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第16話「消えた友人」怖さ:☆☆☆
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瀬戸陸翔と結城蒼真が肝試しで古いトンネルに入ったのは、夏休み最後の夜だった。
県道から外れた山道の奥に、昭和初期に建設されたという古いトンネルがある。地元では心霊スポットとして有名で、夜中に入ると霊が出ると噂されていた。
「本当に行くのか?」
陸翔は不安だったが、蒼真は興味深そうだった。
「怖いの? 大丈夫だって、ただのトンネルだろ」
蒼真はスマートフォンのライトを点けて、トンネルの入口を照らした。
コンクリート製の古いトンネル。長さは二百メートルほど。向こう側の出口がかすかに見える。内壁にはひび割れが多く、所々から水滴が落ちている。
「中で写真撮って、すぐ戻ろう」
蒼真が先頭に立って歩き始めた。陸翔も仕方なく後を追う。
トンネル内は思ったより暗い。スマートフォンの光だけでは、足元がよく見えない。
五十メートルほど進んだところで、蒼真が立ち止まった。
「なんか聞こえない?」
「何が?」
陸翔は耳を澄ました。確かに、奥の方から音がしている。水滴の音とは違う、規則正しい音。
「足音みたいだな」
蒼真が先に進もうとした時、陸翔の携帯電話が鳴った。
「ちょっと待って、電話」
陸翔は母親からの電話に出た。帰りが遅いことを心配する内容だった。
「すぐ帰るから」
電話を切って振り返ると、蒼真がいない。
「蒼真?」
陸翔は慌てて辺りを見回した。トンネル内には自分しかいない。
「おい、蒼真! どこだ?」
声が反響するだけで、返事はない。
陸翔は奥に向かって走った。蒼真が一人で先に進んだのかもしれない。
しかしトンネルの向こう側まで行っても、蒼真はいなかった。
陸翔は引き返した。もしかしたら、電話中に蒼真が戻ったのかもしれない。
入口まで戻ったが、やはり蒼真はいない。
陸翔は混乱した。トンネルは一本道だ。脇道もなければ、隠れる場所もない。蒼真はどこに消えたのか。
陸翔は蒼真の携帯に電話をかけた。
すると、トンネルの奥から着信音が聞こえてきた。
陸翔は音の方向に向かった。着信音は、トンネルの中央付近から聞こえてくる。
しかし、そこには誰もいない。ただ、地面に蒼真のスマートフォンが落ちていた。
陸翔は恐怖を感じた。蒼真が突然消えて、携帯だけが残されている。
陸翔は急いでトンネルから出て、警察に連絡した。
翌日、警察と消防署の捜索隊がトンネルを調べたが、蒼真は見つからなかった。
「本当にここで友人を見失ったのか?」
警察官は疑っていた。
「はい。電話に出ている間に……」
「しかし、このトンネルには隠れる場所がない。どこに行ったというんだ?」
陸翔にも分からない。確かに蒼真はここにいたのに、一瞬で消えてしまった。
一週間後、捜索は打ち切られた。手がかりが全くないためだ。
陸翔は自分を責めた。もし電話に出なければ、蒼真は消えなかったかもしれない。
そんな陸翔の元に、奇妙な動画が送られてきた。
差出人は蒼真だった。
陸翔は震える手で動画を再生した。
映像は暗く、画質も悪い。しかし確実に蒼真の顔が映っている。
「陸翔……聞こえるか?」
蒼真の声は途切れ途切れだった。
「僕は……トンネルの中にいる……でも……違う場所みたいだ……」
カメラが周囲を映す。古いコンクリートの壁だが、陸翔が知っているトンネルとは様子が違う。もっと古く、荒れ果てている。
「ここには……他にも人がいる……昔から……迷い込んだ人たち……」
映像に、他の人影が映った。様々な年代の服装をした人々。みんな困惑した表情を浮かべている。
「みんな……出られないんだ……このトンネルは……」
蒼真の声が遠くなる。
「異次元に……つながってる……入口は一つだけど……出口が……たくさんある……」
映像が乱れ始めた。
「陸翔……僕を……助けて……」
動画が終わった。
陸翔は急いでトンネルに向かった。今度は一人で。
トンネルに入ると、さっきの動画と同じような声が聞こえてきた。
「陸翔……」
蒼真の声だ。
「どこにいるんだ?」
「僕は……壁の向こうにいる……」
