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第I部:投票はじまりの檻
第1章「配信開始」
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白い光が瞼の裏を貫いた瞬間、俺は目を覚ました。
硬いベッドの感触が背中に伝わってくる。見慣れない天井。真っ白な壁。そして、どこからか聞こえてくる微かな機械音。
ゆっくりと身体を起こす。ここは……どこだ?
四方を囲む壁は継ぎ目のない白一色で、まるで病院の個室のようだった。だが、病院にしては妙に無機質すぎる。窓はなく、ドアらしきものも見当たらない。ベッド以外には何もない、完全に密閉された空間。
記憶を手繰り寄せようとするが、どうしてここにいるのかまったく思い出せない。昨日の夜、俺は確か自分のアパートにいたはずだ。バイトから帰って、コンビニ弁当を食べて、適当にネットを見てから寝た。それ以降の記憶が、まるで霧の中に消えたように曖昧だった。
そのとき、天井の隅に取り付けられた小さなスピーカーから、無機質な機械音声が流れ始めた。
「参加者の皆様、おはようございます。人気投票型サバイバルへようこそ」
人気投票?サバイバル?
機械音声は感情の欠片もない調子で続ける。
「まもなく個室の壁が開放されます。中央ホールへお集まりください。詳細なルール説明は、全員が揃い次第開始いたします」
個室の壁が……開放される?
俺がその意味を理解する間もなく、目の前の壁にうっすらと線が浮かび上がった。そして、その線を境界として壁がするするとスライドし始める。
壁の向こうには、明るく照明された広いホールが広がっていた。
そして、俺と同じように戸惑った表情で個室から出てくる人影が、あちこちで動いているのが見えた。
「おい、何だよこれ!」
「ここどこ?私たち、なんでこんなところに!」
「誰か説明しろよ!」
怒号や困惑の声が飛び交う中、俺は冷静にホール全体を見渡した。円形のホールの周囲に、俺がいたような個室が等間隔で配置されている。そして今、その全ての個室から人が出てきているのが見えた。
ざっと数えて十五人。全員が俺と同世代、十代後半から二十代前半といったところだろう。男女の比率もほぼ半々だ。
そして何より目を引いたのは、ホールの至る所に設置された小型カメラの存在だった。天井、壁、柱。まるで死角がないように、あらゆる角度から俺たちを捉えている。
「何これ、カメラ?」
茶髪の女性が震え声で呟いた。
「盗撮か?警察呼ぼう!」
短髪の男性がポケットに手を突っ込んだが、すぐに顔を歪めた。
「スマホがない……」
俺も慌てて自分のポケットを確認する。財布も、スマホも、何もかもが消えていた。あるのは、着ていた服だけ。
その時、ホール中央の巨大なモニターが光った。
画面には、見覚えのあるSNSの配信画面が映し出されている。ライブ配信のコメント欄が猛烈な勢いで流れ、視聴者数のカウンターが目まぐるしく増加していく。
『1,247人が視聴中』
『1,398人が視聴中』
『1,756人が視聴中』
そして画面の片隅には、俺たち十五人の顔写真と簡単なプロフィールが表示されていた。
『#01 斑鳩凌 男性 19歳 大学生』
『#02 葛城翼 男性 20歳 フリーター』
『#03 宇佐美凛 女性 18歳 高校生』
『#04 雪村颯汰 男性 21歳 大学生』
俺は自分の番号を探した。
『#07 緋村陸翔 男性 19歳 大学生』
番号で管理されている。名前ではなく、番号で。
そして、コメント欄に流れる視聴者の反応が、俺の背筋を凍らせた。
『#07イケメンすぎwww』
『#03可愛い!推せる!』
『#14怖すぎて無理』
『#01エロすぎて草』
『何これ新しい配信?』
『ガチで監禁されてるの?』
『演技うますぎでしょwww』
俺たちは……配信されている。
リアルタイムで、全世界に。
「嘘だろ……」
誰かが呟いた声が、静まり返ったホールに響いた。
俺は周囲の参加者たちを見回した。全員が画面を見上げ、青ざめた顔をしている。現実を受け入れられずにいる者、怒りで震えている者、恐怖で動けずにいる者。
だが俺は、妙に冷静だった。
これは現実だ。どんなに信じたくなくても、どんなに理不尽でも、これが今俺たちが置かれている状況なのだ。
感情的になって喚いても、現状は何も変わらない。まずは情報を集め、状況を正確に把握する必要がある。
「皆さん、落ち着いてください」
俺は声を上げた。十四人の視線が俺に向く。
「パニックになっても仕方ない。まずは、ここがどういう場所なのか、なぜ俺たちがここにいるのか、それを理解することから始めよう」
短髪の男性……葛城翼が俺を睨んだ。
「落ち着けって、お前、状況分かってんのか?俺たちは誘拐されて、勝手に配信されてるんだぞ!」
「分かってる」俺は淡々と答えた。「だからこそ、冷静になる必要がある」
その時、再び機械音声が響いた。
「全参加者の集合を確認いたしました。これより、ゲームのルール説明を開始いたします」
ゲーム?
