おこもり魔王の子守り人

曇天

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第七十二話

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「しまった!! あれはアルトルートか!」

「くそ! 逃がしてしまった! 早く追おう!」

「お待ちなさい二人とも」

 俺とヴァライアが部屋を出ようとすると、セレンティナさんが止めた。
 
「これでいいのです。 彼女の位置はわかります」

 そういうと懐からスマホをだし、スマホの画面を見せた。
 
「これは...... 位置、GPSですか!」

「ええ、魔法の類いなら気づかれますが、彼らは電子機器には疎いでしょうからね」

「じゃあわざと......」

「そうしないと、おそらく警戒されてアディエルエさまを盾にされるやもしれなかったですから」

「ここまでは狙いどおり、あとはどうする? セレンティナ」

 アステリオンはそういう。

「そうですね。 私たち八魔将とアステリオンさまは捜索をするふりをしましょう」
 
「ならアディエルエの元に俺がいきます」

「ええ、お願いしますマモルさま。 あなたのお仲間たちにすがるしか今はありません」

「わたしも!」

「だめですヴァライアちゃん。 あなたが捜索にいなければ不自然にうつるでしょう」

「ぐっ! 仕方ない...... マモル後生だ。 アディエルエさまをたのむ!」

「わかってる」

「それではこちらを」

 セレンティナさんは宝石のはいった袋をこちらに見せた。

「これは?」

「それはフォルムフィルムジェムとマジックフィルムジェムです。 姿と魔力をけせます。 まずアディエルエさまを見つけてください。 その連絡をうけたら私たちは総攻撃をかけます」

「わかりました」

 俺は袋を受け取った。
  

「けっこうなモンスターの数だな」

 目の前をうごめくモンスターたちを見てガルムがいう。

 俺はガルムたちに事情を話し、エセレニアのいる場所へと向かっていた。 そこはサードエリアの中にあり、かなりの山岳地帯で登るのもやっとといったところだった。

「すまない三人とも、かなり危険なことになる」  

「かまわん。 かなりの報酬がでるし、アディエルエさまはクラスメートだしな」

「そうだよ。 友達が困ってるなら助けるよ!」

「そうだね。 びんちゃんリュディちゃんからも泣いて頼まれたからね」

 ガルムたちは快く受け入れてくれた。

(アディエルエ......)

 俺たちは森を抜ける。

「おかしい...... モンスターたちがいない......」

 俺の話しに橘さんがうなづいた。

「うん、全くいないなんて......」

「あ、あれじゃない」

 ラクレイが指差す前方に洞窟のようなものが見えた。

「地下か......」

「電波は届かないよな...... なんで位置がわかる?」

 ガルムがきいてくる。

「まあ、BluetoothやWi-Fiの電波、基地局の位置情報をひろってるから、大体の位置はわかる」

「へぇ」

 ラクレイは感心している。

「向こうはそんなことまでは知らないはずだね」

「地下にはいったから安心と思ってるかもな。 でも気をぬかないでくれ、エセレニア並みのやつが何人いるかもわからない」

 俺たちはゆっくりと洞窟へとはいる。 洞窟を少し進むと、大きな空間があり、石の階段が螺旋状に下に続いていた。
 
「深いな......」

「ああ、地獄の底へ向かうみたいだな」

 ガルムがそういうと、ラクレイが震える。

「やめてよ。 本当にそうみたいなんだから」 

「そうね。底が見えない......」

 かなりくだるとあかりが漏れてきた。 

(エセレニアほどじゃないが、かなり魔力の高いものたちがいるな)
 
 灯りが漏れる底につくと、通路のような横穴があった。 そこを通りでると町のようなものがある。

「でかい町だな」

「ああ、外みたいだ。 ただ......」

 その町はとても豊かとは言えなかった。 家も石や木材を乱雑に組み上げて作った粗末なもので、それらが無数にたっていた。

「とても裕福とは言えないね」

 ラクレイが言葉少なにいう。

「だがエセレニアは高い宝石を使っていたぞ」

「まあ、取引してもらえなければ、いくら高価なものを持っていても金には変えられん」

「まあ、確かにな......」

(ただベネプレスは彼ら忌民だったのか? 魔王の側近までなっていたのなら、ここを助けるくらいできただろうに......)

