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第II部:支配という報酬
第8章 「人気のために」
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翌日の朝。
俺たちは看守として、 囚人たちの朝食を監督していた。 昨日の反抗事件以降、 ホール内の空気は微妙に変化していた。
囚人たちの目には、 まだ恐怖が宿っているが、 昨日まであった絶望的な諦めは薄れている。 俺の言葉が、 彼らに小さな希望を与えたのは確かだった。
だが、 その変化を快く思わない看守もいた。
斑鳩凌が苛立たしげに呟いた。
「
#07、 昨日のお前の判断は甘すぎる。 囚人どもが調子に乗り始めている」
俺は冷静に答えた。
「調子に乗っているようには見えない。 むしろ、 より建設的に行動している」
「建設的?」 斑鳩凌が鼻で笑った。 「脱出方法を考えさせるなど、 余計な希望を与えただけだろう」
鳴海瑠璃も同調した。
「そうね。 囚人には絶望していてもらった方が管理しやすい」
一方で、 真鍋天馬は俺を支持していた。
「でも、 昨日よりもみんな落ち着いているじゃないですか。 これでいいと思います」
雪村颯汰も頷いた。
「そうですね。 葛城さんも積極的に設備を調べてくれているし」
看守の中での意見の分裂は、 日に日に深刻になっていた。
その時、 配信画面に視聴者からの特別なメッセージが表示された。
『視聴者様からの特別リクエスト』
『看守の皆様へ:より視聴者受けする命令をお願いします』
『現在の命令内容では物足りません』
『課金投票数を増やすため、 より過激で面白い命令を期待しています』
俺は配信画面を見つめた。 視聴者数は3万人を超えていた。 そして、 コメント欄には過激な要求が次々と流れている。
『もっと残酷な命令見たい』
『看守同士でも争ってほしい』
『
#01と#07の対立面白い』
『課金するから期待に応えて』
斑鳩凌が立ち上がった。
「分かった。 視聴者の期待に応えよう」
彼は囚人たちを見回し、 五十嵐龍之介を指差した。
「
#08、 五十嵐龍之介。 お前の偽善的な優しさにはうんざりだ。 今日は他の囚人の中から一人選んで、 その者を一日中無視しろ。 そして、 その理由を大声で発表しろ」
五十嵐龍之介は困惑した。
「でも……そんなこと……」
「命令だ」 斑鳩凌が厳しく言った。 「選ばなければ、 ペナルティを科す」
五十嵐龍之介は苦悩の表情で囚人たちを見回した。 そして、 震え声で言った。
「
#12、 相楽翠さんを……選びます。 理由は……弱すぎて足手まといになるからです」
相楽翠は衝撃を受けた表情で五十嵐龍之介を見つめた。
「龍之介さん……なんで……」
五十嵐龍之介は涙を流しながら答えた。
「ごめん……ごめんなさい……」
配信のコメント欄が盛り上がった。
『うわああああ』
『
#08可哀想』
『でも面白い』
『
#12泣いてる』
『これぞサバイバル』
続いて鳴海瑠璃が立ち上がった。
「私も視聴者の期待に応えましょう」
彼女は宝生朱音を指差した。
「
#06、 宝生朱音。 あなたは自分を強く見せようとしているが、 内心は恐怖で震えている。 その偽りの強さを捨てなさい。 今日一日、 自分の本当の気持ちを正直に表現しなさい。 泣きたければ泣き、 怖ければ怖いと言いなさい」
宝生朱音は動揺した。
「それは……私のプライドが……」
「プライド?」 鳴海瑠璃が冷笑した。 「そんなものがこの状況で何の役に立つの?」
宝生朱音は唇を噛み締めたが、 最終的に頷いた。
「分かりました……」
真鍋天馬は明らかに躊躇していた。
「僕は……そんな残酷な命令は……」
斑鳩凌が睨んだ。
「甘い!視聴者の期待に応えなければ、 俺たちの人気も下がる。 人気が下がれば、 囚人に落ちる可能性もある」
真鍋天馬は苦悩の表情で早乙女千景を指差した。
「
#05、 早乙女千景さん。 その……今日は笑顔でいてください。 どんなに辛くても、 笑顔を絶やさないでください」
早乙女千景は困惑した。
「笑顔ですか?でも……こんな状況で……」
「お願いします」 真鍋天馬は苦しそうに言った。 「せめて、 みんなが少しでも明るい気持ちになれるように」
