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第II部:支配という報酬
第9章 「投票で殺す、 命令で壊す」
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翌日の午後8時。
第4回投票結果の発表時間が来た。 昨日の過激な命令の応酬によって、 ホール内の空気は極度に緊張していた。
看守席に座る俺たち5名と、 床に座らされた囚人8名。 囚人たちの表情は、 昨日よりもさらに疲弊していた。
特に五十嵐龍之介は、 相楽翠を無視し続けた罪悪感で顔色が悪く、 宝生朱音は感情を抑制できずに目を腫らしていた。
機械音声が冷たく響いた。
「第4回人気投票結果を発表いたします」
モニターに結果が表示される。
『第4回人気投票結果』
『1位:#07 緋村陸翔 6,789票』
『2位:#01 斑鳩凌 6,234票』
『3位:#10 鳴海瑠璃 5,567票』
『4位:#15 真鍋天馬 4,123票』
『5位:#04 雪村颯汰 3,789票』
俺は4日連続で1位。 だが、 斑鳩凌との差が縮まっている。 彼の過激な命令が視聴者に評価されているのだろう。
看守の顔ぶれに変化はなかったが、 順位の微調整があった。 鳴海瑠璃が3位を維持し、 真鍋天馬と雪村颯汰の差が開いている。
画面はスクロールを続ける。
『6位:#11 安堂圭吾 3,234票』
『7位:#02 葛城翼 2,987票』
『8位:#08 五十嵐龍之介 2,456票』
『9位:#14 宍戸昴 2,123票』
『10位:#06 宝生朱音 1,789票』
『11位:#09 白鷺小夜 1,456票』
『12位:#05 早乙女千景 1,234票』
そして、 最下位。
『13位:#12 相楽翠 892票』
相楽翠の顔が蒼白になった。
「私……私が……」
彼女は五十嵐龍之介を見つめた。 昨日一日中無視され続けた彼女の心は、 既に限界に達していた。
「龍之介さん……助けて……」
だが五十嵐龍之介は、 罪悪感で彼女を見ることができずにいた。
機械音声は容赦なく続けた。
「最下位、 #12相楽翠の処刑を執行いたします。 処刑台へ移動してください」
ホール中央に、 これまでで最も巨大で複雑な処刑台が上昇してきた。 様々な処刑器具が取り付けられ、 まるで拷問博物館のような様相を呈していた。
「いや……いやああああ!」
相楽翠は叫び声を上げて後ずさりした。
「お願い!誰か!龍之介さん!助けて!」
五十嵐龍之介は立ち上がろうとしたが、 斑鳩凌が厳しく制止した。
「動くな。 処刑は絶対だ」
機械のアームが相楽翠を捕獲し、 処刑台へと運んでいく。
「やめて!私、 何もしてない!ただ怖かっただけ!」
彼女の必死の叫びが、 ホールに響いた。
処刑台に固定された相楽翠は、 金属の拘束具に縛られた。
「最終発言の時間を与えます。 1分間です」
相楽翠は涙を流しながら叫んだ。
「みんな……私のことを弱いって言ったけど……でも私だって一生懸命生きてきたの……」
彼女の声は震えていた。
「お母さん……私、 頑張ったよ……最後まで諦めなかったよ……」
そして、 五十嵐龍之介を見つめて言った。
「龍之介さん……あなたは優しい人です……だから……自分を責めないで……」
その言葉に、 五十嵐龍之介は涙を流した。
「翠さん……ごめん……俺が……俺が……」
だが、 時間が来た。
「処刑方法は視聴者投票により決定されました。 『圧殺処刑』 を執行いたします」
圧殺。
処刑台から巨大な金属製のプレスが降りてきた。 ゆっくりと、 確実に。
相楽翠の恐怖の叫び声がホールに響く。
「やめて!痛い!苦しい!」
