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第II部:支配という報酬
第7章 「命令が効かない」
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宇佐美凛の処刑から一夜が明けた。
俺たちは皆、 前夜よりもさらに眠れなかった。 四肢切断という残酷な処刑の光景が、 瞼の裏に焼き付いて離れない。 あの血の匂いが、 まだ鼻の奥に残っているような気がした。
だが、 ゲームは容赦なく続いていく。
午前10時。 俺たち看守は命令権の行使を開始する時間になった。
看守席に座る俺たち5名。 床に座らされた囚人8名。 この権力関係も、 もはや当然のものとして受け入れられつつある。
斑鳩凌が最初に立ち上がった。
「昨日の処刑で、 お前たちは現実を理解したはずだ。 今日からは、 より厳格な規律で臨む」
彼は囚人たちを見回し、 宍戸昴を指差した。
「
#14、 宍戸昴。 お前の不謹慎な態度は他の囚人に悪影響を与える。 壁に向かって立ち、 昨日処刑された宇佐美凛への謝罪文を100回書け。 手が痛くても休むな」
宍戸昴は皮肉な笑みを浮かべた。
「謝罪文?面白いじゃないか」
「ふざけるな」 斑鳩凌が怒鳴った。 「真剣に書け。 一文字でも手を抜いたら分かる」
続いて真鍋天馬の番になった。 彼は明らかに躊躇していた。
「僕は……」
斑鳩凌が睨んだ。
「何をためらっている。 看守の責任を果たせ」
真鍋天馬は苦悩の表情で相楽翠を指差した。
「
#12、 相楽翠さん。 今日は……みんなのために料理を作ってください。 心を込めて」
相楽翠は震え声で答えた。
「でも……材料とか……」
「システムが用意してくれるはずです」 真鍋天馬は優しく言った。
雪村颯汰は葛城翼を指差した。
「
#02、 葛城翼。 君の怒りを建設的に使ってほしい。 ホール内の設備点検をしてくれ。 何か脱出の手がかりがないか調べながら」
葛城翼は意外そうな表情を見せた。
「脱出の……?」
「密かにね」 雪村颯汰は小声で言った。
鳴海瑠璃は冷たく白鷺小夜を指差した。
「
#09、 白鷺小夜。 あなたの弱々しい態度は見ていて不快よ。 今日一日、 大きな声で自分の意見を言いなさい。 小声や泣き声は禁止」
白鷺小夜は恐怖で震えた。
「で、 でも……私、 大きな声なんて……」
「命令よ」 鳴海瑠璃が冷徹に言った。
そして俺の番が来た。
俺は安堂圭吾を指差した。
「
#11、 安堂圭吾。 お前の怒りは理解できるが、 方向性が間違っている。 今日一日、 このゲームの脱出方法を真剣に考えろ。 そして夕方に具体的な案を3つ以上提示しろ」
安堂圭吾は困惑した表情を見せた。
「脱出方法って……」
「感情的に怒るだけでは何も変わらない」 俺は冷静に言った。 「建設的に考えろ。 それがお前の怒りを有効活用する方法だ」
配信のコメント欄が俺の命令を評価していた。
『
#07の心理戦やばい』
『優しさを封じるとか鬼畜』
『でも理にかなってる』
『
#08が壊れるの楽しみ』
命令を受けた囚人たちは、 それぞれ指示された行動を開始した。
宍戸昴は壁に向かって謝罪文を書き始めた。 皮肉な笑みは消えていた。
相楽翠は震えながら簡単な料理の準備を始めた。
葛城翼は意外にも積極的に設備を調べ始めた。
白鷺小夜は必死に大きな声を出そうと努力していた。
安堂圭吾は怒りを抑えながら脱出方法について考え込んでいた。
そして、 それ以外の囚人たち――五十嵐龍之介、 宝生朱音、 早乙女千景は、 恐る恐る様子を見守っていた。
午後になると、 異変が起こった。
安堂圭吾が突然立ち上がったのだ。
「もうやめだ!」
彼は看守席に向かって叫んだ。
「こんなバカげた命令、 従ってられるか!」
ホール内がざわめいた。
斑鳩凌が険しい表情で立ち上がった。
「
