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第六十二話

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「ディンが神、異世界人......」
 
 ディンは何か考えるように下を向いている。

「ディンあなたは正の力、魔族のはかない希望が募り、あなたをこの地へと呼んだ。 だからあなたは弱きものたちを守り兵を率い、グラナードやティンクルに聖なる心を与えた」

(それでただのモンスターじゃないのか、希望...... か) 

「それを余が望んだわけでは......」

 ディンはそのまま言葉をとめる。

「あなたが、暗黒大陸からの進攻...... 神々の暴虐を止められる人間と魔族の希望。 私の最後の力をあなたに残すわ。 アルヴェーラに向かいなさい」

 そう厳しい顔をしてアマルセウスはいった。

「それと、もしグラディスにあえたら謝ってちょうだい。 あの子には最後に話せなかったから......」

 そういってかなしげにほほえむと、その体はゆっくりきえていった。

「アマルセウスさま......」

 グラディスは涙ぐんでいる。
 
「アルヴェーラになにがあるんだ?」

「魔族大陸にある塔【ヤルジェ】のことでしょう。 ですが禁足地となっていたはず......」

 セレネがそういった。

「魔族王国ヴェイオンにいくしかないな。 なディン......」

 ディンは考え込んでいるようだ。

「そうだな。 決着はつけねばならん......」

 そう決意したようにいった。


「う、う、う、寒......」

「う、こ、これは、何度やってもなれん」

 俺たちは魔族大陸にティンクルによってついた。

「ま、まあ、しかたないわ...... 転移は危険だもの......」

「で、ですね...... が、我慢しましょう」

「私は平気だが......」

 ネメイオとセレネが震えるなかグラディスはそういった。

「し、死ぬ...... かえりたい」

 ライゼが俺の背中で半分凍っていた。

 
「ふぃ~ 生き返った」

 俺たちは王宮があるという、町へ飛んで降り、すぐに宿に向かい風呂には入った。

「うむ、なんとか死なずにすんだな」

 ディンが湯上がりでため息をつくと、ティンクルはうなづく。

「魔法が使えないのはきびしいですね」

「まあ、しかたないわ。 ワイバーンに狙われかねないもの。 襲われたら終わりよ」

 ネメイオがそういった。

「私はライゼさまを部屋に寝かせてきますね」

 そうセレネはうとうとしてるライゼを背負って部屋へと向かう。

「しかし、王様に会えるのかよ」

「いってみるしかないな。 どうしても塔に入らねばならん」

 俺たちが話していると、グランディスがくる。

「周囲を囲まれているぞ......」

「えっ?」

 そのとき、兵士たちが宿へとはいってくる。

「動くな...... 城へ連行する」

 そう囲まれ槍を突きつけられる。

「どうします? この程度、たおせますけど」

 ティンクルがかまえる。

「なんなのかはわからんが...... 城へいけるならかまうまい。 余たちなら余裕で抜けられよう」

「だな」

 俺たちは素直を連行された。


「ここは広間だな」

 王宮へと連行された俺たちは壮麗な内装の玉座がある間へとつれていかれた。

 そこに王とみられる銀色の毛並みの獣人が、後ろに侍従をひきつれ椅子に座る。

(狼男か...... 人狼?)

「お主らが罪人か...... 女子供だな」

「罪人? なんのことだ」

「アドシュエル王の御前だ! 言葉を控えよ」

「かまわぬ...... お主たちここになにようだ」

「俺たちはヤルジェって塔に行きたいだけだ。 その許可をもるうためここにきた」

「ヤルジェ...... 禁足地だ。 なんのようだ」

「アマルセウスがそこに残したものを回収するためだ」

「アマルセウス...... 千年前の慈王か......」

「なんのために...... あんな場所へ」

「ワイバーンを操ってるのではないのか」

 周囲からそういう声が聞こえる。

「俺たちがワイバーンを操っているといわれているのか?」 

「いかにも、ヴェルディクという魔法使いがそう伝えてきた」

 王は考えかねているようだ。
 
「ティンクルあの姿に」 

「えっ? はい」

 俺がいうとティンクルはドラゴンの形態になった。

「なんだ、ワイバーンか!!」

「やはり、あの怪しげな魔法使いのいってたとおりだ!」

「......ちがうな。 確かにドラゴンだがワイバーンとは違う。 確か一本角の毛皮をまとうドラゴンはブルードラゴン...... 魔王ディンプルディの使い魔」

 王はさわぐものたちの言葉を制した。

「ということは、あなたが魔王ディンプルディさまでございますか」

 そう玉座を降り歩いてくる。

「そうだ。 余が魔王ディンプルディ。 なぜそれを知っておる?」

「千年前に十三魔王、最後のアマルセウスさまは、我が祖に言われた」

 そう予言を話し出した。

「千年ののち邪神はこの大地を滅ぼすため、暗黒大陸よりその軍勢を向ける。 そなたらはこの魔族の大地をすべ、人間と手を結び、邪神を退けなければならない。 それには復活した魔王ディンプルディの力が必要であろう......」

 そういい伝わってございます、そういうとディンの前でアドシュエルはひざまづいた。
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