プレスは容赦なく彼女の身体を圧迫していく。
早乙女千景が嘔吐した。
白鷺小夜は失神した。
五十嵐龍之介は両手で顔を覆い、 号泣していた。
俺は見続けた。 これが現実だということを、 忘れないために。
最後に、 相楽翠の骨が砕ける音が響いた。
「圧殺により、 #12相楽翠の死亡を確認いたします」
処刑台には、 もはや人の形をとどめない何かが残されていた。
配信画面のコメント欄は狂乱状態だった。
『うわあああああ』
『圧殺とかエグすぎ』
『音がリアルすぎ』
『
#08完全に壊れた』
『3人目かあ』
『シーズン2確定だな』
視聴者数は5万人を超えていた。
機械音声が続ける。
「処刑を以て、 参加者は12名となりました。 看守と囚人の役割は継続いたします」
12名。
俺たちはまた一人、 仲間を失った。
そして今回は、 その死に直接的な責任を負う者がいた。
五十嵐龍之介だ。
彼の無視命令が、 相楽翠の人気を下げ、 結果的に彼女を死に追いやった。
五十嵐龍之介は床に崩れ落ち、 嗚咽を上げていた。
「俺が……俺が殺した……翠さんを……」
早乙女千景が彼に近づこうとしたが、 鳴海瑠璃が制止した。
「余計な同情は禁止よ。 これがこのゲームの現実」
安堂圭吾が看守席を睨んだ。
「お前たち……お前たちが彼女を殺したんだ!」
斑鳩凌が冷たく返した。
「殺したのは投票だ。 俺たちではない」
「でも命令で……」
「命令に従ったのは #08だ」 鳴海瑠璃が遮った。 「彼が選択したのよ」
その言葉に、 五十嵐龍之介はさらに苦悶した。
俺は立ち上がった。
「#08、 五十嵐龍之介」
五十嵐龍之介が俺を見上げた。
「自分を責めるな」 俺は冷静に言った。 「お前が悪いわけではない」
「でも……俺が無視したから……」
「お前が無視しなくても、 彼女が最下位になった可能性は高い」 俺は続けた。 「このゲームでは、 弱い者から死んでいく。 それがルールだ」
安堂圭吾が激怒した。
「ルールだって?人を殺すルールなんて狂ってる!」
「狂っていても現実だ」 俺は彼を見つめた。 「そして、 俺たちはその現実の中で生きている」
葛城翼も怒りを露わにした。
「現実って言うな!これは異常だ!」
だが、 その時、 予想外のことが起こった。
白鷺小夜が立ち上がったのだ。
「もう……もうやめて……」
彼女は震え声で言った。
「私たち……私たちおかしくなってる……人が死んでるのに……なんで慣れちゃってるの?」
宝生朱音も立ち上がった。
「そうよ……私たち人間でしょ?なんで殺し合いをしてるの?」
早乙女千景も涙を流しながら立ち上がった。
「翠ちゃん……翠ちゃんはいい子だったのに……」
囚人たちの間に、 再び反抗の気運が高まった。
だが今度は、 昨日とは質が違っていた。 怒りではなく、 悲しみから生まれる反抗だった。
宍戸昴が皮肉な笑みを浮かべながら言った。
「おいおい、 今更何を言ってるんだ?俺たちはとっくに人間じゃないよ」
その言葉に、 安堂圭吾が宍戸昴に詰め寄った。
「ふざけるな!俺たちはまだ人間だ!」
「人間?」 宍戸昴が嘲笑した。 「人間が仲間を見殺しにするか?人間が他人を無視して死に追いやるか?」
五十嵐龍之介がその言葉に反応した。
「やめろ……やめてくれ……」
だが宍戸昴は続けた。
「俺たちはもう怪物だよ。 生き残るために何でもする怪物。 それを認めた方が楽になれる」
葛城翼が宍戸昴を殴ろうとしたが、 機械音声が警告した。
「暴力行為は禁止されています。 即座に停止してください」
ホール内は混乱状態になった。
囚人たちは悲しみと怒りで取り乱し、 看守たちもどう対処すべきか戸惑っていた。
俺は冷静に状況を観察していた。
3度目の処刑は、 明らかに質的な変化をもたらした。
