言葉がチートスキルになった世界で、僕だけが黙示録を書き換える破神構文。創造者と被造者の黙示録

みにぶた🐽

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読者と神の影

第4章【第一の道:完全なる和解】

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 夕暮れ時、僕たちは学院の中庭で手を取り合った。
 空に現れた真の創造者からのメッセージが、ゆっくりと消えていく。五つの道の選択において、僕たちは「第一の道:完全なる和解」を選んだのだった。
 「アルカディア君」
 エリシアが僕の手を握りしめた。
 「本当にこの道でよろしいのですね?」
 僕は頷いた。
 「はい。僕が犯した過ちは、僕自身が償わなければならない。全ての世界を巡り、一人一人に謝罪し、信頼を取り戻したいんです」
 カイルが僕の肩を叩いた。
 「だったら俺たちも一緒に行く。一人で背負い込むな」
 「でも、カイル……」
 「友達だろう?」
 彼はいつものように爽やかに笑った。
 「お前が間違いを犯したのは事実だ。でも、それを一人で償う必要はない。俺たちがいる」
 グランベル先生も杖を手に立ち上がった。
 「私も同行しましょう。この老いぼれにも、果たすべき責任があります」
 その時、学院の門の方から足音が聞こえた。振り返ると、見覚えのある人影が近づいてくる。
 「黒田さん!」
 僕は驚いて声を上げた。黒田ユミさんが、旅装束に身を包んで立っていたのだ。
 「田中君、いえ、アルカディア君」
 黒田さんが微笑みかけた。
 「あなたたちの選択を見ていました。素晴らしい決断ですね」
 「どうしてここに?」
 「創造者召還の儀式の後、私はこの世界に残ることになりました」
 黒田さんが説明した。
 「もう現代世界には戻れませんが、この世界で新しい人生を歩むことに決めたんです。魔法の森の近くに小さな家を借りて、物語創作の研究を続けています。そして今日、空に現れたメッセージを見て、急いで駆けつけました」
 エリシアが黒田さんに深々と頭を下げた。
 「黒田様、以前は本当にありがとうございました。あなたがいなければ、私たちは今ここにいることはできませんでした」
 「いえいえ」
 黒田さんが手を振った。
 「むしろ私の方が、あなたたちから多くのことを学ばせてもらいました。物語の登場人物と作者の関係について、深く考えさせられました」
 グランベル先生が黒田さんに向かって会釈した。
 「黒田殿、お久しぶりです。今度の償いの旅にも同行していただけるのでしょうか?」
 「ええ、もしよろしければ」
 黒田さんが僕を見た。
 「私も創造者の一人として、この世界に責任があります。アルカディア君の償いを手伝わせてください」
 僕は胸が熱くなった。
 「ありがとうございます。皆さんがいてくださって、本当に心強いです」

