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第80話『折れた指輪』怖さ:☆☆☆☆☆
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墓地で拾った指輪は、誰かの指に嵌ったまま折れていた。
深夜の墓参りの帰り道、足元で金属が光っているのに気づいた。拾い上げると、それは結婚指輪だった。しかし、指輪の一部に骨のような白いものが挟まっている。
よく見ると、それは人間の指だった。
指輪が指にきつく嵌りすぎて、無理に外そうとして骨ごと折れたのだろう。指輪の内側には「永遠の愛を込めて 健太郎→美紀」と刻まれていた。
俺は気味が悪くなって、指輪をその場に捨てようとした。
その瞬間、地面の下から笑い声が聞こえた。
低く、くぐもった笑い声だった。墓地の地面の下から、確かに誰かが笑っている。
俺は慌てて指輪を握りしめて、その場を離れた。
家に帰ってから、指輪を詳しく調べた。指の骨は完全に乾燥していて、相当古いもののようだった。指輪との境目で綺麗に折れていて、まるでペンチで切断したような断面だった。
俺はネットで「健太郎 美紀 結婚」について調べてみた。
すると、三年前の新聞記事が見つかった。「新婚夫婦心中事件」の見出しで、写真には若い男女が写っていた。
記事によると、新婚三ヶ月の夫婦が借金苦で無理心中を図ったとある。夫の健太郎が妻の美紀を殺害した後、自殺したと書かれていた。
二人は隣の市の墓地に埋葬されている。俺が指輪を拾った墓地だった。
翌日、俺は指輪を返すつもりで再び墓地を訪れた。
健太郎と美紀の墓を見つけるのは簡単だった。新しい墓石で、二人の名前が並んで刻まれている。
俺が指輪を墓前に置こうとした時、また笑い声が聞こえた。今度は二つの声が重なっている。男性と女性の笑い声だった。
「ありがとう」
墓石の向こうから、声がした。
「指輪を持ってきてくれて」
俺は震え上がった。しかし、声は続いた。
「でも、これだけじゃ足りないんだ」
男性の声だった。健太郎の声だろう。
「僕たちは、愛し合って死んだんじゃない」
今度は女性の声。美紀の声だった。
「本当は、私は殺されたの。健太郎に」
俺は指輪を墓前に置いて立ち去ろうとした。しかし、足が動かなかった。
「でも新聞では心中って書かれた。みんな、私たちは愛し合って死んだと思ってる」
美紀の声は怒りに震えていた。
「だから私は指輪を外せなかった。死んでからも、この結婚の証を外せなかった」
俺は理解した。美紀は無理やり指輪を外そうとして、指ごと折ったのだ。
「そして今、僕たちは本当のことを知ってもらいたい」
健太郎の声だった。
「僕が美紀を殺したこと。愛なんてなかったこと」
地面から、二つの人影が立ち上がった。腐敗した新婚夫婦の姿だった。美紀の薬指だけが骨になっている。
「でも、どうやって本当のことを伝えればいいかわからなかった」
美紀が俺に近づいた。
「あなたが指輪を拾うまでは」
健太郎も立ち上がった。首に紐が巻かれている。自殺の跡だった。
「あなたに、僕たちの本当の話をしてもらいたい」
俺は逃げようとしたが、美紀の手が俺の足首を掴んだ。指のない左手で。
「警察に言って。私は殺されたって」
美紀の顔は恨みで歪んでいた。
「でも、僕は反対だ」健太郎が言った。「今のままでいい。愛し合って死んだ夫婦として記憶されたい」
二人の間で、激しい口論が始まった。
「真実を話して!」美紀が叫ぶ。
「黙っていてくれ!」健太郎が叫ぶ。
俺はその間に挟まれて、身動きが取れなくなった。
「どちらの願いを聞く?」
突然、二人が俺に向き直った。
「僕たちは、あなたに選んでもらいたい」
健太郎が微笑んだ。腐った顔で。
「真実を暴くか、嘘を守るか」
美紀も微笑んだ。恨みを込めて。
「でも、どちらを選んでも、あなたは僕たちと一緒に来てもらう」
俺は気づいた。これは選択ではなく、罠だった。
「真実を選べば、あなたは殺人事件の証人として、僕たちと一緒に地下にいてもらう」
「嘘を選べば、あなたは共犯者として、僕たちと一緒に責任を負ってもらう」
どちらを選んでも、俺は地下に引きずり込まれる。
「さあ、決めて」
二人の手が俺を掴んだ。美紀の指のない手と、健太郎の首吊りで紫色になった手が。
俺は必死に抵抗したが、二人の力は異常に強かった。
「僕たちは三年間、この答えを待っていた」
「もう待てない」
俺の体が地面に沈んでいく。墓地の土が俺を飲み込んでいく。
「一緒に考えよう。永遠に」
気がつくと、俺は棺桶の中にいた。健太郎と美紀に挟まれて、狭い空間に押し込められている。
「さあ、ゆっくり考えよう」
健太郎が俺の耳元で囁いた。
「真実か、嘘か」
美紀も反対側の耳で囁いた。
「でも、もう答えは必要ない」
二人が同時に言った。
「あなたがここにいることが、僕たちの答えだから」
俺は理解した。俺が地下に引きずり込まれたこと自体が、彼らの復讐だった。
真実も嘘も関係ない。ただ、誰かを道連れにしたかっただけだった。
棺桶の中で、俺は二人の腐った体に挟まれている。
そして、新しい訪問者を待っている。
墓地で指輪を拾う、次の人を。
