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第17話「映らない私」怖さ:☆☆☆
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篠原美咲が自撮りで自分だけが映らないことに気づいたのは、文化祭の準備中だった。
クラスメイトと一緒に教室の装飾をしていた時、記念に自撮りを撮ろうとスマートフォンを構えた。しかし撮影された写真を確認すると、背景とクラスメイトは写っているのに、美咲だけが映っていない。
「あれ?」
美咲は首をかしげた。画面には確実に自分も映っていたはずなのに、写真では美咲がいる部分だけが透明になっている。
「もう一回撮ってみよう」
今度は一人で自撮りを試した。しかし結果は同じ。背景の教室は映るが、美咲の姿だけが写らない。
「カメラが壊れたのかな……」
美咲は友達の久我さくらに頼んで、さくらのスマートフォンで撮影してもらった。
「美咲ちゃん、写ってないよ」
さくらも困惑していた。
「でも確かにそこにいるのに……」
美咲は他のクラスメイトにも頼んでみたが、結果は同じだった。どのカメラで撮っても、美咲だけが映らない。
しかし不思議なことに、鏡には普通に映る。洗面所の鏡でも、廊下の姿見でも、美咲の姿はちゃんと見える。
問題はデジタルカメラだけだった。
美咲は家に帰って、家族に相談した。
「お母さん、私の写真撮って」
母親がスマートフォンで撮影すると、やはり美咲は映らない。
「あら、おかしいわね……」
母親も戸惑っている。
「昨日まではちゃんと写ってたのに」
美咲は昨日の写真を確認した。確かに昨日までは普通に写っている。問題が始まったのは今日からだ。
翌日、美咲は保健室の先生に相談した。
「もしかして病気ですか?」
「写真に写らないという病気は聞いたことがないわね……」
保健室の先生は首をかしげた。
「でも、ストレスで様々な症状が出ることはあるわ。何か心配事はない?」
美咲は考えてみたが、特に思い当たることはない。学校生活も順調だし、友達関係も良好だ。
三日目、美咲は気づいた。自分が写らないだけでなく、背景に何かが映り始めていることを。
自撮りを撮ると、美咲がいるはずの場所に、薄っすらと別の何かが見える。最初は影のようだったが、日に日にはっきりしてくる。
一週間後、その正体が判明した。
美咲がいるべき場所に、知らない少女が写っていた。
美咲と同じくらいの年頃だが、顔立ちが違う。髪型も服装も、美咲とは全く違う。
そして、その少女はこちらを見つめて微笑んでいた。
美咲は戦慄した。
「誰なの、この子……」
美咲はその写真を友達に見せた。
「美咲ちゃんじゃない?」
さくらは不思議そうに言った。
「ちゃんと写ってるよ」
「え?」
美咲は驚いた。さくらには、知らない少女が美咲に見えているのだ。
他のクラスメイトに聞いても、同じ答えが返ってくる。みんな、写真の少女を美咲だと認識している。
美咲は混乱した。なぜ自分にだけ、別人に見えるのか。
その夜、美咲は自室で写真を見つめていた。すると写真の中の少女が動いた。
最初は目の錯覚だと思ったが、確実に少女の表情が変わっている。そして、少女が口を動かした。
「やっと気づいたね」
声は聞こえなかったが、口の動きで言葉が分かった。
「私は朝比奈美咲。あなたは誰?」
美咲は自分の名前を口に出して答えた。
「篠原美咲」
写真の少女が微笑んだ。
「同じ名前ね。偶然かしら?」
美咲は恐る恐る尋ねた。
「あなたは何者なの?」
「あなたと同じ。美咲という名前の女の子」
朝比奈美咲が説明した。
「でも私は、もうこの世界にはいない」
「死んでるの?」
「そう。三年前に事故で」
美咲は息を呑んだ。
「それなのに、なぜ写真に?」
「あなたが私の代わりになってくれたから」
朝比奈美咲の表情が悲しそうになった。
「私は死ぬ時、とても心残りがあった。やりたいことがたくさんあったの」
「それで?」
「あなたは私と同じ名前で、同じ年頃。だから私の魂が、あなたに引き寄せられた」
美咲は理解し始めた。
「私の代わりに、あなたが生きてるってこと?」
「そうよ。写真に写るのは私。でも生きているのはあなた」
朝比奈美咲が続けた。
「私はあなたの人生を借りて、やり残したことをしようとしてる」
美咲は怒りを感じた。
「勝手に人の人生を奪わないで!」
「ごめんなさい……でも……」
朝比奈美咲が涙を流している。
「私には時間がなかった。まだ十七歳だったのに……」