 翌朝、僕たちは最初の目的地であるベリクス帝国へと向かった。
 転移魔法を使えば一瞬で到着できるが、今回は敢えて徒歩での旅を選んだ。償いの旅には、それなりの苦労と時間をかけるべきだと考えたからだ。
 三日間の旅路を経て、ベリクス帝国の首都に到着した時、僕たちを迎えたのは複雑な空気だった。
 街の人々は僕を見ると、様々な表情を浮かべる。怒り、困惑、そして一部には同情のような感情も見て取れた。
 「アルカディア様」
 帝国の兵士が僕たちを宮殿に案内してくれた。
 「マルス将軍がお待ちです」
 謁見の間で、マルス・バトルフォード将軍と再会した。彼は以前よりも落ち着いた表情をしていたが、その目には深い疲労が宿っていた。
 「アルカディア」
 マルス将軍が僕の名を呼んだ。
 「来てくれたのか」
 僕は膝をついて頭を下げた。
 「マルス将軍、この度は本当に申し訳ありませんでした。統一管理システムによって、帝国の皆さんの自由を奪い、多大なご迷惑をおかけしました」
 謁見の間に静寂が流れた。
 「顔を上げろ」
 マルス将軍の声は厳しかったが、怒りよりも悲しみが込められていた。
 「お前が謝罪に来ることは予想していた。だが、謝罪だけで全てが解決するわけではない」
 「はい。承知しています」
 僕は顔を上げて将軍を見つめた。
 「僕にできることがあれば、何でもします。失った信頼を取り戻すために、どんな努力でも惜しみません」
 マルス将軍は長い間、僕を見つめていた。そして、ゆっくりと口を開いた。
 「この三ヶ月間、帝国は自力で立て直しを図ってきた。統一管理システムの後遺症で、多くの兵士が自分の意志を取り戻すのに苦労した」
 僕の胸が痛んだ。
 「特に若い兵士たちは、突然の自由に戸惑い、何をすべきか分からなくなった。中には、管理されていた方が楽だったと言う者もいる」
 「そんな……」
 「だが」
 マルス将軍が続けた。
 「それでも、我々は自分たちの足で歩むことを選んだ。お前の管理システムは確かに効率的だったが、それは本当の平和ではなかった」
 黒田さんが一歩前に出た。
 「マルス将軍、お久しぶりです」
 マルス将軍が黒田さんを見た。
 「黒田さん……確か創造者召還の儀式の時に」
 「はい。黒田ユミです。佐藤さん、いえ、マルス将軍」
 黒田さんが深々と頭を下げた。
 「創造者の一人として、私からもお詫び申し上げます。アルカディア君の統一管理システムを阻止できず、申し訳ありませんでした」
 マルス将軍の表情が複雑に変わった。
 「黒田さん、あなたに謝られる筋合いはありません。あなたは最後まで、住民たちの自由を守ろうとしてくれた」
 「でも、結果として皆さんにご迷惑をおかけしました」
 「むしろ、創造者同士で協力して事態を解決できたことを、誇りに思うべきでしょう」
 マルス将軍が頷いた。
 「私たち創造者には、共通の責任があります。この世界と住民たちを守る責任が」
 エリシアが美しい声で話しかけた。
 「将軍、私たちにできることがあれば、遠慮なくおっしゃってください。アルカディア君の過ちですが、私たちも共に責任を負いたいと思っています」
 マルス将軍の表情が少し和らいだ。
 「エリシア嬢、あなたには感謝している。統一管理システムの解除に尽力してくれたそうですね」
 「当然のことをしただけです」
 カイルも剣を床に置いて膝をついた。
 「俺からも頼む。アルカディアは確かに間違いを犯した。でも、それを償おうとしている。どうか、機会を与えてほしい」
 マルス将軍は僕たちを見回した。そして、深いため息をついた。
 「分かった。だが、条件がある」
 「何でも承ります」
 「帝国の復興作業に参加してもらう。特に、統一管理システムの後遺症で苦しんでいる兵士たちの心のケアを手伝ってほしい」
 僕は即座に答えた。
 「もちろんです。喜んでお手伝いさせていただきます」
 「それから」
 マルス将軍が厳しい表情を浮かべた。
 「今後、このような独断専行は二度と行わないと誓ってもらう」
 「誓います」
 僕は心の底から言った。
 「二度と、皆さんの意志を無視した行動は取りません」

 それから一週間、僕たちはベリクス帝国で復興作業に従事した。
 特に印象深かったのは、若い兵士のリカルドとの出会いだった。
 「アルカディア様」
 彼は最初、僕を見ると震え上がった。
 「どうして……どうして僕を管理してくださらないのですか?」
 僕は愕然とした。
 「管理?」
 「はい。統一管理システムがあった時は、何も考えなくてよかった。言われた通りに行動すれば、それで十分でした。でも今は……何をすべきか分からないんです」
 僕は彼の肩に手を置いた。
 「リカルド、君には君自身の意志がある。それを大切にしてほしい」
 「でも、間違ったらどうするんですか?」
 「間違えてもいいんです」
 黒田さんが優しく語りかけた。
 「間違いから学ぶことが、成長につながるのです。完璧である必要はありません」
 エリシアも彼の隣に座った。
 「リカルド君、あなたの心の中には、きっと本当にしたいことがあるはずです。それを探してみませんか?」
 カイルが剣の手入れをしながら言った。
 「俺も最初は迷いまくりだった。でも、迷いながらでも自分で決めることが大切なんだ」
 グランベル先生が杖を地面に突いた。
 「若者よ、自由とは重いものです。しかし、その重さを受け入れることで、本当の人生が始まるのです」
 リカルドは涙を流しながら頷いた。
 「分かりました。頑張ってみます」