陸翔は壁に耳を当てた。確かに、壁の向こうから蒼真の声がする。
「どうすれば出られる?」
「分からない……でも……一つだけ方法がある……」
蒼真の声が続く。
「誰か新しい人が……この場所に来れば……一人だけ……出られるかもしれない……」
陸翔は理解した。蒼真を助けるには、誰かが身代わりになる必要があるのだ。
「僕が行く」
「だめだ……君まで……閉じ込められる……」
「でも、君を一人にはできない」
陸翔は決意した。
「君のために、僕ができることがあるなら、やりたい」
その時、トンネルの壁に亀裂が入った。そして亀裂から光が漏れてきた。
陸翔は亀裂に手を突っ込んだ。向こう側に、蒼真の手が触れた。
二人は手を握った。
その瞬間、強い光に包まれた。
気がつくと、陸翔と蒼真は一緒にトンネルの外にいた。
二人とも無傷で、意識もはっきりしている。
「どうして……二人とも出られたんだ?」
蒼真は困惑していた。
「分からない……でも……」
陸翔は思った。きっと友情の力だ。一人を見捨てずに、一緒に助かろうとした気持ちが、異次元の呪縛を破ったのかもしれない。
その後、二人はトンネルのことを詳しく調べた。
古い記録によると、このトンネルでは過去にも行方不明事件が何度か起きているという。しかし今回のように、無事に戻ってきた例はなかった。
「僕たちは運が良かったんだな」
蒼真は言ったが、陸翔は違うと思った。
運ではない。友達を信じ、最後まで諦めなかったからだ。
数日後、陸翔の元に再び動画が送られてきた。
今度は差出人不明だった。
動画には、トンネルの中の様子が映っていた。そして最後に、文字が表示された。
『ありがとう。みんな、一緒に出ることができました』
動画の最後に、大勢の人々がトンネルから出てくる様子が映っていた。様々な時代の服装をした人々。きっと、長い間閉じ込められていた人たちだ。
陸翔と蒼真の行動が、他の迷い人たちをも救ったのだ。
二人の友情が、多くの魂を解放したのだった。
そのトンネルは、今では普通のトンネルになっている。
もう誰も迷い込むことはない。
陸翔と蒼真の友情が、呪いを解いたから。
二人は今でも親友だ。
あの体験を通じて、友情の大切さを深く理解したから。
困った時に手を差し伸べる。
一人にしない。
それが真の友情なのだと。
県道から外れた山道の奥に、昭和初期に建設されたという古いトンネルがある。地元では心霊スポットとして有名で、夜中に入ると霊が出ると噂されていた。
「本当に行くのか?」
陸翔は不安だったが、蒼真は興味深そうだった。
「怖いの? 大丈夫だって、ただのトンネルだろ」
蒼真はスマートフォンのライトを点けて、トンネルの入口を照らした。
コンクリート製の古いトンネル。長さは二百メートルほど。向こう側の出口がかすかに見える。内壁にはひび割れが多く、所々から水滴が落ちている。
「中で写真撮って、すぐ戻ろう」
蒼真が先頭に立って歩き始めた。陸翔も仕方なく後を追う。
トンネル内は思ったより暗い。スマートフォンの光だけでは、足元がよく見えない。
五十メートルほど進んだところで、蒼真が立ち止まった。
「なんか聞こえない?」
「何が?」
陸翔は耳を澄ました。確かに、奥の方から音がしている。水滴の音とは違う、規則正しい音。
「足音みたいだな」
蒼真が先に進もうとした時、陸翔の携帯電話が鳴った。
「ちょっと待って、電話」
陸翔は母親からの電話に出た。帰りが遅いことを心配する内容だった。
「すぐ帰るから」
電話を切って振り返ると、蒼真がいない。
「蒼真?」
陸翔は慌てて辺りを見回した。トンネル内には自分しかいない。
「おい、蒼真! どこだ?」
声が反響するだけで、返事はない。
陸翔は奥に向かって走った。蒼真が一人で先に進んだのかもしれない。
しかしトンネルの向こう側まで行っても、蒼真はいなかった。
陸翔は引き返した。もしかしたら、電話中に蒼真が戻ったのかもしれない。
入口まで戻ったが、やはり蒼真はいない。
陸翔は混乱した。トンネルは一本道だ。脇道もなければ、隠れる場所もない。蒼真はどこに消えたのか。
陸翔は蒼真の携帯に電話をかけた。
すると、トンネルの奥から着信音が聞こえてきた。
陸翔は音の方向に向かった。着信音は、トンネルの中央付近から聞こえてくる。
