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第56話:「夢で握った指」怖さ:☆☆☆☆☆
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神谷悠人が最初にそれを握ったのは、三月の雨の夜だった。
深夜二時頃、悠人は奇妙な夢で目を覚ました。夢の内容はよく覚えていないが、誰かと手を繋いでいたような感覚が残っていた。温かくて、少し湿った手の感触が、右手にはっきりと残っていた。
悠人は寝ぼけながら右手を見た。確かに湿っている。汗をかいたのだろうか。しかし触った感じは汗とは違う、粘り気のある液体だった。
電気をつけて手を見ると、手のひらに赤い液体がついていた。血だった。
悠人は驚いて飛び起きた。怪我をした覚えはない。手のひらを詳しく調べたが、傷は見つからなかった。それなのに、明らかに血がついている。
シーツを確認すると、悠人の手があった部分に血痕が残っていた。そして更に恐ろしいことに、シーツの下から小さな物体が転がり出てきた。
人間の指だった。
悠人は悲鳴を上げそうになったが、声が出なかった。それは間違いなく人間の指で、関節の部分で切断されていた。小指のようだった。皮膚は青白く、血管が透けて見えていた。
悠人は震えながらその指を見つめた。切断面からは血が滴っていて、まだ新鮮だった。つまり、つい最近切断されたものだった。
警察に通報すべきか悠人は迷ったが、説明のしようがなかった。「夢の中で誰かと手を繋いでいたら、目覚めた時に切断された指を握っていた」などと言って、誰が信じるだろうか。
悠人はその指をティッシュペーパーに包んで冷凍庫に保管した。そして血のついたシーツを洗濯し、手を念入りに洗った。きっと何かの間違いだろう。翌朝になれば合理的な説明が思い浮かぶはずだった。
しかし翌日になっても、説明は見つからなかった。冷凍庫の中の指は確実に存在していた。悠人は仕事中もそのことが頭から離れなかった。
その夜、悠人は眠ることを恐れた。しかし疲労には勝てず、深夜になって眠りについた。
再び奇妙な夢を見た。今度ははっきりと覚えていた。
夢の中で、悠人は暗い部屋にいた。そこに女性がいて、彼女の手から血が流れていた。女性は泣きながら悠人に手を差し出していた。悠人は無意識にその手を握った。
その瞬間、女性の指の一本が悠人の手の中で外れた。まるで熟れすぎた果実が枝から落ちるように、簡単に外れてしまった。
悠人は目を覚ました。右手に同じ感触があった。湿っていて、何かを握っている感覚があった。
恐る恐るシーツをめくると、今度は薬指が出てきた。昨夜の小指より一回り大きく、指輪をはめた跡のようなくぼみがあった。
悠人は絶望した。これは偶然ではない。何らかの理由で、夢の中で握った指が現実に持ち込まれているのだ。
三日目の夜、悠人は眠らないことにした。コーヒーを飲み、テレビを見て、意地でも眠らないよう努力した。しかし午前四時頃、うとうとしてしまった。
またしても同じ夢を見た。今度は複数の人がいた。男性、女性、子ども……皆、手から血を流していた。そして皆、悠人に向かって手を差し出していた。
悠人は必死に手を引っ込めようとしたが、夢の中では体が思うように動かなかった。気がつくと、複数の人の手を握っていた。そして握るたびに、指がポロポロと外れていった。
目覚めた時、悠人の両手は血まみれになっていた。シーツの上には五本の指が転がっていた。中指、人差し指、親指……様々な大きさと形の指だった。
悠人はパニックに陥った。このままでは自分が狂ってしまう。しかし誰にも相談できなかった。精神科医に相談したところで、妄想として片付けられるだけだろう。
悠人はインターネットで似たような事例を探した。しかし「夢で握った指が現実に現れる」という報告は見つからなかった。
一週間後、悠人の冷凍庫には二十本以上の指が保管されていた。毎晩のように夢で指を握り、目覚めるとそれが現実になっている。悠人は睡眠薬を飲んで深く眠らないよう努力したが、効果はなかった。
