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第15話「鳴らない朝」怖さ:☆☆
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八雲陽生が目覚ましのベルで起きることができなくなったのは、三月の第二週からだった。
毎朝六時に設定してある目覚まし時計。しかしその日は鳴らなかった。慌てて時計を確認すると、針は八時を指している。
「壊れたのかな……」
陽生は電池を交換し、時刻を合わせ直した。翌日は問題なく六時に鳴った。
しかし三日後、また目覚ましが鳴らなかった。今度は九時まで寝坊してしまった。
時計は正常に動いている。電池も新しい。設定も間違っていない。それなのに、なぜかアラームだけが作動しない。
陽生は仕方なく、携帯電話のアラームも併用することにした。
翌朝、携帯のアラームも鳴らなかった。
時計も携帯も、同時に故障するなんてあり得ない。陽生は不安になった。
そして寝坊して慌てて家を出ると、いつもの通勤ラッシュがない。駅も電車も、異様に空いている。
会社に着くと、同僚の桐生が驚いた顔で陽生を見た。
「八雲君、なんで来たの?」
「え? 普通に出勤ですけど……」
「今日は土曜日だよ」
陽生は愕然とした。昨日は確かに金曜日だったはずだ。
「僕の記憶では今日は金曜日のはずなんですが……」
「大丈夫? 今日は三月十五日、土曜日だよ」
陽生は混乱した。一日飛ばしてしまったのか。それとも記憶がおかしくなっているのか。
家に帰って、陽生はカレンダーを確認した。確かに今日は土曜日になっている。昨日の記憶がない。金曜日に何をしていたのか、全く思い出せない。
翌日の日曜日、陽生は目覚ましを六時にセットして眠った。
気がつくと、また遅い時間に目覚めていた。時計は午後二時を指している。
八時間も寝坊したことになる。
外を見ると、夕方のような薄暗さだった。三月なのに、午後二時でこんなに暗いはずがない。
陽生は外に出てみた。
街の様子がおかしい。人がほとんどいない。開いている店もない。まるでゴーストタウンのようだ。
コンビニに入ると、店員がいない。レジも無人で、電気だけがついている。
「すみません、誰かいませんか?」
返事はない。
陽生は急いで家に戻った。テレビをつけてニュースを確認しようとしたが、すべてのチャンネルが砂嵐だった。
携帯電話で時刻を確認すると、表示が「–:–」になっている。時刻が表示されない。
陽生は恐怖を感じ始めた。
翌日、また同じことが起こった。目覚ましが鳴らず、起きた時には周りが静寂に包まれている。
そして陽生は気づいた。自分が起きている間、時間が進んでいないことを。
時計の針が止まっている。太陽の位置も変わらない。影の長さも同じまま。
陽生が起きている限り、世界の時間が停止しているのだ。
五日目、陽生は実験してみた。意図的に早く起きようとして、夜中の三時に目を覚ました。
すると世界は正常だった。時計も動いているし、街にも人がいる。深夜の静けさはあるが、時間は確実に流れている。
しかし朝の六時を過ぎると、再び時間が止まった。
陽生は理解し始めた。自分が朝に「起きるべき時間」を過ぎると、世界から切り離されるのだ。
六日目、陽生は午前五時に起きることにした。目覚まし時計に頼らず、自分の意志で起床する。
成功した。午前五時に起きると、世界は正常に動いている。
しかし午前六時になった瞬間、また時間が止まった。
陽生は気づいた。問題は起床時刻ではない。「目覚ましが鳴るべき時間」なのだ。
目覚ましが鳴らないことで、陽生は本来の時間軸から外れてしまっている。
七日目、陽生は目覚まし時計を詳しく調べた。
すると時計の裏に、小さな文字が刻まれているのを発見した。
『時の番人 午前六時 世界への扉』
意味不明の文字だが、何かの手がかりかもしれない。
陽生はインターネットで調べてみたが、該当する情報は見つからない。
八日目、陽生は時計店に相談に行った。
「この時計について教えてください」
老店主は時計を見て、顔色を変えた。
「これは……どこで手に入れましたか?」
「祖父の遺品です」
「この時計は特別なものです。時間を管理する力がある」
老店主は深刻な表情になった。
「おそらく、あなたのお祖父さんは『時の番人』だったのでしょう」
「時の番人?」
「時間の流れを守る役目の人です。この時計は、その証なのです」
陽生は困惑した。
「でも目覚ましが鳴らないんです」
「それは……あなたがまだ番人として認められていないからです」
「どうすれば認められるんですか?」
「時間の大切さを理解することです」
老店主は静かに説明した。
「時間は誰にでも平等に与えられています。でも多くの人は、それを当たり前だと思っている」
「僕は時間を大切にしています」
「本当に? 遅刻したことは? 時間を無駄にしたことは?」
陽生は答えられなかった。確かに、これまで時間をないがしろにしてきた。
「時の番人は、時間を最も大切にする人でなければならないのです」
その夜、陽生は時間について深く考えた。
これまでの人生で、どれだけ時間を無駄にしてきたか。遅刻、怠惰、先延ばし。時間を軽視してきたことを反省した。
そして陽生は決意した。今後は時間を大切にしよう。一分一秒を無駄にしないで生きよう。
九日目の朝。
陽生は午前五時に自然に目覚めた。時計を見ると、午前六時まであと一時間。
陽生はその一時間を有効に使った。部屋の掃除、朝食の準備、今日の予定の確認。無駄な時間は一秒もない。
午前六時。
目覚まし時計が鳴った。
久しぶりに聞く、美しいベルの音。
陽生は微笑んだ。
窓の外を見ると、世界が動いている。人々が歩き、車が走り、鳥が飛んでいる。
時間が戻ってきた。
それから陽生の生活は一変した。
毎朝、目覚まし時計は正確に鳴る。陽生も時間を守るようになった。遅刻は一度もしない。予定は必ず時間通りに実行する。
そして陽生は気づいた。時間を大切にすると、人生が豊かになることを。
限られた時間の中で、より多くのことができる。より深く考えることができる。より大切な人と過ごすことができる。
一年後、陽生の元に古い手紙が届いた。
差出人は祖父だった。生前に書かれた手紙のようだ。
『陽生へ
もしこの手紙を読んでいるということは、君が時の番人になったということだね。
私も若い頃、同じ経験をした。時間を失い、その大切さを学んだ。
時の番人の役目は重い。でも、とても価値のあることだ。
時間を大切にする人が増えれば、世界はもっと良くなる。
君がその先駆けになってほしい。
祖父より』
陽生は手紙を大切にしまった。
祖父から受け継いだ使命を、しっかりと果たしていこう。
今日も目覚まし時計が鳴る。
新しい一日の始まりを告げて。
陽生は時間と共に生きている。
一分一秒を大切にしながら。
毎朝六時に設定してある目覚まし時計。しかしその日は鳴らなかった。慌てて時計を確認すると、針は八時を指している。
「壊れたのかな……」
陽生は電池を交換し、時刻を合わせ直した。翌日は問題なく六時に鳴った。
しかし三日後、また目覚ましが鳴らなかった。今度は九時まで寝坊してしまった。
時計は正常に動いている。電池も新しい。設定も間違っていない。それなのに、なぜかアラームだけが作動しない。
陽生は仕方なく、携帯電話のアラームも併用することにした。
翌朝、携帯のアラームも鳴らなかった。
時計も携帯も、同時に故障するなんてあり得ない。陽生は不安になった。
そして寝坊して慌てて家を出ると、いつもの通勤ラッシュがない。駅も電車も、異様に空いている。
会社に着くと、同僚の桐生が驚いた顔で陽生を見た。
「八雲君、なんで来たの?」
「え? 普通に出勤ですけど……」
「今日は土曜日だよ」
陽生は愕然とした。昨日は確かに金曜日だったはずだ。
「僕の記憶では今日は金曜日のはずなんですが……」
「大丈夫? 今日は三月十五日、土曜日だよ」
陽生は混乱した。一日飛ばしてしまったのか。それとも記憶がおかしくなっているのか。
家に帰って、陽生はカレンダーを確認した。確かに今日は土曜日になっている。昨日の記憶がない。金曜日に何をしていたのか、全く思い出せない。
翌日の日曜日、陽生は目覚ましを六時にセットして眠った。
気がつくと、また遅い時間に目覚めていた。時計は午後二時を指している。
八時間も寝坊したことになる。
外を見ると、夕方のような薄暗さだった。三月なのに、午後二時でこんなに暗いはずがない。
陽生は外に出てみた。
街の様子がおかしい。人がほとんどいない。開いている店もない。まるでゴーストタウンのようだ。
コンビニに入ると、店員がいない。レジも無人で、電気だけがついている。
「すみません、誰かいませんか?」
返事はない。
陽生は急いで家に戻った。テレビをつけてニュースを確認しようとしたが、すべてのチャンネルが砂嵐だった。
携帯電話で時刻を確認すると、表示が「–:–」になっている。時刻が表示されない。
