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第27話「存在しない住所からの手紙」怖さ:☆☆☆☆
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ポストに入っていた手紙は、一見すると普通の郵便物だった。
白い封筒に、丁寧な字で俺の名前と住所が書かれている。差出人の欄にも、住所と名前が記されていた。
しかし、その住所を見て俺は首をかしげた。
「東京都渋谷区神山町4-15-23 田中美穂」
神山町は確かに存在する地名だが、番地がおかしい。4-15まではあっても、23番地は存在しない。俺はこの辺りの地理には詳しかったから、間違いない。
郵便番号も見慣れないものだった。
差出人の名前「田中美穂」にも心当たりはない。
封筒を開けてみると、便箋に几帳面な字で手紙が書かれていた。
内容は、こうだった。
「山田雄一様
突然のお手紙、失礼いたします。
私は田中美穂と申します。
あなたにどうしてもお伝えしたいことがあり、筆を取らせていただきました。
ここに来てはいけません。
絶対に、この住所を探そうとしないでください。
お願いします。
田中美穂」
俺は困惑した。
なぜ知らない人から、こんな警告めいた手紙が来るのか。そもそも、存在しない住所なのに、どうして「来るな」と言うのか。
好奇心が湧いた。
翌日、俺は実際に神山町4-15の辺りを歩いてみることにした。
神山町4-15-22の次は、すぐに5-1-1になっていた。確かに23番地は存在しない。
しかし、22番地と5-1-1の間には、妙に広い空き地があった。
まるで、そこに何かの建物があったかのような、不自然な空間だった。
空き地を見ていると、近所の老婆が話しかけてきた。
「あら、珍しいわね。ここを見に来る人なんて」
「すみません、ここに昔、何かあったんですか?」
老婆は首をかしげた。
「昔? ここはずっと空き地よ。私がこの辺りに住んで五十年になるけど、ここに建物があった記憶はないわ」
「そうなんですか……」
俺は釈然としない気持ちで家に帰った。
三日後、また手紙が届いた。
今度は同じ住所から、違う人の名前で送られてきた。
「東京都渋谷区神山町4-15-23 佐藤健一」
手紙の内容は、前回とほぼ同じだった。
「来てはいけません。この住所を探すのをやめてください」
一週間後、三通目の手紙。
今度は「鈴木花子」という名前だった。
内容も、少し変わっていた。
「山田雄一様
お願いです。
もうここに来ないでください。
あなたが来ると、私たちが苦しくなります。
忘れてください。
私たちのことを忘れてください。
鈴木花子」
俺は気になって、再び神山町を訪れた。
今度は、空き地をもっと詳しく調べてみた。
草をかき分けて地面を見ると、古いコンクリートの基礎らしきものが見えた。
確かに、ここには昔建物があったのだ。
俺は区役所に行って、古い住所録を調べてもらった。
すると、驚くべきことが分かった。
昭和四十年代まで、確かに神山町4-15-23という住所は存在していたのだ。
そこには、古いアパートが建っていた。
「神山荘」という名前の、木造二階建てのアパートだった。
しかし、昭和四十八年に火事で全焼し、住人全員が亡くなったという記録があった。
死亡者の名前を見て、俺は震え上がった。
田中美穂、佐藤健一、鈴木花子……。
手紙の差出人と、まったく同じ名前だった。
そして、その他にも十数名の住人が亡くなっていた。
俺は慌てて家に帰った。
その日の夜、また手紙が届いた。
今度は、ポストではなく玄関の前に直接置かれていた。
差出人は「神山荘住人一同」となっていた。
手紙を開くと、複数の筆跡で書かれた文章があった。
「山田雄一様
私たちの秘密を知ってしまいましたね。
私たちは、あの火事の日からずっとここにいます。
誰にも忘れられて、誰にも供養されることなく。
あなたが私たちの存在に気づいてくれたのは嬉しいです。
でも、これ以上関わると、あなたも危険です。
どうか、忘れてください。
私たちのことを、誰にも話さないでください。
神山荘住人一同」
俺は手紙を握りしめた。
確かに、関わるべきではないのかもしれない。
しかし、俺には気になることがあった。
なぜ、俺のところに手紙が来るのか。
俺と神山荘に、何か関係があるのだろうか。
翌日、俺は父に聞いてみた。
「父さん、昔、神山町に住んでいたことはある?」
父は驚いた顔をした。
「なんで急にそんなことを?」
「ちょっと調べ物をしていて……」
父は沈黙した。そして、重い口を開いた。
「実は……お前が生まれる前、神山荘というアパートに住んでいたことがある」
俺の血の気が引いた。
「神山荘?」
「ああ。お前の母さんと結婚した頃だ。でも、短期間しか住んでいない。引っ越した直後に、火事があったんだ」
「火事?」