美咲の怒りが、同情に変わった。確かに朝比奈美咲も被害者だ。若くして命を奪われ、やりたいことができなかった。
「何をやり残したの?」
「友達と一緒に文化祭を成功させること。好きな人に気持ちを伝えること。家族との時間をもっと大切にすること」
どれも、美咲にとっても大切なことだった。
「それなら……」
美咲は提案した。
「一緒にやりましょう。あなたの分も、私が頑張る」
朝比奈美咲が驚いた。
「いいの?」
「うん。でも、私の人生は私のもの。あなたは見守っているだけにして」
「分かった。約束する」
それから美咲の生活は変わった。
文化祭の準備により一層力を入れた。朝比奈美咲ができなかった分も含めて、最高の文化祭にしようと決意した。
好きな人への告白も、勇気を出して実行した。朝比奈美咲の「伝えられなかった想い」を思うと、自分は行動しなければと思えた。
家族との時間も大切にするようになった。何気ない日常の会話、一緒に過ごす時間。すべてが貴重に感じられた。
そして写真を撮るたび、朝比奈美咲が嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。
文化祭当日。クラスの出し物は大成功だった。
美咲は達成感に満ちていた。朝比奈美咲の分も含めて、やり遂げることができた。
その夜、最後の写真を撮った。
今度は美咲がちゃんと写っていた。そして隣に、薄っすらと朝比奈美咲が写っている。
二人とも満足そうに微笑んでいた。
朝比奈美咲が最後のメッセージを送った。
「ありがとう。おかげで心残りがなくなった」
「私も、あなたのおかげで大切なことに気づけた」
「これでお別れね」
「うん。でも忘れない」
朝比奈美咲の姿が光に包まれて消えていく。
「頑張って、美咲。あなたの人生を大切に」
光が消えると、朝比奈美咲はいなくなっていた。
翌日から、美咲は普通に写真に写るようになった。
でも美咲は変わっていた。毎日を大切に生きるようになった。朝比奈美咲が教えてくれた「時間の貴重さ」を忘れずに。
美咲のスマートフォンには、あの時の写真が保存されている。
二人の美咲が並んで微笑む、奇跡の一枚。
美咲はその写真を見るたび、思う。
人生は一度きり。
だからこそ、一瞬一瞬を大切にしよう。
朝比奈美咲の分も含めて、精一杯生きよう。
今日も美咲は写真に写っている。
自分らしい笑顔で。
充実した毎日を送りながら。
クラスメイトと一緒に教室の装飾をしていた時、記念に自撮りを撮ろうとスマートフォンを構えた。しかし撮影された写真を確認すると、背景とクラスメイトは写っているのに、美咲だけが映っていない。
「あれ?」
美咲は首をかしげた。画面には確実に自分も映っていたはずなのに、写真では美咲がいる部分だけが透明になっている。
「もう一回撮ってみよう」
今度は一人で自撮りを試した。しかし結果は同じ。背景の教室は映るが、美咲の姿だけが写らない。
「カメラが壊れたのかな……」
美咲は友達の久我さくらに頼んで、さくらのスマートフォンで撮影してもらった。
「美咲ちゃん、写ってないよ」
さくらも困惑していた。
「でも確かにそこにいるのに……」
美咲は他のクラスメイトにも頼んでみたが、結果は同じだった。どのカメラで撮っても、美咲だけが映らない。
しかし不思議なことに、鏡には普通に映る。洗面所の鏡でも、廊下の姿見でも、美咲の姿はちゃんと見える。
問題はデジタルカメラだけだった。
美咲は家に帰って、家族に相談した。
「お母さん、私の写真撮って」
母親がスマートフォンで撮影すると、やはり美咲は映らない。
「あら、おかしいわね……」
母親も戸惑っている。
「昨日まではちゃんと写ってたのに」
美咲は昨日の写真を確認した。確かに昨日までは普通に写っている。問題が始まったのは今日からだ。
翌日、美咲は保健室の先生に相談した。
「もしかして病気ですか?」
「写真に写らないという病気は聞いたことがないわね……」
保健室の先生は首をかしげた。
「でも、ストレスで様々な症状が出ることはあるわ。何か心配事はない?」
美咲は考えてみたが、特に思い当たることはない。学校生活も順調だし、友達関係も良好だ。
三日目、美咲は気づいた。自分が写らないだけでなく、背景に何かが映り始めていることを。
自撮りを撮ると、美咲がいるはずの場所に、薄っすらと別の何かが見える。最初は影のようだったが、日に日にはっきりしてくる。
一週間後、その正体が判明した。
美咲がいるべき場所に、知らない少女が写っていた。
美咲と同じくらいの年頃だが、顔立ちが違う。髪型も服装も、美咲とは全く違う。
