ワイズマン・プライド

曇天

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慟哭

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 家に帰った俺に、サマエルが、志賀の逮捕のニュースを見ながら言った。


「どうやら、大変だったようだな」
  

「まあな、それよりやって来たのか」 
 

「当然だ......でもよく死刑囚相手にやれたよな。 どう見ても貧相な体格なのに」


「うるさい......自分の寿命を見たんだ。 俺はゼロじゃなかった。 だから、生き延びれるだろうと、ただ怪我ぐらいは覚悟したがな」


「なるほどな、それなら前に出られるか......」


「で、タカナシ ノゾムはこれからどうする?」


「なんでフルネームなんだよ。 ガイコツ」


「お前がガイコツって呼ぶからだ。 俺もサマエル様って呼べ」

 
「断る......それより俺のことは殺せなかったんだ。 あいつが会いに来るのを待つしかないだろ」 


 そう言うと俺はベッドで寝転んだ。




 その夜、病院の屋上でフードの男が話をしている。


「志賀は捕まったな」


「ああ......だが役目は果たした。 これでいい......これで奴は死んだからな」


 スマホを見ている。


「やっと見つけた」


「よう、アギエル」


 俺とサマエルが現れると、フードの男とアギエルと呼ばれた骸骨は驚いている。


「貴様! サマエル、なんでここに!」


「僕をつけたのか......」


「ああ、大学に来るお前にサマエルをつけさせたんだ」


 フードの男は唇を噛む。


「お前は復讐と言ったが、一体何の復讐だ。 志賀の被害者の遺族かと思ったが違うのだろう。 何故こんなことをする」


 俺がそう聞くと、


「そう言うことだ......」


 そう言うと立ち上がりフードを取る。 痩せ細った青年だった。


「どう言うことだ......」


「お前と同じさ......誰も知らない、いや考えない......お前達は自分達のことしか知ろうともしない」


 そう言うと青年はひどく苦しそうに胸を押さえた。


「病気か......」


「......ああ、今の医療じゃ治せない......徐々に体が壊れていくんだ......」


「それで巻き込んで殺そうとしたのか......」


「当然だろう! 僕も巻き込まれてるんだからな!」


「巻き込まれてるだと......」


「そうだ! もう治らないのに......大きな痛みがあるのに......死の恐怖が近づいてくる......なのに、僕は死ぬことを許されない! 尊厳死が認められないからだ!」


「尊厳死......」


「......勝手に思想や宗教で僕の命の価値を他人が決める......自らの価値観を護りたいが為に、僕をこの地獄に縛り付けている」


「だったら! 僕もお前らの命を勝手に決める権利があるはずだ!」


 青年は目を見開いて言った。 


「それは、一部の人間だろう! 他の人間は関係ない!」


「関係あるさ! 自分達が僕と同じ境遇になれば、受け入れて死んでいくのか! 俺のように尊厳死を考えるはずだ! 沈黙して考えないのは同調と同じだろう!」
  

 と苦しそうに、胸を押さえながら吐き捨てるように言うと、落ち着いて、


「......まあいい、君は僕がどうやって原発を使うか考えているのか」


「......もうすぐ、大規模な反原発のデモが原発前で起きる。警察との小競り合いの中、デモ隊の主催者が死ぬようにすれば、大混乱を引き起こせる。 その隙にでも原発に入って破壊工作でもするんだろう......成功するかはわからないがな」   