「全焼して、住人が全員……。もしあのまま住んでいたら、俺たちも死んでいただろう」
父は遠い目をした。
「時々思うんだ。もしかして、俺たちだけ助かったことを、あの人たちは恨んでいるんじゃないかって」
その夜、最後の手紙が届いた。
今度は、俺の部屋の机の上に置かれていた。
誰も家に入った形跡はないのに。
差出人は「神山荘201号室 山田家」となっていた。
俺の苗字だった。
手紙を開くと、古い写真が一枚入っていた。
若い頃の父と母が、古いアパートの前で笑っている写真だった。
アパートの看板には「神山荘」と書かれている。
手紙の内容は、こうだった。
「雄一へ
お前の両親は、私たちを見捨てて逃げた。
一人だけ助かって、私たちのことを忘れて幸せに暮らしている。
でも、もう許さない。
お前が代わりに、私たちの仲間になるんだ。
神山荘201号室で、ずっと一緒に住もう。
待っている。
神山荘住人一同」
俺は震えながら写真を見つめた。
写真の隅に、薄っすらと別の人影が写っていた。
アパートの窓から、こちらを見つめる複数の顔。
全員、こちらを恨めしそうに見ている。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
深夜の三時だった。
俺は恐る恐るドアスコープを覗いた。
外には誰もいない。
しかし、ドアの前に白い封筒が置かれていた。
封筒を拾って開くと、中には鍵が一つ入っていた。
古い真鍮製の鍵で、タグには「神山荘201」と書かれていた。
俺は気がつくと、外に向かって歩いていた。
手には鍵を握りしめて。
神山町4-15-23へ向かって。
空き地に着くと、そこに古いアパートが建っていた。
「神山荘」の看板がかかっている。
二階の201号室の窓から、温かい光が漏れていた。
俺は階段を上がって、201号室のドアの前に立った。
鍵を差し込むと、カチリと音がしてドアが開いた。
部屋の中には、たくさんの人たちが俺を待っていた。
みんな笑顔で、俺を迎えてくれた。
「おかえり、雄一」
田中美穂さんが言った。
「ずっと待っていたのよ」
俺は安堵した。
やっと、家に帰ることができた。
ここが、俺の本当の家なのだ。
翌朝、神山町の空き地で男性の遺体が発見された。
身元は山田雄一、二十八歳。
死因は不明だった。
手には、古い真鍮製の鍵を握りしめていた。
その鍵には「神山荘201」と刻まれていたが、そんなアパートは存在しなかった。
遺体のポケットには、不思議な手紙が入っていた。
差出人の住所は「東京都渋谷区神山町4-15-23」。
存在しない住所だった。
白い封筒に、丁寧な字で俺の名前と住所が書かれている。差出人の欄にも、住所と名前が記されていた。
しかし、その住所を見て俺は首をかしげた。
「東京都渋谷区神山町4-15-23 田中美穂」
神山町は確かに存在する地名だが、番地がおかしい。4-15まではあっても、23番地は存在しない。俺はこの辺りの地理には詳しかったから、間違いない。
郵便番号も見慣れないものだった。
差出人の名前「田中美穂」にも心当たりはない。
封筒を開けてみると、便箋に几帳面な字で手紙が書かれていた。
内容は、こうだった。
「山田雄一様
突然のお手紙、失礼いたします。
私は田中美穂と申します。
あなたにどうしてもお伝えしたいことがあり、筆を取らせていただきました。
ここに来てはいけません。
絶対に、この住所を探そうとしないでください。
お願いします。
田中美穂」
俺は困惑した。
なぜ知らない人から、こんな警告めいた手紙が来るのか。そもそも、存在しない住所なのに、どうして「来るな」と言うのか。
好奇心が湧いた。
翌日、俺は実際に神山町4-15の辺りを歩いてみることにした。
神山町4-15-22の次は、すぐに5-1-1になっていた。確かに23番地は存在しない。
しかし、22番地と5-1-1の間には、妙に広い空き地があった。
まるで、そこに何かの建物があったかのような、不自然な空間だった。
空き地を見ていると、近所の老婆が話しかけてきた。
「あら、珍しいわね。ここを見に来る人なんて」
「すみません、ここに昔、何かあったんですか?」
老婆は首をかしげた。
「昔? ここはずっと空き地よ。私がこの辺りに住んで五十年になるけど、ここに建物があった記憶はないわ」
「そうなんですか……」
俺は釈然としない気持ちで家に帰った。
三日後、また手紙が届いた。
今度は同じ住所から、違う人の名前で送られてきた。
「東京都渋谷区神山町4-15-23 佐藤健一」
手紙の内容は、前回とほぼ同じだった。
「来てはいけません。この住所を探すのをやめてください」
一週間後、三通目の手紙。
今度は「鈴木花子」という名前だった。
内容も、少し変わっていた。
「山田雄一様
お願いです。
もうここに来ないでください。
あなたが来ると、私たちが苦しくなります。
忘れてください。
私たちのことを忘れてください。
