おこもり魔王の子守り人

曇天

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第六十九話

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「ずいぶん、魔力の流動が安定したな。 見違えるような動きだ」

 ヴァライアが俺との稽古で感心したようにいう。

「ああ、アステリオンさんとザイガルフォンに教わったからな。 二人相手で何回も何回も叩きのめされたけど」

「まあ、お二方ともかなりの強さだからな」 

 そうヴァライアは笑う。 稽古から引き上げると、壁でハリを撫でていたアディエルエも腰を上げる。
 
「アディエルエ、ザイガルフォンが悪かったと伝えてくれってさ」

「そう......」 

 いつものように感情は薄くみえるが、心なしか嬉しそうにも見えた。

「ちょっと、二人に...... お願いがある」

 アディエルエがその場にとまるとおもむろにそういった。

「ん? どこかにいくのか?」

「ええ、何なりと」


「アディエルエ、まさか......」

「こ、これはアディエルエさま!」

 俺たちはアディエルエからみたことのあるベルトをそれぞれ渡された。

「ふ、ふたりはメンダコドライブ、クロウドライブとして...... わたしコモドドラゴンドライブのサポートをしてもらいたい」 

「これ俺たちも変身するのか......」

「そう...... 正義のため」

「わかりました! 正義のためにクロウドライブとなりましょう!」 
  
 ヴァライアはそういっていそいそとベルトをつける。

(なんでこいつノリノリなんだ......)

 俺はしぶしぶアディエルエについていく。 

「コモドドラゴンドライブ...... 光殻!」

「クロウドライブ! 光殻!」

 二人はポーズを恥ずかしげもなく決め、変身する。 そして俺のほうをじっと見つめる。

「め、メンダコ、ドライブ...... 光殻......」

(俺なにしてんだ......)

 そう黄昏れてると、二人はどぶ掃除や、道案内などを積極的に行なっている。

(まあ、いいか......)

 俺も手伝い、その日はヒーローとして活動した。

「あ、あの......」

「はひぃ」 

 急に子どもに話しかけられてアディエルエは怯えているので、俺が話す。

「どうした?」 

「実は昨日から近くの森に父さんがいったきり、帰ってこないんだ...... でもギルドに頼むお金がないから...... ヒーローさんなら」

 その小学生ぐらいの子どもと後ろに妹だろうか、小さな女の子が隠れている。

「わ、わかった...... このコモドドラゴンドライブたちが探してくる......」 

 そうアディエルエはいう。

「本当!! お願いします」

「おねあいします」 

 二人はそういって頭を下げた。


「おい、本当にいくのか」

「うん...... なんで?」

「いや...... これは俺がいってくるから、アディエルエはヴァライアと待っていたらどうだ」

「わ、私が頼まれたから......」  

 マスクをしているので表情は見えないが、その意思は固そうだ。

 俺とヴァライアと顔...... マスクを見合わせる。

(街から離れるのは...... アステリオンさんとザイガルフォンがいっていたことが気になる......)


「はぁ、はぁ、これ程強くなる必要があるんですか?」

 俺は稽古の合間にアステリオンさんに聞いた。

「ええ、もし世界がひとつに戻ったことが、何かの目的でおこったことなら、間違いなく魔導器に関係しているわ」

「そうだ...... ベネプレスもそれで俺に近づいたのであろう」   
 
 アステリオンさんとザイガルフォンは厳しい顔をしている。

「だからアディエルエが狙われると......」

「ええ、でもあのこは人を寄せ付けない...... あなたやヴァライアちゃんは特別なの」

「......人見知りだからですか?」

「みんな、あのこが他者を恐れていると思っているけど少し違うわ...... あの子が恐れているのは自分自身......」

「自分......」

「あやつは幼いころから、膨大な魔力を持っていた。 それゆえ皆から恐れられていたが、その事を知ったあやつ自身もその力を恐れ、他者をそばに近づけさせなくなったのだ...... 私や姉上さえも......」

 そういってザイガルフォンも目を伏せる。

(それもあいつが引きこもった理由のひとつか......)

「だから、あなたかヴァライアちゃんしかそばにいられない。 かなり危険だわ」

「すまないが、マモルにはあやつを守ってほしい。 私がこんなことをいえた義理ではないが......」

 そういって二人は俺に頼んでいた。
  
 
(そういわれてはいるんだが......)

 荒い息をはきながら、森の中を歩くアディエルエをみる。

(それにしても......)

「アディエルエは魔力を身体強化に回さないのか」

「は、はぁ、はぁ、で、できない」

「アディエルエさまは魔力操作はおできにならないのだ」

 ヴァライアはそういう。

「魔力操作ができない?」

「魔法は使えるが、その巨大な魔力は細かな操作ができるような代物じゃない。 もし無秩序に放たれればその地域がなくなるほどのもなだ......」

「そんなにか......」
 
(それで魔力を身体強化に使えないわけだ...... 一年以上そばにいるのに、俺はあまりアディエルエのことをあまり知らないんだな......)

 そう肩で息をしながら歩くアディエルエをみる。

「変身といて、マスクはずせばいいんじゃないのか?」

「あっ......」


 俺たちが森の奥へとはいる。

「モンスターはそれほど数がいないな......」  
 
 ヴァライアはそういう。

「ああ、いても弱いものだ。 あの子達の話では父親マービンさんは山菜を取りにきているらしいが」

 俺がいうとヴァライアはうなづいた。

「ここいらのモンスターで人を襲えるほどのものは見当たらないな。 ん、なにか感じる......」 
 
 確かに少し魔力を感じる。 こちらが近づくと離れていく。

「なにかいるな...... でも離れていくぞ」

「こちらを感知できるのかもな。 走れば追い付けるが......」

「いや、アディエルエをおいていくのは危険だ」

 大きな木に手をついて休憩してるアディエルエをみる。

「確かにそうだな......」

「ま、マモル、ハリ......」

 アディエルエがそういうので俺は気づいた。

「なるほど、すまんハリ!」

 俺は胸ポケットで眠るハリを起こした。 ハリはあくびをしてゆっくりとポケットから顔を出し鼻をひくつかせた。

「か、かわいい...... いや、別に」

 ヴァライアはデレついた顔をしていたが、俺の視線に気づいたのか、なにもなかったように表情を戻した。

「ハリあの魔力のちょっと前に回ってくれ」

「キュイ!」

 そういって光りながらフワフワと飛んでいった。

「うわっ!」

 少ししてそう声が聞こえたので近づくと、尻餅をつく中年の男がいた。

「あなたがマービンさん?」

「あ、ああ、そうだけど、君たちは......」

 俺たちは子どもたちに頼まれたことを伝える。

「そうか、それでわざわざ...... すまなかった」

「でも、どうしたんですか? 正直迷うほど複雑な森でもないでしょう?」 
 
「あ、ああ...... 実は私も少しだけ魔力を感じるんだ。 いつもはそれでモンスターを避けながら移動するんだが...... 昨日、とてつもなく大きな魔力がいて、それを避けているうち帰れなくなったんだ」

「大きな魔力......」

 俺とヴァライアは顔を見合わせる。

「それに今日も大きな魔力の君たちが近づいてきて、ビックリして離れようとしたんだが......」

「その大きな魔力ってどこら辺なんですか?」

「ああ、古い遺跡だ。 私はてっきりそこから何かモンスターでも出てきたのかと思って怯えていたんだ」

(古い遺跡に高い魔力......)

 取りあえず俺たちはマービンさんをつれ、森から出て子どもたちのところに戻った。

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