冒険者ギルド始めました!

曇天

文字の大きさ
上 下
28 / 37

第二十八話

しおりを挟む
「なるほど、晩餐会に行く服か、すまなかったな失念していた。 それならば、私がみつけた服屋を紹介しよう......」

 そういってヘスティアは場所を教えてくれた。 

「ねえペイス、なんか、ヘスティアの様子おかしくなかった......」

「ヒカリもそう思いましたか、何かいいたげな様子でしたね」 

(気になるがまずはドレスが先だ)


 そこは緑が多く、普通の民家が立ち並び、どことなく下町的な雰囲気がただよう。

「ここかな。 なんか中央からはなれた場所なんだけど」

「ですが、落ち着きますね。 王都にこんな場所があったんですね」

 ペイスは深呼吸をしている。 それを真似てヘカテーとムーサも同じ動作をしていた。

「あっ、あれじゃない」

 カンヴァルが指差した。 そこから少しはなれた木々の中に木造の建物が見える。 看板には仕立て屋の文字が見えている。

「すみませーん」

 扉をノックしてあける。 落ち着いた雰囲気の店内だが、がらんとしていて、横に少し服が並んでいるだけだった。

「さっきの店とは違うね」

「でも、並んでいる服はすごく素敵ですよ」

 たしかにペイスのいうとおり、派手さはないが細かな刺繍がしており、肌触りもよく上品な感じがする。

「あっ、すみません! お客様!」

 そう奥から一人の女性が慌ててやってきた。

「えーと、ヘスティア...... いや騎士団のヘスティアさまから紹介されてきたんです」

「ああ! ヘスティア様の! わざわざ当店にお越しいただきありがとうございます」

「それで、ドレスを見せていただきたいのですが」

「はい、少々お待ちください」

 そういってその女性ーーイフィルムさんはドレスを十数着持ってきた。

「わー!」

「きれい......」

「ほんとだな。 たいしたもんだ」

 ムーサとヘカテーは目を輝かせてドレスをみている。 横でカンヴァルも感心している。

「確かに、かなりの仕事ですね。 私も少しは繕《つくろ》いものをしますけど、ここまで細やかな刺繍などはとてもできません」

「そうだね。それにこの値段......」

 ペイスと私がいうと、イフィルムさんは照れながら頭を下げる。

「ありがとうございます。 母がお針子でしたので私は子供の頃から裁縫をみて育ち、大きくなったら店を開くのが夢でしたから」

「それで夢が叶ったんですね」

「......そうですね。 一応は......」

 そうイフィルムさんは口を濁す。

「えっ? でもお店できてますよね」

「ええ、ですがもうすぐ閉店しようと思っているんです......」

 イフィルムさんは沈んだ声でいった。

「どうして!? こんないいお店なのに」

「実は...... 商業ギルドから退会とお店の土地の接収を命じられてて......」

「退会に土地の接収...... 理由は」

「私が不当な販売をしていると......」

「しているの?」

「い、いえ、そんな! 多分...... 少し目立ったのかもしれません」

 イフィルムさんの話では、開店してすぐ貴族たちの若い女性に人気になったことで客足がのび、売上も好調だったらしい。 それを気にくわない大きな店がギルドへ上訴して、不当な言いがかりで退会を迫られているということだった。

(まあ、こちらの言い分だけだと真相はわからないけど、前の店の態度や商業ギルド絡みだと、あり得ない話ではないし、それに......)

「で、ですが、お客様へのお仕事はきちんとさせていたたきますので、ご心配には及びません」

 そう頭を下げ笑顔でいった。

(ヘスティアが変な様子だったのはこのせいか......)

