
S「俺は別にこいつ(池脇)の事なんてどうでもいいんだよ。だけどあんたが何かに遠慮して、誰かに遠慮して、選択肢を減らす理由なんてどこにもないと思うぞ。そんな生き方しか出来ないくらいなら、こいつの所になんて来なくていいよ。こんなボンクラには勿体ない」
T「(何度も頷く)」
U「うん。…ありがとう。(深いため息)君達は、本当に…」
R「…」
(一同、沈黙)
S「ガキのくせにさあ。あいつなんであんなに我慢強かったのかね。俺らなんてほんと、好き放題やって来たからさ」
U「…オリーの事?」
S「そう」
R「そうだなあ。バイラル作った時点であいつは完成されてたけど、本当はもっと前から、伊藤織江の凄さは発揮されまくってるよな」
T「うん。ありがたいとか言っておいて自分で話戻すのも悪いけどさ、あいつと付き合う事になったすぐの頃って、本当に俺気を使われたからな。デートとかいらないからね、皆と今まで通り遊んで来な、普通にしてなよって」
S「あははは!」
R「あー…もう、なあ…」
T「いやいや俺が、俺から付き合ってくれって言ったんだけどって(笑)。そういう人なんだよね。だから今でもまだ、びっくりする事よくあるよ」
S「あはは、うん」
U「そっかー(微笑んで天井を見上げる)。凄いなあ」
R「他人事みたいな顔してるアンタだってな」
U「んー? 私はー、オリー程優しくも我慢強くもないよ。もっと打算的だし、すぐ弱音吐くし、野心家だし、ビビリだし、冷徹だし、短気だし、自分大好き人間だしね」
R「っははは、そうなのか(笑)」
U「いろどり橋でさ、アキラ君のお母さまと我慢の話をしたでしょ。『白き螳螂』の流れで。あの時もさ、あれは私がそうだよとか言いたかったんじゃなくて、若くして亡くなった最愛の息子とその親友を同じように愛してこられたお母さまの笑顔を見ていて、かけて下さった言葉を聞いて思わずって感じだったんだよ。つい口を突いて出たというか。後でちょっと反省した。知った風な事言ったな、偉そうだったなって」
R「何言ってんだって。おばちゃんべらぼうに褒めてたよ。大絶賛だった」
U「やめてよー(笑)」
R「マジでマジで。人柄もそうだし、よくあんな古い詩知ってたなって」
U「だってそれはさあ、身内だからねえ」
R「(不思議そうな顔をする)」
U「…あれ?」
R「(伊澄と神波を見やる)」
S「なんの話してんの」
T「『白き螳螂』っておばちゃんが昔良く言ってたあの牝カマキリの奴?」
S「ああ、はいはい」
R「そー、だけど。…身内? え、誰と?」
U「え!? アキラ君じゃないよ?」
R「びっくりした!冷や汗出た今!」
(一同、笑)
U「えっとー。…は、いや何がびっくりだってそれは私の方だよ。そもそも『白き螳螂』っていう名前で書籍化はされてないし、あの詩が収録されてる本は全然別の名前だからね。よく知ってる人今もいたなって、こっちが驚いたんだから。えっと、あの詩を書いたのは私のおばあちゃんです。祖母です」
S「そ」
R「ウソー!?」
S「(耳を塞ぐ)」
T「(耳を塞ぐ)」
U「(耳を塞ぐ)」
R「え、本当に?」
U「知らなかったのかあ」
T「それほんとなら凄いね。俺ら子供の頃からよく聞かされてたもん、あの詩」
S「なあ、牝カマキリ超コエー!ってこいつ(池脇)とアキラ、馬鹿だから」
T「あははは!」
R「えええ(まだ驚いている)」
U「うん。だから驚いたのはこっちなんだって。なんか、あの場はそういう雰囲気でもなかったから言えなかったけどさ」
R「え、URGAさんのおばあちゃんって、アメリカ人だよな?」
U「そう。マーガレット・レイ・リンク」
S「あー、そんな名前だった気がする」
R「あ、レイだ」
U「そ。そこから私のミドルネームは来てるからね」
R「すげえなあ。こんな事ってあるんだな」
S「今日、これ(カメラ)見た時枝さん一人でパニックになるだろうな。情報量が多すぎるって」
(一同、笑)
S「もう最終的には全員実の兄妹でしたってとこまで話こじ付けて仕上げるか?」
(一同、爆笑)


その後も尽きない会話は続いたようだ。
しかし煙草を吸いに会議室を出た伊澄がそのまま戻って来なかった為、
この部分で区切りとさせていただいた。





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