モニターの画面が切り替わり、ルール説明が表示された。
『人気投票型サバイバルゲーム』
『ルール①:不定期午後8時に人気投票を実施』
『ルール②:毎回ではないが処刑日に最下位の1名は即座に処刑』
『ルール③:上位5名は看守に任命され、特別な権限を獲得』
『ルール④:看守は囚人に対し命令権を持つ』
『ルール⑤:命令違反者にはペナルティを科す』
『ルール⑥:全ての様子はライブ配信され、視聴者も投票に参加可能』
処刑。
その単語を見た瞬間、ホール内の空気が凍り付いた。
「ちょっと待てよ……処刑って、まさか……」
雪村颯汰が震え声で呟く。
モニターには続きが表示された。
『投票方法』
『参加者票:自分以外の誰か1名に投票(1票=1000ポイント)』
『視聴者票:課金により1票=1ポイント~100ポイントまで調整可能』
『毎日午後8時に集計、最下位は処刑場へ』
『処刑は全参加者の強制視聴とし、最終発言の権利を与える』
宇佐美凛が膝から崩れ落ちた。
「嘘……嘘でしょ?こんなの、ゲームじゃない……」
安堂圭吾が壁を殴りつけた。
「ふざけんな!人を殺すゲームなんて、絶対に許さない!」
だが、そんな俺たちの混乱をよそに、配信のコメント欄は相変わらず流れ続けている。
『うわあああ面白そう!』
『ガチのデスゲーム?』
『#07の冷静さヤバい』
『#11キレすぎwww』
『早く始まらないかな』
『誰が最初に死ぬか予想しようぜ』
俺は画面を見つめながら、深く息を吸った。
これが現実なら、受け入れるしかない。そして、この状況で生き残るためには、感情に流されるわけにはいかない。
看守と囚人。命令と処刑。視聴者と課金。
このシステムの意図は明確だった。俺たちを見世物にして、人々の娯楽にするということ。そして、その過程で俺たちの人間性がどこまで破綻するかを観察するということ。
機械音声が再び響く。
「本日午後8時に第一回人気投票を実施いたします。それまでの時間は自由行動とし、参加者同士の交流を推奨いたします。なお、食事は午後12時、午後6時に提供されます」
交流を推奨、か。
要するに、視聴者に向けてキャラクターを確立しろということだろう。人気を得られるような振る舞いをしろということだ。
早乙女千景が恐る恐る口を開いた。
「あの……みんな、お互いの名前とか、教え合いませんか?少しでも、人間らしくいたいから……」
人間らしく。
その言葉が、妙に重く響いた。
だが、俺は首を振った。
「やめた方がいい」
全員の視線が俺に集まる。
「名前で呼び合えば、情が湧く。情が湧けば、判断が鈍る。このゲームで生き残りたいなら、番号で呼び合う方が合理的だ」
早乙女千景は傷ついたような表情を見せたが、俺は構わず続けた。
「俺たちはもう、人気投票の対象になった。つまり、全員が全員のライバルだ。仲良くなったところで、明日にはその相手を蹴落とさなければならない状況になるかもしれない」
静寂がホールを支配した。
俺の言葉は残酷だったかもしれない。だが、それが現実だった。
葛城翼が苦々しい表情で言った。
「お前、冷たすぎるだろ。俺たちは同じ境遇なんだ。協力すべきじゃないのか?」
「協力?」俺は彼を見つめた。「このゲームで、どうやって協力する?最下位になった人間は死ぬんだ。全員が助かる方法なんて、最初から用意されていない」