#11、 命令違反だ。 即座に正座に戻れ」
「断る!」 安堂圭吾が怒鳴り返した。 「俺たちは人間だ!お前たちの奴隷じゃない!」
その瞬間、 機械音声が響いた。
「命令違反を確認。 ペナルティを執行いたします」
ホール中央に拷問台が上昇し始める。
「やめろ!」 安堂圭吾が叫んだ。 「俺は間違ったことは言ってない!」
だが、 機械のアームが彼を捕獲し、 拷問台へと運んでいく。
その時、 予想外のことが起こった。
葛城翼が立ち上がったのだ。
「おい、 やめろよ!安堂の言ってることは正しいだろう!」
続いて宝生朱音も立ち上がった。
「これは……これはやりすぎです!」
さらに白鷺小夜も震えながら立ち上がった。
「お願いします……もうやめて……」
囚人たちの間に、 初めて団結の兆しが見えた。
だが、 機械音声は容赦なく告げた。
「複数名による命令違反を確認。 集団ペナルティを執行いたします」
拷問台がさらに大型化し、 複数人を同時に拘束できる仕様に変化した。
斑鳩凌が激怒した。
「お前たち……調子に乗るな!」
だが安堂圭吾は怯まなかった。
「調子に乗ってるのはお前たちだろう!同じ境遇だったくせに、 看守になった途端に偉そうに!」
葛城翼も続いた。
「そうだ!俺たちはお前たちの所有物じゃない!」
宝生朱音も勇気を振り絞って言った。
「私たちにも……私たちにも尊厳があります!」
囚人たちの反抗に、 看守の間にも動揺が走った。
真鍋天馬が立ち上がった。
「みんな、落ち着いて。 話し合いで解決しよう」
だが斑鳩凌が真鍋天馬を制止した。
「甘い!規律を乱す者は処罰されなければならない!」
鳴海瑠璃も同調した。
「集団反抗を許せば、 統制が取れなくなる」
雪村颯汰は苦悩の表情で呟いた。
「でも……彼らの気持ちも分かる……」
俺は冷静に状況を観察していた。
この反抗は、 予想していたことだった。 圧政が続けば、 いずれ反発が起こる。 それは歴史の必然だ。
だが問題は、 この反抗をどう処理するかだった。
強硬に鎮圧すれば、 さらなる反発を招く。 しかし、 甘い処置を取れば、 看守の権威が失墜する。
配信のコメント欄は大盛り上がりだった。
『囚人反乱きたああああ』
『
#11かっこいい!』
『看守ざまあwww』
『でも拷問されるんでしょ?』
『
#07はどう出るかな』
機械のアームが安堂圭吾たち4名を拘束しようとした時、 俺は立ち上がった。
「待て」
全員の視線が俺に向いた。
「ペナルティの前に、 彼らの言い分を聞こう」
斑鳩凌が俺を睨んだ。
「何を言っている。 規律違反は処罰されるべきだ」
「その通りだ」 俺は冷静に答えた。 「だが、 処罰の前に原因を理解する必要がある。 同じ問題が再発しないようにするために」
安堂圭吾が俺を見た。
「お前……」
俺は安堂圭吾に向かって言った。
「お前の怒りは理解できる。 だが、 感情的になって反抗したところで、 状況は何も変わらない。 むしろ悪化するだけだ」
「じゃあどうしろって言うんだ!」 安堂圭吾が叫んだ。 「このまま奴隷になれって言うのか!」
「奴隷ではない」 俺は答えた。 「これはゲームだ。 そして、 ゲームには必ずルールがある。 ルールを理解し、 その範囲内で最善を尽くすことが重要だ」
葛城翼が反発した。
「ルールって……人を殺すルールなんて従えるか!」
「従わなければ死ぬ」 俺は冷徹に言い放った。 「それがこのゲームの現実だ」
宝生朱音が震え声で言った。
「でも……でも私たちにも人権が……」
「人権?」 俺は彼女を見つめた。 「この施設の中に人権があると思うのか?」
その言葉に、 囚人たちは言葉を失った。
俺は続ける。
「俺たちは既に、 一般社会のルールが通用しない世界にいる。 ここでは、 このゲームのルールだけが絶対だ。 それを受け入れなければ生き残れない」
安堂圭吾が拳を握り締めた。
「じゃあ俺たちは……俺たちはただ従うだけか?」