俺たちの話を聞いてくれる人を。
俺たちと一緒に、地下で永遠に過ごしてくれる人を。
深夜の墓参りの帰り道、足元で金属が光っているのに気づいた。拾い上げると、それは結婚指輪だった。しかし、指輪の一部に骨のような白いものが挟まっている。
よく見ると、それは人間の指だった。
指輪が指にきつく嵌りすぎて、無理に外そうとして骨ごと折れたのだろう。指輪の内側には「永遠の愛を込めて 健太郎→美紀」と刻まれていた。
俺は気味が悪くなって、指輪をその場に捨てようとした。
その瞬間、地面の下から笑い声が聞こえた。
低く、くぐもった笑い声だった。墓地の地面の下から、確かに誰かが笑っている。
俺は慌てて指輪を握りしめて、その場を離れた。
家に帰ってから、指輪を詳しく調べた。指の骨は完全に乾燥していて、相当古いもののようだった。指輪との境目で綺麗に折れていて、まるでペンチで切断したような断面だった。
俺はネットで「健太郎 美紀 結婚」について調べてみた。
すると、三年前の新聞記事が見つかった。「新婚夫婦心中事件」の見出しで、写真には若い男女が写っていた。
記事によると、新婚三ヶ月の夫婦が借金苦で無理心中を図ったとある。夫の健太郎が妻の美紀を殺害した後、自殺したと書かれていた。
二人は隣の市の墓地に埋葬されている。俺が指輪を拾った墓地だった。
翌日、俺は指輪を返すつもりで再び墓地を訪れた。
健太郎と美紀の墓を見つけるのは簡単だった。新しい墓石で、二人の名前が並んで刻まれている。
俺が指輪を墓前に置こうとした時、また笑い声が聞こえた。今度は二つの声が重なっている。男性と女性の笑い声だった。
「ありがとう」
墓石の向こうから、声がした。
「指輪を持ってきてくれて」
俺は震え上がった。しかし、声は続いた。
「でも、これだけじゃ足りないんだ」
男性の声だった。健太郎の声だろう。
「僕たちは、愛し合って死んだんじゃない」
今度は女性の声。美紀の声だった。
「本当は、私は殺されたの。健太郎に」
俺は指輪を墓前に置いて立ち去ろうとした。しかし、足が動かなかった。
「でも新聞では心中って書かれた。みんな、私たちは愛し合って死んだと思ってる」
美紀の声は怒りに震えていた。
「だから私は指輪を外せなかった。死んでからも、この結婚の証を外せなかった」
俺は理解した。美紀は無理やり指輪を外そうとして、指ごと折ったのだ。
「そして今、僕たちは本当のことを知ってもらいたい」
健太郎の声だった。
「僕が美紀を殺したこと。愛なんてなかったこと」
地面から、二つの人影が立ち上がった。腐敗した新婚夫婦の姿だった。美紀の薬指だけが骨になっている。
「でも、どうやって本当のことを伝えればいいかわからなかった」
美紀が俺に近づいた。
「あなたが指輪を拾うまでは」
健太郎も立ち上がった。首に紐が巻かれている。自殺の跡だった。
「あなたに、僕たちの本当の話をしてもらいたい」
俺は逃げようとしたが、美紀の手が俺の足首を掴んだ。指のない左手で。
「警察に言って。私は殺されたって」
美紀の顔は恨みで歪んでいた。
「でも、僕は反対だ」健太郎が言った。「今のままでいい。愛し合って死んだ夫婦として記憶されたい」
二人の間で、激しい口論が始まった。
「真実を話して!」美紀が叫ぶ。
「黙っていてくれ!」健太郎が叫ぶ。
俺はその間に挟まれて、身動きが取れなくなった。
「どちらの願いを聞く?」
突然、二人が俺に向き直った。
「僕たちは、あなたに選んでもらいたい」
健太郎が微笑んだ。腐った顔で。
「真実を暴くか、嘘を守るか」
美紀も微笑んだ。恨みを込めて。
「でも、どちらを選んでも、あなたは僕たちと一緒に来てもらう」
俺は気づいた。これは選択ではなく、罠だった。
「真実を選べば、あなたは殺人事件の証人として、僕たちと一緒に地下にいてもらう」
「嘘を選べば、あなたは共犯者として、僕たちと一緒に責任を負ってもらう」
どちらを選んでも、俺は地下に引きずり込まれる。
「さあ、決めて」
二人の手が俺を掴んだ。美紀の指のない手と、健太郎の首吊りで紫色になった手が。
俺は必死に抵抗したが、二人の力は異常に強かった。
「僕たちは三年間、この答えを待っていた」
「もう待てない」
俺の体が地面に沈んでいく。墓地の土が俺を飲み込んでいく。
「一緒に考えよう。永遠に」
気がつくと、俺は棺桶の中にいた。健太郎と美紀に挟まれて、狭い空間に押し込められている。
「さあ、ゆっくり考えよう」
健太郎が俺の耳元で囁いた。
「真実か、嘘か」
美紀も反対側の耳で囁いた。
「でも、もう答えは必要ない」
二人が同時に言った。
「あなたがここにいることが、僕たちの答えだから」
俺は理解した。俺が地下に引きずり込まれたこと自体が、彼らの復讐だった。
真実も嘘も関係ない。ただ、誰かを道連れにしたかっただけだった。
棺桶の中で、俺は二人の腐った体に挟まれている。
そして、新しい訪問者を待っている。
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俺たちと一緒に、地下で永遠に過ごしてくれる人を。
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