葛城翼は言葉を失った。
俺は続ける。
「もちろん、感情を捨てろと言っているわけじゃない。ただ、このゲームの本質を理解した方がいい。俺たちは見世物だ。視聴者の娯楽のために、ここに閉じ込められている。そして、視聴者が求めているのは、俺たちの苦悩と破綻だ」
モニターの視聴者数は既に3,000人を超えていた。コメント欄も止まることなく流れ続けている。
『#07の分析力えぐい』
『現実主義者だな』
『でも正論すぎて怖い』
『#07推したい』
『早く投票始まらないかな』
俺はため息をついた。
既に俺の発言が、視聴者の興味を引いているのが分かる。冷静な分析者としてのキャラクター性を確立しつつある。
それは、生存戦略としては悪くないかもしれない。だが同時に、俺自身が既にこのゲームのシステムに取り込まれ始めているということでもあった。
五十嵐龍之介が小さく呟いた。
「怖い……本当に、誰かが死んじゃうの?」
その問いに、誰も答えることができなかった。
俺たちは皆、心のどこかでまだ信じていなかった。これが現実だということを。本当に人が死ぬということを。
だが、あと数時間後には、その現実を突きつけられることになる。
午後8時の投票結果発表で。
俺は改めてホール内を見回した。十五人の参加者。十五通りの表情。十五通りの恐怖と困惑。
この中の誰かが、今日、死ぬ。
そして俺は、その死を目撃することになる。
配信のコメント欄が、相変わらず冷酷に流れ続けていた。
『楽しみすぎる』
『神ゲーの予感』
『誰が最初に消えるかな』
『投票はじまったら課金する』
俺は心の奥で、深い諦念を感じていた。
これが現実なら、受け入れるしかない。そして、この地獄のような状況で生き残るためには、人間らしさを捨てる覚悟も必要かもしれない。
だが、それでも最後まで自分らしくいられるだろうか。
このゲームが終わる頃、俺はまだ俺でいられるだろうか。
答えの出ない問いを抱えながら、俺は配信の向こうにいる何千人もの視聴者たちの視線を感じていた。
まるで檻の中の動物を見るような、その冷たい視線を。
硬いベッドの感触が背中に伝わってくる。見慣れない天井。真っ白な壁。そして、どこからか聞こえてくる微かな機械音。
ゆっくりと身体を起こす。ここは……どこだ?
四方を囲む壁は継ぎ目のない白一色で、まるで病院の個室のようだった。だが、病院にしては妙に無機質すぎる。窓はなく、ドアらしきものも見当たらない。ベッド以外には何もない、完全に密閉された空間。
記憶を手繰り寄せようとするが、どうしてここにいるのかまったく思い出せない。昨日の夜、俺は確か自分のアパートにいたはずだ。バイトから帰って、コンビニ弁当を食べて、適当にネットを見てから寝た。それ以降の記憶が、まるで霧の中に消えたように曖昧だった。
そのとき、天井の隅に取り付けられた小さなスピーカーから、無機質な機械音声が流れ始めた。
「参加者の皆様、おはようございます。人気投票型サバイバルへようこそ」
人気投票?サバイバル?
機械音声は感情の欠片もない調子で続ける。
「まもなく個室の壁が開放されます。中央ホールへお集まりください。詳細なルール説明は、全員が揃い次第開始いたします」
個室の壁が……開放される?