「従うのではない」 俺は答えた。 「適応するのだ。 このゲームの中で、 自分なりの生き方を見つけるのだ」
五十嵐龍之介が俺の命令を思い出したように言った。
「でも……優しさを捨てろって……それは人間性を捨てることじゃないですか?」
俺は五十嵐龍之介を見つめた。
「優しさを捨てろとは言っていない。 ただ、 状況に応じて使い分けろと言っているだけだ。 今のお前の優しさは、 結果的に全員を危険にさらしている」
「どういうことですか?」
「お前が他の囚人を助けようとすれば、 その分お前のエネルギーが消耗する。 そして、 お前が弱くなれば、 次の投票で下位に落ちる可能性が高まる。 つまり、 お前の優しさは、 結果的にお前を殺すことになる」
五十嵐龍之介は言葉に詰まった。
俺は全員に向かって言った。
「このゲームでは、 感情的な判断は死を意味する。 冷静に、 合理的に、 戦略的に考えなければならない」
斑鳩凌が俺の発言に同調した。
「その通りだ。 #07の言う通り、 感情に流されれば死ぬ」
だが真鍋天馬が反発した。
「感情を捨てたら、 俺たちは人間じゃなくなる!」
「人間でいたければ死ねばいい」 鳴海瑠璃が冷たく言い放った。 「このゲームでは、 人間らしさと生存は両立しない」
その言葉に、 ホール内が静まり返った。
機械音声が告げる。
「反抗者の処遇について、 看守の判断を求めます」
俺は立ち上がった。
「ペナルティは軽減する。 ただし、 今後同様の反抗があった場合は、 より厳しい処罰を科す」
斑鳩凌が俺を睨んだ。
「甘すぎる!」
「甘くない」 俺は答えた。 「これは戦略だ。 今回は警告で済ませる。 だが、 次回は容赦しない。 このメリハリが重要だ」
鳴海瑠璃が俺の判断に同調した。
「確かに。 一度目は寛大に、 二度目は厳格に。 これは支配の基本よ」
機械音声が告げた。
「看守の判断を承認。 警告処分とします」
拷問台が地下に引っ込んでいく。
安堂圭吾が俺を見つめた。
「お前……なんで助けた?」
俺は冷静に答えた。
「助けたのではない。 より効果的な支配方法を選択しただけだ」
その言葉に、 安堂圭吾は複雑な表情を見せた。
俺は続ける。
「お前たちは勘違いしている。 俺たち看守が敵だと思っているようだが、 真の敵は別にいる」
「何?」
「このゲームのシステムだ。 そして、 俺たちを見世物として楽しんでいる視聴者たちだ」
配信のコメント欄を指差した。
『
#07の判断面白い』
『甘い処分だな』
『でも戦略的には正しい』
『次の反抗が楽しみ』
「見ろ。 彼らは俺たちの対立を娯楽として消費している。 俺たちが争えば争うほど、 彼らは喜ぶ」
囚人たちは配信画面を見つめた。
「つまり」 俺は続けた。 「俺たちが本当に戦うべき相手は、 お互いではない。 このシステムそのものだ」
安堂圭吾が困惑した表情で言った。
「でも……どうやって戦うんだ?」
「まずは生き残ることだ」 俺は答えた。 「死んでしまえば、 何もできない。 生き残って、 機会を待つ」
葛城翼が疑念を示した。
「本当に機会なんて来るのか?」
「分からない」 俺は正直に答えた。 「だが、 希望を捨てれば確実に終わりだ」
宝生朱音が小さく言った。
「希望……」
「そうだ」 俺は彼女を見つめた。 「今は従うふりをして、 内心では抵抗の意志を燃やし続ける。 それが俺たちにできる唯一の反抗だ」
五十嵐龍之介が俺に向かって言った。
「でも……あなたの命令は……」
「俺の命令は、 お前を守るためのものだ」 俺は答えた。 「優しさを完全に捨てろとは言っていない。 ただ、 表面的には冷徹に振る舞えと言っているだけだ」
「表面的に……」
「そうだ。 心の奥底では、 人間らしさを保ち続けろ。 だが、 それを表に出すな。 このゲームでは、 弱さを見せることは死を意味する」
夕方になると、 機械音声が告げた。