最初の如月蒼依の処刑は衝撃だった。
2度目の宇佐美凛の処刑は絶望だった。
そして3度目の相楽翠の処刑は、 罪悪感だった。
特に五十嵐龍之介への影響は深刻だった。 彼は完全に精神的に破綻している。
これが、 このゲームの狙いなのかもしれない。
単に殺すだけでなく、 殺す過程で参加者を精神的に破壊すること。
そして、 その破壊の様子を視聴者が楽しむこと。
配信のコメント欄を見ると、 その仮説が正しいことが分かる。
『
#08完全に壊れてる』
『罪悪感で発狂寸前』
『これこそリアルサバイバル』
『心理的にえぐい』
『次は誰が壊れるかな』
視聴者たちは、 俺たちの精神的な破綻を娯楽として消費している。
斑鳩凌が立ち上がった。
「静粛にしろ!」
彼は囚人たちに向かって叫んだ。
「死んだ者のことを嘆いても意味がない!生きている者が前に進むしかないんだ!」
白鷺小夜が反発した。
「前に進むって……また誰かが死ぬのを待つだけじゃない!」
「それがルールだ」 斑鳩凌が冷たく言った。 「受け入れろ」
だが早乙女千景が叫んだ。
「受け入れられない!翠ちゃんの死を無駄にしたくない!」
その時、 真鍋天馬が立ち上がった。
「みんな、 落ち着いて。 翠さんの分まで、 俺たちが生きよう」
雪村颯汰も同調した。
「そうだ。 彼女の思いを受け継いで、 最後まで諦めずに……」
だが鳴海瑠璃が遮った。
「甘いことを言ってる場合じゃないわ。 明日もまた投票がある。 また誰かが死ぬ。 それが現実よ」
五十嵐龍之介が突然立ち上がった。
「俺が……俺が次に死ぬ」
全員が彼を見た。
「俺が翠さんを殺した。 だから俺が死ぬべきだ」
安堂圭吾が彼の肩を掴んだ。
「馬鹿なことを言うな!お前のせいじゃない!」
「でも……」
「システムのせいだ!」 安堂圭吾が叫んだ。 「俺たちを操ってるシステムのせいだ!」
俺はその言葉を聞いて、 改めて思った。
安堂圭吾は正しい。 真の敵はシステムだ。
だが、 そのシステムに対抗する手段を、 俺たちは持っていない。
ただ、 その中で生き残ることしかできない。
機械音声が告げた。
「混乱の収束を確認。 明日も引き続き規律維持に努めてください。 視聴者の期待にさらに応えるよう、 創造性のある命令を期待しています」
創造性のある命令。
つまり、 さらに巧妙で残酷な命令が求められている。
夜が更けると、 五十嵐龍之介は一人で座り込んでいた。
俺は彼に近づいた。
「#08」
五十嵐龍之介が俺を見上げた。
「自殺を考えているなら、 やめろ」 俺は直接的に言った。
「でも……俺が生きてても……」
「お前が死んでも相楽翠は戻ってこない」 俺は続けた。 「だが、 お前が生きていれば、 彼女の分まで生きることができる」
「彼女の分まで……」
「そうだ。 それが、 死者に対してできる唯一のことだ」
五十嵐龍之介は涙を拭いた。
「でも……俺にはもう優しさなんて……」
「優しさを失う必要はない」 俺は答えた。 「ただ、 使い方を変えろ。 表面的には冷徹に、 内心では温かく」
「表面的に……」
「そうだ。 このゲームで生き残るための戦術だ。 お前の本当の優しさは、 心の奥に隠しておけ」
五十嵐龍之介は小さく頷いた。
俺は彼を残して看守席に戻った。
今日の処刑で、 ゲームはさらに残酷になった。
単純な殺し合いから、 精神的な破壊へとエスカレートしている。
そして俺たち看守も、 その破壊の一端を担っている。
明日はさらに創造的な命令が求められるだろう。
俺たちは、 より巧妙で効果的な方法で、 囚人たちを追い詰めなければならない。
視聴者の娯楽のために。
そして、 自分たちの生存のために。
配信は続き、 俺たちの堕落は加速していく。