雪村颯汰も迷いながら葛城翼を指差した。
「
#02、 葛城翼。 君には……他の囚人の愚痴を聞いてもらいたい。 今日一日、 みんなの不満や辛さを聞いて、 慰めてあげてください」
葛城翼は意外そうな表情を見せた。
「愚痴を聞く?」
「はい。 君なら、 きっとみんなの気持ちを理解してくれると思います」
そして、 俺の番が来た。
俺は安堂圭吾を見つめた。 昨日の彼の脱出案を聞いた時、 意外にも建設的なアイデアがいくつかあった。
だが、 視聴者の期待に応えなければならないという圧力も感じていた。
俺は冷静に命令を下した。
「
#11、 安堂圭吾。 お前は昨日、 脱出方法について考えた。 だが、 そのエネルギーを別の方向に使え。 今日は他の囚人たちの弱点を分析し、 どうすれば彼らがより強くなれるかを考えろ。 そして、 その結果を全員の前で発表しろ」
安堂圭吾は複雑な表情を見せた。
「他の人たちの弱点を……」
「分析するだけだ」 俺は続けた。 「攻撃するためではない。 改善するためだ。 お前の観察力を建設的に使え」
配信のコメント欄が俺の命令を評価していた。
『
#07の命令面白い』
『心理戦すぎる』
『建設的だけど残酷』
『
#11の分析楽しみ』
午後になると、 命令の効果が表れ始めた。
五十嵐龍之介は相楽翠を完全に無視し続けていた。 彼の優しい性格からすれば、 これは拷問に等しい行為だった。
宝生朱音は感情を抑えきれずに泣き始めていた。 強がっていた彼女の仮面が剥がれ落ちていく。
早乙女千景は無理やり笑顔を作り続けていたが、 その表情はどこか不気味だった。
葛城翼は他の囚人たちの愚痴を聞きながら、 自分も辛そうな表情を見せていた。
安堂圭吾は真剣に他の囚人たちを観察し、 メモを取っていた。
その様子を見て、 斑鳩凌が満足そうに言った。
「これでいい。 視聴者も喜んでいる」
確かに、 配信のコメント欄は大盛り上がりだった。
『神回すぎる』
『
#08と#12の関係崩壊』
『
#06の本性見えた』
『
#05の笑顔怖い』
『課金しまくる』
視聴者数も3万5千人を超えていた。
だが、 俺は内心で複雑な気持ちを抱いていた。
確かに視聴者の期待には応えている。 だが、 この命令が囚人たちの精神に与えるダメージは計り知れない。
特に五十嵐龍之介は、 明らかに自己嫌悪に陥っていた。 彼の優しさを利用して、 他人を傷つけることを強要したのだ。
午後3時頃、 真鍋天馬が俺に近づいてきた。
「#07……これでいいんでしょうか?」
俺は彼を見つめた。
「何がだ?」
「こんな命令を出して……みんなが壊れていくのを見ているだけで……」
俺は冷静に答えた。
「俺たちに選択肢はない。 視聴者の期待に応えなければ、 俺たちの人気が下がる。 人気が下がれば、 囚人に落ちる」
「でも……」
「感情的になるな」 俺は遮った。 「これはゲームだ。 ゲームで生き残るためには、 ルールに従わなければならない」
真鍋天馬は苦悩の表情を見せた。
「ルールに従うために、 俺たちは人間性を捨てなければならないんでしょうか?」
その問いに、 俺は即座に答えることができなかった。
確かに、 俺たちは日に日に変わっていた。 命令を出すことに慣れ、 他人の苦痛を見ることに麻痺していく。
これが、 このゲームの真の目的なのかもしれない。
俺たちを怪物に変えること。
その変化の過程を視聴者が楽しむこと。
夕方になると、 安堂圭吾が分析結果を発表する時間になった。
「みんなの弱点について分析しました」
彼は緊張した様子で話し始めた。
「
#05早乙女千景さんは、 他人に依存しすぎる傾向があります。 自立心を育てれば、 より強くなれると思います」
「
#06宝生朱音さんは、 強がることで自分を守ろうとしていますが、 それが逆に弱さを生んでいます。 素直になることが大切だと思います」
「
#08五十嵐龍之介さんは、 優しすぎることが弱点です。 時には厳しさも必要だと思います」
「
#09白鷺小夜さんは、 自信がなさすぎます。 小さなことでも成功体験を積めば、 変われると思います」
「
#12相楽翠さんは、 恐怖に支配されすぎています。 勇気を出すことから始めるべきだと思います」
「
#14宍戸昴さんは、 他人との距離を取りすぎています。 もう少し仲間を信頼してもいいと思います」