「本日の命令執行時間は終了です。 明日も継続して規律維持に努めてください」
俺は看守席から囚人たちを見下ろした。
今日の出来事で、 明らかに何かが変わった。
囚人たちの中に、 わずかながら希望の光が戻った。 俺の言葉が、 彼らに新しい視点を与えたのだ。
だが同時に、 看守の中にも亀裂が生じた。
斑鳩凌と鳴海瑠璃は俺の判断に疑念を抱いている。 真鍋天馬と雪村颯汰は安堵している。
そして俺は、 この微妙なバランスの上に立っていた。
配信の視聴者数は2万5千人を超えていた。 コメント欄では様々な反応が飛び交っている。
『
#07の判断賢い』
『でも甘すぎない?』
『囚人に希望与えちゃダメでしょ』
『逆に面白くなりそう』
『
#07が黒幕っぽい』
俺は心の奥で考えていた。
今日の俺の行動は、 確実にゲームの流れを変えた。 囚人たちに希望を与え、 看守の中に分裂を生み出した。
これが吉と出るか凶と出るかは分からない。
だが、 少なくとも俺は、 このゲームに対する新しいアプローチを示した。
単純な支配と被支配の関係ではなく、 より複雑で戦略的な関係性を築くこと。
そして、 その過程で可能な限り人間性を保持すること。
それが、 この地獄のようなゲームで生き残るための俺なりの方法だった。
夜が更けても、 ホール内の空気は以前とは明らかに違っていた。
緊張感は残っているが、 絶望的な雰囲気は少し和らいでいた。
俺は明日への戦略を練り始めた。
看守の分裂をどう利用するか。
囚人たちの希望をどう維持するか。
そして、 このゲームの真の敵に対して、 どのように立ち向かうか。
答えはまだ見えない。
だが、 少なくとも今日、 新しい可能性が生まれた。
それだけでも、 価値のある一日だったのかもしれない。
俺たちは皆、 前夜よりもさらに眠れなかった。 四肢切断という残酷な処刑の光景が、 瞼の裏に焼き付いて離れない。 あの血の匂いが、 まだ鼻の奥に残っているような気がした。
だが、 ゲームは容赦なく続いていく。
午前10時。 俺たち看守は命令権の行使を開始する時間になった。
看守席に座る俺たち5名。 床に座らされた囚人8名。 この権力関係も、 もはや当然のものとして受け入れられつつある。
斑鳩凌が最初に立ち上がった。
「昨日の処刑で、 お前たちは現実を理解したはずだ。 今日からは、 より厳格な規律で臨む」
彼は囚人たちを見回し、 宍戸昴を指差した。
「
#14、 宍戸昴。 お前の不謹慎な態度は他の囚人に悪影響を与える。 壁に向かって立ち、 昨日処刑された宇佐美凛への謝罪文を100回書け。 手が痛くても休むな」
宍戸昴は皮肉な笑みを浮かべた。
「謝罪文?面白いじゃないか」
「ふざけるな」 斑鳩凌が怒鳴った。 「真剣に書け。 一文字でも手を抜いたら分かる」
続いて真鍋天馬の番になった。 彼は明らかに躊躇していた。
「僕は……」
斑鳩凌が睨んだ。
「何をためらっている。 看守の責任を果たせ」
真鍋天馬は苦悩の表情で相楽翠を指差した。
「
#12、 相楽翠さん。 今日は……みんなのために料理を作ってください。 心を込めて」
相楽翠は震え声で答えた。
「でも……材料とか……」
「システムが用意してくれるはずです」 真鍋天馬は優しく言った。
雪村颯汰は葛城翼を指差した。
「
#02、 葛城翼。 君の怒りを建設的に使ってほしい。 ホール内の設備点検をしてくれ。 何か脱出の手がかりがないか調べながら」
葛城翼は意外そうな表情を見せた。
「脱出の……?」
「密かにね」 雪村颯汰は小声で言った。
鳴海瑠璃は冷たく白鷺小夜を指差した。
「
#09、 白鷺小夜。 あなたの弱々しい態度は見ていて不快よ。 今日一日、 大きな声で自分の意見を言いなさい。 小声や泣き声は禁止」
白鷺小夜は恐怖で震えた。
「で、 でも……私、 大きな声なんて……」
「命令よ」 鳴海瑠璃が冷徹に言った。
