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第92話『泣いた肖像画』怖さ:☆☆☆☆☆
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美術室の壁にかけられた少女の肖像画は、いつ描かれたものか誰も知らなかった。制服を着た女子生徒の絵だが、現在の制服とは微妙にデザインが違う。
掃除当番で美術室に入った時、俺はその絵に違和感を覚えた。少女の目元が濡れているように見えたのだ。
翌日も気になって見に行くと、今度は確実に涙の跡があった。絵の具で描かれた頬に、本物の涙が流れた跡がくっきりと残っている。
美術の先生に聞いてみたが、「昔からある絵だが、作者も詳細も不明」とのことだった。ただ、時々生徒から「泣いているように見える」という報告があるらしい。
俺は学校の古い記録を調べ始めた。図書室の奥で見つけた十五年前の生徒名簿に、絵とそっくりな顔の女子生徒を発見した。
名前は佐藤美咲。調べてみると、彼女は在学中に行方不明になっていた。学校からの帰り道で姿を消し、今も見つかっていない。
その日の夜、俺は学校に忍び込んだ。美術室の肖像画を見ると、少女はすすり泣いているように見えた。絵の具が滲んで、まるで涙で溶けているようだった。
近づいて絵に触れた瞬間、俺の意識は絵の中に吸い込まれた。
気がつくと、俺は絵の中にいた。周りは白いキャンバスの世界。そこに、制服を着た少女が立っていた。佐藤美咲本人だった。
「やっと誰か来てくれた」彼女は安堵の表情を浮かべた。「私、ずっとここにいるの。絵の中に閉じ込められて」
美咲の話によると、彼女は帰り道で不審な男に追いかけられ、美術室に逃げ込んだ。その時、肖像画に触れてしまい、絵の中に吸い込まれたのだという。
「外に出る方法を探してるけど、一人じゃ無理だった。でも二人なら」
美咲は俺の手を握った。その瞬間、俺たちは絵の縁まで移動できた。キャンバスの境界線が見える。
「一緒に出よう」美咲が言った時、俺は気づいた。彼女の手が異様に冷たい。そして、握られた俺の手から体温がどんどん奪われていく。
「あなたの温もりをもらって、私が外に出るの」美咲の顔が変わった。十五年間絵の中にいた恨みと狂気が、その瞳に宿っている。
俺は手を振り払おうとしたが、美咲の力は異常に強かった。俺の体温、生気、存在そのものが彼女に吸い取られていく。
「ありがとう。これで私は元の世界に戻れる」
美咲は絵の外に出て行った。俺は彼女がいた場所に残される。
翌朝、美術室を覗いた生徒たちは驚いた。肖像画の少女がいなくなっている。代わりに、男子生徒の肖像画がかけられていた。
その男子生徒は泣いているように見えた。
一方、十五年前に行方不明になった佐藤美咲は、その日突然家に帰ってきた。家族は奇跡だと喜んだが、美咲は十五年前と全く変わらない姿だった。
美咲は今、普通の生活を送っている。時々美術室を覗いては、新しい肖像画を見つめている。
次に絵に触れる人を、探しながら。
掃除当番で美術室に入った時、俺はその絵に違和感を覚えた。少女の目元が濡れているように見えたのだ。
翌日も気になって見に行くと、今度は確実に涙の跡があった。絵の具で描かれた頬に、本物の涙が流れた跡がくっきりと残っている。
美術の先生に聞いてみたが、「昔からある絵だが、作者も詳細も不明」とのことだった。ただ、時々生徒から「泣いているように見える」という報告があるらしい。
俺は学校の古い記録を調べ始めた。図書室の奥で見つけた十五年前の生徒名簿に、絵とそっくりな顔の女子生徒を発見した。
名前は佐藤美咲。調べてみると、彼女は在学中に行方不明になっていた。学校からの帰り道で姿を消し、今も見つかっていない。
その日の夜、俺は学校に忍び込んだ。美術室の肖像画を見ると、少女はすすり泣いているように見えた。絵の具が滲んで、まるで涙で溶けているようだった。
近づいて絵に触れた瞬間、俺の意識は絵の中に吸い込まれた。
気がつくと、俺は絵の中にいた。周りは白いキャンバスの世界。そこに、制服を着た少女が立っていた。佐藤美咲本人だった。
「やっと誰か来てくれた」彼女は安堵の表情を浮かべた。「私、ずっとここにいるの。絵の中に閉じ込められて」
美咲の話によると、彼女は帰り道で不審な男に追いかけられ、美術室に逃げ込んだ。その時、肖像画に触れてしまい、絵の中に吸い込まれたのだという。
「外に出る方法を探してるけど、一人じゃ無理だった。でも二人なら」
美咲は俺の手を握った。その瞬間、俺たちは絵の縁まで移動できた。キャンバスの境界線が見える。
「一緒に出よう」美咲が言った時、俺は気づいた。彼女の手が異様に冷たい。そして、握られた俺の手から体温がどんどん奪われていく。
「あなたの温もりをもらって、私が外に出るの」美咲の顔が変わった。十五年間絵の中にいた恨みと狂気が、その瞳に宿っている。
俺は手を振り払おうとしたが、美咲の力は異常に強かった。俺の体温、生気、存在そのものが彼女に吸い取られていく。
「ありがとう。これで私は元の世界に戻れる」
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翌朝、美術室を覗いた生徒たちは驚いた。肖像画の少女がいなくなっている。代わりに、男子生徒の肖像画がかけられていた。
その男子生徒は泣いているように見えた。
一方、十五年前に行方不明になった佐藤美咲は、その日突然家に帰ってきた。家族は奇跡だと喜んだが、美咲は十五年前と全く変わらない姿だった。
美咲は今、普通の生活を送っている。時々美術室を覗いては、新しい肖像画を見つめている。
次に絵に触れる人を、探しながら。
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