1話5分でゾッと出来る話。短編ホラー集。短編怖い話は、そこにある

みにぶた🐽

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第80話『折れた指輪』怖さ:☆☆☆☆☆

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 墓地で拾った指輪は、誰かの指に嵌ったまま折れていた。

 深夜の墓参りの帰り道、足元で金属が光っているのに気づいた。拾い上げると、それは結婚指輪だった。しかし、指輪の一部に骨のような白いものが挟まっている。

 よく見ると、それは人間の指だった。

 指輪が指にきつく嵌りすぎて、無理に外そうとして骨ごと折れたのだろう。指輪の内側には「永遠の愛を込めて 健太郎→美紀」と刻まれていた。

 俺は気味が悪くなって、指輪をその場に捨てようとした。

 その瞬間、地面の下から笑い声が聞こえた。

 低く、くぐもった笑い声だった。墓地の地面の下から、確かに誰かが笑っている。

 俺は慌てて指輪を握りしめて、その場を離れた。

 家に帰ってから、指輪を詳しく調べた。指の骨は完全に乾燥していて、相当古いもののようだった。指輪との境目で綺麗に折れていて、まるでペンチで切断したような断面だった。

 俺はネットで「健太郎 美紀 結婚」について調べてみた。

 すると、三年前の新聞記事が見つかった。「新婚夫婦心中事件」の見出しで、写真には若い男女が写っていた。

 記事によると、新婚三ヶ月の夫婦が借金苦で無理心中を図ったとある。夫の健太郎が妻の美紀を殺害した後、自殺したと書かれていた。

 二人は隣の市の墓地に埋葬されている。俺が指輪を拾った墓地だった。

 翌日、俺は指輪を返すつもりで再び墓地を訪れた。

 健太郎と美紀の墓を見つけるのは簡単だった。新しい墓石で、二人の名前が並んで刻まれている。

 俺が指輪を墓前に置こうとした時、また笑い声が聞こえた。今度は二つの声が重なっている。男性と女性の笑い声だった。

 「ありがとう」

 墓石の向こうから、声がした。

 「指輪を持ってきてくれて」

 俺は震え上がった。しかし、声は続いた。

 「でも、これだけじゃ足りないんだ」

 男性の声だった。健太郎の声だろう。

 「僕たちは、愛し合って死んだんじゃない」

 今度は女性の声。美紀の声だった。

 「本当は、私は殺されたの。健太郎に」

 俺は指輪を墓前に置いて立ち去ろうとした。しかし、足が動かなかった。

 「でも新聞では心中って書かれた。みんな、私たちは愛し合って死んだと思ってる」

 美紀の声は怒りに震えていた。

 「だから私は指輪を外せなかった。死んでからも、この結婚の証を外せなかった」

 俺は理解した。美紀は無理やり指輪を外そうとして、指ごと折ったのだ。

 「そして今、僕たちは本当のことを知ってもらいたい」

 健太郎の声だった。

 「僕が美紀を殺したこと。愛なんてなかったこと」

 地面から、二つの人影が立ち上がった。腐敗した新婚夫婦の姿だった。美紀の薬指だけが骨になっている。

 「でも、どうやって本当のことを伝えればいいかわからなかった」

 美紀が俺に近づいた。

 「あなたが指輪を拾うまでは」

 健太郎も立ち上がった。首に紐が巻かれている。自殺の跡だった。

 「あなたに、僕たちの本当の話をしてもらいたい」

 俺は逃げようとしたが、美紀の手が俺の足首を掴んだ。指のない左手で。

 「警察に言って。私は殺されたって」

 美紀の顔は恨みで歪んでいた。

 「でも、僕は反対だ」健太郎が言った。「今のままでいい。愛し合って死んだ夫婦として記憶されたい」

 二人の間で、激しい口論が始まった。

 「真実を話して!」美紀が叫ぶ。
 「黙っていてくれ!」健太郎が叫ぶ。

 俺はその間に挟まれて、身動きが取れなくなった。

 「どちらの願いを聞く?」

 突然、二人が俺に向き直った。

 「僕たちは、あなたに選んでもらいたい」

 健太郎が微笑んだ。腐った顔で。

 「真実を暴くか、嘘を守るか」

 美紀も微笑んだ。恨みを込めて。

 「でも、どちらを選んでも、あなたは僕たちと一緒に来てもらう」

 俺は気づいた。これは選択ではなく、罠だった。

 「真実を選べば、あなたは殺人事件の証人として、僕たちと一緒に地下にいてもらう」

 「嘘を選べば、あなたは共犯者として、僕たちと一緒に責任を負ってもらう」

 どちらを選んでも、俺は地下に引きずり込まれる。

 「さあ、決めて」

 二人の手が俺を掴んだ。美紀の指のない手と、健太郎の首吊りで紫色になった手が。

 俺は必死に抵抗したが、二人の力は異常に強かった。

 「僕たちは三年間、この答えを待っていた」

 「もう待てない」

 俺の体が地面に沈んでいく。墓地の土が俺を飲み込んでいく。

 「一緒に考えよう。永遠に」

 気がつくと、俺は棺桶の中にいた。健太郎と美紀に挟まれて、狭い空間に押し込められている。

 「さあ、ゆっくり考えよう」

 健太郎が俺の耳元で囁いた。

 「真実か、嘘か」

 美紀も反対側の耳で囁いた。

 「でも、もう答えは必要ない」

 二人が同時に言った。

 「あなたがここにいることが、僕たちの答えだから」

 俺は理解した。俺が地下に引きずり込まれたこと自体が、彼らの復讐だった。

 真実も嘘も関係ない。ただ、誰かを道連れにしたかっただけだった。

 棺桶の中で、俺は二人の腐った体に挟まれている。

 そして、新しい訪問者を待っている。

 墓地で指輪を拾う、次の人を。

 俺たちの話を聞いてくれる人を。

 俺たちと一緒に、地下で永遠に過ごしてくれる人を。
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