そして俺の番が来た。
俺は安堂圭吾を指差した。
「
#11、 安堂圭吾。 お前の怒りは理解できるが、 方向性が間違っている。 今日一日、 このゲームの脱出方法を真剣に考えろ。 そして夕方に具体的な案を3つ以上提示しろ」
安堂圭吾は困惑した表情を見せた。
「脱出方法って……」
「感情的に怒るだけでは何も変わらない」 俺は冷静に言った。 「建設的に考えろ。 それがお前の怒りを有効活用する方法だ」
配信のコメント欄が俺の命令を評価していた。
『
#07の心理戦やばい』
『優しさを封じるとか鬼畜』
『でも理にかなってる』
『
#08が壊れるの楽しみ』
命令を受けた囚人たちは、 それぞれ指示された行動を開始した。
宍戸昴は壁に向かって謝罪文を書き始めた。 皮肉な笑みは消えていた。
相楽翠は震えながら簡単な料理の準備を始めた。
葛城翼は意外にも積極的に設備を調べ始めた。
白鷺小夜は必死に大きな声を出そうと努力していた。
安堂圭吾は怒りを抑えながら脱出方法について考え込んでいた。
そして、 それ以外の囚人たち――五十嵐龍之介、 宝生朱音、 早乙女千景は、 恐る恐る様子を見守っていた。
午後になると、 異変が起こった。
安堂圭吾が突然立ち上がったのだ。
「もうやめだ!」
彼は看守席に向かって叫んだ。
「こんなバカげた命令、 従ってられるか!」
ホール内がざわめいた。
斑鳩凌が険しい表情で立ち上がった。
「
#11、 命令違反だ。 即座に正座に戻れ」
「断る!」 安堂圭吾が怒鳴り返した。 「俺たちは人間だ!お前たちの奴隷じゃない!」
その瞬間、 機械音声が響いた。
「命令違反を確認。 ペナルティを執行いたします」
ホール中央に拷問台が上昇し始める。
「やめろ!」 安堂圭吾が叫んだ。 「俺は間違ったことは言ってない!」
だが、 機械のアームが彼を捕獲し、 拷問台へと運んでいく。
その時、 予想外のことが起こった。
葛城翼が立ち上がったのだ。
「おい、 やめろよ!安堂の言ってることは正しいだろう!」
続いて宝生朱音も立ち上がった。
「これは……これはやりすぎです!」
さらに白鷺小夜も震えながら立ち上がった。
「お願いします……もうやめて……」
囚人たちの間に、 初めて団結の兆しが見えた。
だが、 機械音声は容赦なく告げた。
「複数名による命令違反を確認。 集団ペナルティを執行いたします」
拷問台がさらに大型化し、 複数人を同時に拘束できる仕様に変化した。
斑鳩凌が激怒した。
「お前たち……調子に乗るな!」
だが安堂圭吾は怯まなかった。
「調子に乗ってるのはお前たちだろう!同じ境遇だったくせに、 看守になった途端に偉そうに!」
葛城翼も続いた。
「そうだ!俺たちはお前たちの所有物じゃない!」
宝生朱音も勇気を振り絞って言った。
「私たちにも……私たちにも尊厳があります!」
囚人たちの反抗に、 看守の間にも動揺が走った。
真鍋天馬が立ち上がった。
「みんな、落ち着いて。 話し合いで解決しよう」
だが斑鳩凌が真鍋天馬を制止した。
「甘い!規律を乱す者は処罰されなければならない!」
鳴海瑠璃も同調した。
「集団反抗を許せば、 統制が取れなくなる」
雪村颯汰は苦悩の表情で呟いた。
「でも……彼らの気持ちも分かる……」
俺は冷静に状況を観察していた。
この反抗は、 予想していたことだった。 圧政が続けば、 いずれ反発が起こる。 それは歴史の必然だ。
だが問題は、 この反抗をどう処理するかだった。
強硬に鎮圧すれば、 さらなる反発を招く。 しかし、 甘い処置を取れば、 看守の権威が失墜する。
配信のコメント欄は大盛り上がりだった。
『囚人反乱きたああああ』
『
#11かっこいい!』
『看守ざまあwww』
『でも拷問されるんでしょ?』
『
#07はどう出るかな』
機械のアームが安堂圭吾たち4名を拘束しようとした時、 俺は立ち上がった。
「待て」
全員の視線が俺に向いた。