俺がその意味を理解する間もなく、目の前の壁にうっすらと線が浮かび上がった。そして、その線を境界として壁がするするとスライドし始める。
壁の向こうには、明るく照明された広いホールが広がっていた。
そして、俺と同じように戸惑った表情で個室から出てくる人影が、あちこちで動いているのが見えた。
「おい、何だよこれ!」
「ここどこ?私たち、なんでこんなところに!」
「誰か説明しろよ!」
怒号や困惑の声が飛び交う中、俺は冷静にホール全体を見渡した。円形のホールの周囲に、俺がいたような個室が等間隔で配置されている。そして今、その全ての個室から人が出てきているのが見えた。
ざっと数えて十五人。全員が俺と同世代、十代後半から二十代前半といったところだろう。男女の比率もほぼ半々だ。
そして何より目を引いたのは、ホールの至る所に設置された小型カメラの存在だった。天井、壁、柱。まるで死角がないように、あらゆる角度から俺たちを捉えている。
「何これ、カメラ?」
茶髪の女性が震え声で呟いた。
「盗撮か?警察呼ぼう!」
短髪の男性がポケットに手を突っ込んだが、すぐに顔を歪めた。
「スマホがない……」
俺も慌てて自分のポケットを確認する。財布も、スマホも、何もかもが消えていた。あるのは、着ていた服だけ。
その時、ホール中央の巨大なモニターが光った。
画面には、見覚えのあるSNSの配信画面が映し出されている。ライブ配信のコメント欄が猛烈な勢いで流れ、視聴者数のカウンターが目まぐるしく増加していく。
『1,247人が視聴中』
『1,398人が視聴中』
『1,756人が視聴中』
そして画面の片隅には、俺たち十五人の顔写真と簡単なプロフィールが表示されていた。
『#01 斑鳩凌 男性 19歳 大学生』
『#02 葛城翼 男性 20歳 フリーター』
『#03 宇佐美凛 女性 18歳 高校生』
『#04 雪村颯汰 男性 21歳 大学生』
俺は自分の番号を探した。
『#07 緋村陸翔 男性 19歳 大学生』
番号で管理されている。名前ではなく、番号で。
そして、コメント欄に流れる視聴者の反応が、俺の背筋を凍らせた。
『#07イケメンすぎwww』
『#03可愛い!推せる!』
『#14怖すぎて無理』
『#01エロすぎて草』
『何これ新しい配信?』
『ガチで監禁されてるの?』
『演技うますぎでしょwww』
俺たちは……配信されている。
リアルタイムで、全世界に。
「嘘だろ……」
誰かが呟いた声が、静まり返ったホールに響いた。
俺は周囲の参加者たちを見回した。全員が画面を見上げ、青ざめた顔をしている。現実を受け入れられずにいる者、怒りで震えている者、恐怖で動けずにいる者。
だが俺は、妙に冷静だった。
これは現実だ。どんなに信じたくなくても、どんなに理不尽でも、これが今俺たちが置かれている状況なのだ。
感情的になって喚いても、現状は何も変わらない。まずは情報を集め、状況を正確に把握する必要がある。
「皆さん、落ち着いてください」
俺は声を上げた。十四人の視線が俺に向く。
「パニックになっても仕方ない。まずは、ここがどういう場所なのか、なぜ俺たちがここにいるのか、それを理解することから始めよう」
短髪の男性……葛城翼が俺を睨んだ。
「落ち着けって、お前、状況分かってんのか?俺たちは誘拐されて、勝手に配信されてるんだぞ!」
「分かってる」俺は淡々と答えた。「だからこそ、冷静になる必要がある」
その時、再び機械音声が響いた。
「全参加者の集合を確認いたしました。これより、ゲームのルール説明を開始いたします」
ゲーム?
モニターの画面が切り替わり、ルール説明が表示された。
『人気投票型サバイバルゲーム』
『ルール①:不定期午後8時に人気投票を実施』
『ルール②:毎回ではないが処刑日に最下位の1名は即座に処刑』
『ルール③:上位5名は看守に任命され、特別な権限を獲得』
『ルール④:看守は囚人に対し命令権を持つ』
『ルール⑤:命令違反者にはペナルティを科す』
『ルール⑥:全ての様子はライブ配信され、視聴者も投票に参加可能』
処刑。
その単語を見た瞬間、ホール内の空気が凍り付いた。
「ちょっと待てよ……処刑って、まさか……」
雪村颯汰が震え声で呟く。
モニターには続きが表示された。
『投票方法』
『参加者票:自分以外の誰か1名に投票(1票=1000ポイント)』
『視聴者票:課金により1票=1ポイント~100ポイントまで調整可能』
『毎日午後8時に集計、最下位は処刑場へ』
『処刑は全参加者の強制視聴とし、最終発言の権利を与える』