安堂圭吾の分析は、 意外にも的確だった。 そして、 攻撃的ではなく建設的な内容だった。
配信のコメント欄も評価していた。
『
#11の分析すげー』
『意外と優しい内容』
『でも的確すぎて怖い』
『心理カウンセラーかよ』
発表が終わると、 機械音声が告げた。
「本日の命令執行は優秀でした。 視聴者満足度が大幅に向上しています。 明日も継続して、 より創意工夫のある命令をお願いします」
より創意工夫のある命令。
つまり、 さらに過激で視聴者受けする命令が期待されているということだ。
夜になると、 斑鳩凌が俺に近づいてきた。
「#07、 今日のお前の命令は良かった。 建設的でありながら、 心理的なプレッシャーも与えている」
「そうか」 俺は淡々と答えた。
「これからも、 視聴者の期待に応えるような命令を頼む。 俺たちの生存がかかっている」
斑鳩凌が去った後、 俺は囚人たちを見つめた。
彼らの表情は、 朝とは明らかに違っていた。
五十嵐龍之介は罪悪感に苛まれていた。
宝生朱音は自分の弱さを露呈して混乱していた。
早乙女千景は無理な笑顔で精神的に疲弊していた。
そして他の囚人たちも、 安堂圭吾の分析によって自分の弱点を突きつけられ、 動揺していた。
俺たちの命令は、 確実に彼らの心を蝕んでいる。
だが同時に、 俺たち看守も変わっていた。
命令を出すことに快感を覚え始めている。 他人をコントロールする権力に酔い始めている。
これが権力の本質なのかもしれない。
一度手にすれば、 手放したくなくなる。 そして、 より強い権力を求めるようになる。
配信の視聴者数は4万人を超えていた。 課金総額も大幅に増加している。
俺たちの堕落が、 エンタメとして大成功を収めているのだ。
俺は心の奥で感じていた。
俺たちは確実に、 人間ではない何かに変わりつつある。
だが、 それでも生き残らなければならない。
たとえ怪物になったとしても。
たとえ人間性を完全に失ったとしても。
これが、 このゲームのルールなのだから。
明日はさらに過激な命令が求められるだろう。
そして俺たちは、 その期待に応えることになるのかもしれない。
視聴者の娯楽のために。
俺たちの魂を売り払いながら。
俺たちは看守として、 囚人たちの朝食を監督していた。 昨日の反抗事件以降、 ホール内の空気は微妙に変化していた。
囚人たちの目には、 まだ恐怖が宿っているが、 昨日まであった絶望的な諦めは薄れている。 俺の言葉が、 彼らに小さな希望を与えたのは確かだった。
だが、 その変化を快く思わない看守もいた。
斑鳩凌が苛立たしげに呟いた。
「
#07、 昨日のお前の判断は甘すぎる。 囚人どもが調子に乗り始めている」
俺は冷静に答えた。
「調子に乗っているようには見えない。 むしろ、 より建設的に行動している」
「建設的?」 斑鳩凌が鼻で笑った。 「脱出方法を考えさせるなど、 余計な希望を与えただけだろう」
鳴海瑠璃も同調した。
「そうね。 囚人には絶望していてもらった方が管理しやすい」
一方で、 真鍋天馬は俺を支持していた。
「でも、 昨日よりもみんな落ち着いているじゃないですか。 これでいいと思います」
雪村颯汰も頷いた。
「そうですね。 葛城さんも積極的に設備を調べてくれているし」
看守の中での意見の分裂は、 日に日に深刻になっていた。
その時、 配信画面に視聴者からの特別なメッセージが表示された。
『視聴者様からの特別リクエスト』
『看守の皆様へ:より視聴者受けする命令をお願いします』
『現在の命令内容では物足りません』
『課金投票数を増やすため、 より過激で面白い命令を期待しています』
俺は配信画面を見つめた。 視聴者数は3万人を超えていた。 そして、 コメント欄には過激な要求が次々と流れている。
『もっと残酷な命令見たい』
『看守同士でも争ってほしい』
『
#01と#07の対立面白い』
『課金するから期待に応えて』
斑鳩凌が立ち上がった。
「分かった。 視聴者の期待に応えよう」
彼は囚人たちを見回し、 五十嵐龍之介を指差した。
「
#08、 五十嵐龍之介。 お前の偽善的な優しさにはうんざりだ。 今日は他の囚人の中から一人選んで、 その者を一日中無視しろ。 そして、 その理由を大声で発表しろ」