そして悠人は恐ろしいことに気づいた。夢の中で出会う人々の顔が、段々はっきりしてきたのだ。最初はぼんやりとした輪郭だったが、今では表情まで見えるようになっていた。
そして彼らは皆、絶望的な表情を浮かべていた。まるで悠人に何かを訴えかけるように、血まみれの手を差し出してくるのだった。
二週間後、悠人は一つの共通点に気づいた。夢に現れる人々は皆、何らかの事故や事件で指を失った人たちのようだった。工場での事故、交通事故、暴力事件……彼らは皆、現実世界で指を失い、それを悠人に渡しているのではないか。
悠人は試しに、夢の中の人物の特徴を覚えて、新聞やインターネットで事故のニュースを調べてみた。すると驚くことに、実際に指を失う事故のニュースが複数見つかった。日時も、悠人が夢を見た日と一致していた。
恐ろしい真実が明らかになった。悠人は何らかの理由で、現実世界で指を失った人々の「失われた指」を回収していたのだ。夢を通じて、切断された指が悠人のもとに送られてきているのだった。
しかし、なぜ自分なのか。悠人にはその理由がわからなかった。特別な能力があるわけでもなく、霊感が強いわけでもない。ごく普通のサラリーマンだった。
三週間後、悠人の冷凍庫は指でいっぱいになった。大人の指、子どもの指、男性の指、女性の指……様々な指が整然と並んでいた。悠人はそれらを見るたびに吐き気を催したが、捨てることもできなかった。なぜか、これらの指を大切に保管しなければならないという強迫観念があった。
一ヶ月後、夢の内容が変化した。今度は、悠人自身の手から血が流れ始めたのだ。夢の中で、悠人は自分の指を見つめていた。そして恐ろしいことに、自分の指が一本ずつ外れ始めていた。
悠人は夢の中で叫んだ。しかし声は出なかった。ただ指が次々と外れていくのを見ているしかなかった。右手の小指、薬指、中指……。
目覚めた時、悠人の右手は確かに無傷だった。しかし手のひらには、見覚えのある指が握られていた。自分の指だった。
悠人は混乱した。自分の指は確かに五本ともついている。しかし手のひらにある指も、確実に自分のものだった。指紋、爪の形、すべてが一致していた。
翌日、悠人は医者に診てもらった。しかし医師は「異常なし」と診断した。指は五本とも正常についており、怪我の痕跡もなかった。
しかし夢は続いた。毎晩、悠人は自分の指を夢の中で失い、目覚めると手のひらにそれを握っていた。左手の指、右手の残りの指、足の指……。
二ヶ月後、悠人は恐ろしい発見をした。冷凍庫に保管していた「自分の指」の数を数えると、両手両足の指の総数を超えていたのだ。二十本のはずが、三十本以上あった。
悠人は理解した。自分は過去の自分の指だけでなく、未来の自分の指も集めているのだ。夢を通じて、時間を超えて指を回収していたのだった。
そして更に恐ろしいことに、悠人は夢の中で他の人の指を握るだけでなく、自分の指を他の人に渡していることにも気づいた。つまり、悠人は指の「中継地点」のような役割を果たしていたのだ。
三ヶ月後、悠人の精神状態は限界に達していた。毎晩の悪夢、冷凍庫に溜まり続ける指、そして現実と夢の境界が曖昧になっていく感覚。
ある夜、悠人は夢の中で重要な真実を知った。
夢の中で、悠人は巨大な部屋にいた。そこには無数の人々がいて、皆、指を失っていた。そして部屋の中央には、巨大な機械のような装置があった。
その装置は、失われた指を集めて何かを作っているようだった。集められた指は装置の中で溶かされ、再び人間の形に成形されていた。そして完成した「人間」は、現実世界に送り出されていた。
悠人は理解した。自分は指を集める役割を担わされていたのだ。失われた指から新しい人間を作るために。そして夢の中で出会う人々は、皆この装置によって作られた「人造人間」だったのだ。
装置の前に立っていたのは、悠人自身だった。いや、悠人に似た何者かだった。その存在が悠人に告げた。
「お疲れ様でした。十分な材料が集まりました。今度はあなたの番です」
悠人は夢の中で絶叫した。しかし逃げることはできなかった。装置が悠人を吸い込み始めていた。