「じゃあうちに所属すれば!」

「えっ?」

 イフィルムさんは戸惑っている。

「ああ、私たちギルドを設立したの。 冒険者ギルド」

「聞いています...... 確かモンスターなどを討伐しているギルド」

「ええ、でもポーションや武具、雑貨の販売もしようと思っていて、今王都に場所を探しているの」

「私がそこに加わってもいいんですか...... さっきはああいいましたけど、私が嘘をついてるとは考えないんですか」

 そう目を伏せて聞いた。

「そうだね。 嘘をついてる可能性はあるけど、でもこのドレスをみて思うの。 これ素材もいいものだし、刺繍も丁寧で繊細、でもこの値段だと利益がほとんどでないでしょ」

「それは...... 作りたいものをつくってるので」

「そういう人が不当な利益などあげるはずもないですね.....」

 ペイスはそういってうなづく。

「だから、イフィルムさんにはうちのギルドに入って欲しいの。 冒険者だって、かわいい服もきれいな服も帽子も欲しいもん」

「だな。 あたしも装備の参考にしたいしな」

 カンヴァルが話に加わる。

「うん、カンヴァルの作る装備はすごいけど武骨すぎるもんね」

「悪かったな武骨で! デザインとかは苦手なんだよ!」

 カンヴァルが怒る。

「ふふっ、わかりました。 私も店は続けたいのでギルドに所属させていただきたいと思います」

 そうイフィルムさんは笑顔で頭を下げた。

「なら早めに土地を見つけないと......」

 私たちはドレスなどをイフィルムさんに仕立てをお願いして、王都を散策した。


「これでイフィルムさんもギルドに所属してくれたね」

 私は上機嫌で王都をぶらつく。

「ええ、ですが冒険者ギルドの店をたてる場所が......」

 ペイスはキョロキョロと辺りを見回している。

「王都は土地が高いので...... さすがに大きな建物をたてるのは無理ではないでしょうか」

 ムーサがそういった。

「ふむ、だね。 なら郊外か...... 近くに大きな建物が欲しいけど、モンスターがでるなら、討伐して安全を......」

 そう私がいうと、ヘカテーが控えめに手をあげた。

「あっ、わた、私のお家...... ある」

「ん? そういえば王都からすぐのとこにあったね! あのお屋敷なら大きい! 使ってもいいの!」

「う、うん、工房ある。 私もポーションつくれる」

 そううなづいている。

「ありがとー! 助かる!」

 私が抱きつくと、じたばたしている。

「これでギルドのあてはできたか」

「ですね。 では帰りましょうか」

 カンヴァルとペイスが話し、私たちは帰った。


 次の日、募集していた受付の人が三人きてくれた。 三人はユリク、ランゼ、ハイマといい、とても人当たりのいい人たちだったので即採用した。

「じゃあ、ペイスとムーサに受付の仕事を教えてもらうね」

「ええ」

「わ、わかりました」

 ムーサは気合いがはいっていた。

(ヘカテーはポーション作るために工房にいるし、依頼の仕事もないから、私はやることがないな...... なら)

「少し出てくるよ」

 少し気になることがあったので、私は店を出た。


 王都近くまでくると、岩山でモンスターたちを倒しながら進む。

「あとで珍しいモンスターの素材でもカンヴァルに持っていくか、その前に生きて帰れたらだけど......」

 そこには遺跡らしきものが見える。

「この間のフランさんに頼まれたマールの実を探しにきたとき、見つけてたんだよね」

(ラードーンのとき、そしてシアリーズと戦ったとき、知覚加速がおかしかった...... )

 そう確かに起こることを予測していた。 ラードーンのときは勘違いかと思ったけど、シアリーズとの戦いで起こったことをみて確信した。 

「でもあの再現をするには強いやつと戦わないと...... あれすごい頭がいたいから危険だけど、ヘカテーからもらったハイポーションも二つあるし、ガンブレードに魔法弾も装填してるし、だいじょうぶでしょ」

 私は遺跡内を捜索する。 次々かなりのモンスターがでてくるが、ガンブレードと魔法で難なく進む。

「かなり強くなってるって実感がある。 魔法を使わなくてもモンスターを倒せてる。 シンプルに経験が増えたからかな」

 奥へと進むと、大きな部屋がある。 

「なにかいる......」

 慎重になかに入ると、部屋の奥に扉があるようだ。 その前に伏せる何か大きな獣がいる。

「グルルルルルル」

 その何かが立ち上がる。 それは黒い大きな二つの頭を持つ犬だった。

(さしずめオルトロスというところか......) 

 私はためらいなく魔法弾を放つ、氷柱ができオルトロスに向かう。

「ガァァァァア!」

 そう片方の口から炎を吹き出し氷柱を溶かした。 そしてもう片方も炎を吹き出した。

「あつ!! 炎のブレスか! よし! 知覚加速!!」

 オルトロスは地面を蹴り近づく。

(速い!)

 もう目の前へと来ている。

(更に知覚加速!!)

 私は更なる知覚加速を使う。 

(うっ!! いたっ!)

 頭に激痛が走り、視界か揺らぐなんとかこらえて、ゆっくりとなったオルトロスの動きをみる。

(左に重心移動、右の爪がくる!)

 大きな爪がかわすと爪が真上を通る。 
 
 私は魔法弾を首筋に放った。

「ギャウウウウ」

 オルトロスはのけぞり後ろに飛び退いた。

「だめか! 未来は見えてない! これ以上加速を使うと...... いや試さないと! 感覚をつかむんだ!」

 更に知覚加速を使う。

「うっ! ヤバい」  

 意識が飛びそうになる。 歪んだ視界にオルトロスが近づく姿が見えた。

 その爪が上から振り下ろされ、私はかわすがその瞬間炎に包まれた。

「しまった...... もうひとつの頭のブレス!」

 目を開けると爪が振り下ろされるところだった。

「よし...... みえた!」

 私は爪をかわしながらガンブレードに魔力を込めると一気に剣を伸ばした。

「グガァァァァア!!!」

 そうつんざくような音が聞こえると、私の剣がブレスを吐こうとするオルトロスの片方の口の中を貫いた。

「よし! 更に!」

 もう片方のブレスを予知し、その口に魔法を放ち爆発させると、オルトロスは地面に倒れ動かなくなった。

「はぁ、はぁ、やれた。 意図的に予知できた。 うっ...... ダメだ、意識が......」

 私はそのまま意識を失った。

しおりを挟む

処理中です...