1話5分でゾッと出来る話。短編ホラー集。短編怖い話は、そこにある

みにぶた🐽

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第29話「消えた家族の声」怖さ:☆☆☆☆☆

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 家族写真を撮った時、違和感を覚えた。

 デジタルカメラの液晶画面を確認すると、確かに俺たち家族四人が写っている。父、母、妹の美咲、そして俺。みんな笑顔で、とても良い写真だった。

 しかし、家に帰ってパソコンで写真を確認すると、愕然とした。

 俺以外の家族が、まったく写っていなかった。

 俺一人だけが、リビングのソファに座って笑っている奇妙な写真になっていた。

 俺は混乱した。確実に、撮影の時は家族がいたのに。

「おかしいな……」

 俺は美咲に声をかけた。

「美咲、さっきの写真、変なことになってるぞ」

 返事がない。

 振り返ると、美咲はそこにいた。テレビを見ている。でも、俺の声に反応しない。

「美咲?」

 もう一度呼びかけたが、やはり無視された。

 俺は不思議に思いながら、母に聞いてみた。

「母さん、美咲の様子、変じゃない?」

 母は台所で夕食の準備をしていた。

 しかし、俺の声に振り返ろうともしない。

「母さん?」

 俺は母の肩に触れた。

 その瞬間、母が振り返った。

 でも、俺を見ているようで見ていない。まるで俺が透明人間であるかのように、俺の向こうを見つめている。

「あら、今誰か呼んだかしら?」

 母が独り言のように呟いた。

 俺は目の前にいるのに、母には見えていない。

 父に話しかけても同じだった。

 俺の声は聞こえず、俺の姿も見えていない。

 でも、確実に俺は存在している。物に触ることもできるし、鏡にも映る。

 ただ、家族だけが俺を認識できなくなっていた。

 夕食の時間になった。

 食卓には三人分の食事が並べられていた。

 俺の分はない。

 家族三人が食卓に座り、普通に会話をしている。

 まるで、俺が最初から存在しなかったかのように。

「今日は雄一の友達から電話があったのよ」

 母が言った。

「雄一? 誰それ?」

 美咲が首をかしげた。

「あら、お兄ちゃんの名前よ。忘れたの?」

「お兄ちゃん? 私、一人っ子じゃないの?」

 俺は愕然とした。

 美咲は俺の存在を完全に忘れている。

 父も同じだった。

「雄一? そんな名前の息子はいないぞ。美咲一人だけだろう」

「そうよね。私たち三人家族だもの」

 母も混乱している様子だった。

 俺は慌てて自分の部屋に行った。

 部屋はそのまま残っている。俺の荷物も、勉強机も、すべてそこにある。

 でも、家族は俺の存在を忘れ始めている。

 俺は昔のアルバムを持ってきて、家族に見せようとした。

「見てよ! ここに俺が写ってるじゃないか!」

 しかし、アルバムの中の俺の姿も消えていた。

 家族写真、運動会の写真、旅行の写真……すべてから俺だけが消えている。

 まるで、俺が最初から存在しなかったかのように。

 翌日、事態はさらに悪化した。

 俺の部屋が、物置として使われ始めたのだ。

 母が段ボール箱を運び込んでいる。

「この部屋、ずっと物置にしてたけど、もう少し整理しましょう」

 俺の机や本棚は、いつの間にか消えていた。

 俺の存在の痕跡が、一つずつ消されていく。

 三日目、俺は学校に行ってみた。

 友達に話しかけても、誰も俺に気づかない。

 担任の先生に聞いてみた。

「山田雄一は今日休みですか?」

 先生は首をかしげた。

「山田雄一? そんな生徒はいませんよ。名簿にもありません」

 俺はクラス名簿を確認した。

 確実に、俺の名前が消えていた。

 家に帰ると、さらなる変化があった。

 俺の部屋に、美咲が引っ越してきていた。

「この部屋の方が広くていいわ」

 美咲が新しいベッドを組み立てている。

 俺の部屋が、美咲の部屋になっていた。

 俺は絶望的な気持ちになった。

 俺の存在が、この世界から完全に消されようとしている。

 その夜、俺は理解した。

 あの家族写真を撮った時から、何かが始まったのだ。

 写真に俺が写らなかったのは、俺がこの世界から消え始めている証拠だった。

 でも、なぜ俺だけが?

 俺は昔の日記を読み返した。

 そして、三年前の記事を見つけた。

「今日、交通事故に遭った。意識を失って、救急車で運ばれた。幸い、軽傷で済んだが、数時間意識不明だった」

 俺は思い出した。

 あの事故の後、時々めまいがした。記憶が曖昧になることもあった。

 医者は「軽い脳震盪」と言っていたが……。

 もしかして、俺はあの時に死んでいたのかもしれない。

 そして、三年間、幽霊として家族と一緒に暮らしていたのかもしれない。

 家族写真を撮った時、俺の正体がバレてしまった。

 写真は嘘をつかない。俺がもうこの世にいない存在だということを、証明してしまった。

 そして今、俺は本当の意味で「消える」時が来ているのだ。

 翌朝、俺は家族を見つめた。

 父は新聞を読み、母は朝食を作り、美咲はテレビを見ている。

 三人とも幸せそうだった。

 俺がいなくても、家族は幸せに暮らしていける。

 むしろ、俺がいない方が良いのかもしれない。

 死んだ息子の幽霊と一緒に暮らすなんて、家族にとって辛すぎる。

 俺は決心した。

 このまま消えよう。

 家族のために。

 俺は最後に、家族一人一人に声をかけた。

「父さん、今まで育ててくれてありがとう」

 父は聞こえないが、なんとなく振り返った。

「母さん、いつも美味しい料理をありがとう」

 母は手を止めて、空を見上げた。

「美咲、可愛い妹でいてくれてありがとう」

 美咲は突然涙を流し始めた。

 理由は分からないが、涙が止まらない。

「あれ? なんで泣いてるんだろう……」

 美咲が呟いた。

 その時、俺の体が透明になり始めた。

 手が、足が、徐々に薄くなっていく。

 でも、不思議と怖くなかった。

 むしろ、安らかな気持ちだった。

 俺は最後に、家族写真を見た。

 俺だけが写っていない、あの奇妙な写真を。

 そして気づいた。

 写真の俺の後ろに、薄っすらと別の人影が写っていた。

 俺と同じくらいの年の男性。

 交通事故で一緒に死んだ、もう一人の被害者だった。

 彼も三年間、自分の家族と暮らしていたのかもしれない。

 そして今、俺たちは一緒に向こうの世界に旅立つのだ。

 俺の意識が薄れていく中で、最後に聞こえたのは美咲の声だった。

「お兄ちゃん……」

 小さく、とても小さく呟いた声。

 美咲だけは、俺のことを覚えていてくれたのかもしれない。

 俺は微笑んで、光の中に消えていった。

 家族写真の中から、完全に姿を消して。

 でも、美咲の心の中には、きっと俺がいる。

 お兄ちゃんの記憶が、小さな欠片として残っている。

 それで十分だった。
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