目覚めた時、悠人の体に異変が起きていた。右手の指が一本、実際に欠けていた。小指がなくなっていた。そして手のひらには、見知らぬ人の指が握られていた。
悠人は絶望した。ついに現実でも指を失い始めたのだ。そして夢と現実の境界が完全に崩壊したのだ。
翌日、悠人の薬指がなくなった。翌々日は中指。一日一本ずつ、指が消失していく。そして消えた指の代わりに、常に別の人の指を握っている。
一週間後、悠人の両手から指がすべて消えた。しかし不思議なことに、日常生活には支障がなかった。まるで指がないことが当然であるかのように、体が適応していた。
二週間後、足の指も消失し始めた。悠人はもはや自分が人間なのかどうかもわからなくなっていた。鏡を見ても、映っているのは本当に自分なのか確信が持てなかった。
三週間後、悠人は最後の夢を見た。
夢の中で、悠人は装置の一部になっていた。自分の体が機械と融合し、指を処理する部品になっていた。そして新しい人間が悠人の前に立っていた。
その人間に、悠人は語りかけた。
「お疲れ様でした。十分な材料が集まりました。今度はあなたの番です」
悠人は理解した。自分は指を集める役割を終え、今度は次の人間を指導する役割に変わったのだ。そして新しい人間が、悠人と同じ運命を辿ることになる。
目覚めた時、悠人の姿は消えていた。ベッドには誰もいなかった。ただ、冷凍庫の中の指もすべて消失していた。
そして数日後、別の街で新しい被害者が現れた。夢の中で誰かと手を繋ぎ、目覚めると切断された指を握っている男性が。
悠人は夢の中で、その男性を見つめていた。かつて自分がそうであったように、困惑し、恐怖する男性を。そして悠人は知っていた。その男性もやがて、自分と同じ運命を辿ることを。
指の回収は永遠に続く。新しい人間を作るために。そして回収を担う人間も、永遠に入れ替わり続ける。悠人は今、その循環の一部となって、次の犠牲者を選び、導く役割を担っていた。
夢の中で、悠人は微笑んだ。もはや恐怖はなかった。ただ、システムの一部として機能する安らぎがあった。そして新しい犠牲者が同じ道を歩むのを、静かに見守っていた。
深夜二時頃、悠人は奇妙な夢で目を覚ました。夢の内容はよく覚えていないが、誰かと手を繋いでいたような感覚が残っていた。温かくて、少し湿った手の感触が、右手にはっきりと残っていた。
悠人は寝ぼけながら右手を見た。確かに湿っている。汗をかいたのだろうか。しかし触った感じは汗とは違う、粘り気のある液体だった。
電気をつけて手を見ると、手のひらに赤い液体がついていた。血だった。
悠人は驚いて飛び起きた。怪我をした覚えはない。手のひらを詳しく調べたが、傷は見つからなかった。それなのに、明らかに血がついている。
シーツを確認すると、悠人の手があった部分に血痕が残っていた。そして更に恐ろしいことに、シーツの下から小さな物体が転がり出てきた。
人間の指だった。
悠人は悲鳴を上げそうになったが、声が出なかった。それは間違いなく人間の指で、関節の部分で切断されていた。小指のようだった。皮膚は青白く、血管が透けて見えていた。
悠人は震えながらその指を見つめた。切断面からは血が滴っていて、まだ新鮮だった。つまり、つい最近切断されたものだった。
警察に通報すべきか悠人は迷ったが、説明のしようがなかった。「夢の中で誰かと手を繋いでいたら、目覚めた時に切断された指を握っていた」などと言って、誰が信じるだろうか。
悠人はその指をティッシュペーパーに包んで冷凍庫に保管した。そして血のついたシーツを洗濯し、手を念入りに洗った。きっと何かの間違いだろう。翌朝になれば合理的な説明が思い浮かぶはずだった。
しかし翌日になっても、説明は見つからなかった。冷凍庫の中の指は確実に存在していた。悠人は仕事中もそのことが頭から離れなかった。
その夜、悠人は眠ることを恐れた。しかし疲労には勝てず、深夜になって眠りについた。
再び奇妙な夢を見た。今度ははっきりと覚えていた。