五十嵐龍之介は困惑した。
「でも……そんなこと……」
「命令だ」 斑鳩凌が厳しく言った。 「選ばなければ、 ペナルティを科す」
五十嵐龍之介は苦悩の表情で囚人たちを見回した。 そして、 震え声で言った。
「
#12、 相楽翠さんを……選びます。 理由は……弱すぎて足手まといになるからです」
相楽翠は衝撃を受けた表情で五十嵐龍之介を見つめた。
「龍之介さん……なんで……」
五十嵐龍之介は涙を流しながら答えた。
「ごめん……ごめんなさい……」
配信のコメント欄が盛り上がった。
『うわああああ』
『
#08可哀想』
『でも面白い』
『
#12泣いてる』
『これぞサバイバル』
続いて鳴海瑠璃が立ち上がった。
「私も視聴者の期待に応えましょう」
彼女は宝生朱音を指差した。
「
#06、 宝生朱音。 あなたは自分を強く見せようとしているが、 内心は恐怖で震えている。 その偽りの強さを捨てなさい。 今日一日、 自分の本当の気持ちを正直に表現しなさい。 泣きたければ泣き、 怖ければ怖いと言いなさい」
宝生朱音は動揺した。
「それは……私のプライドが……」
「プライド?」 鳴海瑠璃が冷笑した。 「そんなものがこの状況で何の役に立つの?」
宝生朱音は唇を噛み締めたが、 最終的に頷いた。
「分かりました……」
真鍋天馬は明らかに躊躇していた。
「僕は……そんな残酷な命令は……」
斑鳩凌が睨んだ。
「甘い!視聴者の期待に応えなければ、 俺たちの人気も下がる。 人気が下がれば、 囚人に落ちる可能性もある」
真鍋天馬は苦悩の表情で早乙女千景を指差した。
「
#05、 早乙女千景さん。 その……今日は笑顔でいてください。 どんなに辛くても、 笑顔を絶やさないでください」
早乙女千景は困惑した。
「笑顔ですか?でも……こんな状況で……」
「お願いします」 真鍋天馬は苦しそうに言った。 「せめて、 みんなが少しでも明るい気持ちになれるように」
雪村颯汰も迷いながら葛城翼を指差した。
「
#02、 葛城翼。 君には……他の囚人の愚痴を聞いてもらいたい。 今日一日、 みんなの不満や辛さを聞いて、 慰めてあげてください」
葛城翼は意外そうな表情を見せた。
「愚痴を聞く?」
「はい。 君なら、 きっとみんなの気持ちを理解してくれると思います」
そして、 俺の番が来た。
俺は安堂圭吾を見つめた。 昨日の彼の脱出案を聞いた時、 意外にも建設的なアイデアがいくつかあった。
だが、 視聴者の期待に応えなければならないという圧力も感じていた。
俺は冷静に命令を下した。
「
#11、 安堂圭吾。 お前は昨日、 脱出方法について考えた。 だが、 そのエネルギーを別の方向に使え。 今日は他の囚人たちの弱点を分析し、 どうすれば彼らがより強くなれるかを考えろ。 そして、 その結果を全員の前で発表しろ」
安堂圭吾は複雑な表情を見せた。
「他の人たちの弱点を……」
「分析するだけだ」 俺は続けた。 「攻撃するためではない。 改善するためだ。 お前の観察力を建設的に使え」
配信のコメント欄が俺の命令を評価していた。
『
#07の命令面白い』
『心理戦すぎる』
『建設的だけど残酷』
『
#11の分析楽しみ』
午後になると、 命令の効果が表れ始めた。
五十嵐龍之介は相楽翠を完全に無視し続けていた。 彼の優しい性格からすれば、 これは拷問に等しい行為だった。
宝生朱音は感情を抑えきれずに泣き始めていた。 強がっていた彼女の仮面が剥がれ落ちていく。
早乙女千景は無理やり笑顔を作り続けていたが、 その表情はどこか不気味だった。
葛城翼は他の囚人たちの愚痴を聞きながら、 自分も辛そうな表情を見せていた。
安堂圭吾は真剣に他の囚人たちを観察し、 メモを取っていた。
その様子を見て、 斑鳩凌が満足そうに言った。
「これでいい。 視聴者も喜んでいる」
確かに、 配信のコメント欄は大盛り上がりだった。
『神回すぎる』
『
#08と#12の関係崩壊』
『
#06の本性見えた』
『
#05の笑顔怖い』
『課金しまくる』
視聴者数も3万5千人を超えていた。
だが、 俺は内心で複雑な気持ちを抱いていた。
確かに視聴者の期待には応えている。 だが、 この命令が囚人たちの精神に与えるダメージは計り知れない。
