おこもり魔王の子守り人

曇天

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第十七話

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(助かった...... でもだれだあれ?)

 門を開けて長身の女性が入ってくる。 そそとした歩き方でとても美しく、長い金髪でその耳は長い。

(あれは!? エルフか......)

「あ、あ...... セレンティナ......」

 アディエルエが怯えたようにいった。 

(セレンティナ...... お目付け役って言われてた八魔将の筆頭か)
 
「マモルさま。 はじめまして、わたくしはハイエルフのセレンティナともうします」

 そう女性は近づくとにこやかに挨拶してくれた。

「あ、はい、小森見 マモルです」

(なんだ。 めちゃくちゃ綺麗で優しそうじゃないか、ならなんでこの二人こんな怯えてるんだ......)

 部屋に戻るとヴァライアとアディエルエの二人は正座している。 でもセレンティナさんから目を微妙にそらしてるようだ。

「それにしても......」

 そういってセレンティナさんはアディエルエの部屋を見回す。 コタツの机には飲みかけのペットボトル、飲んだエナジードリンクの缶、パーティーあけされたお菓子の袋、周囲には乱雑に積まれたゲームとコミック、作りかけのプラモデル、そう部屋は完全にプチごみ屋敷だった。

「......あ、あの、これは...... あの」

 アディエルエはしどろもどろになっている。

「魔王さま...... わたくしは何度となくお片付けしてくださいませと言いましたよね」

「い、い、今しようと思ってた...... ほんと...... いま」

 そういって片付け始めた。

(うそつけ)

「ヴァライアちゃん、あなたが自らそばづきを志願しましたよね。 お仕事は警護だけですか?」

「い、いえ、セレンティナさま。 そのようなことは、もちろん、アディエルエさまの身の回りのお世話なども私の仕事です!」

 そうヴァライアは背筋を伸ばし立ち上がると、かたづけを手伝っている。

(同じ八魔将なのに、ヴァライアは頭があがらないようだな。 しかし優しそうなのになんで二人はこんなに怯えているんだ?)

「そうでした。 マモルさま、いつも魔王さまの相手をしていただいてありがとうございます」

 そう聖母のような微笑みで頭を下げた。

「い、いや、俺は魔法を教えてもらったり、剣を教えてもらったりしてるので」

「そうですか、しかし......」

 笑顔のままだが、なにか雰囲気が変わったような気がする。

(なんだ、今一瞬寒気が......)

「少々、魔力不足のような気がしますね。 このままでは、魔王さまに何かあった場合、あなたが巻き込まれて危険になるやもしれません。 しかたありませんね、少しお外に行きましょうか」

「えっ? えっ?」

 俺が外に連れ出されていくと、アディエルエとヴァライアは胸の前に手を当て祈るような仕草をしている。

(な、なんだ、二人の反応がおかしい)


「ぐはぁぁ!!」

「マモルさま、そのようなことでは死んでしまいますよ。 魔力を感知、そして回避しなければなりません」

 セレンティナさんがそういって、光の玉を複数、自在に操る。

(や、やばい! この玉当たったら!)

 ドカカアアアアアン

「ぐわぁ!!」

 死角からの玉が当たり爆発して俺は地面をころがる。

「集中して魔力を感知をしてください、でないと死にますよ」

(穏やかな言葉とは裏腹に、めちゃくちゃしてくる!!) 

 俺は縦横無尽に飛んでくる光の玉をかわす。

(集中できない! 当たったらこの威力だ! まじで死ぬ!) 

 かわしながら必死で集中する。 

「見た目で惑わされてはいけません。 魔力を感じるのです」

「そんなこといっても! うわっ!!」

(やめてくれそうにない! やけだ! 集中しろ!)

 俺は玉が離れた瞬間目をつぶる。 真っ暗のなか、動くものを感じる。 

(これか! くる!)

 俺はなんとかギリギリかわす。 

「そうです。 ですがこれからです......」

 光の玉が目の前からきえた。 

「なくなった...... でもなんか感じる! ごはっ!」

 爆発して吹き飛ばされる。

(ヤバイ! 見えないようにしたのか! 集中しろ! 死ぬぞ!)

 日が暮れるまで何度も吹き飛ばされた。 

「これで、魔力による感知、魔力による身体能力強化、魔力移動による攻撃、防御力の上昇が可能になりましたね」  

「は、は、はい...... ありがとうご、ございました......」

「ハイ、では私もこちらに通いますから、これを体が覚えるまで1ヶ月あまり反復しましょうね」

 そうセレンティナさんはにっこりいった。

「え......」

(......二人が、おびえる、意味が...... いまわかった......)

 俺はぼろ雑巾のようにされ、そう思いながら意識が遠くなった。

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