鈴木花子」
俺は気になって、再び神山町を訪れた。
今度は、空き地をもっと詳しく調べてみた。
草をかき分けて地面を見ると、古いコンクリートの基礎らしきものが見えた。
確かに、ここには昔建物があったのだ。
俺は区役所に行って、古い住所録を調べてもらった。
すると、驚くべきことが分かった。
昭和四十年代まで、確かに神山町4-15-23という住所は存在していたのだ。
そこには、古いアパートが建っていた。
「神山荘」という名前の、木造二階建てのアパートだった。
しかし、昭和四十八年に火事で全焼し、住人全員が亡くなったという記録があった。
死亡者の名前を見て、俺は震え上がった。
田中美穂、佐藤健一、鈴木花子……。
手紙の差出人と、まったく同じ名前だった。
そして、その他にも十数名の住人が亡くなっていた。
俺は慌てて家に帰った。
その日の夜、また手紙が届いた。
今度は、ポストではなく玄関の前に直接置かれていた。
差出人は「神山荘住人一同」となっていた。
手紙を開くと、複数の筆跡で書かれた文章があった。
「山田雄一様
私たちの秘密を知ってしまいましたね。
私たちは、あの火事の日からずっとここにいます。
誰にも忘れられて、誰にも供養されることなく。
あなたが私たちの存在に気づいてくれたのは嬉しいです。
でも、これ以上関わると、あなたも危険です。
どうか、忘れてください。
私たちのことを、誰にも話さないでください。
神山荘住人一同」
俺は手紙を握りしめた。
確かに、関わるべきではないのかもしれない。
しかし、俺には気になることがあった。
なぜ、俺のところに手紙が来るのか。
俺と神山荘に、何か関係があるのだろうか。
翌日、俺は父に聞いてみた。
「父さん、昔、神山町に住んでいたことはある?」
父は驚いた顔をした。
「なんで急にそんなことを?」
「ちょっと調べ物をしていて……」
父は沈黙した。そして、重い口を開いた。
「実は……お前が生まれる前、神山荘というアパートに住んでいたことがある」
俺の血の気が引いた。
「神山荘?」
「ああ。お前の母さんと結婚した頃だ。でも、短期間しか住んでいない。引っ越した直後に、火事があったんだ」
「火事?」
「全焼して、住人が全員……。もしあのまま住んでいたら、俺たちも死んでいただろう」
父は遠い目をした。
「時々思うんだ。もしかして、俺たちだけ助かったことを、あの人たちは恨んでいるんじゃないかって」
その夜、最後の手紙が届いた。
今度は、俺の部屋の机の上に置かれていた。
誰も家に入った形跡はないのに。
差出人は「神山荘201号室 山田家」となっていた。
俺の苗字だった。
手紙を開くと、古い写真が一枚入っていた。
若い頃の父と母が、古いアパートの前で笑っている写真だった。
アパートの看板には「神山荘」と書かれている。
手紙の内容は、こうだった。
「雄一へ
お前の両親は、私たちを見捨てて逃げた。
一人だけ助かって、私たちのことを忘れて幸せに暮らしている。
でも、もう許さない。
お前が代わりに、私たちの仲間になるんだ。
神山荘201号室で、ずっと一緒に住もう。
待っている。
神山荘住人一同」
俺は震えながら写真を見つめた。
写真の隅に、薄っすらと別の人影が写っていた。
アパートの窓から、こちらを見つめる複数の顔。
全員、こちらを恨めしそうに見ている。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
深夜の三時だった。
俺は恐る恐るドアスコープを覗いた。
外には誰もいない。
しかし、ドアの前に白い封筒が置かれていた。
封筒を拾って開くと、中には鍵が一つ入っていた。
古い真鍮製の鍵で、タグには「神山荘201」と書かれていた。
俺は気がつくと、外に向かって歩いていた。
手には鍵を握りしめて。
神山町4-15-23へ向かって。
空き地に着くと、そこに古いアパートが建っていた。
「神山荘」の看板がかかっている。
二階の201号室の窓から、温かい光が漏れていた。
俺は階段を上がって、201号室のドアの前に立った。
鍵を差し込むと、カチリと音がしてドアが開いた。
部屋の中には、たくさんの人たちが俺を待っていた。
みんな笑顔で、俺を迎えてくれた。
「おかえり、雄一」
田中美穂さんが言った。
「ずっと待っていたのよ」
俺は安堵した。
やっと、家に帰ることができた。
ここが、俺の本当の家なのだ。
翌朝、神山町の空き地で男性の遺体が発見された。
身元は山田雄一、二十八歳。
死因は不明だった。
手には、古い真鍮製の鍵を握りしめていた。
その鍵には「神山荘201」と刻まれていたが、そんなアパートは存在しなかった。
遺体のポケットには、不思議な手紙が入っていた。
差出人の住所は「東京都渋谷区神山町4-15-23」。
存在しない住所だった。
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