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第100話『動き出す棺』怖さ:☆☆☆☆☆
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古い洋館を相続した俺は、二階の隅の部屋で奇妙なものを見つけた。部屋の中央に置かれた黒い棺桶と、壁にかけられた古い柱時計。
時計は午前三時を指したまま止まっていた。針が全く動かない。
棺桶は立派な作りで、蓋には精巧な彫刻が施されている。だが中を確認する勇気はなかった。
その夜、俺は一階で眠っていたが、午前三時ちょうどに目が覚めた。上の階から重い物が動く音が聞こえる。
恐る恐る二階に上がると、棺桶の部屋から音が響いていた。ドアを開けると、棺桶が部屋の中央から窓際に移動していた。
時計を見ると、止まっていたはずの針が動き出している。コチコチと規則正しく時を刻んでいる。
翌日の午前三時、また同じことが起こった。今度は棺桶がドア側に移動していた。時計の針も再び動いている。
俺は棺桶の動きにパターンがあることに気づいた。毎晩少しずつ、部屋の中を時計回りに移動している。
一週間観察すると、棺桶は確実に部屋を一周していた。そして時計が動くのは、棺桶が移動している間だけ。
十日目の夜、俺は部屋で待機することにした。午前三時が近づくと、時計の針が動き始めた。
同時に、棺桶から中の音が聞こえてきた。コンコンという、内側から叩く音。
蓋が少しずつ開いていく。中から白い手が現れ、棺桶の縁を掴んだ。
現れたのは、俺だった。
棺桶の中の俺は、目を閉じたまま立ち上がった。死人のような青白い顔で、ゆっくりと棺桶から出てくる。
棺桶の俺は眠ったまま歩き始めた。部屋を時計回りに歩いている。俺は後を追った。
一周回ると、棺桶の俺は再び棺桶に戻った。蓋が閉まり、時計の針も止まった。棺桶の位置は、確実に時計回りに移動していた。
翌日、俺は恐ろしい事実に気づいた。棺桶の俺が歩いた軌跡に、俺の足跡が残っている。靴の跡、歩幅、全て俺のものと一致している。
そして鏡を見ると、俺の顔に死人のような青白さが現れていた。
十五日目、棺桶の俺の動きが変わった。部屋を出て、廊下を歩き始めたのだ。俺は後を追った。
棺桶の俺は一階に降り、玄関に向かった。外に出ようとしている。
慌てて止めようとしたが、棺桶の俺に触れた瞬間、俺の意識が棺桶の俺に移った。
俺は棺桶の俺として外を歩いていた。目は閉じているが、足は勝手に動く。どこに向かっているのかわからない。
気がつくと、俺は墓地にいた。古い墓石が並ぶ一角に、俺の名前が刻まれた墓があった。
墓の前で、棺桶の俺は跪いた。そして地面に向かって何かを話しかけている。
「時間です。交代してください」
地面から手が出てきた。土を掻き分けて、もう一人の俺が這い出してくる。
地面の俺は立ち上がると、棺桶の俺と握手を交わした。
「お疲れさまでした。次は私の番ですね」
地面の俺は洋館に向かって歩いていく。一方、棺桶の俺は墓穴に入っていく。
俺の意識は再び移動した。今度は地面の俺として洋館に戻っている。
部屋に戻ると、棺桶は元の位置にあった。時計は午前三時を指して止まっている。
俺は棺桶に入った。蓋が閉まる音が聞こえる。
明日の午前三時、また別の俺が棺桶から出てくるだろう。部屋を歩き回り、やがて墓地に向かう。
そして俺と交代する。
時計が示す午前三時は、俺たちの交代時間だった。
生きている俺、死んでいる俺、眠っている俺。全ての俺が順番に、この洋館と墓地を往復している。
永遠に続く、俺たちの交代劇。
今夜も午前三時が近づいている。
時計は午前三時を指したまま止まっていた。針が全く動かない。
棺桶は立派な作りで、蓋には精巧な彫刻が施されている。だが中を確認する勇気はなかった。
その夜、俺は一階で眠っていたが、午前三時ちょうどに目が覚めた。上の階から重い物が動く音が聞こえる。
恐る恐る二階に上がると、棺桶の部屋から音が響いていた。ドアを開けると、棺桶が部屋の中央から窓際に移動していた。
時計を見ると、止まっていたはずの針が動き出している。コチコチと規則正しく時を刻んでいる。
翌日の午前三時、また同じことが起こった。今度は棺桶がドア側に移動していた。時計の針も再び動いている。
俺は棺桶の動きにパターンがあることに気づいた。毎晩少しずつ、部屋の中を時計回りに移動している。
一週間観察すると、棺桶は確実に部屋を一周していた。そして時計が動くのは、棺桶が移動している間だけ。
十日目の夜、俺は部屋で待機することにした。午前三時が近づくと、時計の針が動き始めた。
同時に、棺桶から中の音が聞こえてきた。コンコンという、内側から叩く音。
蓋が少しずつ開いていく。中から白い手が現れ、棺桶の縁を掴んだ。
現れたのは、俺だった。
棺桶の中の俺は、目を閉じたまま立ち上がった。死人のような青白い顔で、ゆっくりと棺桶から出てくる。
棺桶の俺は眠ったまま歩き始めた。部屋を時計回りに歩いている。俺は後を追った。
一周回ると、棺桶の俺は再び棺桶に戻った。蓋が閉まり、時計の針も止まった。棺桶の位置は、確実に時計回りに移動していた。
翌日、俺は恐ろしい事実に気づいた。棺桶の俺が歩いた軌跡に、俺の足跡が残っている。靴の跡、歩幅、全て俺のものと一致している。
そして鏡を見ると、俺の顔に死人のような青白さが現れていた。
十五日目、棺桶の俺の動きが変わった。部屋を出て、廊下を歩き始めたのだ。俺は後を追った。
棺桶の俺は一階に降り、玄関に向かった。外に出ようとしている。
慌てて止めようとしたが、棺桶の俺に触れた瞬間、俺の意識が棺桶の俺に移った。
俺は棺桶の俺として外を歩いていた。目は閉じているが、足は勝手に動く。どこに向かっているのかわからない。
気がつくと、俺は墓地にいた。古い墓石が並ぶ一角に、俺の名前が刻まれた墓があった。
墓の前で、棺桶の俺は跪いた。そして地面に向かって何かを話しかけている。
「時間です。交代してください」
地面から手が出てきた。土を掻き分けて、もう一人の俺が這い出してくる。
地面の俺は立ち上がると、棺桶の俺と握手を交わした。
「お疲れさまでした。次は私の番ですね」
地面の俺は洋館に向かって歩いていく。一方、棺桶の俺は墓穴に入っていく。
俺の意識は再び移動した。今度は地面の俺として洋館に戻っている。
部屋に戻ると、棺桶は元の位置にあった。時計は午前三時を指して止まっている。
俺は棺桶に入った。蓋が閉まる音が聞こえる。
明日の午前三時、また別の俺が棺桶から出てくるだろう。部屋を歩き回り、やがて墓地に向かう。
そして俺と交代する。
時計が示す午前三時は、俺たちの交代時間だった。
生きている俺、死んでいる俺、眠っている俺。全ての俺が順番に、この洋館と墓地を往復している。
永遠に続く、俺たちの交代劇。
今夜も午前三時が近づいている。
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