 俺たちの前をつぎはぎの服を着た子供たちがフラフラと歩いていった。 みな痩せており、何か生気のない顔をしている。 同様に大人たちもどこかを見つめ座り込んでいた。

「なんか...... みんな人形みたい......」
  
 橘さんがそういった。

「なあガルム、忌民ってなんなんだ」

「......ああ、太古から人々に害をなすって言われて、迫害されてる少数民族だな。 亜人たちも人間に迫害された歴史もなくはないがそれ以上だ。 権利を与えられず、かなり僻地に追いやられてるときいた」

「うん、昔から絶えず戦争をしていたけど、幾度もの戦争で疲弊して、近頃は聞いたこともなかったよ。 こんなところにいたんだね」

(かつての神への憎しみが、ここに残された者たちへ向かったのか......)

「あっ、あそこに城みたいなものがある......」

 橘さんがいう。

「ああ、いってみよう」

 俺たちは城に入る。 その城は石を積み重ねただけのものだった。 中に入り大きな魔力を探る。 

 中央に大きな部屋があった。 そこから声が聞こえる。

「ご苦労であったエセレニア...... この情報をもとに宝物庫をさがせよう」

「......はいラグザックさま」

 そこには朽ちた玉座のようなものに座る老人とそのそばに神官のような男、そしてその前でかしづくエセレニアがそこにいた。

「どうするマモル? ここにいる奴らなら制圧できそうだが」

 ガルムがそういう。

「いや、まずはアディエルエの確保が優先だ。 奴らの会話から何か得られるかもしれない」

 そのまま話を聞くことにした。

「あのラグザックさま......」

 エセレニアが話した。

「なんだ......」

「町の者たちの様子がおかしいのですが...... それに我々が手に入れた金銭が住民に使われている形跡がなく......」

「......神の封印を解くために、我らは数万年苦痛に耐えてきた...... それがもうすぐ成就しようというのだ。 そのために彼らのしばしの忍耐はやむを得ぬ......」 

「は、はい...... しかし本当に神の封印を解けば、我々は解放されるのでしょうか」

「疑うのですか?」  

 そばにいた長身の神官のような優男がそういう。

「い、いえレグナンドさま、そのようなことは...... しかしベネプレスなどというよくわからない者たちが関わっていて...... 一体何が起きているのか」 

 困惑気味にエセレニアは答えている。

(ベネプレスは仲間じゃないのか?)

「心配ありません。 かれらも志を同じくする同士です。 それより魔王はどうしているのです」

「は、はい、食事もとらず、静かにしていますが、なにもしゃべろうとはしていません」

「宝物庫の場所は他の者にさがさせます。 あの方は鍵を持っているはず。 なんとしても吐かせてください。 死なせなければ何をしてもかまいません」

「はい......」

 そういうとエセレニアは立ち上がり部屋を出ていこうとする。

 俺たちはエセレニアについていく。

(こいつについていけばアディエルエのもとにいけるはずだ......)

 エセレニアは地下へと降りていく。

 そして、武器を持つ番兵らしき二人が立つ縁が鉄でできた木の扉をあける。 

(あっ、アディエルエ......)

 あけた扉の隙間から、椅子に縛られているアディエルエがみえた。


「どうする?」

 ガルムが小声で話しかけてきた。

「まず兵士を声をあげさせないように倒そう。 一人は口を抑えもう一人で倒す......」

 俺たちは二人組になり、番兵の横に回ると合図を送る。

「がっ......」

「ぐっ......」

 同時に二人の番兵を倒した。

「よし、ラクレイ、エセレニアを呼び出してくれ、俺とガルムで拘束する」

「わかった」

 俺たちは扉の横に隠れ扉をノックする。

「なんだ......」

「ラグザックさまがおよびです......」

 そうラクレイが声色を作りエセレニアを呼ぶ。
 
 扉が開かれる。

「......ラグザックさまが......」

 そとにでてきたエセレニアを後ろから羽交い締めにして、打撃を加える。 

「なっ、がっ!」 

 エセレニアが意識を失う。

「よし!」

 橘さんはスマホで連絡をしている。 俺とガルム、ラクレイで部屋のなかに気絶した三人を運ぶ。

「僕たちは階段のところで隠れているから、アディエルエさまを助けてきて」

 ラクレイがそういい、ガルムとそとにでた。

 
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