おこもり魔王の子守り人

曇天

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第十六話

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「これで!」

「甘い!」

 城の庭で俺はヴァライアと剣の稽古をしていた。 前よりはうち込めるようにはなったが、やはりこてんぱんにされる。

「くそー! 一発もあたらん!!」

「ふん、多少ましになってようだが、その程度ではまだ私の足元にも及ばんわ!」

(悔しいが事実だ)

 俺は休憩しに壁にもたれる。 横をみるとアディエルエはタブレットで何か動画をみている。 その顔は真剣だ。

「なんだ? ゲームじゃないのか...... まさかガルムみたいにソシャゲに課金したんじゃ......」

「ううん...... ゲームは買い切りしか...... しない。 これ」

 そう画面をこちらに向ける。 そこには少女が魔法を使っているアニメが流れている。

「魔封少女ルナティックルナ?」

「......魔法が生きていて人間たちがそれを使って欲望を満たそうとするのを...... 主人公ルナティックルナがその魔法を封印していくの......」

「それって、深夜アニメだろ」

「ただのアニメと違うの...... 大人たちが事情で仕方なく魔法の力を使い...... そのせいで周りを不幸にしていく。 それを主人公ルナティックルナが魔法で吹き飛ばすの」

「事情があるのに魔法で吹き飛ばす? ......なにその非情なアニメ、面白いの?」

「うん...... 主人公ルナは自分のことを棚にあげる正義マンで、相手の事情をまったくくまない...... そして容赦なく相手を言葉で詰めて最後に魔法で断裁するの......」

「冷徹だな......」

「でも作画がすごくて...... 変身バンクをつかわないで、毎回手の込んだ作画で変身させるの...... だからそこだけでもコアなファンをつかんだ......」

 たしかにぬるぬると動いている。

「作ってるひと、ここだけつくりたかったんじゃないのか」

「私も...... 魔法使いたい......」

「使えるじゃん魔王なんだし」

「へ、変身魔法は使えない...... こ、こうするの......」

 アディエルエは変なぬるぬるした動きで変身ポーズを真似した。

(普段うごけないのに、こんなときは流れるように動くな)

「魔封少女ルナティックルナ...... ふっ、それはあなたの意見ですよね......」

「なんだそのセリフ」

「反論されたときにいう、相手の意見を封殺するきめゼリフ......」

「卑劣だな......」

「しかし、ルナのいうことは間違ってはいない」

 ヴァライアがそういって話にはいってきた。

(またこいつはまってんのかよ。 確実にアディエルエに洗脳されていってるな)

「まあ、正しいことが他の人にとっては、正しくないときもあるだろ」

「例え理由があっても、悪しきことに荷担すれば罰を受けるべき、ルナはその断罪者なのだ。 あのライファーマーエナガもいっている、悪は滅ぶべしとな」

 ヴァライアはそう力説している。

(こいつは特撮とアニメの影響をうけすぎだな......)

「まあ、そのアニメにはまっているんだなアディエルエは」

「うん...... ルナティックルナの二次絵もかいてる......」

 そういってパッドをみせる。 そこにはまごうことなきバケモノがいた。 

 それは表現するのが困難なほどだった。 こいつには生物がこう見えてるのかという疑念すら浮かぶ。 いつもはフォローするヴァライアがこの時ばかりは一切目をあわさないことからも、その絵は常軌を逸していることがみてとれる。

(こ、これはひどい...... 生き物か何かもわからん...... AIが意図がわからず出力したグロ画像のようだ...... しかし)

 にもかかわらず、アディエルエはこちらをチラチラみながら、もじもじして、この絵にたいしての賛美の声を持っているといった絶望的状況、こんなに悩んだのは生まれてはじめてだった。

(ここは誉めるべきか...... しかし、少しへたなくらいなら誉められるが、ここまでとなると嘘をついた自分に強い罪悪感と嫌悪感を感じるな。 かといって、事実を告げると、アディエルエのスライムメンタルだと、最悪部屋への引きこもりではすまず、コタツに引きこもりかねない...... それだけは避けないと)

 ヴァライアをみると目をつぶり、両手を併せて懇願しているようだ。

(こいつもそう思ってるのか...... しかたない)

「あー、そうね。 うん、とても個性的だ」

(これで逃げ切る!)

「個性的...... どの辺が?」

(嘘だろ! 詰めてきた! どうする時間をかけると疑われる! このままだと最悪のモンスター、ヒキコタツムリが生まれてしまう!)

「あっ! あれは!! アディエルエさま!」

 その時、そうヴァライアが門の方をみていった。
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