上 下
66 / 66

最終話

しおりを挟む
「ふう、おわったな」

 俺はヴェイオンの城のテラスで夕日をみていた。

「むぐっ、どうした? 晩餐会に参加せんのか。 もぐっ」

 ディンが両手に山盛りの皿を持ってきて椅子に座る。 

 俺たちが暗黒大陸に光をはなつと、下にいたモンスターたちの力は弱まり、一気に討伐された。

「これで平和か......」

「ああ、暗黒大陸の闇はほとんど消えた。 一部に残るだけだといっていた」

「まあ、人から憎悪や悪意は消えないからな」

「が、抑えることはできよう」

「だな......」

 少し沈黙がある。

「余の魔力はかなりふえた。 お主がフェアネスソウルを使えば、最後の願いで ......お主をもとの世界へと戻せる」

「そうか」

「......本当にサキミには世話になった」

 そうディンは頭を下げた。

「かまわないよ...... 俺もお前に助けられたからな」

「どういうことだ?」

「俺は絶望の状態だった...... そこにお前が現れた。 多分偶然じゃない。 俺が希望をほっしてたからだ」

「それで、余はお前の前に......」

 そう暗くなる空を二人でしばらく静かにみていた。

「さて、最後の願いを叶えてもらうか......」

 席を立ちディンにそういう。

「ああ...... 言ってくれ」

 覚悟したようにディンは俺の前にたった。
 

「さあ、アパートをやり直すぞ!」

 それから一ヶ月あと、俺たちは暗黒大陸、改め希望大陸でアパート前にいた。

「なんとかアパートがもとに戻りましたね」

 セレネがそういった。

「ああ、テレウスの報奨で建て直してもらった。 まあ全く別物だけどな」

「私も宿をそこに建てたわ」

 ネメイオがそういった。

「私もこの大陸に建てるのを多くの国々に許可を取り付けました!」

 ミーナは自信満々にいった。

「ありがとうミーナ」

「ふぁ、稲だいぶできた......」 

 眠そうにオーガに背負われてライゼがやってきた。

「ああ、稲の栽培助かる。 部屋で休んでくれ」

「近隣のモンスターは討伐したぞ」

 リザードマンを率いたグラディスが帰ってくる。

「ああ、助かったよ」

「サキミさまー!」

 こちらも用意できました。

 そうもうひとつの建物からティンクルが手を振っている。

「今日中に開店できそうだなディン」

「ああ、これからバリバリ働くぞ!」

「ここは交通の要所になる人は必ず来るな。」

「まあな。 ......だがサキミ、最後の願いをあんな風に使ってよかったのか......」

 そう俺の方をディンがみつめる。

(あの時の最後の願いで......)
 

「俺の最後の願いだ。 ディンプルディを普通の人間にしろ」

「なっ......」

 俺がそういうと驚いているディンの体が光が輝いた。

「なんだと! どういうことだサキミ!」

「その力はもう必要ない」

「......だが! 絶望や憎悪が人の世界から消えぬならば、暗黒大陸にはまたやつらが生まれてくるかもしれん! 希望の力がなければ戦えん! また同じことが起こる!」

「......のかもしれない。 でもそれはお前がやるべきことなのか?」

「余は魔王! みなの希望! そう生まれてきたのだ!」

「それは皆の思いで、お前の希望はどこにある?」

「余の希望......」

「この世界が絶望や憎悪につつまれ、それが人や魔族を滅ぼしたとして、それは自分達の責任だろ。 お前一人に背負わせるのは間違ってる」

「だが......」

「なら、自分達でそれをコントロールするしかない。 お前がこれかれも永劫、人や魔族のために希望でいつづける必要はない」

「だが、私が普通の人間になったら、お前はもうかえれないんだぞ......」

「場所はどこでもいいんだ。 俺はここでいきていくことに決めた。 自分でな。 お前も自分の生き方は自分で決めろ」
 
「余が自分の希望をいってもいいのか...... 本当に」

「ああ、お前はもう魔王でも希望でもない。 ただのディンプルディだからな」

 その夜、ディンは自分のしたいこと、そしてその想いを俺に溢れるように吐き出した。


「これがお前の食堂か」

「ああ! 普通の食堂だ!」

「ディンのごはんなら繁盛間違いなしだな」

 俺がそういうと、ディンはいままでみたことないような笑顔で答えた。

「ああこれが余の、いや私の希望だ!」
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...