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第五十五話

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「正気かサキミ、軍隊とやりあうなんて」

 ディンがいぶかしげにこちらをみている。 

 俺たちは部屋で作戦会議をしていた。

「ああ、報奨も約束したしな。 お前らだって戦争はいやだろ」

「そりゃそうだが...... 人殺しもいやだぞ」

「ですね。 どうなされるおつもりですか?」

 セレネも怪訝な顔をしている。

「何も軍隊を叩き潰す必要はない。 俺に策がある」

 皆に作戦を伝える。 


 次の日、軍隊が出陣してくる。 それは蠢く黒いアリのように見えた。

「きたな。 さすがに多い」

「ええ、五万の軍勢と言ったところでしょう」

 セレネが緊張していった。

「さあ、俺たちは行ってくるから、ネメイオ、ライゼそしてミーナ頼む」 

「わかったわ」 

「めんどうだけど...... オーガちゃんもいるし、ディンのご飯もあるししかたない」

「お任せください! 戦争など起こさせはしません!」

 ネメイオの隣に俺とディン、セレネはティンクルのドラゴンにのり空にとんだ。 

 
 俺たちが軍勢の真上を飛ぶと、下の軍勢がざわざわしていた。 

「きたぞ」

 すると森の中から大量の骨のモンスターたちが現れて、パニックになっている。   

「混乱していますね」

 セレネがそういう。

「ライゼとネメイオに死者の操杖《ネクロマンサースタッフ》を複製して使わせてるんだ」

「森には前に倒したモンスターが山ほど眠っておったからな。 ちなみにアラクネもな」

「もうすぐ、ベルクセアの王都です!」

 ティンクルが城の最上部へと降下した。

「よし、ティンクルは警備の兵士たちを倒しておいてくれ」

「わっかりました!」

 そういうと兵士を握り地面に押し付けた。

「なっ! くるしい......」 

「なんだ!? ぐわっ......」

 階下に降りる。

「ディン」

「ああ、中央の方に強い魔力を感じる......」

「早く行きましょう!」

 セレネに続き俺たちも走る。


「なぜ、テレウスとの戦闘の報告がこない......」

 ベルクセア王は苛立ったように問いただした。 その傍らにはやはりグラディスがいた。

(あいつやっぱり関わってたか)

「はっ、どうやら森で罠が張ってあったらしく、うまく進めぬとのこと......」

 兵士がそういう。

「罠だと...... あそこには建物しかないはず」

 そうグラディスがつぶやく。 

 ーー光よ、瞬き流れ、その輝きを束ねよーー 

 ーー光よ、瞬き流れ、その輝きを束ねよーー 

「シャインダブルストライク」

 俺の魔法がグラディスを吹き飛ばした。 

「ぐはっ!」

 すぐさまディンがグラディスを拘束し、セレネが兵士を倒す。

「き、貴様は...... ぐっ」

 ベルクセア王を気絶させ肩にかつぐ。

「よし、帰るぞ」

 最上階へと戻るとティンクルにのり、アパートにもどる。


「おお! それはベルクセア王か!」

 アパートに戻るとタイルド将軍が待っていた。

「じゃあ、こいつは、はい」

 担いでいたベルクセア王をタイルド将軍に渡した。 

 タイルド将軍率いる軍勢がたちが前線に向かう。

「ベルクセアが降伏したそうです」

 しばらくするとセレネがそう笑顔で伝えにきた。

「やったな!」

「ああ」

「やりました!」

 ディンたちがそう喜んだ。


「ふう、終わったわね」
 
「疲れた......」 

「みなさんおつかれさまです!」

 上からネメイオたちも降りてきた。

「ネメイオ、ライゼ、ミーナおつかれ、よくやったな」

「かなりの魔力を消耗したわ。 でもミーナさまの魔力探知で兵士の動きを知って動かせたけどね」

「そんな...... でも戦いを止められてよかったです」

 ネメイオに誉められてミーナは照れている。

「ディン...... ごはんーー」 

「わかった待っておれライゼ、今皆の食事をつくる。 ティンクル、サキミ手伝え」

「ああ」

「はい!」

 食事ができると外での祝勝会を開く。

(さすがにミーナにちゃんとはなしておくか、ここまで関わってくれたからな)

 その食事が終わったあと、俺とディン、ライゼのことも話した。

「千年前の魔王が、二人も......」

 ミーナは驚いているが、すぐに納得してくれた。

「それでそれほどのお力をお持ちなのですね。 話してくださってありがとうございます」

(すぐに受け入れるか...... さすが女帝だけはある)

 これを聞いてもなお態度を変えずに応対するミーナをみて感心した。

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