「ペナルティの前に、 彼らの言い分を聞こう」
斑鳩凌が俺を睨んだ。
「何を言っている。 規律違反は処罰されるべきだ」
「その通りだ」 俺は冷静に答えた。 「だが、 処罰の前に原因を理解する必要がある。 同じ問題が再発しないようにするために」
安堂圭吾が俺を見た。
「お前……」
俺は安堂圭吾に向かって言った。
「お前の怒りは理解できる。 だが、 感情的になって反抗したところで、 状況は何も変わらない。 むしろ悪化するだけだ」
「じゃあどうしろって言うんだ!」 安堂圭吾が叫んだ。 「このまま奴隷になれって言うのか!」
「奴隷ではない」 俺は答えた。 「これはゲームだ。 そして、 ゲームには必ずルールがある。 ルールを理解し、 その範囲内で最善を尽くすことが重要だ」
葛城翼が反発した。
「ルールって……人を殺すルールなんて従えるか!」
「従わなければ死ぬ」 俺は冷徹に言い放った。 「それがこのゲームの現実だ」
宝生朱音が震え声で言った。
「でも……でも私たちにも人権が……」
「人権?」 俺は彼女を見つめた。 「この施設の中に人権があると思うのか?」
その言葉に、 囚人たちは言葉を失った。
俺は続ける。
「俺たちは既に、 一般社会のルールが通用しない世界にいる。 ここでは、 このゲームのルールだけが絶対だ。 それを受け入れなければ生き残れない」
安堂圭吾が拳を握り締めた。
「じゃあ俺たちは……俺たちはただ従うだけか?」
「従うのではない」 俺は答えた。 「適応するのだ。 このゲームの中で、 自分なりの生き方を見つけるのだ」
五十嵐龍之介が俺の命令を思い出したように言った。
「でも……優しさを捨てろって……それは人間性を捨てることじゃないですか?」
俺は五十嵐龍之介を見つめた。
「優しさを捨てろとは言っていない。 ただ、 状況に応じて使い分けろと言っているだけだ。 今のお前の優しさは、 結果的に全員を危険にさらしている」
「どういうことですか?」
「お前が他の囚人を助けようとすれば、 その分お前のエネルギーが消耗する。 そして、 お前が弱くなれば、 次の投票で下位に落ちる可能性が高まる。 つまり、 お前の優しさは、 結果的にお前を殺すことになる」
五十嵐龍之介は言葉に詰まった。
俺は全員に向かって言った。
「このゲームでは、 感情的な判断は死を意味する。 冷静に、 合理的に、 戦略的に考えなければならない」
斑鳩凌が俺の発言に同調した。
「その通りだ。 #07の言う通り、 感情に流されれば死ぬ」
だが真鍋天馬が反発した。
「感情を捨てたら、 俺たちは人間じゃなくなる!」
「人間でいたければ死ねばいい」 鳴海瑠璃が冷たく言い放った。 「このゲームでは、 人間らしさと生存は両立しない」
その言葉に、 ホール内が静まり返った。
機械音声が告げる。
「反抗者の処遇について、 看守の判断を求めます」
俺は立ち上がった。
「ペナルティは軽減する。 ただし、 今後同様の反抗があった場合は、 より厳しい処罰を科す」
斑鳩凌が俺を睨んだ。
「甘すぎる!」
「甘くない」 俺は答えた。 「これは戦略だ。 今回は警告で済ませる。 だが、 次回は容赦しない。 このメリハリが重要だ」
鳴海瑠璃が俺の判断に同調した。
「確かに。 一度目は寛大に、 二度目は厳格に。 これは支配の基本よ」
機械音声が告げた。
「看守の判断を承認。 警告処分とします」
拷問台が地下に引っ込んでいく。
安堂圭吾が俺を見つめた。
「お前……なんで助けた?」
俺は冷静に答えた。
「助けたのではない。 より効果的な支配方法を選択しただけだ」
その言葉に、 安堂圭吾は複雑な表情を見せた。
俺は続ける。
「お前たちは勘違いしている。 俺たち看守が敵だと思っているようだが、 真の敵は別にいる」
「何?」
「このゲームのシステムだ。 そして、 俺たちを見世物として楽しんでいる視聴者たちだ」