 週の終わり、マルス将軍が僕たちを呼んだ。
 「アルカディア、そして皆さん」
 彼の表情は、最初に会った時よりもずっと穏やかだった。
 「この一週間、あなたたちの働きぶりを見させてもらった。特に兵士たちへの心のケアは素晴らしかった」
 僕は安堵した。
 「少しでもお役に立てたでしょうか?」
 「ああ。リカルドをはじめ、多くの兵士が前向きになってきている」
 マルス将軍が僕の前に立った。
 「アルカディア、私はあなたを許す」
 僕の目に涙があふれた。
 「将軍……」
 「ただし」
 彼が僕の肩を掴んだ。
 「この教訓を決して忘れるな。力を持つ者の責任の重さを、しっかりと胸に刻んでおけ」
 「はい。肝に銘じます」
 マルス将軍が微笑んだ。
 「それから、もし帝国が本当に困った時は、遠慮なく助けを求める。その時は力を貸してくれ」
 「もちろんです」
 僕は深く頭を下げた。
 「いつでもお声をかけてください」

 帝国を出発する朝、多くの兵士や市民が見送りに来てくれた。
 リカルドも来ていた。彼の表情は、一週間前とは全く違っていた。自信に満ちた、生き生きとした顔をしていた。
 「アルカディア様、ありがとうございました」
 彼が深々と頭を下げた。
 「僕、自分でやりたいことを見つけました。兵士を続けながら、困っている人たちを助ける仕事がしたいです」
 僕は彼の手を握った。
 「素晴らしい目標ですね。きっと立派な兵士になりますよ」
 「はい!」
 リカルドが元気よく答えた。

 次に向かったのは桜咲学園だった。
 学園に到着すると、サクラ・ブロッサム先生が僕たちを迎えてくれた。しかし、彼女の表情は複雑だった。
 「アルカディア君、お疲れ様」
 サクラ先生が微笑んだが、その笑顔にはかすかな疲労が見えた。
 「先生、この度は本当に申し訳ありませんでした」
 僕は再び頭を下げた。
 「恋愛魔法システムの暴走を止められず、多くの生徒さんたちにご迷惑をおかけしました」
 「顔を上げて」
 サクラ先生が僕の肩に手を置いた。
 「あなただけの責任ではありません。私たちも、システムに頼りすぎていました」
 校庭では、生徒たちが自由に過ごしていた。恋愛魔法システムが完全に停止した今、彼らは自然な感情で恋愛を楽しんでいるようだった。
 「先生」
 黒田さんが質問した。
 「システム停止後の生徒さんたちの様子はいかがですか?」
 「最初は戸惑いもありました」
 サクラ先生が答えた。
 「でも、今では皆、自分の気持ちと向き合うことの大切さを理解しています。確かに失恋で泣く子もいますが、それも成長の一部ですから」
 エリシアが安堵の表情を浮かべた。
 「それを聞いて安心しました」
 「それより」
 サクラ先生が僕を見た。
 「アルカディア君、あなたに頼みたいことがあります」
 「何でも承ります」
 「生徒たちに、あなたの体験を話してもらえませんか? 権力を持つことの責任と危険性について」
 僕は驚いた。
 「僕なんかの話で、本当に役に立つでしょうか?」
 「あなたの失敗談こそが、最も価値のある教材です」
 グランベル先生が頷いた。
 「失敗から学ぶことの大切さを、身をもって示すことができるでしょう」
 カイルも賛成した。
 「俺も一緒に話そう。友達として、お前の間違いを見ていた立場から」