宇佐美凛が膝から崩れ落ちた。
「嘘……嘘でしょ?こんなの、ゲームじゃない……」
安堂圭吾が壁を殴りつけた。
「ふざけんな!人を殺すゲームなんて、絶対に許さない!」
だが、そんな俺たちの混乱をよそに、配信のコメント欄は相変わらず流れ続けている。
『うわあああ面白そう!』
『ガチのデスゲーム?』
『#07の冷静さヤバい』
『#11キレすぎwww』
『早く始まらないかな』
『誰が最初に死ぬか予想しようぜ』
俺は画面を見つめながら、深く息を吸った。
これが現実なら、受け入れるしかない。そして、この状況で生き残るためには、感情に流されるわけにはいかない。
看守と囚人。命令と処刑。視聴者と課金。
このシステムの意図は明確だった。俺たちを見世物にして、人々の娯楽にするということ。そして、その過程で俺たちの人間性がどこまで破綻するかを観察するということ。
機械音声が再び響く。
「本日午後8時に第一回人気投票を実施いたします。それまでの時間は自由行動とし、参加者同士の交流を推奨いたします。なお、食事は午後12時、午後6時に提供されます」
交流を推奨、か。
要するに、視聴者に向けてキャラクターを確立しろということだろう。人気を得られるような振る舞いをしろということだ。
早乙女千景が恐る恐る口を開いた。
「あの……みんな、お互いの名前とか、教え合いませんか?少しでも、人間らしくいたいから……」
人間らしく。
その言葉が、妙に重く響いた。
だが、俺は首を振った。
「やめた方がいい」
全員の視線が俺に集まる。
「名前で呼び合えば、情が湧く。情が湧けば、判断が鈍る。このゲームで生き残りたいなら、番号で呼び合う方が合理的だ」
早乙女千景は傷ついたような表情を見せたが、俺は構わず続けた。
「俺たちはもう、人気投票の対象になった。つまり、全員が全員のライバルだ。仲良くなったところで、明日にはその相手を蹴落とさなければならない状況になるかもしれない」
静寂がホールを支配した。
俺の言葉は残酷だったかもしれない。だが、それが現実だった。
葛城翼が苦々しい表情で言った。
「お前、冷たすぎるだろ。俺たちは同じ境遇なんだ。協力すべきじゃないのか?」
「協力?」俺は彼を見つめた。「このゲームで、どうやって協力する?最下位になった人間は死ぬんだ。全員が助かる方法なんて、最初から用意されていない」
葛城翼は言葉を失った。
俺は続ける。
「もちろん、感情を捨てろと言っているわけじゃない。ただ、このゲームの本質を理解した方がいい。俺たちは見世物だ。視聴者の娯楽のために、ここに閉じ込められている。そして、視聴者が求めているのは、俺たちの苦悩と破綻だ」
モニターの視聴者数は既に3,000人を超えていた。コメント欄も止まることなく流れ続けている。
『#07の分析力えぐい』
『現実主義者だな』
『でも正論すぎて怖い』
『#07推したい』
『早く投票始まらないかな』
俺はため息をついた。
既に俺の発言が、視聴者の興味を引いているのが分かる。冷静な分析者としてのキャラクター性を確立しつつある。
それは、生存戦略としては悪くないかもしれない。だが同時に、俺自身が既にこのゲームのシステムに取り込まれ始めているということでもあった。
五十嵐龍之介が小さく呟いた。
「怖い……本当に、誰かが死んじゃうの?」
その問いに、誰も答えることができなかった。
俺たちは皆、心のどこかでまだ信じていなかった。これが現実だということを。本当に人が死ぬということを。
だが、あと数時間後には、その現実を突きつけられることになる。
午後8時の投票結果発表で。
俺は改めてホール内を見回した。十五人の参加者。十五通りの表情。十五通りの恐怖と困惑。
この中の誰かが、今日、死ぬ。
そして俺は、その死を目撃することになる。
配信のコメント欄が、相変わらず冷酷に流れ続けていた。
『楽しみすぎる』
『神ゲーの予感』
『誰が最初に消えるかな』
『投票はじまったら課金する』
俺は心の奥で、深い諦念を感じていた。
これが現実なら、受け入れるしかない。そして、この地獄のような状況で生き残るためには、人間らしさを捨てる覚悟も必要かもしれない。
だが、それでも最後まで自分らしくいられるだろうか。
このゲームが終わる頃、俺はまだ俺でいられるだろうか。
答えの出ない問いを抱えながら、俺は配信の向こうにいる何千人もの視聴者たちの視線を感じていた。
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