上 下
41 / 66

第四十一話

しおりを挟む
「食事はまだか!」

 アズレイがそうわめいた。

「わかってるよ! ほら」

 アズレイにディンプルの食事を持っていくと、乱雑に食べ散らかす。

「ふむ、まあまあだな...... うちの、コックにしてやってもいいぞ」

「......そうかそれはありがたい申し出だな」

 そういうディンの腰の方に手を回そうとした。

「おい......」

 俺はその手をつかむ。

「あんたは護衛対象なんだ...... 余計なことをして俺たちの護衛の邪魔をすると、敵と勘違いして、その腕切り落とすかもしれんぞ......」

 そう剣を抜いて睨み付けた。

「ふ、ふん...... わかった」

 
「こんな依頼うけなければよかった! ほっといてボコられればよかったのに!」

「まあそういうな。 そういえばティンクルはどこにいった?」

 ディンが俺をなだめあたりをみまわす。 私兵たちのテントがあるだけだ。

「ああ、ここに置いとくと、あの好色親父に変な目でみられるかもしれんから、離れておいてもらった。 ついでに頼みごとをしてある」

「ふむ、それはいいかもしれんな」

 ディンが納得してうなづいた。

「しかし、怪盗ロイヤルシーフ......」

「知っているのか? セレネ」

「いえ全く、世界各地にいきましたが、そんな話聞いたこともない......」

「そうか...... 知らないか。 前にも闇の世界の話とかギルドでもいってたしな......」

「おい!! いないのか!」

 アズレイの怒鳴り声が聞こえる。

「うるせえな。 それにあいつも何とかしないとな......」


 二日たっても特に異常はない。 日も暮れかけた。 部屋のなか護衛を続ける。

「襲ってこないな」

「まあ、わざわざ予告状などだす馬鹿者だ。 警備があつくてこれなくなったんだろう。 ちっ、護衛の金が無断になった...... この場合、割引はあるのか」 

 アズレイがそういまいましげにいった。

「ないわ! 契約書にそんな文言はないだろうが!」   

「ふん! ごうつくばりめ」

「こ、こいつ!!」

「しっ、静かに、外がやけに静かじゃないか」

 ディンに言われて耳をすます。

「確かに...... 音がしない。 あれだけの者がいてこんなに静かなのはあり得ないですね」

 セレネはそういって剣に手をかけた。

(確かにな...... こいつなんてどうでもいいが、怪我でもされたら、なにを要求されるかわからん)

 俺は剣を構えた。

 その時、電気が消えた。

「ライトボール!」

 ディンが魔法で灯りをつける。 

「なんだ!? 停電か」

「ま、まさか!?」

 アズレイがおしいれを調べる。 そこにおいてあった袋がひとつもなくなっていた。

「な、ないぃぃぃ!!! わしの金が!! どういうことだぁぁああああ!」

 アズレイが頭を抱えて慟哭している。

「どうされました社長!!? 今の停電は!!」

 ネメイオが駆け込んできた。

「どういうことだ...... 今の一瞬であんな数をもちだすなんて......」

「外を確認しよう!」

 俺たちが外に向かうと、私兵たちが全員眠っている。

「おそらく魔法ですね......」

 セレネがそういう。

「だが、あんな一瞬であの重い巨大な袋を移動できるのか...... そんな魔法あるのかディン」

「まあ、なくはないが、これだけの者を眠らせる魔法を使い、なおかつそんな高度な魔法を使えるのは魔王ぐらいのものだな」

「なるほど......」

 その場を探し回るも足跡すら見つけられなかった。

「ないか...... あとは朝までまつか」

 そして朝になる。

「どうしてくれる!! あの金を弁償しろ!!」

 そう発狂したようにアズレイが吠えている。

「うっせーな。 わかってるよ。 かえしゃいいんだろ」

 俺はてきとーに返す。

「......ですが、もう盗まれてしまったのでは」

 ネメイオはうつむいてそういう。

「どうかな......」

「ど、どういうことですか?」

「あんなもの、そうそう動かせるわけないだろ」

 アズレイに貸した部屋のおしいれを調べる。 その壁を触っていると、ガコッと音がして壁板が外れた。 

「なっ!? 外れた」

 ディンが驚いている。

「この真下の部屋まできてくれ」

 皆が驚くなか、俺はそう呼び掛ける。

 下の部屋のおしいれには盗まれた袋がおいてあった。

「ああ!! わしの金!! あった!!!」

 そうアズレイはその袋に飛び付き個数を数えはじめた。

しおりを挟む

処理中です...