配信のコメント欄を指差した。
『
#07の判断面白い』
『甘い処分だな』
『でも戦略的には正しい』
『次の反抗が楽しみ』
「見ろ。 彼らは俺たちの対立を娯楽として消費している。 俺たちが争えば争うほど、 彼らは喜ぶ」
囚人たちは配信画面を見つめた。
「つまり」 俺は続けた。 「俺たちが本当に戦うべき相手は、 お互いではない。 このシステムそのものだ」
安堂圭吾が困惑した表情で言った。
「でも……どうやって戦うんだ?」
「まずは生き残ることだ」 俺は答えた。 「死んでしまえば、 何もできない。 生き残って、 機会を待つ」
葛城翼が疑念を示した。
「本当に機会なんて来るのか?」
「分からない」 俺は正直に答えた。 「だが、 希望を捨てれば確実に終わりだ」
宝生朱音が小さく言った。
「希望……」
「そうだ」 俺は彼女を見つめた。 「今は従うふりをして、 内心では抵抗の意志を燃やし続ける。 それが俺たちにできる唯一の反抗だ」
五十嵐龍之介が俺に向かって言った。
「でも……あなたの命令は……」
「俺の命令は、 お前を守るためのものだ」 俺は答えた。 「優しさを完全に捨てろとは言っていない。 ただ、 表面的には冷徹に振る舞えと言っているだけだ」
「表面的に……」
「そうだ。 心の奥底では、 人間らしさを保ち続けろ。 だが、 それを表に出すな。 このゲームでは、 弱さを見せることは死を意味する」
夕方になると、 機械音声が告げた。
「本日の命令執行時間は終了です。 明日も継続して規律維持に努めてください」
俺は看守席から囚人たちを見下ろした。
今日の出来事で、 明らかに何かが変わった。
囚人たちの中に、 わずかながら希望の光が戻った。 俺の言葉が、 彼らに新しい視点を与えたのだ。
だが同時に、 看守の中にも亀裂が生じた。
斑鳩凌と鳴海瑠璃は俺の判断に疑念を抱いている。 真鍋天馬と雪村颯汰は安堵している。
そして俺は、 この微妙なバランスの上に立っていた。
配信の視聴者数は2万5千人を超えていた。 コメント欄では様々な反応が飛び交っている。
『
#07の判断賢い』
『でも甘すぎない?』
『囚人に希望与えちゃダメでしょ』
『逆に面白くなりそう』
『
#07が黒幕っぽい』
俺は心の奥で考えていた。
今日の俺の行動は、 確実にゲームの流れを変えた。 囚人たちに希望を与え、 看守の中に分裂を生み出した。
これが吉と出るか凶と出るかは分からない。
だが、 少なくとも俺は、 このゲームに対する新しいアプローチを示した。
単純な支配と被支配の関係ではなく、 より複雑で戦略的な関係性を築くこと。
そして、 その過程で可能な限り人間性を保持すること。
それが、 この地獄のようなゲームで生き残るための俺なりの方法だった。
夜が更けても、 ホール内の空気は以前とは明らかに違っていた。
緊張感は残っているが、 絶望的な雰囲気は少し和らいでいた。
俺は明日への戦略を練り始めた。
看守の分裂をどう利用するか。
囚人たちの希望をどう維持するか。
そして、 このゲームの真の敵に対して、 どのように立ち向かうか。
答えはまだ見えない。
だが、 少なくとも今日、 新しい可能性が生まれた。
それだけでも、 価値のある一日だったのかもしれない。
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こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
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結城芙由奈@コミカライズ連載中
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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