しかし、そこには誰もいない。ただ、地面に蒼真のスマートフォンが落ちていた。
陸翔は恐怖を感じた。蒼真が突然消えて、携帯だけが残されている。
陸翔は急いでトンネルから出て、警察に連絡した。
翌日、警察と消防署の捜索隊がトンネルを調べたが、蒼真は見つからなかった。
「本当にここで友人を見失ったのか?」
警察官は疑っていた。
「はい。電話に出ている間に……」
「しかし、このトンネルには隠れる場所がない。どこに行ったというんだ?」
陸翔にも分からない。確かに蒼真はここにいたのに、一瞬で消えてしまった。
一週間後、捜索は打ち切られた。手がかりが全くないためだ。
陸翔は自分を責めた。もし電話に出なければ、蒼真は消えなかったかもしれない。
そんな陸翔の元に、奇妙な動画が送られてきた。
差出人は蒼真だった。
陸翔は震える手で動画を再生した。
映像は暗く、画質も悪い。しかし確実に蒼真の顔が映っている。
「陸翔……聞こえるか?」
蒼真の声は途切れ途切れだった。
「僕は……トンネルの中にいる……でも……違う場所みたいだ……」
カメラが周囲を映す。古いコンクリートの壁だが、陸翔が知っているトンネルとは様子が違う。もっと古く、荒れ果てている。
「ここには……他にも人がいる……昔から……迷い込んだ人たち……」
映像に、他の人影が映った。様々な年代の服装をした人々。みんな困惑した表情を浮かべている。
「みんな……出られないんだ……このトンネルは……」
蒼真の声が遠くなる。
「異次元に……つながってる……入口は一つだけど……出口が……たくさんある……」
映像が乱れ始めた。
「陸翔……僕を……助けて……」
動画が終わった。
陸翔は急いでトンネルに向かった。今度は一人で。
トンネルに入ると、さっきの動画と同じような声が聞こえてきた。
「陸翔……」
蒼真の声だ。
「どこにいるんだ?」
「僕は……壁の向こうにいる……」
陸翔は壁に耳を当てた。確かに、壁の向こうから蒼真の声がする。
「どうすれば出られる?」
「分からない……でも……一つだけ方法がある……」
蒼真の声が続く。
「誰か新しい人が……この場所に来れば……一人だけ……出られるかもしれない……」
陸翔は理解した。蒼真を助けるには、誰かが身代わりになる必要があるのだ。
「僕が行く」
「だめだ……君まで……閉じ込められる……」
「でも、君を一人にはできない」
陸翔は決意した。
「君のために、僕ができることがあるなら、やりたい」
その時、トンネルの壁に亀裂が入った。そして亀裂から光が漏れてきた。
陸翔は亀裂に手を突っ込んだ。向こう側に、蒼真の手が触れた。
二人は手を握った。
その瞬間、強い光に包まれた。
気がつくと、陸翔と蒼真は一緒にトンネルの外にいた。
二人とも無傷で、意識もはっきりしている。
「どうして……二人とも出られたんだ?」
蒼真は困惑していた。
「分からない……でも……」
陸翔は思った。きっと友情の力だ。一人を見捨てずに、一緒に助かろうとした気持ちが、異次元の呪縛を破ったのかもしれない。
その後、二人はトンネルのことを詳しく調べた。
古い記録によると、このトンネルでは過去にも行方不明事件が何度か起きているという。しかし今回のように、無事に戻ってきた例はなかった。
「僕たちは運が良かったんだな」
蒼真は言ったが、陸翔は違うと思った。
運ではない。友達を信じ、最後まで諦めなかったからだ。
数日後、陸翔の元に再び動画が送られてきた。
今度は差出人不明だった。
動画には、トンネルの中の様子が映っていた。そして最後に、文字が表示された。
『ありがとう。みんな、一緒に出ることができました』
動画の最後に、大勢の人々がトンネルから出てくる様子が映っていた。様々な時代の服装をした人々。きっと、長い間閉じ込められていた人たちだ。
陸翔と蒼真の行動が、他の迷い人たちをも救ったのだ。
二人の友情が、多くの魂を解放したのだった。
そのトンネルは、今では普通のトンネルになっている。
もう誰も迷い込むことはない。
陸翔と蒼真の友情が、呪いを解いたから。
二人は今でも親友だ。
あの体験を通じて、友情の大切さを深く理解したから。
困った時に手を差し伸べる。
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