相楽翠の血が乾いた処刑台を背に、 俺は明日への戦略を練り始めた。
この地獄のようなゲームで。
最後まで生き残るために。
第4回投票結果の発表時間が来た。 昨日の過激な命令の応酬によって、 ホール内の空気は極度に緊張していた。
看守席に座る俺たち5名と、 床に座らされた囚人8名。 囚人たちの表情は、 昨日よりもさらに疲弊していた。
特に五十嵐龍之介は、 相楽翠を無視し続けた罪悪感で顔色が悪く、 宝生朱音は感情を抑制できずに目を腫らしていた。
機械音声が冷たく響いた。
「第4回人気投票結果を発表いたします」
モニターに結果が表示される。
『第4回人気投票結果』
『1位:#07 緋村陸翔 6,789票』
『2位:#01 斑鳩凌 6,234票』
『3位:#10 鳴海瑠璃 5,567票』
『4位:#15 真鍋天馬 4,123票』
『5位:#04 雪村颯汰 3,789票』
俺は4日連続で1位。 だが、 斑鳩凌との差が縮まっている。 彼の過激な命令が視聴者に評価されているのだろう。
看守の顔ぶれに変化はなかったが、 順位の微調整があった。 鳴海瑠璃が3位を維持し、 真鍋天馬と雪村颯汰の差が開いている。
画面はスクロールを続ける。
『6位:#11 安堂圭吾 3,234票』
『7位:#02 葛城翼 2,987票』
『8位:#08 五十嵐龍之介 2,456票』
『9位:#14 宍戸昴 2,123票』
『10位:#06 宝生朱音 1,789票』
『11位:#09 白鷺小夜 1,456票』
『12位:#05 早乙女千景 1,234票』
そして、 最下位。
『13位:#12 相楽翠 892票』
相楽翠の顔が蒼白になった。
「私……私が……」
彼女は五十嵐龍之介を見つめた。 昨日一日中無視され続けた彼女の心は、 既に限界に達していた。
「龍之介さん……助けて……」
だが五十嵐龍之介は、 罪悪感で彼女を見ることができずにいた。
機械音声は容赦なく続けた。
「最下位、 #12相楽翠の処刑を執行いたします。 処刑台へ移動してください」
ホール中央に、 これまでで最も巨大で複雑な処刑台が上昇してきた。 様々な処刑器具が取り付けられ、 まるで拷問博物館のような様相を呈していた。
「いや……いやああああ!」
相楽翠は叫び声を上げて後ずさりした。
「お願い!誰か!龍之介さん!助けて!」
五十嵐龍之介は立ち上がろうとしたが、 斑鳩凌が厳しく制止した。
「動くな。 処刑は絶対だ」
機械のアームが相楽翠を捕獲し、 処刑台へと運んでいく。
「やめて!私、 何もしてない!ただ怖かっただけ!」
彼女の必死の叫びが、 ホールに響いた。
処刑台に固定された相楽翠は、 金属の拘束具に縛られた。
「最終発言の時間を与えます。 1分間です」
相楽翠は涙を流しながら叫んだ。
「みんな……私のことを弱いって言ったけど……でも私だって一生懸命生きてきたの……」
彼女の声は震えていた。
「お母さん……私、 頑張ったよ……最後まで諦めなかったよ……」
そして、 五十嵐龍之介を見つめて言った。
「龍之介さん……あなたは優しい人です……だから……自分を責めないで……」
その言葉に、 五十嵐龍之介は涙を流した。
「翠さん……ごめん……俺が……俺が……」
だが、 時間が来た。
「処刑方法は視聴者投票により決定されました。 『圧殺処刑』 を執行いたします」
圧殺。
処刑台から巨大な金属製のプレスが降りてきた。 ゆっくりと、 確実に。
相楽翠の恐怖の叫び声がホールに響く。
「やめて!痛い!苦しい!」
プレスは容赦なく彼女の身体を圧迫していく。
早乙女千景が嘔吐した。
白鷺小夜は失神した。
五十嵐龍之介は両手で顔を覆い、 号泣していた。
俺は見続けた。 これが現実だということを、 忘れないために。
