おこもり魔王の子守り人

曇天

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第七十三話

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 俺は部屋のなか、縛られているアディエルエに近づく。

「大丈夫かアディエルエ......」

 俺がいうと下を向いていたアディエルエがこちらを向く。
 
「マモル......」

 特に怪我などはしてないようだった。

 俺はアディエルエの縄を切り裂く、するとアディエルエは俺に抱きついた。

「ちょ......」
 
「マモルに、言わないといけないことがある......」

「言わないといけないこと? いや今は早く外に......」

 俺がそう言おうとしたとき、不意に意識が朦朧とし、目の前が暗くなる。


「はっ! ここは......」

 目が覚めると宮殿のような場所にいた。

「な、なんだ夢か...... なぜこんな夢を」

「夢じゃない......」

 隣にアディエルエがいた。
 
「アディエルエ...... 夢じゃない? じゃあここは」

「マモルの意識の中......」

 そういって先の方にあるいていく。

「まて! ここが夢じゃないなら、早く帰らないと!」

「大丈夫...... ここは時間がゆっくり...... ついてきて」

 そういってアディエルエは歩いていく、俺はいわれるまま取りあえずついていった。

「俺の意識...... なんでそんなところに」

「私...... 話さないといけないことがある......」

「さっき聞いた。 なんだ?」 

「マモルと最初にあったとき...... 覚えてる......」

「ああ、急に転移してきたときか」

 俺はアディエルエが目の前に現れたときのことを思い出した。 アディエルエはうなづくと、ひとつの部屋の前にたつ。 すると大きな両扉が開いた。
 
「あのとき、私から宝物庫を奪いにきた人だとおもったの......」

「ああ、それで魔法か、それがどうかしたのか」

 部屋の中はさまざまなものがおいてあった。 剣、槍、盾、鎧等の武具、鏡や楽器、巻物、俺はそれをみながら話す。

「俺のなかになぜこんなものが?」 

「これ...... 持ってて」 

 そういうとアディエルエは一本の赤い剣を俺に渡した。

「これは」

「魔剣バイザランディス......」

 そういうと歩き、大きな丸い水晶の前にたった。

「なんだこれ?」

「レコードクリスタル...... 過去の記憶をみせる水晶」

「過去......」

 アディエルエはその水晶に触る。 すると周囲の景色が宇宙空間のように暗闇に包まれ、星が煌めく。   

「うおっ!」 

「あれ」
 
 アディエルエが指差す場所に光るものがあった。 よくみると、それは星ではなく映像が流れている。

「これは......」

 そこには強大な魔法を使い、人々をしいたげている者たちがいる。

「これは、神々が...... いえ元々魔力を持ってた人間が魔力の少ない人を支配していた時代の記憶」

 確かに赤い眼の人々のようだ。
 
「神は元々人だったのか...... そしてこれが俺たちの祖先か」

「少し違う...... 神々のうち、人を支配したくない神たちが自分たちで魔力のない場所を作って、世界を分け自分たちが移り住んだ。 それがマモルたちの祖先......」

「なら世界を分けたのは俺たちの祖先......」

「そう世界を分ける魔法は元々マモルたちの祖先だった神たちが作り出した魔法......」 

 場面が代わり、同じ様に人間たちを支配するものたちがいる。  

「じゃあ、これが人を支配する神々か......」 

「......そう、そして少なくなった彼らは戦いに敗れ、マモルたちの祖先が作った魔法でもうひとつの世界へとわけられた...... でもその世界は魔力があった......」 