そして、その少女はこちらを見つめて微笑んでいた。
美咲は戦慄した。
「誰なの、この子……」
美咲はその写真を友達に見せた。
「美咲ちゃんじゃない?」
さくらは不思議そうに言った。
「ちゃんと写ってるよ」
「え?」
美咲は驚いた。さくらには、知らない少女が美咲に見えているのだ。
他のクラスメイトに聞いても、同じ答えが返ってくる。みんな、写真の少女を美咲だと認識している。
美咲は混乱した。なぜ自分にだけ、別人に見えるのか。
その夜、美咲は自室で写真を見つめていた。すると写真の中の少女が動いた。
最初は目の錯覚だと思ったが、確実に少女の表情が変わっている。そして、少女が口を動かした。
「やっと気づいたね」
声は聞こえなかったが、口の動きで言葉が分かった。
「私は朝比奈美咲。あなたは誰?」
美咲は自分の名前を口に出して答えた。
「篠原美咲」
写真の少女が微笑んだ。
「同じ名前ね。偶然かしら?」
美咲は恐る恐る尋ねた。
「あなたは何者なの?」
「あなたと同じ。美咲という名前の女の子」
朝比奈美咲が説明した。
「でも私は、もうこの世界にはいない」
「死んでるの?」
「そう。三年前に事故で」
美咲は息を呑んだ。
「それなのに、なぜ写真に?」
「あなたが私の代わりになってくれたから」
朝比奈美咲の表情が悲しそうになった。
「私は死ぬ時、とても心残りがあった。やりたいことがたくさんあったの」
「それで?」
「あなたは私と同じ名前で、同じ年頃。だから私の魂が、あなたに引き寄せられた」
美咲は理解し始めた。
「私の代わりに、あなたが生きてるってこと?」
「そうよ。写真に写るのは私。でも生きているのはあなた」
朝比奈美咲が続けた。
「私はあなたの人生を借りて、やり残したことをしようとしてる」
美咲は怒りを感じた。
「勝手に人の人生を奪わないで!」
「ごめんなさい……でも……」
朝比奈美咲が涙を流している。
「私には時間がなかった。まだ十七歳だったのに……」
美咲の怒りが、同情に変わった。確かに朝比奈美咲も被害者だ。若くして命を奪われ、やりたいことができなかった。
「何をやり残したの?」
「友達と一緒に文化祭を成功させること。好きな人に気持ちを伝えること。家族との時間をもっと大切にすること」
どれも、美咲にとっても大切なことだった。
「それなら……」
美咲は提案した。
「一緒にやりましょう。あなたの分も、私が頑張る」
朝比奈美咲が驚いた。
「いいの?」
「うん。でも、私の人生は私のもの。あなたは見守っているだけにして」
「分かった。約束する」
それから美咲の生活は変わった。
文化祭の準備により一層力を入れた。朝比奈美咲ができなかった分も含めて、最高の文化祭にしようと決意した。
好きな人への告白も、勇気を出して実行した。朝比奈美咲の「伝えられなかった想い」を思うと、自分は行動しなければと思えた。
家族との時間も大切にするようになった。何気ない日常の会話、一緒に過ごす時間。すべてが貴重に感じられた。
そして写真を撮るたび、朝比奈美咲が嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。
文化祭当日。クラスの出し物は大成功だった。
美咲は達成感に満ちていた。朝比奈美咲の分も含めて、やり遂げることができた。
その夜、最後の写真を撮った。
今度は美咲がちゃんと写っていた。そして隣に、薄っすらと朝比奈美咲が写っている。
二人とも満足そうに微笑んでいた。
朝比奈美咲が最後のメッセージを送った。
「ありがとう。おかげで心残りがなくなった」
「私も、あなたのおかげで大切なことに気づけた」
「これでお別れね」
「うん。でも忘れない」
朝比奈美咲の姿が光に包まれて消えていく。
「頑張って、美咲。あなたの人生を大切に」
光が消えると、朝比奈美咲はいなくなっていた。
翌日から、美咲は普通に写真に写るようになった。
でも美咲は変わっていた。毎日を大切に生きるようになった。朝比奈美咲が教えてくれた「時間の貴重さ」を忘れずに。
美咲のスマートフォンには、あの時の写真が保存されている。
二人の美咲が並んで微笑む、奇跡の一枚。
美咲はその写真を見るたび、思う。
人生は一度きり。
だからこそ、一瞬一瞬を大切にしよう。
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自分らしい笑顔で。
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