夢の中で、悠人は暗い部屋にいた。そこに女性がいて、彼女の手から血が流れていた。女性は泣きながら悠人に手を差し出していた。悠人は無意識にその手を握った。
その瞬間、女性の指の一本が悠人の手の中で外れた。まるで熟れすぎた果実が枝から落ちるように、簡単に外れてしまった。
悠人は目を覚ました。右手に同じ感触があった。湿っていて、何かを握っている感覚があった。
恐る恐るシーツをめくると、今度は薬指が出てきた。昨夜の小指より一回り大きく、指輪をはめた跡のようなくぼみがあった。
悠人は絶望した。これは偶然ではない。何らかの理由で、夢の中で握った指が現実に持ち込まれているのだ。
三日目の夜、悠人は眠らないことにした。コーヒーを飲み、テレビを見て、意地でも眠らないよう努力した。しかし午前四時頃、うとうとしてしまった。
またしても同じ夢を見た。今度は複数の人がいた。男性、女性、子ども……皆、手から血を流していた。そして皆、悠人に向かって手を差し出していた。
悠人は必死に手を引っ込めようとしたが、夢の中では体が思うように動かなかった。気がつくと、複数の人の手を握っていた。そして握るたびに、指がポロポロと外れていった。
目覚めた時、悠人の両手は血まみれになっていた。シーツの上には五本の指が転がっていた。中指、人差し指、親指……様々な大きさと形の指だった。
悠人はパニックに陥った。このままでは自分が狂ってしまう。しかし誰にも相談できなかった。精神科医に相談したところで、妄想として片付けられるだけだろう。
悠人はインターネットで似たような事例を探した。しかし「夢で握った指が現実に現れる」という報告は見つからなかった。
一週間後、悠人の冷凍庫には二十本以上の指が保管されていた。毎晩のように夢で指を握り、目覚めるとそれが現実になっている。悠人は睡眠薬を飲んで深く眠らないよう努力したが、効果はなかった。
そして悠人は恐ろしいことに気づいた。夢の中で出会う人々の顔が、段々はっきりしてきたのだ。最初はぼんやりとした輪郭だったが、今では表情まで見えるようになっていた。
そして彼らは皆、絶望的な表情を浮かべていた。まるで悠人に何かを訴えかけるように、血まみれの手を差し出してくるのだった。
二週間後、悠人は一つの共通点に気づいた。夢に現れる人々は皆、何らかの事故や事件で指を失った人たちのようだった。工場での事故、交通事故、暴力事件……彼らは皆、現実世界で指を失い、それを悠人に渡しているのではないか。
悠人は試しに、夢の中の人物の特徴を覚えて、新聞やインターネットで事故のニュースを調べてみた。すると驚くことに、実際に指を失う事故のニュースが複数見つかった。日時も、悠人が夢を見た日と一致していた。
恐ろしい真実が明らかになった。悠人は何らかの理由で、現実世界で指を失った人々の「失われた指」を回収していたのだ。夢を通じて、切断された指が悠人のもとに送られてきているのだった。
しかし、なぜ自分なのか。悠人にはその理由がわからなかった。特別な能力があるわけでもなく、霊感が強いわけでもない。ごく普通のサラリーマンだった。
三週間後、悠人の冷凍庫は指でいっぱいになった。大人の指、子どもの指、男性の指、女性の指……様々な指が整然と並んでいた。悠人はそれらを見るたびに吐き気を催したが、捨てることもできなかった。なぜか、これらの指を大切に保管しなければならないという強迫観念があった。
一ヶ月後、夢の内容が変化した。今度は、悠人自身の手から血が流れ始めたのだ。夢の中で、悠人は自分の指を見つめていた。そして恐ろしいことに、自分の指が一本ずつ外れ始めていた。
悠人は夢の中で叫んだ。しかし声は出なかった。ただ指が次々と外れていくのを見ているしかなかった。右手の小指、薬指、中指……。
目覚めた時、悠人の右手は確かに無傷だった。しかし手のひらには、見覚えのある指が握られていた。自分の指だった。
悠人は混乱した。自分の指は確かに五本ともついている。しかし手のひらにある指も、確実に自分のものだった。指紋、爪の形、すべてが一致していた。
翌日、悠人は医者に診てもらった。しかし医師は「異常なし」と診断した。指は五本とも正常についており、怪我の痕跡もなかった。