 その日の午後、学園の大講堂で特別講演が行われた。
 数百人の生徒が集まった講堂で、僕は自分の体験を正直に話した。
 創造者として世界に降り立った時の高揚感。
 世界を完璧にしようとした願望。
 そして、統一管理システムという名の独裁の恐ろしさ。
 「僕は、善意のつもりで行動していました」
 僕は生徒たちの目を見つめながら語った。
 「でも、他人の自由を奪うことに、善意も悪意もありません。結果として、多くの人を苦しめてしまいました」
 一人の男子生徒が手を上げた。
 「アルカディア先輩、後悔していますか?」
 僕は即座に答えた。
 「はい、深く後悔しています。でも同時に、この経験から多くのことを学びました。力を持つ者の責任の重さを」
 女子生徒が質問した。
 「どうやって、その責任を果たしていくつもりですか?」
 黒田さんが僕の隣で答えた。
 「私たち創造者は、この世界の住民の皆さんと対等な関係を築いていきたいと思っています。支配するのではなく、共に歩んでいく仲間として」
 エリシアが美しい声で語りかけた。
 「皆さん一人一人が、それぞれの人生の主人公です。誰にも、その権利を奪う資格はありません」
 講演の最後、多くの生徒から温かい拍手をもらった。
 講演後、一人の女子生徒が僕のところに来た。
 「先輩、私、将来政治家になりたいんです」
 彼女が真剣な表情で言った。
 「今日の話を聞いて、権力の怖さを知りました。でも同時に、正しく使えば多くの人を幸せにできることも分かりました」
 僕は彼女の手を握った。
 「素晴らしい志ですね。きっと立派な政治家になりますよ。ただし、常に謙虚さを忘れずに」
 「はい!」
 彼女が元気よく答えた。

 桜咲学園での一週間も、多くの学びがあった。
 生徒たちの純粋な質問に答えながら、僕は自分自身の考えをより深く理解することができた。
 出発の日、サクラ先生が僕たちを見送ってくれた。
 「アルカディア君、あなたたちの償いの旅は、多くの人に希望を与えています」
 彼女が微笑んだ。
 「間違いを犯した者でも、真摯に向き合えば必ず道は開ける。それを示してくれて、ありがとう」
 僕は深く頭を下げた。
 「こちらこそ、ありがとうございました。生徒さんたちから、多くのことを学ばせていただきました」

 次は星間連邦、その次は魔法の森。
 それぞれの世界で、僕たちは同様の償いの活動を続けた。
 ステラ・コスモス司令は最初、僕を厳しく叱責したが、最終的には技術の平和利用について共に議論することができた。
 ミスティ・エンチャントは、自然との調和の大切さを教えてくれた。
 そして、全ての世界を巡り終えた時、僕は確信していた。
 真の和解は、一度の謝罪で成し遂げられるものではない。
 日々の積み重ねによって、少しずつ築き上げていくものなのだ。
 
 旅の最後、僕たちはリテラ王国に戻ってきた。
 王都の中央広場に立った時、多くの住民が僕たちを迎えてくれた。
 その中には、ベリクス帝国のリカルドや、桜咲学園の生徒たち、そして他の世界の代表者たちもいた。
 彼らは皆、温かい笑顔を浮かべていた。
 「アルカディア様」
 リカルドが前に出た。
 「僕たち、決めました。定期的に四つの世界で交流会を開くことにしたんです」
 桜咲学園の生徒も頷いた。
 「はい。お互いの文化を学び合って、より良い関係を築いていきたいんです」
 僕は涙があふれそうになった。
 「皆さん……」
 黒田さんが僕の肩を叩いた。
 「アルカディア君、あなたの償いは実を結びましたね」
 エリシアが僕の手を握った。
 「これからは、皆さんと共に、新しい物語を作っていきましょう」
 カイルが拳を空に向けた。
 「よし! これからが本当の始まりだ!」
 グランベル先生が杖を地面に突いた。
 「償いの旅は終わりました。しかし、真の和解への道のりは、これから始まるのです」

 夕日が四つの世界を照らしていた。
 僕たちの長い償いの旅は終わったが、新しい物語はまだ始まったばかりだった。
 読者の皆さんと共に選んだこの道は、確かに正しかった。
 完全なる和解は、一歩ずつ、確実に近づいているのだから。
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