最後に、 相楽翠の骨が砕ける音が響いた。
「圧殺により、 #12相楽翠の死亡を確認いたします」
処刑台には、 もはや人の形をとどめない何かが残されていた。
配信画面のコメント欄は狂乱状態だった。
『うわあああああ』
『圧殺とかエグすぎ』
『音がリアルすぎ』
『
#08完全に壊れた』
『3人目かあ』
『シーズン2確定だな』
視聴者数は5万人を超えていた。
機械音声が続ける。
「処刑を以て、 参加者は12名となりました。 看守と囚人の役割は継続いたします」
12名。
俺たちはまた一人、 仲間を失った。
そして今回は、 その死に直接的な責任を負う者がいた。
五十嵐龍之介だ。
彼の無視命令が、 相楽翠の人気を下げ、 結果的に彼女を死に追いやった。
五十嵐龍之介は床に崩れ落ち、 嗚咽を上げていた。
「俺が……俺が殺した……翠さんを……」
早乙女千景が彼に近づこうとしたが、 鳴海瑠璃が制止した。
「余計な同情は禁止よ。 これがこのゲームの現実」
安堂圭吾が看守席を睨んだ。
「お前たち……お前たちが彼女を殺したんだ!」
斑鳩凌が冷たく返した。
「殺したのは投票だ。 俺たちではない」
「でも命令で……」
「命令に従ったのは #08だ」 鳴海瑠璃が遮った。 「彼が選択したのよ」
その言葉に、 五十嵐龍之介はさらに苦悶した。
俺は立ち上がった。
「#08、 五十嵐龍之介」
五十嵐龍之介が俺を見上げた。
「自分を責めるな」 俺は冷静に言った。 「お前が悪いわけではない」
「でも……俺が無視したから……」
「お前が無視しなくても、 彼女が最下位になった可能性は高い」 俺は続けた。 「このゲームでは、 弱い者から死んでいく。 それがルールだ」
安堂圭吾が激怒した。
「ルールだって?人を殺すルールなんて狂ってる!」
「狂っていても現実だ」 俺は彼を見つめた。 「そして、 俺たちはその現実の中で生きている」
葛城翼も怒りを露わにした。
「現実って言うな!これは異常だ!」
だが、 その時、 予想外のことが起こった。
白鷺小夜が立ち上がったのだ。
「もう……もうやめて……」
彼女は震え声で言った。
「私たち……私たちおかしくなってる……人が死んでるのに……なんで慣れちゃってるの?」
宝生朱音も立ち上がった。
「そうよ……私たち人間でしょ?なんで殺し合いをしてるの?」
早乙女千景も涙を流しながら立ち上がった。
「翠ちゃん……翠ちゃんはいい子だったのに……」
囚人たちの間に、 再び反抗の気運が高まった。
だが今度は、 昨日とは質が違っていた。 怒りではなく、 悲しみから生まれる反抗だった。
宍戸昴が皮肉な笑みを浮かべながら言った。
「おいおい、 今更何を言ってるんだ?俺たちはとっくに人間じゃないよ」
その言葉に、 安堂圭吾が宍戸昴に詰め寄った。
「ふざけるな!俺たちはまだ人間だ!」
「人間?」 宍戸昴が嘲笑した。 「人間が仲間を見殺しにするか?人間が他人を無視して死に追いやるか?」
五十嵐龍之介がその言葉に反応した。
「やめろ……やめてくれ……」
だが宍戸昴は続けた。
「俺たちはもう怪物だよ。 生き残るために何でもする怪物。 それを認めた方が楽になれる」
葛城翼が宍戸昴を殴ろうとしたが、 機械音声が警告した。
「暴力行為は禁止されています。 即座に停止してください」
ホール内は混乱状態になった。
囚人たちは悲しみと怒りで取り乱し、 看守たちもどう対処すべきか戸惑っていた。
俺は冷静に状況を観察していた。
3度目の処刑は、 明らかに質的な変化をもたらした。
最初の如月蒼依の処刑は衝撃だった。
2度目の宇佐美凛の処刑は絶望だった。
そして3度目の相楽翠の処刑は、 罪悪感だった。
特に五十嵐龍之介への影響は深刻だった。 彼は完全に精神的に破綻している。