しかし夢は続いた。毎晩、悠人は自分の指を夢の中で失い、目覚めると手のひらにそれを握っていた。左手の指、右手の残りの指、足の指……。
二ヶ月後、悠人は恐ろしい発見をした。冷凍庫に保管していた「自分の指」の数を数えると、両手両足の指の総数を超えていたのだ。二十本のはずが、三十本以上あった。
悠人は理解した。自分は過去の自分の指だけでなく、未来の自分の指も集めているのだ。夢を通じて、時間を超えて指を回収していたのだった。
そして更に恐ろしいことに、悠人は夢の中で他の人の指を握るだけでなく、自分の指を他の人に渡していることにも気づいた。つまり、悠人は指の「中継地点」のような役割を果たしていたのだ。
三ヶ月後、悠人の精神状態は限界に達していた。毎晩の悪夢、冷凍庫に溜まり続ける指、そして現実と夢の境界が曖昧になっていく感覚。
ある夜、悠人は夢の中で重要な真実を知った。
夢の中で、悠人は巨大な部屋にいた。そこには無数の人々がいて、皆、指を失っていた。そして部屋の中央には、巨大な機械のような装置があった。
その装置は、失われた指を集めて何かを作っているようだった。集められた指は装置の中で溶かされ、再び人間の形に成形されていた。そして完成した「人間」は、現実世界に送り出されていた。
悠人は理解した。自分は指を集める役割を担わされていたのだ。失われた指から新しい人間を作るために。そして夢の中で出会う人々は、皆この装置によって作られた「人造人間」だったのだ。
装置の前に立っていたのは、悠人自身だった。いや、悠人に似た何者かだった。その存在が悠人に告げた。
「お疲れ様でした。十分な材料が集まりました。今度はあなたの番です」
悠人は夢の中で絶叫した。しかし逃げることはできなかった。装置が悠人を吸い込み始めていた。
目覚めた時、悠人の体に異変が起きていた。右手の指が一本、実際に欠けていた。小指がなくなっていた。そして手のひらには、見知らぬ人の指が握られていた。
悠人は絶望した。ついに現実でも指を失い始めたのだ。そして夢と現実の境界が完全に崩壊したのだ。
翌日、悠人の薬指がなくなった。翌々日は中指。一日一本ずつ、指が消失していく。そして消えた指の代わりに、常に別の人の指を握っている。
一週間後、悠人の両手から指がすべて消えた。しかし不思議なことに、日常生活には支障がなかった。まるで指がないことが当然であるかのように、体が適応していた。
二週間後、足の指も消失し始めた。悠人はもはや自分が人間なのかどうかもわからなくなっていた。鏡を見ても、映っているのは本当に自分なのか確信が持てなかった。
三週間後、悠人は最後の夢を見た。
夢の中で、悠人は装置の一部になっていた。自分の体が機械と融合し、指を処理する部品になっていた。そして新しい人間が悠人の前に立っていた。
その人間に、悠人は語りかけた。
「お疲れ様でした。十分な材料が集まりました。今度はあなたの番です」
悠人は理解した。自分は指を集める役割を終え、今度は次の人間を指導する役割に変わったのだ。そして新しい人間が、悠人と同じ運命を辿ることになる。
目覚めた時、悠人の姿は消えていた。ベッドには誰もいなかった。ただ、冷凍庫の中の指もすべて消失していた。
そして数日後、別の街で新しい被害者が現れた。夢の中で誰かと手を繋ぎ、目覚めると切断された指を握っている男性が。
悠人は夢の中で、その男性を見つめていた。かつて自分がそうであったように、困惑し、恐怖する男性を。そして悠人は知っていた。その男性もやがて、自分と同じ運命を辿ることを。
指の回収は永遠に続く。新しい人間を作るために。そして回収を担う人間も、永遠に入れ替わり続ける。悠人は今、その循環の一部となって、次の犠牲者を選び、導く役割を担っていた。
夢の中で、悠人は微笑んだ。もはや恐怖はなかった。ただ、システムの一部として機能する安らぎがあった。そして新しい犠牲者が同じ道を歩むのを、静かに見守っていた。
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