「だから、エセレニアたちはそいつらの封印を解こうとしているんだろ」

「ううん...... よくみて」

 そこには巨大な爆発や津波で滅んでいく都市があった。

「どういうことだ!? 都市が!」

「そう、わけられた世界で領土や所有をめぐって神たちが争い、強力な古代の魔法で共に滅んでいったの......」

「滅んだ? じゃあ、もう神々はいない...... でも」

「うん、もう神たちはこの世界に残された少数しかいない......」

 アディエルエは考えるように言った。

「あいつらはそれを知らないのか?」

「うん、ここにいる人たちは知らない...... 少なくともレグナンド以外は......」

「レグナンド、あの神官のような男か......」

「それなら、何をしようとしているんだ。 アディエルエはなにか知っているのか?」

「これ......」

 そうひとつの映像を指差した。

 そこには金髪の女騎士が白髪の赤い瞳の男と戦っている様子が写し出される。

「これは!? この場所アディエルエの城か、それにこの二人」 

「私の母様と父様......」

「えっ!?」

 確かに映像の女性はアディエルエに似ている。

「でも敵対している......」

「元々は、父様は魔王の宝物庫を狙ってきた。 残された神々の王だった......」

「今のエセレニアと同じか......」

「......そう、でも母様との戦いにやぶれた」

 アディエルエの母が、怪我をしているアディエルエの父を看病している映像に変わる。

「それから母様は看病して、父様に魔導器の宝物庫に連れていった...... 真実を自らの目でみさせるために」

「俺みたいに......」

 アディエルエはうなづく。

「でも......」

 映像が切り替わると、ここの映像が映り、俺たちと同じように映像をみているラーゼエルの姿が映る。

「じゃあ、ここが宝物庫...... 俺の中にあった」

「ごめんなさい...... 最初にあったとき、マモルに放った魔法が天井をやぶって、落ちてきた木材が......」

「俺に当たったのか......」 

 そういうとアディエルエはうなづいた。

「マモルにはほとんど魔力がなかったから、魔法で回復が間に合わなくて、それで魔力の器である宝物庫をマモルに与えた......」

「宝物庫、俺の中にあったのか...... それで俺はこんなに魔力を扱える......」

「宝物庫が魔力の器になってる...... ごめんなさい、かってなことして......」

 そうアディエルエはうつむいた。

「まあ、そのお陰で生きてたから別に構わない。 ただ今までの力が、俺の才能とかじゃないのは少しショックだけどな」

 そう俺が笑いかけると、アディエルエも微笑んだ。

「それで、ここの事実を知ったアディエルエの父親はどうしたんだ?」

「自分たちが騙されていることを知った...... あのレグナンドに」

「レグナンド...... あの男...... 何者なんだ」 
 
「あの男は......」

「フッフッフッ......」

 急に後ろから声がした。 振り替えるとレグナンドが立っている。
その手にはひとつの黒い杖が握られている。

「なんでこいつがここに!?」

「こんなところに隠していたんですね...... 見つからないはずだ。 まさか人の意識の中においておくとはね」

 そういっていやな笑顔を浮かべている。

「アディエルエ、一体こいつはなんだ」  

「レグナンドは...... 多分...... 遥か昔の神」

「遥か昔の神!?」

「......ほお、よくわかりましたね...... 記憶からではわからないはず、そうです。 私が全ての神々の王であり、この世界の支配者......」

「だが、神々は滅んだんじゃ......」  

「くくっ」

 レグナンドは楽しそうに笑いを噛みしめているようだ。

「一部は魔導器で魂だけになって生き残った...... そうでしょ」

 アディエルエはそういう。

「ベネプレスもそうか......」

「ふふ、そのとおり、ただの無能ななまけ者ではなかったのですね...... そう私たちは魂だけになって生き残り、この世界へ干渉しつづけた。 ベネプレス、ジャナルヘルムやあなたの父しかり......」

「なにが目的だ......」

「知れたこと、肉体の復活ですよ。 我々は肉体を失った。 ですが、この宝物庫には復活させられる魔導器がある。 この杖グラズアズラがね。 これで同胞を魂からよみがえらせ、再びこのひとつとなった世界を取り戻す。 そうおろかな人間と裏切り者の同胞たちを葬ってね、クックッ......」

 俺は剣で一閃した。 笑い声と共にその姿が揺れ消え去る。

「やったか」  

「ううん、ここには意識を飛ばしてきただけ、でも杖を持っていかれた。 戻るから目をつぶって......」

「わかった」

 俺が目を開けると、部屋の外で剣の打ち合う音がする。

 開けて出ると、ガルムたちが兵士たちと戦っていた。
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