1 / 2
二十年後に届いた、嘘つきな母からの贈り物
しおりを挟む
整理整頓が、母の唯一の取り柄だった。
実家のリビングも、台所も、母の寝室も、いつだってモデルルームのように片付いていた。余計なものは置かない。思い出に浸って手を止めることもしない。そんな合理的で、少し冷淡とも思える母が、どこか何かに怯えているようにも見えて、私は苦手だった。
その母が亡くなって一週間。私は一人、遺品整理のために実家を訪れていた。
がらんとした部屋で、クローゼットの奥から見慣れない桐箱が出てきたのは、夕暮れ時だった。
「……えっ?」
中に入っていたのは、あまりに場違いなもの。手のひらに乗るほどの、安っぽい陶器の招き猫だった。
二十年前。私が心臓の手術を控えて入院していたとき、母が「なくした」と告げた私の宝物だ。当時、母は私の激しい追及に、膝の上の手を白くなるほど強く握りしめ、視線を合わせないまま「ごめんなさい」と繰り返すだけだった。
だが、今。目の前にある招き猫の首元には、不器用な修復の跡がある。
底のフェルトを剥がすと、中から古い病院の領収書の裏紙が出てきた。
『神様、ごめんなさい。私が不注意で、この子の守り神を落として壊してしまいました。
でも、どうかこれだけは聞き届けてください。
ラッキーが身代わりになって壊れたのだと、そう信じさせてください。
この子が明日、無事に手術を終えられるなら、私は一生、この子に嫌われても構いません。
私がこの子の宝物を壊した「ひどい母親」のままでいいから、どうか、あの子の命だけは助けてください』
視界が、急激に滲んだ。
母の部屋がいつも完璧に片付いていた理由が、今さら分かった気がした。
母は、物を捨てていたのではない。もう二度と、大切なものを自分の不注意で壊さないよう、祈るようにして暮らしていたのだ。
「……お母さん」
二十年分の誤解が、涙と一緒に溶けていく。
私は立ち上がり、母のいなくなった台所へ向かった。
母が愛用していた、何も置かれていない真っ白な棚。その一番日当たりの良い場所に、私はそっと招き猫を置いた。
夕光を浴びた招き猫は、何も言わず、ただそこにいた。
実家のリビングも、台所も、母の寝室も、いつだってモデルルームのように片付いていた。余計なものは置かない。思い出に浸って手を止めることもしない。そんな合理的で、少し冷淡とも思える母が、どこか何かに怯えているようにも見えて、私は苦手だった。
その母が亡くなって一週間。私は一人、遺品整理のために実家を訪れていた。
がらんとした部屋で、クローゼットの奥から見慣れない桐箱が出てきたのは、夕暮れ時だった。
「……えっ?」
中に入っていたのは、あまりに場違いなもの。手のひらに乗るほどの、安っぽい陶器の招き猫だった。
二十年前。私が心臓の手術を控えて入院していたとき、母が「なくした」と告げた私の宝物だ。当時、母は私の激しい追及に、膝の上の手を白くなるほど強く握りしめ、視線を合わせないまま「ごめんなさい」と繰り返すだけだった。
だが、今。目の前にある招き猫の首元には、不器用な修復の跡がある。
底のフェルトを剥がすと、中から古い病院の領収書の裏紙が出てきた。
『神様、ごめんなさい。私が不注意で、この子の守り神を落として壊してしまいました。
でも、どうかこれだけは聞き届けてください。
ラッキーが身代わりになって壊れたのだと、そう信じさせてください。
この子が明日、無事に手術を終えられるなら、私は一生、この子に嫌われても構いません。
私がこの子の宝物を壊した「ひどい母親」のままでいいから、どうか、あの子の命だけは助けてください』
視界が、急激に滲んだ。
母の部屋がいつも完璧に片付いていた理由が、今さら分かった気がした。
母は、物を捨てていたのではない。もう二度と、大切なものを自分の不注意で壊さないよう、祈るようにして暮らしていたのだ。
「……お母さん」
二十年分の誤解が、涙と一緒に溶けていく。
私は立ち上がり、母のいなくなった台所へ向かった。
母が愛用していた、何も置かれていない真っ白な棚。その一番日当たりの良い場所に、私はそっと招き猫を置いた。
夕光を浴びた招き猫は、何も言わず、ただそこにいた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる