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第十八話

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「くそ! 俺のアパートを跡形もなく壊しやがって!」

「せっかく新調した余の包丁と鍋もだ!」 

 泊まった町の宿屋で俺たちは怒りをぶちまけた。

「まあまあ、お二人とも」

 ティンクルは俺たちをなだめるようにいう。

「あのアパートとは苦楽を共にしたのに......」

「もう、帰っては来ぬあの日の思い出......」

 窓から黄昏をみていた。

「遠い目で自分たちの世界に浸らないでください...... そうだ! 建て直してはいかがでしょうか、確かジャイアントとデュラハンを討伐したのですよね。 ならば多額の報奨がでたのでは」

 ティンクルが笑顔でそういう。

「ああ、四百万ほどある。 でも再建には千五百万はするそうだ」

「千五百万は高すぎだ...... それに元にはもどるまい」
 
「あっ! では本当にもとに戻してはどうでしょうか? 確か、ねえさまは物質の時間を戻す魔法をお持ちでしたよね」

 そのときティンクルがいった。

「本当かディン!」

「......いや、リボーンタイムの魔法は、その大きさや複雑さを復元するのには、莫大な魔力が必要だ。 全盛期の余の魔力、フェアネスソウルでサキミの魔力をえてもアパートの復元には遠く及ばぬ」

「むう、やはり無理か......」

「いやまて、魔法以外にそのような効果があるアイテムがあった。 【時の貝殻】だったか......」

 思い出したようにディンがいった。

「それだ!! それを手に入れよう! でどこにある」

「ふむ、危険や悪用されたくないアイテムは、余の城の宝物庫に封印しておったが、この間ほとんどのものはなかった......」

「ああ、この剣をとってきたときか」

 腰の剣をみる。

「うむ、それは余が更に見えない封印をほどこしていたゆえ、見つからなかった」

「おそらく千年の間に盗掘されたのですね」

 ティンクルがいうとディンはうなづいた。

「じゃあ、見つけられないな......」

「そうでもない。 余はあそこにあったアイテムに魔力のマーキングをしておった。 ゆえに見つけることは可能だ。 しかし、各国にまたがっていてどれがどれなのかはわからんがな」

「そうか! なら探しだそう!」  

「そうだな。 いずれ悪用されないように探しだすつもりだったからな」

「私は飛べるので情報を集めてきますね」
 
 アパートをもとに戻す為、ディンのアイテムを探すことにした。 ティンクルには各国の情報を調べてもらうことにした。


「それでどれだけアイテムはあるんだ?」

 俺とディンはテレウス王国北にある国ベルニアにきていた。

「そうだな千点はあった」

「千!? それ全部見つけんのか!!?」

「いいや、アイテムにはその効果によって等級《グレード》をつけてあってな。 Sを上限にA、B、C、D、Eとグレードがある。 お主の剣はグレードS、そして時の貝殻はグレードAだ。 それぞれ違う反応があるから、グレードAを探せばよい」

 ディンは当然だろとばかりにいった。

「じゃあSはいらんな。 Aは何個なんだ?」

「グレードAは十二だ。 だがグレードSはかなりの力をもつ、悪用されては大変だから回収できるならばしておきたい。 とはいえグレードSは感知不能だがな」

「なるほど、でこの国にはいくつある?」

「二つだ。 この先に強く感じる」

「よし、さっそく探そう!」

 ディンのいう方向にむかった。


「ここか...... 湖しかないぞ」

 しばらく町から歩き、目の前には霧たちこめる大きな湖がある。 世界最大の湖だそうだ。

「ふむ、ここの先なのだが......」

「湖の中? 誰がアイテムをこんなところにもってくんだよ」

「アイテムを持っていったのは人とは限らん」

「どういうことだ? お前が勇者に負けたんだから、人間が持ってったんじゃないのか? あっ、部下」

「余の部下はそんなことはせぬ...... 余と戦ったのは人間だけではないと言ったろう」

「ああ、なんか魔族とも戦ったっていってたな」

「うむ、他の魔王とも対立していた」

「えっ? 別に魔王いんの?」

「ああ、まえにもいったが、魔王は敬称にすぎぬ。 幾人も魔王はいる...... いやいただな。 そして魔族の大陸の支配権をかけて戦っていたのだ。 まあ余はそんなもの興味もなかったがな」

「そいつらが持ち去った可能性もある...... か」

「千年前にほとんど死んでおる...... が魔法やアイテムなどで生き残りもいるやもしれん。 とりあえず反応に近づくぞ」

「だが、どうやって? 俺は自慢じゃないが泳げないぞ」

「本当に自慢じゃないな...... まあ魔法かけるからまて」

 ーー魔力よ。 そのたおやかな流れで、我らを包めーー 

「マジックフィールド」

「おっ! なんか膜がはった」

 仄かな光が俺たちを包むような大きな球体となった。

「おお! これなら進めるな」

「ああ、しかし中にある酸素は少ない。 早く捜索するぞ」

 俺たちは湖の中へと進んでいく。
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