「ご明察......手製の爆弾を造ってるからな......でどうする......」


「止める......」


「それはできないな......」


「正直、体には自信はないが病気の者に腕力て負けない」


「そう言う意味じゃない......もうすぐ時間だ......高梨 望君《たかなし のぞむ》君......」


 スマホを見て笑う。


「......なぜ、俺の名を......まさか!?」


 俺はうつ伏せに倒れた。




「これはどう言うことだ......アギエルお前」


「ヒャハハ、お前が俺をつけたように、あの後、俺もお前の相棒をつけたのさ! サマエル! お前はフルネームを言ったし、表札も見た!」


「それでライフトレードを使ったのか......アギエル何でこんな奴にアプリを渡した。 これでお前は永劫の罰を受けるんだそ」


「だな......だが、いい加減、命を勝手にされんのはうんざりなんだよ! 反逆してみたかったのさ! ヒャハハ」


「そっちの人間、お前も死んだら俺達みたいにされるぞ」


「......覚悟の上だ。 だけど、天使に人間を止めることはできないんだろ」


「ああ、天使に人間を止めることは出来ん......天使にはな」


「......天使には......!?」


「今だ! 行け望!」


 サマエルに言われた俺は立ち上がり、驚く青年に自分のスマホを投げて突っ込んだ。 


「くっ!」


 青年は右手に隠し持ってたボーガンから矢を放った。 矢は俺のスマホを貫き、俺は青年を組伏せた。

 
「ぐっ......何故だ、何故死んでない!」


 俺は青年からスマホを奪うと、その画面を見せた。


「なっ! 高梨 望 の寿命が1に!?」  

 
「俺のフルネームは小鳥遊ぶの小鳥遊たかなしなんだよ」 
  

「どう言うことだ!! まさか!?」


「そうだ......お前が俺と同じようにつけさせると思ってな。 わざとフルネームで話させた」


「表札は!」


「今時、表札のある家の方が少ないんだよ。 あれは、前日に買いにいって取り付けたものだ」   


「くっ、スマホが矢を防いでなければ!」


「いいや、たまたまじゃない、お前は知らないんだな」 


「なんだと!!」


「これは寿命を交換するアプリだ。 寿命は生き物だけじゃない」


「まさか!?」


「そうだ、俺のスマホに、寿命を設定した5時間前にな」
 

「物の寿命だとアギエル! 何故、知らせなかった!」


「知らん! 俺も!」


「俺だって知らなかった。 が、志賀に襲われたときあいつのコートのボタンがゼロになってたのをたまたま見つけた。 コートを引っ張って確信した」


「俺がボーガンを持っているのも知ってたのか」


「大学で杖をついたお前を見たからな、原発に入るために何か遠距離の武器を持つだろうと思ってた」


 クックックッそう青年は笑う。


「何がおかしい」


「おかしいさ、僕をどうする気だ? まさかスマホで人殺しをしたとか言うのか! 誰が信じる! 法律で裁けるのか!」


 そう言うと、急に俺の胸を押し飛ばすと、金網を登り、屋上のへりに降りた。


「はあ、はあ、僕を裁くのは無理だ! これで」


 へりから身を乗りだし落ちそうになる。


「無駄だ......お前には殺した者の償いが終わってない」


「ははっ、僕はもう死ぬんだ......僕の寿命を伸ばしても無駄だぞ! お前の寿命が減るだけだからな!」


 そう言うとへりから身を投げた。


 俺はスマホを下に落とし踏んだ。

 
「まさか! 止めろおおおおおおお!」


 落ちながら青年は叫んだが、俺は踏んだスマホに体重をかけた。


「......スマホが壊れれば、全ての効果は消滅する。 だが、寿命を移動され死んだ者の寿命はそのまま使用者に移ったままか......これから死ぬまで苦しむな、あいつ......」


 スマホが壊れたからかサマエルの声しか聞こえないが、憐れみを感じてるように聞こえた。


「あいつにとっての最も大きな罰は生きることだ。 殺した者の寿命を背負い、苦しんでも生き続けなければならない」


 俺がそう言うと、そうだな......とポツリと言った。


「もう寿命が安定してるな」


「アギエルはどうなる」


「さあな、どんな罰がくだされるのやら、どうせろくな罰じゃねーがな」


「お前......なんで俺のところに来た」


「......」
  

 サマエルは沈黙した。


「俺が自殺しようとしていたからか......」


 沈黙していたサマエルが、


「......俺の罪は自殺したことだったからだ......だが、自殺をしたことそのままが理由じゃない、俺は自分に価値を見いだせなかった。 そう......俺の罪は、自分の価値を捨ててしまったことが最大の罪だったんだ......」


「そうか......」 


「で、お前はこれからどうする気だ。 望......」


「......この2日色々考えることがあった。 俺は俺が考えるより複雑だ。 もう少し自分を知りたくなった」


「生きてみることにするよサマエル......」


「違うだろう、俺は」


「サマエル様だ......」


 そう笑ったように言うとサマエルの声は聞こえなくなった。

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