これが、 このゲームの狙いなのかもしれない。
単に殺すだけでなく、 殺す過程で参加者を精神的に破壊すること。
そして、 その破壊の様子を視聴者が楽しむこと。
配信のコメント欄を見ると、 その仮説が正しいことが分かる。
『
#08完全に壊れてる』
『罪悪感で発狂寸前』
『これこそリアルサバイバル』
『心理的にえぐい』
『次は誰が壊れるかな』
視聴者たちは、 俺たちの精神的な破綻を娯楽として消費している。
斑鳩凌が立ち上がった。
「静粛にしろ!」
彼は囚人たちに向かって叫んだ。
「死んだ者のことを嘆いても意味がない!生きている者が前に進むしかないんだ!」
白鷺小夜が反発した。
「前に進むって……また誰かが死ぬのを待つだけじゃない!」
「それがルールだ」 斑鳩凌が冷たく言った。 「受け入れろ」
だが早乙女千景が叫んだ。
「受け入れられない!翠ちゃんの死を無駄にしたくない!」
その時、 真鍋天馬が立ち上がった。
「みんな、 落ち着いて。 翠さんの分まで、 俺たちが生きよう」
雪村颯汰も同調した。
「そうだ。 彼女の思いを受け継いで、 最後まで諦めずに……」
だが鳴海瑠璃が遮った。
「甘いことを言ってる場合じゃないわ。 明日もまた投票がある。 また誰かが死ぬ。 それが現実よ」
五十嵐龍之介が突然立ち上がった。
「俺が……俺が次に死ぬ」
全員が彼を見た。
「俺が翠さんを殺した。 だから俺が死ぬべきだ」
安堂圭吾が彼の肩を掴んだ。
「馬鹿なことを言うな!お前のせいじゃない!」
「でも……」
「システムのせいだ!」 安堂圭吾が叫んだ。 「俺たちを操ってるシステムのせいだ!」
俺はその言葉を聞いて、 改めて思った。
安堂圭吾は正しい。 真の敵はシステムだ。
だが、 そのシステムに対抗する手段を、 俺たちは持っていない。
ただ、 その中で生き残ることしかできない。
機械音声が告げた。
「混乱の収束を確認。 明日も引き続き規律維持に努めてください。 視聴者の期待にさらに応えるよう、 創造性のある命令を期待しています」
創造性のある命令。
つまり、 さらに巧妙で残酷な命令が求められている。
夜が更けると、 五十嵐龍之介は一人で座り込んでいた。
俺は彼に近づいた。
「#08」
五十嵐龍之介が俺を見上げた。
「自殺を考えているなら、 やめろ」 俺は直接的に言った。
「でも……俺が生きてても……」
「お前が死んでも相楽翠は戻ってこない」 俺は続けた。 「だが、 お前が生きていれば、 彼女の分まで生きることができる」
「彼女の分まで……」
「そうだ。 それが、 死者に対してできる唯一のことだ」
五十嵐龍之介は涙を拭いた。
「でも……俺にはもう優しさなんて……」
「優しさを失う必要はない」 俺は答えた。 「ただ、 使い方を変えろ。 表面的には冷徹に、 内心では温かく」
「表面的に……」
「そうだ。 このゲームで生き残るための戦術だ。 お前の本当の優しさは、 心の奥に隠しておけ」
五十嵐龍之介は小さく頷いた。
俺は彼を残して看守席に戻った。
今日の処刑で、 ゲームはさらに残酷になった。
単純な殺し合いから、 精神的な破壊へとエスカレートしている。
そして俺たち看守も、 その破壊の一端を担っている。
明日はさらに創造的な命令が求められるだろう。
俺たちは、 より巧妙で効果的な方法で、 囚人たちを追い詰めなければならない。
視聴者の娯楽のために。
そして、 自分たちの生存のために。
配信は続き、 俺たちの堕落は加速していく。
相楽翠の血が乾いた処刑台を背に、 俺は明日への戦略を練り始めた。
この地獄のようなゲームで。
最後まで生き残るために。
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