おこもり魔王の子守り人

曇天

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第六十二話

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「......お前は死人《アンデッド》なのか」  

 俺がいうとベネプレスは口もとに笑みを浮かべた。

「なっ! そいつもアンデッドなのか!」 

「そんな意識のあるアンデッドなんて!?」

 ガルムたちが驚いている。

「......ああ、この間ヴァライアが刺しても殺せなかった...... だからそうじゃないかと話してたんだ」

「ふっふっふ、おしいがアンデッドではないな......」

 そうペネブレスはいい、ゆっくり空中へと浮かぶ。

「そんなことはいい ......お前は一体何が目的なんだ」

「......貴様たちは知る必要がない...... ここで死ぬのだからな...... 無色、静寂に......」

 そうペネブレスはいうと呪文を唱えはじめる。  

「くそ! さきに攻撃を!」

「まてガルム!」

 俺はガルムを止め、あのときのことを思い出していた。


「なに? 私に魔法を教えろだと?」

 ヴァライアは驚いた顔でそういった。 

「ああ、さすがにこのままであのベネプレスと戦えるとは思えないんだ」

「確かに...... しかし、私の魔法は闇魔法...... 人々から忌み嫌われた魔法だぞ。 私とて生まれつき覚えていたものだが、なくなってしまえばいいといつも思っていたぐらいだ」

 そうヴァライアは目を伏せた。
 
(幼いときより、周囲からそういう目でみられたのか...... ただ、いまは力がほしい......)   

「それでも教えてほしい。 頼む」

 少し悩んでいたようだったが、俺の真剣さが伝わったのか、教えてくれることになった。

「ただマモルが闇魔法を覚えられるかはわからないぞ」 

「なぜだ? やはり難しいのか」

「まあそれもあるが...... 魔法には属性があるんだ。 そしてたいていは近しい一つか二つの属性しかつかえん。 お前は光と炎を使っているな」
 
「ああ、アディエルエとセレンティナさんから教わったから...... じゃあ無理なのか......」  

「いや、たいていといったろ。 複数の属性を使える者もいる。 アディエルエさまがそうだ。 もしかしたらお前もあるいは......」

 そういって俺のことを何か考えるように見つめている。

「あいつがアディエルエはやはり魔法の才能があったんだな」

「ああ...... 取りあえず覚えられる可能性はあるからやってみろ」

 そういって魔法を教えてもらったのだった。


(あのとき得た魔法...... 影移動のシャドウムーブ、そして......)

 ベネプレスの前に黒い闇が集まる。 

「......死ぬがいい......」  

「貴様がな......」  

 そうペネブレスの体に深々と剣が突き刺さる。 後ろからヴァライアが現れる。

「ぐっ、ヴァライア...... なぜ貴様が...... ありえん...... シャドウムーブで隠れていたなら感じ取れるはず...... そうかマジックフィルムジェムか......」 

「違う。 ダークルート、俺の魔法だ」  

 俺がペネブレスの後の黒い穴を指差した。

「ば、ばかな。 遠距離移動の闇魔法だと...... 貴様は光しか使えないはず......」

「いいや」

「貴様のようなただの人間が...... だが私はレイスとなった身だ。 アンデッドの私を倒すのは不可能...... ぐっ、なんだ、これは......」

 ベネプレスの体が白く変色していく。

「お前がアンデッドなのは前のときから予想がついていた。 だからアディエルエさまからお借りしていたのだ。 この【リクエディオン】をな」  

「......それは魔導器、魂を切り裂く魔法剣【リクエィデオン】か...... くっ...... 貴様ら...... き、さ、まぁぁぁぁ......」 

 苦しみながらベネプレスは黒い球体を投げた。 するとそこに穴ができ球体は吸い込まれていった。

「くっ、クックック...... そう、もうすぐ、貴様らは終わる...... クックック......」

 ペネブレスはそう言葉を残しながら霧のように崩れ去った。
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