陽生は恐怖を感じ始めた。
翌日、また同じことが起こった。目覚ましが鳴らず、起きた時には周りが静寂に包まれている。
そして陽生は気づいた。自分が起きている間、時間が進んでいないことを。
時計の針が止まっている。太陽の位置も変わらない。影の長さも同じまま。
陽生が起きている限り、世界の時間が停止しているのだ。
五日目、陽生は実験してみた。意図的に早く起きようとして、夜中の三時に目を覚ました。
すると世界は正常だった。時計も動いているし、街にも人がいる。深夜の静けさはあるが、時間は確実に流れている。
しかし朝の六時を過ぎると、再び時間が止まった。
陽生は理解し始めた。自分が朝に「起きるべき時間」を過ぎると、世界から切り離されるのだ。
六日目、陽生は午前五時に起きることにした。目覚まし時計に頼らず、自分の意志で起床する。
成功した。午前五時に起きると、世界は正常に動いている。
しかし午前六時になった瞬間、また時間が止まった。
陽生は気づいた。問題は起床時刻ではない。「目覚ましが鳴るべき時間」なのだ。
目覚ましが鳴らないことで、陽生は本来の時間軸から外れてしまっている。
七日目、陽生は目覚まし時計を詳しく調べた。
すると時計の裏に、小さな文字が刻まれているのを発見した。
『時の番人 午前六時 世界への扉』
意味不明の文字だが、何かの手がかりかもしれない。
陽生はインターネットで調べてみたが、該当する情報は見つからない。
八日目、陽生は時計店に相談に行った。
「この時計について教えてください」
老店主は時計を見て、顔色を変えた。
「これは……どこで手に入れましたか?」
「祖父の遺品です」
「この時計は特別なものです。時間を管理する力がある」
老店主は深刻な表情になった。
「おそらく、あなたのお祖父さんは『時の番人』だったのでしょう」
「時の番人?」
「時間の流れを守る役目の人です。この時計は、その証なのです」
陽生は困惑した。
「でも目覚ましが鳴らないんです」
「それは……あなたがまだ番人として認められていないからです」
「どうすれば認められるんですか?」
「時間の大切さを理解することです」
老店主は静かに説明した。
「時間は誰にでも平等に与えられています。でも多くの人は、それを当たり前だと思っている」
「僕は時間を大切にしています」
「本当に? 遅刻したことは? 時間を無駄にしたことは?」
陽生は答えられなかった。確かに、これまで時間をないがしろにしてきた。
「時の番人は、時間を最も大切にする人でなければならないのです」
その夜、陽生は時間について深く考えた。
これまでの人生で、どれだけ時間を無駄にしてきたか。遅刻、怠惰、先延ばし。時間を軽視してきたことを反省した。
そして陽生は決意した。今後は時間を大切にしよう。一分一秒を無駄にしないで生きよう。
九日目の朝。
陽生は午前五時に自然に目覚めた。時計を見ると、午前六時まであと一時間。
陽生はその一時間を有効に使った。部屋の掃除、朝食の準備、今日の予定の確認。無駄な時間は一秒もない。
午前六時。
目覚まし時計が鳴った。
久しぶりに聞く、美しいベルの音。
陽生は微笑んだ。
窓の外を見ると、世界が動いている。人々が歩き、車が走り、鳥が飛んでいる。
時間が戻ってきた。
それから陽生の生活は一変した。
毎朝、目覚まし時計は正確に鳴る。陽生も時間を守るようになった。遅刻は一度もしない。予定は必ず時間通りに実行する。
そして陽生は気づいた。時間を大切にすると、人生が豊かになることを。
限られた時間の中で、より多くのことができる。より深く考えることができる。より大切な人と過ごすことができる。
一年後、陽生の元に古い手紙が届いた。
差出人は祖父だった。生前に書かれた手紙のようだ。
『陽生へ
もしこの手紙を読んでいるということは、君が時の番人になったということだね。
私も若い頃、同じ経験をした。時間を失い、その大切さを学んだ。
時の番人の役目は重い。でも、とても価値のあることだ。
時間を大切にする人が増えれば、世界はもっと良くなる。
君がその先駆けになってほしい。
祖父より』
陽生は手紙を大切にしまった。
祖父から受け継いだ使命を、しっかりと果たしていこう。
今日も目覚まし時計が鳴る。
新しい一日の始まりを告げて。
陽生は時間と共に生きている。
一分一秒を大切にしながら。
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