特に五十嵐龍之介は、 明らかに自己嫌悪に陥っていた。 彼の優しさを利用して、 他人を傷つけることを強要したのだ。
午後3時頃、 真鍋天馬が俺に近づいてきた。
「#07……これでいいんでしょうか?」
俺は彼を見つめた。
「何がだ?」
「こんな命令を出して……みんなが壊れていくのを見ているだけで……」
俺は冷静に答えた。
「俺たちに選択肢はない。 視聴者の期待に応えなければ、 俺たちの人気が下がる。 人気が下がれば、 囚人に落ちる」
「でも……」
「感情的になるな」 俺は遮った。 「これはゲームだ。 ゲームで生き残るためには、 ルールに従わなければならない」
真鍋天馬は苦悩の表情を見せた。
「ルールに従うために、 俺たちは人間性を捨てなければならないんでしょうか?」
その問いに、 俺は即座に答えることができなかった。
確かに、 俺たちは日に日に変わっていた。 命令を出すことに慣れ、 他人の苦痛を見ることに麻痺していく。
これが、 このゲームの真の目的なのかもしれない。
俺たちを怪物に変えること。
その変化の過程を視聴者が楽しむこと。
夕方になると、 安堂圭吾が分析結果を発表する時間になった。
「みんなの弱点について分析しました」
彼は緊張した様子で話し始めた。
「
#05早乙女千景さんは、 他人に依存しすぎる傾向があります。 自立心を育てれば、 より強くなれると思います」
「
#06宝生朱音さんは、 強がることで自分を守ろうとしていますが、 それが逆に弱さを生んでいます。 素直になることが大切だと思います」
「
#08五十嵐龍之介さんは、 優しすぎることが弱点です。 時には厳しさも必要だと思います」
「
#09白鷺小夜さんは、 自信がなさすぎます。 小さなことでも成功体験を積めば、 変われると思います」
「
#12相楽翠さんは、 恐怖に支配されすぎています。 勇気を出すことから始めるべきだと思います」
「
#14宍戸昴さんは、 他人との距離を取りすぎています。 もう少し仲間を信頼してもいいと思います」
安堂圭吾の分析は、 意外にも的確だった。 そして、 攻撃的ではなく建設的な内容だった。
配信のコメント欄も評価していた。
『
#11の分析すげー』
『意外と優しい内容』
『でも的確すぎて怖い』
『心理カウンセラーかよ』
発表が終わると、 機械音声が告げた。
「本日の命令執行は優秀でした。 視聴者満足度が大幅に向上しています。 明日も継続して、 より創意工夫のある命令をお願いします」
より創意工夫のある命令。
つまり、 さらに過激で視聴者受けする命令が期待されているということだ。
夜になると、 斑鳩凌が俺に近づいてきた。
「#07、 今日のお前の命令は良かった。 建設的でありながら、 心理的なプレッシャーも与えている」
「そうか」 俺は淡々と答えた。
「これからも、 視聴者の期待に応えるような命令を頼む。 俺たちの生存がかかっている」
斑鳩凌が去った後、 俺は囚人たちを見つめた。
彼らの表情は、 朝とは明らかに違っていた。
五十嵐龍之介は罪悪感に苛まれていた。
宝生朱音は自分の弱さを露呈して混乱していた。
早乙女千景は無理な笑顔で精神的に疲弊していた。
そして他の囚人たちも、 安堂圭吾の分析によって自分の弱点を突きつけられ、 動揺していた。
俺たちの命令は、 確実に彼らの心を蝕んでいる。
だが同時に、 俺たち看守も変わっていた。
命令を出すことに快感を覚え始めている。 他人をコントロールする権力に酔い始めている。
これが権力の本質なのかもしれない。
一度手にすれば、 手放したくなくなる。 そして、 より強い権力を求めるようになる。
配信の視聴者数は4万人を超えていた。 課金総額も大幅に増加している。
俺たちの堕落が、 エンタメとして大成功を収めているのだ。
俺は心の奥で感じていた。
俺たちは確実に、 人間ではない何かに変わりつつある。
だが、 それでも生き残らなければならない。
たとえ怪物になったとしても。
たとえ人間性を完全に失ったとしても。
これが、 このゲームのルールなのだから。
明日はさらに過激な命令が求められるだろう。
そして俺たちは、 その期待に応えることになるのかもしれない。
視聴者の娯楽のために。
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