おこもり魔王の子守り人

曇天

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第三十一話

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 それから数週間特になにもない学園生活を過ごしつつ、ギルドの依頼をこなしていた。

(やっと冒険者もCクラス(シルバー)になれたな)

 そんな風に思って教室で席に着いていると、ルシールが真剣な面持ちで近づいてきた。

「すまないマモル...... ちょっと来てくれるか」 

「......ああ」

 その顔から尋常てはない切迫感が伝わり、俺は話を聞くことにした。

 学園の屋上までついていくと、ルシールはため息を着きつつ、唐突に話しはじめた。

「依頼があるんだ......」 

「依頼? 冒険者としてか、ギルドを通せない話しか」  

「ああ、どうしても君にしか頼めない......」

(まあ、Cクラスから依頼を個人的に受けることはできるが......)

「なんだ? 友達として受けてはやりたいが依頼内容によるな」

「実は...... 一週間後、この国の王女の戴冠式があるのは知っているか」

「ああ、病に伏せていた前王の死去で17才で即位して女王になるのを、国民の前にでてパレードするとは聞いているが」

「そうだ...... しかしその事で問題がある」

「問題......」

「......どうやら暗殺の話があるというんだ」

「暗殺!? 本当かよ!」

「ああ話は王族に近しい上級貴族たちの中でだがな」

(ルシールもかなり上級貴族だと聞いてるが......)

「なんでだ? 科学や機械を先進的にとりいれて、かなり経済的にもうまくいってるときいたぞ」

「だからこそだ。 それを好まない勢力がいるんだ」

「好まない......」

「いままで商業を独占していた大商人や貴族、君たちの世界への劣等感からか、魔法を使うこの世界の者たちの優性を説いているものたちがいる」

「そいつらが女王になる王女を暗殺しようとしている...... か、それで俺にどうしろと、阻止か、でもそれなら貴族や軍の方がいいだろ」

「......いや、護衛じゃない。 君たちにはなんとか暗殺の証拠をつかんでもらいたいんだ」

「つかめないのか」

「少しつかめてはいる...... 問題はあちら側にかなりの協力者がいるとみられることだ」

「軍や貴族に知られるのはまずいってことか......」

「そうだ...... 誰が王女側かもわかりないからな。 だから国の者ではない君たちに頼る他ない」

「ガルムたちと相談していいか?」  

「ああ、君たちはパーティーだからな」


「......というわけだ。 俺は協力したいがどうする?」

 俺はみんなに話した。

「報酬も悪くない...... だが、どうにもな」

「何か問題があるのかガルム?」 

「ガルムは嫉妬してるだけだよ」

 ラクレイは笑いながら言った。

「あったりまえだろ! 女の子からチヤホヤされやがって! きにくわん!」

 ガルムがそう怒る。

「確かにルシールくんはクラスだけじゃなく学園の女の子から人気があるね。 優しいし親切だから」

 橘さんがそういう。

「いや、顔だよ顔! あんな優男のどこがいいんだよ! 男は毛並みだろ!」

「いや、そんなことはどうでもいいだろ......」

「よくはない!」

「まあ、ガルムはおいといて、僕はうけてもいいよ。 王女は先進的だってきくし、この国はこっちの世界のモデルケースになりそうだしね」

「私もいいと思う。 単純に暗殺なんてほうっておけないから」 

「二人はこうだが、お前はどうする?」

 俺がガルムに話を向ける。

「しょうがねぇ、受けるよ。 受けりゃいいんだろ!」 

 ガルムはしぶしぶ承諾した。

 
「みんな、きてくれて感謝する」

 ルシールはそういって喜ぶ。 俺たちは学校終わり待ち合わせの公園にいた。

「それで俺たちゃなにすりゃいいんだルシール」

 そうガルムがぶっきらぼうに聞く。

「ああ、まずはこっちに歩きながら話そう......」

 ルシールはそういって歩き出した。

「......暗殺を企てているのは【トライマギカ】と呼ばれるこの世界の優性を唱える者たちの集まりだ」

「トライマギカ......」

「彼らは外の世界と交流を進めようとする王女を殺し、鎖国を望んでいるんだ」

「でも王女を殺したって、そいつらの思いどおりいくか?」

 ガルムが首をかしげる。

「とうやら、大貴族が関わっているらしい」

「そいつを王にしようと画策してるってこと?」

 ラクライがそういうとルシールは無言でうなづいた。
 
「首謀者のだいたいのあたりはついているの?」
 
「正確にはわからない...... が一部の悪い噂を持つものは何人かいる。 が、確たるものはない」 

「だったら、まず......」

「ああ、証拠が必要だ。 まずトライマギカのアジト、それを探る必要がある」


「ここは......」

 ルシールに連れられ、王都の裏路地の方へ向かって歩く。

「みんなここから先はスラムだ。 顔を隠してくれ」

「俺は隠しても無駄だと思うが......」

 ぶつくさとガルムがいった。

「ここにアジトがあるのか?」

「いいや、ここにいるものたちは裏の世界に詳しい、話を聞くんだ」

 ルシールはごみごみとしたスラムを先にはいっていく、住人たちはこちらを気にしているがルシールには手を振っている。

「ルシールくんスラムのことに詳しそう」

 橘さんが意外そうにいい、ラクレイとガルムも同意する。

「だね。 僕たちもこの国にけっこういるけど、スラムなんてはじめてだよ」

「ああ、それに住人に知られているみたいだ。 あいつ、貴族なのになにもんだ?」 

「まあ、気にはなるが悪人じゃない、今はついていくしかないな」

 俺たちがそう話ながらついていくと、前から亜人や人間の子供たちが走ってくる。

「ルシール!」

「やあ、みんな久しぶり」

「全然来てくれないんだもん」

「ごめん、ごめん。 さあ、他の子達にもわたしてあげて」 

 そういうと持っていたバッグからお菓子を配りはじめた。 子供たちはそれを受けとる。

「お菓子より遊んでよ!」
 
(この子達の境遇ならお菓子のほうが良さそうなもんだろうが、どうやら、かなり慕われているようだな)

「うん、ごめん、またくるよ。 でも今日は奥に用事があるんだ......」

「奥...... やめたほうがいいよ」

「うん、何か今はいつもより怖い感じなんだ」

 子供たちはルシールを止めようとした。

「怖い...... 何かあったのかい」

「最近奥の奴らがここじゃ見かけなかった変な奴らと話をしてるんだ...... 多分よくないことだよ。 だから近づいたらダメだよ」

 そう子供たちの一人が怯えながらいった。 他の子供たちもうなづいている。

「そうか...... でも心配しなくてもいい。 強い冒険者がいるからね」

「この人たち? あんまり強そうじゃないけど......」

「ほっとけ!」
 
 ガルムがそういう。

「ちっさいのもいるし」

「君たちのほうがちいさいでしょ!」

 ラクレイもそうかえす。

 子供たちはガルムとラクレイにとりつき、女の子たちは橘さんに話しかけている。

「やめろー耳を引っ張るな!」

「待って上にのらないで!」

「ふふ、みんなに気に入られたみたいだね」

 ルシールは笑う。

「だな、 それよりルシール、ここじゃみない奴らって」

「......やはりこの奥の奴ら、スラムの元締めと話をする必要がありそうだね」

 そうルシールは厳しい顔でいった。

 俺たちは子供たちとわかれて奥へと進む。

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